結論
NSユナイテッド海運は、日本製鉄をはじめとする製鉄会社の鉄鉱石と原料炭を運ぶ、専門の不定期船会社だ。大型のケープサイズ船、40万トン級の鉱石専用船、LPG船などを動かし、船は約200隻に及ぶ。筆者の結論は、事業の稼ぐ力だけで測ると、今の時価総額は3割ほど高い、というものだ。5段階では「やや割高」になる。
足元の稼ぎは強い。ドライバルク(鉄鉱石・石炭・穀物などの荷物を箱に入れず運ぶ船)の市況が大型船から先に上がり、今期の会社予想は上方修正された。ただ、これは市況の上げ潮に乗った分が大きい。10年では日本の粗鋼生産が電炉化と人口減で細り、主力の貨物は減っていく。還元鉄・スクラップ・アンモニアといった新しい貨物が、その穴を埋め切れるかどうかが焦点になる。
2026年7月、日本郵船が公開買付け(TOB)で子会社にすると発表した。買付けの総額は約1,200億円、完了後は日本郵船が約83%、日本製鉄が約17%を持ち、上場は廃止される予定だ。筆者はこの価格を物差しにせず、船隊の稼ぐ力から事業の値打ちを置いた。ROEが資本コストを上回り続ける姿は描きにくく、中立の10年後でも時価総額は今に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後にこの事業を確信を持って語れるか」が問われる。国内の鉄鋼原料という主力の需要が構造的に縮み、運賃は市場が決める。この組み合わせは、予測できる事業とは言いにくい。長期契約は荷主との関係としては頼もしいが、収益の水準そのものを保証するわけではない。
次に、オーナー利益だ。会計上の純利益が200億円台でも、船は老朽化し、環境規制に合わせた新燃料船への更新で投資が続く。資本を食う事業で、稼いだ利益を配当に回し切れない。さらに、借りている船の約800億円の約束が、不況では固定費として残る。
一方で、経営は堅実で、自己資本比率は63%、純有利子負債はほぼゼロだ。荷主との関係の長さも評価できる。安全域、つまり払う値段と事業の値打ちの差で見ると、事業の稼ぎを倍率で測った中立の値打ちは今の時価総額を下回る。TOBの価格が今の時価総額と同水準にあることは、筆者の評価を左右しない。この価格は別の交渉で決まった数字で、この会社の本質価値を表すとは限らないからだ。
最後に、オーナーとして持ち続けたい会社かどうかだ。堅実な経営は好ましいが、事業の稼ぎが自社の努力より市況と荷主の生産量で決まる点が気になる。筆者は、中立で名目の利益が10年でほぼ横ばいにとどまる事業に、高い倍率を払う理由を見いだせない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は外航海運で、売上の約86%を占める。製鉄会社が使う鉄鉱石・原料炭を、ブラジルや豪州から日本・中国へ運ぶのが中心だ。荷主と長期の輸送契約を結び、決まった量を運ぶ仕組みが収益の土台になる。40万トン級の鉱石専用船や、環境規制に備えたメタノール燃料のケープサイズ船も、長期契約を裏付けに増やしている。
残りは、LPG(液化石油ガス)船や穀物・石炭などの不定期船による市況の稼ぎだ。長期契約でカバーされない船腹は、その時のドライバルクの傭船料でそのまま利益が決まる。会社の営業利益が景気の山と谷で数倍動いてきた理由は、ここにある。
内航海運は売上の約14%で、子会社が国内の鉄鋼製品や原料を運ぶ。外航より地味だが、日本製鉄の工場向けの物流を押さえる意味がある。船は自社で持つ分と、他社から借りる分(用船)がある。借りた船の契約は約800億円の未経過用船料があり、借金に近い固定の約束だ。なお、外航と内航の利益の内訳は開示を確かめられなかったため、本稿の分け方は推定にとどまる。
船隊は新燃料船への切り替えの途中にある。中期経営計画は2030年度までに船を216隻へ増やす構えで、メタノール燃料船やアンモニアを積めるLPG船など約20隻の竣工を見込む。環境規制で旧型船が使いにくくなる前に、荷主と結んだ長期契約を新しい船に移していく。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、日本の高炉メーカーとの長い取引関係にある。鉄鋼原料は輸送の品質と船繰りが生産を止めないことに直結し、荷主は気軽に運び手を替えない。日本製鉄が約三分の一を持つ筆頭株主で、日本郵船も長く第二株主だった。この資本関係が、需要の下支えと新規参入の防波堤になってきた。ただ、堀の広さは荷主の生産量に縛られ、会社自身が広げられる種類のものではない。
値決めの力は弱い。運賃も傭船料も市場が決め、長期契約でも価格は市況に連動する部分が大きい。船の性能で多少の差はつくが、決め手にはならない。ROEは過去10年の中央値で11%、直近は13%と悪くない。だが、これは市況の山に乗った年が引き上げた数字だ。2012年度には純損失155億円を出した。
経営は堅実だ。借金を減らして自己資本比率は63%まで上げ、老齢船を売って船隊を若返らせている。一方で、利益を稼いでもその多くは新しい船の建造に回る。資本を食う事業で、手元に残る「株主が自由に使える利益」は、会計上の純利益より小さい。筆者はそこを一番慎重に見る。
新しい貨物への展開も優良さの試金石になる。還元鉄、スクラップ、液化CO2、アンモニアなど、国内の鉄鉱石に頼らない輸送を取り込めるかどうかで、10年後の優良さが決まる。荷主が日本の製鉄会社に偏る点は、堀であると同時に集中のリスクでもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ドライバルク市況は今、強い。大型船の運賃が大きく上がり、ギニア産ボーキサイトなど長距離の荷動きが船の稼働を押し上げている。ただし船は2〜3年遅れて供給される。新造船の大量竣工が控え、来年は運賃が下がるとの見方も多い。海運の運賃は、船が足りないと跳ね、増えすぎると崩れる。いまはその前半にいると筆者は見る。
日本の粗鋼生産は、中国の鋼材輸出に押されて年8,000万トン台まで落ちた。鉄の作り方も変わる。日本製鉄は八幡で2030年までに高炉1基を電炉に替える計画で、JFEも倉敷で検討している。電炉は鉄鉱石でなくスクラップを使うので、鉄鉱石の輸送量は国内向けから先に細る。ただ、日本製鉄は海外の製鉄所への投資も進めており、輸送の相手が国内に限られない面はある。
競合は日本郵船、商船三井、川崎汽船のような総合海運だ。専門の不定期船では、取引関係で勝負するため価格競争は激しくなりにくい。新しい貨物は還元鉄、スクラップ、液化CO2、アンモニア・水素などで、会社は中期経営計画で船の建造を増やす構えだ。市場が育つ時期と船が就航する時期がずれれば、遊ぶ船が出る。
新燃料船の運賃への転嫁が進むかどうかも、10年の収益を分ける。メタノールやアンモニアを使う船は建造費が高く、荷主が追加の費用を認めなければ会社の負担になる。逆に、環境規制で旧型船が退場すれば、新型船を持つ会社の稼働が上がる。
資本政策と M&A
最大の出来事は、日本郵船のTOBだ。2026年7月に発表され、買付けの総額は約1,200億円。日本製鉄は自社の持ち分のうち約20%分を、会社の自己株の買付けに応じて売り、残りは持ち続ける。完了すると日本郵船が約83%、日本製鉄が約17%を持つ2社だけの会社になり、上場は廃止になる見込みだ。独立した社外取締役4名の委員会が15回開いて公正と答申し、2027年3月期は無配の予定になっている。
TOBの狙いは、日本郵船のドライバルク事業の船隊を、市況の変動に強い形にすることだ。会社の中期計画は配当性向30%を基準にし、300億円の還元を織り込む一方で、船隊の建造と更新に3,000億円を投じる。
筆者は、この会社の価値を別の目で見る。仮にTOBが実現しても、評価の中身は変わらない。オーナーが誰になろうと、稼ぐ力は船と契約から決まる。ただし、資本の使い道は大株主の意向に左右される点は覚えておきたい。
なお、日本郵船のTOBの総額は今の時価総額とほぼ同じだ。国内外の競争当局の審査が済むのは11月下旬から12月下旬、上場の廃止は2027年4月の見込みという。それまでに審査が長引くか、条件が変われば、少数株主の立場も変わる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ドライバルクの市況は一時的な山ではなく、構造の変化が始まっている。新造船の竣工は一時的に増えるが、環境規制で古い船が退場し、解撤が進む。燃費規制のため減速運航も広がり、実質的な船腹の供給が絞られる。長距離の荷動き、特にブラジルやギニアから中国への輸送が増え、1トンを運ぶ日数が延びる。大型船の運賃は物価を上回って上がり続ける。
会社の位置も良い。日本製鉄とValeという最上位の荷主との長期契約があり、40万トン級の鉱石船とメタノール燃料のケープサイズ船という最新の船隊を持つ。環境規制で旧型船が使えなくなるほど、新燃料船の価値が上がる。日本郵船の傘下に入れば、荷主の開拓と船繰りの効率も上がる。
財務は純有利子負債がほぼゼロで、自己資本比率は63%ある。借入余力を使って船隊を210隻、216隻と増やし、還元鉄やアンモニアの新しい貨物を取り込めば、国内の鉄鋼が細っても全体の数量は減らない。
足元の決算もこの見方を裏づける。2026年7月に会社は通期の経常利益予想を引き上げ、外航の営業利益は第1四半期で前年の2.4倍に伸びた。長期契約で稼いだ安定収益の上に、市況の上積みが乗る形が10年続けば、利益は今の1.5倍以上に伸びうる。
慎重な見方
日本の鉄鋼需要は、人口減と電炉化で一直線に減る。電炉はスクラップを使うため、鉄鉱石と原料炭の輸入量が国内向けから先に落ち込む。日本製鉄が海外に生産を移せば、輸送の起点が日本から離れる。長期契約が切れるたびに、荷主は条件の見直しを迫ってくる。
運賃は結局、市場で決まる。いまの好況は、2027年以降に竣工する新造船で崩れる可能性が高い。海運は好況のたびに造りすぎ、その後の谷で利益を失ってきた。2012年度には155億円の純損失を出した会社だ。足元の上方修正は、山に乗っただけと見るべきだ。
新しい貨物にも不安がある。アンモニアや液化CO2は市場が育つ時期が読めず、専用船を先に造れば遊ぶ。借りている船の約800億円の約束も、不況では固定費として重くなる。日本郵船のTOBで上場が消えても、その価格は交渉の産物にすぎず、この事業が将来稼ぐ力の保証ではない。
日本郵船のTOBも、強気の根拠にならない。買付けの価格は、日本郵船と会社の特別委員会が交渉して決めた数字で、この事業が将来稼ぐ力を示すわけではない。無配のまま上場が廃止されれば、少数株主が受け取れるのは買付け価格だけで、10年先の成長を待つ選択肢もなくなる。
どちらに重みを置いたか
荷主との関係と財務の堅さでは強気の見方に分がある。だが、日本の鉄鋼の縮小と運賃の市場連動という二つの構造は、慎重な見方のほうが強い。10年先を確信を持って語るには、主力の需要が減りすぎる。
確率は中立を最大に置きつつ、やや悲観と悲観を合わせて3割台半ばまで厚くした。強気が頼りにする新燃料船の価値上昇は、運賃が上がる場合にだけ効く。新しい貨物の育ち方は読みにくく、見込みで上に寄せなかった。市況の上げ潮は、10年ではならして見るべきだと考えた。
TOBの価格は、評価の物差しにしていない。事業の稼ぐ力から出した中立の値打ちが、その価格を下回るというだけだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 11,770 円2,774 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 5,192 円1,224 億円)。 今の値に割り戻すと 8,347 円1,967 億円、今との差 −20.7%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 21,434 円5,051 億円 | 6,510 円1,534 億円 | +165.6% | +10.3% | 2,794 円659 億円 |
| やや楽観 | 20% | 15,848 円3,735 億円 | 6,323 円1,490 億円 | +110.7% | +7.7% | 4,434 円1,045 億円 |
| 中立 | 35% | 11,966 円2,820 億円 | 5,474 円1,290 億円 | +65.8% | +5.2% | 6,104 円1,438 億円 |
| やや悲観 | 23% | 7,319 円1,725 億円 | 4,392 円1,035 億円 | +11.3% | +1.1% | 2,694 円635 億円 |
| 悲観 | 12% | 4,880 円1,150 億円 | 2,924 円689 億円 | −25.8% | −2.9% | 936 円221 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,770 円— | 5,192 円— | +61.2% | +4.9% | 16,963 円— |
今の株価時価総額 10,520 円2,479 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 運賃が物価を上回り、新しい貨物も育つ 利益 432 億円 · PER 10.2 倍 · 株価時価総額 21,434 円5,051 億円
鉄鋼原料の長距離輸送が増え、ケープサイズの運賃は物価を上回って上がる10年になる。環境規制で旧型船が退場して船腹の供給が絞られ、新燃料船を持つ会社が有利になる。会社は船隊を215隻へ広げ、還元鉄・スクラップ・アンモニアなどの新しい貨物が国内の鉄鋼の減少を埋める。日本郵船の傘下で荷主の開拓と船繰りの効率が上がり、外航の営業利益率は14%に達する。財務は堅いまま、利益の半分近くを還元する。10年のうち好況の年が多く、会社の経済が総合海運に近づく最良の姿だ。環境規制で旧型船が退場し、新燃料船の稼働率が高く保たれる点も、この筋書きを支える。
- 外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船):数量 215(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 15(1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む))→ 売上 3,175 億円・営業利益 445 億円。215 隻年 × 1隻年 14.77 億円(今の 1.54 倍)、営業利益率 14.0%
- 内航海運:数量 55.0(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 7.97(1 隻年あたり売上(億円・名目))→ 売上 439 億円・営業利益 35 億円。55 隻年 × 1隻年 7.97 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 8.0%
倍率:ROE 11.5%(事業の純利益÷自己資本)。k 9.00%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/3×(ROE−k)=9.8%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=11.9 倍。船は消耗品で堀が弱く(残る割合 1/3)、市況で利益が大きく振れるので、上限の 8.6 割の 10.2 倍に置いた。
確率:運賃が物価を上回って伸び、新しい貨物も育つ、という重なりが要る。長期の船腹需給は読みにくく、10年続けて好況が揃う確度は高くないので1割にとどめた。
やや楽観 20% 数量の減りを抑え、運賃もやや強い 利益 346 億円 · PER 9.2 倍 · 株価時価総額 15,848 円3,735 億円
運賃は物価より少し強く、船腹の供給が絞られ気味の状態が続く。国内の鉄鋼は電炉化で細るが、新燃料船と新しい貨物の長期契約で数量の減りは小さい。船隊は約208隻で、外航の営業利益率は12%ほどになる。日本郵船の傘下で営業の幅が広がり、荷主の分散が進む。市況の波は残るが、谷は浅く、利益の水準は今より上で10年が過ぎる。強気の見方の多くが実現するが、運賃の大幅な上振れまでは行かない姿だ。新燃料船の運賃への転嫁がある程度進み、環境投資の回収に見通しが立つ。環境規制の追い風で、旧型船の退場が運賃を下支えする。
- 外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船):数量 208(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 14(1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む))→ 売上 2,872 億円・営業利益 353 億円。208 隻年 × 1隻年 13.81 億円(今の 1.44 倍)、営業利益率 12.3%
- 内航海運:数量 52.0(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 7.97(1 隻年あたり売上(億円・名目))→ 売上 415 億円・営業利益 31 億円。52 隻年 × 1隻年 7.97 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 7.5%
倍率:ROE 10.3%(事業の純利益÷自己資本)。k 9.00%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/3×(ROE−k)=9.4%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=11.5 倍。船は消耗品で堀が弱く(残る割合 1/3)、市況で利益が大きく振れるので、上限の 8.0 割の 9.2 倍に置いた。
確率:新燃料船と長期契約で数量の減りを抑えつつ、運賃は物価をやや上回る。海運の好況が10年のうち何度かある、という穏やかな上振れとして2割に置いた。
中立 35% 中立:国内は細り、新しい貨物が一部を埋める 利益 266 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 11,966 円2,820 億円
日本の鉄鋼原料の輸送は電炉化と人口減でゆっくり減るが、新しい貨物と海外向けの輸送が一部を埋める。船隊は200隻前後で、10年前よりわずかに小さい。運賃は物価並みに上がり、市況の山と谷をならすと外航の営業利益率は10〜11%に落ち着く。借金は増やさず、利益の半分を還元し、残りで船を更新する。堅実で大崩れもしないが、船は消耗品で、稼いだ利益の多くが新しい船に消える。株主の手元に残る利益が名目でほぼ横ばいにとどまる、というのが筆者の中立だ。環境規制で旧型船が退場する効果と、新造船の竣工による供給増が相殺し合い、運賃は物価並みに上がるにとどまる。
- 外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船):数量 200(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 13(1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む))→ 売上 2,570 億円・営業利益 270 億円。200 隻年 × 1隻年 12.85 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 10.5%
- 内航海運:数量 50.0(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 7.97(1 隻年あたり売上(億円・名目))→ 売上 399 億円・営業利益 26 億円。50 隻年 × 1隻年 7.97 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 6.5%
倍率:ROE 8.4%(事業の純利益÷自己資本)が k 9.00% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=11.1 倍。市況で利益が大きく振れ、堀も弱いので、上限の 7.5 割の 8.3 倍に置いた。
確率:国内鉄鋼の細りと新しい貨物の立ち上がりが拮抗する姿を最も起こりやすいとみて、確率は最大の35%に置いた。
やや悲観 23% 新造船が運賃を抑え、電炉化も進む 利益 164 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 7,319 円1,725 億円
新造船の竣工が重なって運賃は物価に追いつかず、市況は長く沈む。日本の高炉が2基、3基と電炉に替わり、鉄鉱石の輸入量が国内向けから目に見えて減る。新しい貨物は立ち上がるのが遅く、船は約188隻まで縮める。外航の営業利益率は7%台に落ち、借りた船の約800億円の約束が重くのしかかる。それでも長期契約が下支えとなり、赤字には転落しない。還元は利益の半分程度を続けるが、倍率は伸びない。新燃料船への更新投資は続き、環境規制に合わせた船の建造費が重くなる。荷主への転嫁は一部にとどまる。日本郵船の傘下に入って船繰りは効率化するが、荷主の数量が減る流れまでは変えられない。
- 外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船):数量 188(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 12(1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む))→ 売上 2,254 億円・営業利益 169 億円。188 隻年 × 1隻年 11.99 億円(今の 1.25 倍)、営業利益率 7.5%
- 内航海運:数量 45.0(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 7.74(1 隻年あたり売上(億円・名目))→ 売上 348 億円・営業利益 17 億円。45 隻年 × 1隻年 7.74 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 5.0%
倍率:ROE 5.6%(事業の純利益÷自己資本)が k 9.00% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=11.1 倍。市況で利益が大きく振れ、堀も弱いので、上限の 6.8 割の 7.5 倍に置いた。
確率:新造船の竣工が運賃を抑え、電炉化が想定より進む。日本の高炉の縮小は方向としてほぼ確実なので、やや悲観をやや楽観より厚く2割強にした。
悲観 12% 鉄鋼の急縮と運賃の沈みで優良さを失う 利益 56 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 4,880 円1,150 億円
日本の鉄鋼は想定より早く縮み、電炉化と生産拠点の海外移転で鉄鉱石の国内向け輸送が3割ほど消える。同時に新造船の竣工で運賃は物価の伸びに追いつかない。船隊は約165隻まで減らし、借りた船の約800億円の約束は固定費として残る。外航の営業利益率は3〜4%まで落ちる。新しい貨物は育たず、新燃料船の投資が回収できない。優良な専門海運から、市況に振り回される小さな海運会社に評価が落ちる10年だ。新燃料船の更新投資が重荷になり、船価の償却が利益を削る。日本郵船の傘下に入っても、荷主の減少までは補えない。用船契約の解約や船の売却で損が出て、自己資本の増え方が止まる。還元も利益の半分を下回る。
- 外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船):数量 165(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 11(1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む))→ 売上 1,741 億円・営業利益 61 億円。165 隻年 × 1隻年 10.55 億円(今の 1.10 倍)、営業利益率 3.5%
- 内航海運:数量 38.0(運航船腹(隻・年換算、推定))× 価格 7.14(1 隻年あたり売上(億円・名目))→ 売上 271 億円・営業利益 5 億円。38 隻年 × 1隻年 7.14 億円(今の 1.20 倍)、営業利益率 2.0%
倍率:ROE 2.1% が k 9.00% を大きく下回るので、ためた利益は額面未満。事業の稼ぐ力(純利益÷k=約622億円)より、売れる資産の税後を床にして、今の自己資本 1,872 億円に約 0.61 倍を掛けた。
確率:日本の鉄鋼の急縮、運賃の長い沈み、新しい貨物の不発が重なる複合の筋書き。海運は谷が深く、2012年度に純損失を出した実績もあるので1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
外航海運(鉄鋼原料・不定期船・LPG船)
鉄鉱石・原料炭などのドライバルクと LPG を運ぶ。長期契約と市況連動の傭船が混ざる。
| 数量運航船腹(隻・年換算、推定) | 価格1 隻年あたり売上(億円・名目、運賃・傭船料を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 205 | 9.59 | 1,966 | 183 |
| 10 年後 中立 | 200 | 13 | 2,570 | 270 |
取り方:開示された外航の売上 1,966 億円(全体の 85.6%)を、運航する船腹の推定約 205 隻年で割り、1 隻年 約 9.6 億円とした(中期計画の船隊 200 隻を参考にした推定)。営業利益 183 億円は全社の 205 億円を内航の推定 22 億円と分けた推定で、開示では確かめられていない。隻数は実質の数量、物価 3% と運賃の上げ下げは 1 隻年あたり売上に入れる。
内航海運
子会社が国内の鉄鋼製品・原料を運ぶ。日本製鉄の工場向けの物流が中心。
| 数量運航船腹(隻・年換算、推定) | 価格1 隻年あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 5.95 | 327 | 22 |
| 10 年後 中立 | 50.0 | 7.97 | 399 | 26 |
取り方:開示された内航の売上 327 億円(14.2%)を、推定約 55 隻年で割り 1 隻年 約 6 億円とした(隻数は推定)。営業利益 22 億円(利益率約 7%)も開示を確かめられていない推定。人口減と電炉化で国内の物流量は細る。
リスクと懸念
日本の鉄鋼需要の構造的な縮み
日本製鉄とJFEが高炉を電炉に替えると、鉄鉱石と原料炭の輸入量は国内向けから減る。主力の貨物が細り、長期契約の更新ごとに条件が厳しくなる恐れがある。新しい貨物の育ちが追いつかなければ、船が遊ぶ。
ドライバルク市況の反落
大型船を中心に運賃が上がっているが、約600隻の新造船の竣工が控える。供給が増えれば運賃は崩れる。長期契約でカバーされない船腹は市況でそのまま利益が決まるため、好況の利益を長く続くものとは見ない。
借りた船の固定の約束
他社から借りている船の未経過用船料は約800億円ある。不況でも払う約束で、運賃が落ちると利益を直接削る。新リース会計基準で2028年3月期からBSに載り、純有利子負債が見かけ上増える点にも注意が要る。
環境規制と新燃料船の投資負担
IMOの排出規制で、メタノールやアンモニアなどの新燃料船への更新が必要になる。船価は高く、荷主が運賃に転嫁してくれる保証はない。投資が先行し、回収が遅れれば自己資本の効率が下がる。
新しい貨物の立ち上がりの不確かさ
還元鉄、スクラップ、液化CO2、アンモニア・水素の輸送は、市場が育つ時期も量も読みにくい。専用船を先に造ると、貨物が来るまで遊ぶ。国内の鉄鉱石輸送の減少をどこまで埋められるかが読めない。
大株主の意向と上場廃止後の資本政策
TOBが成立すれば日本郵船が約83%を持ち、日本製鉄が約17%を持つ。少数株主の影響力は消え、利益の使い道は大株主が決める。TOBに至らない場合も、日本郵船の持ち株が高まるため、独立した資本配分は期待しにくい。
今後の分かれ目
- 日本製鉄が高炉の廃止・電炉化を前倒しで進めたら
- 鉄鉱石の国内向け輸送が想定より早く減る。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- ケープサイズの運賃が新造船の竣工後も高止まりしたら
- 船腹の供給が思ったほど増えていないとみて、やや楽観・楽観側の確率を上げる。ただし倍率は上げない。
- 還元鉄やアンモニアの長期輸送契約が複数決まったら
- 新しい貨物の数量が立ち上がるので、中立の船隊の減り方を緩める。
- 日本郵船のTOBが競争当局の審査で止まるか条件が変わったら
- 上場が続く場合の配当と自社株買いが重要になる。無配の予定が見直されるかを見る。
- 新燃料船の運賃への転嫁が進んだら
- 環境投資の回収に見通しが立つ。値決めの弱さが少し改善するかを確かめる。
- 運賃が急落して用船契約の損が出たら
- 約800億円の固定の約束が利益を圧迫する。悲観の筋書きに近づいたとみる。
見ておくもの
- ケープサイズ・パナマックスの傭船料とBCI(運賃指数)
- 日本の粗鋼生産量と高炉・電炉の比率
- 日本郵船のTOBの開始時期と競争当局の審査
- 新燃料船の就航数と還元鉄・アンモニア輸送の契約数
倍率と資本コストの決め方
筋書きは運航船腹(隻・年換算)と1隻年あたり売上の価格で外航・内航を積み、物価3%は価格に入れて二重に掛けていない。倍率は資本コスト9.0%(基本7.5%に循環・値決め・寿命の分1.5%)から、ROEが資本コストを上回らない中立以下では1÷k、上回る楽観側は堀が弱い前提(残る割合1/3)の正当化PERの上限割合で置いた。日本郵船のTOBの総額や今の株価、過去の倍率は倍率の根拠に使っていない。外航・内航の利益と隻数は推定。借りた船の約800億円の用船料は、悲観の固定費として利益率に入れ、2028年3月期の新リース会計基準でBSの形は変わるが、10年後の数字は今と同じ形(用船料を営業費用に入れた形)でそろえた。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。