海外資金が去るとき、国内の買い手は株価を支えられるか:マレーシアとインドネシアで考える市場の強さ
海外投資家が売っている。そんな見出しを見ると、市場からお金が逃げているように感じます。マレーシアでもインドネシアでも、ここ数年、この言葉は不安の材料になってきました。
けれども、外国人が少ない市場は弱いのでしょうか。反対に、国内の投資家が多ければ安心なのでしょうか。答えは、どちらも単純ではありません。
市場を揺れにくくするのは、国内に長く持つ買い手がいることです。ただし、その買い手は市場の透明性や企業統治の不足までは直せません。 ここを分けると、マレーシアとインドネシアで起きていることが少し見えやすくなります。
この問いを正面から扱ったのが、Capital Dynamicsのタン・テンブーです。10月の動画で、マレーシアは海外資金の保有が減ったことを悲観しすぎるべきではない、と話しました。8月には、半導体産業を軸にマレーシア株へ長期で強気の見方も示しています。そして同じ8月、インドネシア株の急落を、海外投資家の売りが増幅した局面だと読み、買い場だとまで言いました。
本人の結論はかなり強いものです。海外資金は上昇局面を過熱させ、下落局面では売りを増やす。だからマレーシアやインドネシアは、国内の個人・機関投資家を育てるべきだ、というのです。
国内の買い手は、なぜ緩衝材になり得るのか
この考えには、単なる愛国的な響き以上の根拠があります。
香港金融管理局(HKMA)の2025年の研究メモは、市場レベルの株式ファンドのデータを分析しました。その結果、国内投資家の参加が多い市場ほど、地域や世界の相場変動に対する資金流出が和らぐ傾向を見いだしています。国内投資家は自国資産を持ち続けやすく、下がった後に買う傾向もある。一方、海外投資家は、自国市場の下落、損失を埋めるための売却、世界全体の資産配分の変更に引っ張られやすい。研究はその違いを、国内勢は逆張り的、海外勢は順張り的になりやすい、と整理します。
たとえば米国で大きな損失が出た投資家は、マレーシアの個別企業の業績に変化がなくても、現金を作るために売るかもしれません。売られた国から見れば、外から来た火事で株価が下がる形です。タン・テンブーが問題にしているのは、まさにこの連鎖です。
マレーシアについて、彼は海外資金の純流出が2013年ごろから続いたと動画内の図表を示し、国内の投資家を増やすべきだと訴えました。さらに、AIと半導体の投資が同国の産業とKL市場を押し上げる、という長期の見方を置いています。
ここで筆者が大事だと思うのは、二つの話を混ぜないことです。半導体の成長が企業の利益につながるかは、事業と価格の問題です。一方、国内投資家がいることは、急な売りに対して誰が受け止めるかという需給の問題です。良い産業があっても売り手ばかりなら株価は揺れます。逆に国内資金が厚くても、企業の利益が伸びなければ株価を永遠には支えられません。
インドネシアでは、需給と制度がぶつかっている
インドネシアでは、この二つがもっと鋭くぶつかっています。
タン・テンブーは、2026年のジャカルタ株の急落を、海外投資家のパニック売りが大きくした局面だと見ています。財政出動や人口、物価の話を持ち出し、国の基礎条件に比べて株価と通貨が不当に売られた、という見立てです。過去の急落後の反発やテクニカル指標も挙げ、本人は買いを勧めました。
ただし、これは本人の予想です。株価が下がった理由を「海外勢の無理解」だけに決めることはできません。動画に出る指数水準、外国人保有比率、財政指標も、ここでは本人の提示した数字として読むべきです。
むしろ見落とせないのは、指数会社MSCIが示した別の問題です。MSCIは10月15日、インドネシアを新興国からスタンドアロン市場へ移す案について、協議を始めました。これは決定ではありません。最終判断は2027年6月末までに出す予定です。
しかし理由は重い。MSCIは、株主構造の不透明さや協調売買の疑いを挙げました。当局は大口保有の開示強化や最低浮動株比率15%へ向けた工程表を示しましたが、MSCIは実施が市場全体で定着した証拠が足りないとしています。指数への採用は、海外の指数連動資金にとって売買の前提です。市場分類が変われば、企業の稼ぐ力とは別に、買える投資家の範囲が変わり得ます。
ここは意外でした。海外資金の売りを受け止める国内資金が必要だ、という話と、海外資金が安心して参加できる制度を整えるべきだ、という話は、対立しません。前者は急な資金移動への耐性の話です。後者は、市場に参加してよいかという土台の話です。
国内投資家を増やせば、すべて解決するわけではない
HKMAの研究も、国内投資家を増やせばよいとは言っていません。個人投資家中心の国内資金が増えると、変動時に売買が細り、価格の回復が遅れる可能性がある、と明記しています。下落時に持ち続ける人がいることと、いつでも適正な値段で売買できることは別です。
この留保は、タン・テンブーの主張を読むうえで欠かせません。彼の動画は、自らの運用するファンドや投資イベントへの案内も含みます。インドネシアを「買い場」とする判断は、独立した事実ではなく、運用者本人の投資判断です。国内の買い手を育てるという政策論と、足元で株を買うという売買判断を、同じ重さで受け取るべきではありません。
筆者は、国内の長期資金を厚くする方向には分があります。年金、投資信託、個人の長期口座のように、短期の世界的な資金移動だけで売らない買い手がいれば、良い企業まで一緒に投げ売りされる場面は減るからです。
ただ、それは海外投資家を締め出す理由にはなりません。透明な株主構造、公平な取引、十分な浮動株、企業からの正確な情報。こうした条件があって初めて、国内の買い手も海外の買い手も、同じ値段に納得して取引できます。
株譜の見方
海外資金の流出という数字を見るとき、まず二つに分けたいところです。
一つは、世界の金利や損失、指数の組み替えで起きる機械的な売りです。これは企業の将来を直接の原因にしないことがあります。もう一つは、情報開示や取引の公平さへの不信から起きる売りです。こちらは、国内投資家だけで埋めても問題が残ります。
マレーシアでは、半導体投資が本当に企業の利益、受注、雇用にどうつながるかを見ます。動画内の輸出比率だけで長期の強気を決めるのは早計です。インドネシアでは、MSCIとの協議の結論だけでなく、MSCIが求める開示と浮動株改革が実際に続くかを追います。
明日からの答え合わせは、株価の上下だけではありません。下げ相場で国内の長期資金が買い手になっているか。取引の透明性を高める制度が、発表だけで終わらず実行されているか。この二つを見れば、「海外資金が出た」という一行のニュースより、市場の強さをよく読めるはずです。
注意
本稿は公開動画と一次資料を整理し、筆者の見方を添えたものです。タン・テンブーの株価・通貨・政策に関する評価は本人の発言であり、将来を保証しません。特定の国、銘柄、ファンドの売買を勧めるものではありません。
出典
- タン・テンブー、Capital Dynamics「Domestic Investors Are Good for the Local Stock Market」、2026年10月17日。https://www.youtube.com/watch?v=eTmi9zZaSZI
- タン・テンブー、Capital Dynamics「KL Stocks – Buy? Sell?」、2026年8月15日。https://www.youtube.com/watch?v=vqQtsFBuAUo
- タン・テンブー、Capital Dynamics「Buy or Sell Indonesia?」、2026年8月1日。https://www.youtube.com/watch?v=AfP86A7-0AM
- Hong Kong Monetary Authority, Research Memorandum 13/2025, The Stabilising Effect of Domestic Investor Participation in Equity Fund Markets、2025年12月3日。https://www.hkma.gov.hk/media/eng/publication-and-research/research/research-memorandums/2025/RM13-2025.pdf
- MSCI「MSCI Launches a Consultation on a Proposal to Reclassify Indonesia from Emerging Market to Standalone Market Status」、2026年10月15日。https://ir.msci.com/news-releases/news-release-details/msci-launches-consultation-proposal-reclassify-indonesia
- MSCI「MSCI Announces the Results of the MSCI 2026 Market Classification Review」、2026年6月23日。https://ir.msci.com/news-releases/news-release-details/msci-announces-results-msci-2026-market-classification-review