チャック・エイカー:100倍を2回引いた人の悔いは三つの向きに分かれる──慎重すぎた、高く買った、頑固だった
チャック・エイカーは、エイカー・キャピタル・マネジメントを率いる投資家です。会社の価値が複利で育つのを長く待つ人で、その考え方は「3本脚の椅子」として知られています。本稿では、本人が講演やインタビューで語った「自分の成功と失敗」を、九つの場面でたどります。
筆者がこの話を読んでいちばん面白いと感じた点は、次の一文です。エイカーの話は成功の自慢より悔いのほうが具体的で、しかもその悔いは「慎重すぎた」「高く買った」「頑固だった」と向きが三つに分かれている。複利を狙う投資でも、失敗の型は一つではない。
先に断っておくことが二つあります。
一つめは、動画の収録時期です。いちばん新しい動画の公開日は2026年9月17日ですが、どれも「The Financial Economics」というチャンネルが2026年に公開したものです。語られている金利の水準や、33日間の急落への言及を見ると、2020年前後の収録を再公開したものとみられます。本当の収録時期は、動画そのもので確かめる必要があります。そのため「いまの見方」の節は、足元の相場の見立てではなく、本人が昔から変えていない考え方として書きました。
二つめは、数字です。整理に使った資料では、株価、リターン、年、運用額の多くが「動画原文との照合が必要」とされていました。資料の中で食い違う箇所は載せていません。残りは「本人がそう語った」ものとして紹介します。
何も知らないまま、証券会社に入った
エイカーが株式ブローカーとして、ワシントンD.C.の老舗証券会社に入ったのは1968年7月です。大学では医学予科から英文学に移り、ビジネスも会計も財務も、講義を一度も受けていませんでした。本人は、この状態を「キャンバスが真っ白だった」と言います。素人だったことを恥じず、強みとして語るところに、まず好感を持ちました。業界の慣習に染まっていないぶん、「何が良い投資家をつくり、何が良い投資をつくるのか」という根っこの問いを、自分で解こうとしました。
手がかりにしたのは、ジョン・トレインの『マネー・マスターズ』、グレアムの『賢明なる投資家』、トーマス・フェルプスの『100 to 1 in the Stock Market』。そこから、会社の本当の価値の伸びと複利の力を軸にした考え方を組み立てたそうです。後年の成績として本人が挙げるのは、自分のパートナーシップが23年間で年15 1/4%(S&P500は9.2%)、個別の運用口座が27年間で年12.7%(同9.4%)、共同投資のファンドが19年間で年13.2%(同7.7%)。いずれも要確認です。教訓として引くのは、「知識の唯一の源は経験だ」という趣旨のアインシュタインの言葉でした。2017年のグーグルでの講演の話です。
バークシャーが105ドルから25万ドルに
1970年代の後半、バークシャー・ハサウェイは1株105ドルほどでした。エイカーは、バフェットのお金の配り方のうまさと、事業群が生む現金の複利成長に目をつけ、買い始めたといいます。いまは1株25万ドルです。投資したお金が100倍以上になった二つの「100バガー」の筆頭で、本人は「本当に必要な素晴らしい成功は、1つだけだ」という趣旨のことを言っています。
平凡な銘柄を何十と売り買いするより、群を抜いた複利の担い手を一つ見つけ、若いうちに買い、複利を止めずに持ち続けるほうが大切だ、という考えです。数字は要確認で、2026年8月公開の動画での話です。
ただ、筆者はこの言葉を割り引いて聞きます。半世紀で100倍が2回という実績の人が言う「1つで足りる」は、見つけられた人の言葉だからです。
アメリカン・タワー:80セントで買い、慎重すぎたと悔やむ
二つめの100バガーが、携帯電話の電波塔を貸す会社、アメリカン・タワーです。エイカーは1999年に投資を始めました。
この会社はITバブルのころ、株価が60ドル台まで上がりました。ただ、借金が約60億ドルと重く、崩壊と通信不況のなかで、2002年の初めには5ドルまで暴落します。エイカーはそこで1株5ドルで買い始めましたが、下落は止まらず、同じ年の9月には2ドルまで下がったそうです。
彼はボストンへ飛び、創業者のスティーブ・ドッジに会いました。市場が恐れていたのは、15か月後に期限が来る2億ドルの社債です。返済を現金か株のどちらでもよいことにしていたため、株価が下がるほど新株が増え、さらに株価が下がる悪循環が心配されていました。
エイカーは事業の仕組みを調べ、タワーに借り手が一社増えるたびの利益率が90%を超えることを確かめます。「悪い財務の陰に隠れた、素晴らしい事業」だと判断しました。2002年10月、日中の安値が60セントをつけたとき、平均約80セントで数百万株を買い足しました。
その後、携帯の普及で株は急上昇します。1999年に3か国で始まった会社は、15か国以上に広がる世界最大級の電波塔会社になりました。それでも本人は悔やみます。「当時はとても慎重で、数百万ドル分しか買えなかった」。事業と経営陣の誠実さを信じたなら、恐怖に負けず、もっと大きく賭けるべきだった、という悔いです。「もっと買っていればバフェットと長者番付で競っていただろう」という趣旨の言葉は、資料では聞き手の補足の可能性があり、本人の発言とは断定しません。
筆者が意外だったのは、成功談のさなかに「買い足りなかった」という悔いが出てくることです。80セントまで落ちた株を買った人が、なお慎重すぎたと言う。恐怖の中で買える量には、確信があっても限りがあるのだと思います。
インターナショナル・スピードウェイ:世代交代で降りた
1980年代から90年代初めにかけて、エイカーはNASCAR(自動車レース)のサーキットを持つインターナショナル・スピードウェイに投資しました。株価収益率は12倍、自己資本利益率は25〜26%の時期だったと言います。ダーリントンやタラデガなど主要なサーキットを持ち、新規参入が難しいこと。創業者のビル・フランスが株の60%を握る、オーナー経営だったこと。この二点に引かれました。
10年以上持って、投資したお金は10倍から20倍になりました。その後ビル・フランスが亡くなり、あとを継いだ娘は、父親ほどの経営の腕を見せなかった。そう判断したエイカーは、「もはや魅力的な事業ではない」と売りました。
教訓は、資本の効率が高く、オーナー経営者の腕もある会社は大きなリターンをくれる、ということ。ただし世代交代で経営の脚が弱ったら、過去の成功にこだわらず見直すことです。2026年8月の動画の話で、倍率は要確認です。
10倍から20倍になった銘柄を、環境が変わったと見て手放せる。筆者は、買う判断よりこの売る判断のほうが難しいと思います。
ペン・ナショナル:「妻に保証を書かせたことがない」
1999年ごろ、ファンドの若手アナリストが、ペン・ナショナル・ゲーミングの四半期報告書を見るよう勧めました。ペンシルベニア州で5か所の場外馬券売り場を営む会社です。報告書を読むと、5店目の建設費は200万ドルなのに、開店からわずか12〜14か月で160万ドルの営業利益が出ていました。しかも州法でライセンスは全州で23枠だけ。規制が、ほかの会社の参入を防いでいました。
エイカーはCEOに会いに行きます。不動産開発の出身で、事業拡大のために多額の借金をしてきた人物でした。その人が面談でこう言ったのです。「人生で一度も、妻にローンの連帯保証を書かせたことがない」。エイカーはこれを、リスクをよく分かっている証拠であり、誠実さの表れだと受け取り、大きく投資しました。会社はその後、西バージニア州の競馬場を5,000台のスロットマシンを置くカジノに変えるなどして急成長し、エイカーの口座では投資額が10倍から20倍になったそうです。数字は要確認です。
筆者には、この一言で投資を決める感覚がおもしろく、同時に少し危うくも見えます。この点は最後の節で触れます。
マスターカード:規制の不安で売られたところを買った
2010年2月、金融危機のあとの議会で、デビットカードの手数料を規制する案が議論されていました。マスターカードはその不安で、売られすぎていました。
エイカーが見たのは、自己資本利益率34%、純利益率34%という事業の質です。米国企業の平均が1桁台なのに比べ、桁外れでした。株価収益率は13〜14倍と割安でもありました。新しいCEOに会って、経営陣との相性と運営の腕を確かめ、平均22.20ドルで買い始めたといいます。
株価はその後、買値の数倍になりました。本人は、上場後の長い期間で見ても卓越した投資だったと振り返ります。倍率や年数は、資料の中で整理が揺れており、要確認です。教訓は、政治や規制の雑音で優れた事業が安く放置されたとき、収益力と経営陣の人柄を現場で確かめてから買うことです。恐れが先に立つ局面で、数字の質を見て動けた点に、筆者は納得しました。
ムーディーズ:最初は「全員が悪人」と拒んだ
2009年の夏、同僚から信用格付け会社ムーディーズへの投資を勧められたエイカーは、「全員が悪人のようなものだ」と、すぐに断りました。住宅金融危機のときの格付けのやり方が、言語道断だと思ったからです。
それでも同僚は何度も勧めました。エイカーはニューヨークへ行き、経営陣に直接会います。話すうちに見方が変わりました。彼らは悪意のある人たちではなく、悪い天候のなかで悪い判断をした、誠実な人たちだった。そう認めたエイカーは大量に買い始め、ムーディーズはファンドで最大級の保有銘柄の一つになりました。
買った時期と株価は、資料の表現が食い違うため載せません。教訓として引くのは、「良い判断は経験から生まれ、経験は悪い判断から生まれる」という趣旨の言葉です。過去の見方やプライドにこだわらず、新しい事実を前に、間違いを認めて考えを変える。それが投資家のいちばん値打ちのある資質だ、という整理です。2025年12月の動画での話です。
筆者は、この話に最も説得力を感じました。「悪人だ」と決めつけた相手に会いに行き、見方を改めたと公言する。成功談ばかりの中で、考えを変えたことを誇れる人は少ないからです。
エンスターとマルケル:高く買ってしまった
失敗もはっきり語っています。
2007年に投資したエンスターは、すでに契約が終わった保険の再保険を専門にする会社です。1株あたりの純資産が年20%超で伸びてきた実績は抜群でしたが、買った時の株価は純資産の3倍と高く、最初の買い付けは1株129.90ドルでした。10年後の株価は195ドルほど。約2倍、年にして約7%の複利にとどまり、エイカー自身が「とても良い投資とは言えなかった」と認めています。なお、2009年に株価が56ドルまで下がったときに買い足した分は、ほぼ4倍になりました。
マルケルも似ています。2006年ごろ、1株444ドル付近で買い始めました。過去20年、1株あたりの純資産を年20%のペースで伸ばした実績を評価しましたが、株価は純資産の2.5倍と高い水準でした。11年後の株価は2倍をわずかに超えた程度で、年約7%でした。
教訓は、事業の質が高く、成長率が優れていても、買うときの値段が高すぎれば、長い目で見たリターンはかなり削られる、ということです。2017年のグーグルでの講演の話で、数字は要確認です。
質の高い会社を選ぶ名人でも、値段の見極めで外す。筆者は、この率直さがいちばん参考になると考えます。「良い会社=良い投資」ではないという、単純だけれど忘れやすい教えです。
運用資産が増え、30銘柄を17銘柄に絞った
最後は、運用規模の話です。エイカーは2009年9月、FBRフォーカス・ファンドから独立して、エイカー・フォーカス・ファンドを立ち上げました。運用資産は、2014年の30億ドルから、120億〜130億ドルへと急に膨らみます。
ここで「大数の法則」が働きました。お金が大きくなりすぎると、小さな優良企業を買っても、ファンド全体の成績にほとんど響きません。本人もそれを認めています。
そこで小さな会社を外し、最も確信のある大きな複利企業に資金を集めました。いわば「規模の呪い」への対処です。2014年に30〜35銘柄あった保有は、17銘柄まで減ったそうです。ただ、大数の法則による成績の低下を避けられているかと聞かれると、「いまも避けられているか、確信はない」と率直に答えています。2025年12月の動画の話で、数字は要確認です。
いまの見方(本人が変えていない考え方)
冒頭で断ったとおり、直近の動画は収録時期が古い可能性があります。そこでここでは、足元の相場の見立てではなく、本人の考え方の軸を並べます。
目指すのは、市場平均より低いリスクで、市場平均を大きく上回る複利を得ることです。そのために選ぶのは、成長力が高く、資本の効率が高く、財務が強く、しかも買う値段が市場平均以下の会社。配当を出すより、高いリターンで事業に再投資してくれるほうを好みます。突出して高いリターンの会社は、なぜ高いのかを分析し、強みが衰えていないかを見張り続けます。
株価は、1株あたりの本当の価値の成長に近づいていく、というのが彼の立場です。だから、ストックオプションなどで毎年2〜3%ずつ株が増える「希薄化」を警戒します。会社全体が年20%で成長しても、毎年10%の新株が出れば、株主の取り分は大きく目減りします。
資産の比較では、借金をしない普通株が、歴史的に年約9%で最も高いと見ています。ただし9%は平均であって、毎年一定ではありません。「平均の水深が4フィートの川で、身長6フィートの男が溺れた」というたとえで、短期の揺れに耐える備えを説きます。
短期の売買とニュースには、強く警戒します。朝のテレビ番組も証券会社の商売も、投資家に売買させて手数料や広告で稼ぐ仕組みだからです。四半期決算が予想を1セント上回ったか下回ったかで売買するのは、個人にとって負けが確実なゲームだ、と言います。3〜5年以上のつもりで持つ投資家にとって、価格の揺れは「リスクという言葉にすら入らない」とも話します。
2020年の急落では、手元に十分な資金があり、自分で計算した水準を株価が下回ったところで積極的に買いました。ただ、その後の急回復を見て買い足しを控え、新しい機会は厳選する姿勢に切り替えたと述べています。数字は要確認です。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
冒頭の主張に戻ります。エイカーの悔いは、向きが三つとも違います。アメリカン・タワーは「慎重すぎた」、エンスターとマルケルは「高く買った」、ムーディーズは「最初は拒んだ」。複利を狙う長期投資でも、失敗は一つの型に収まらないというのが、この記事から筆者が持ち帰ったことです。
全体は「100バガーを引いた人」の物語でもあります。100倍になったのは、バークシャーとアメリカン・タワーの2銘柄だけだと本人も言っています。半世紀を超える投資人生で、100倍が2回。才能に加えて、運の部分も大きいと読めます。生き残った人の語りとして、割り引いて聞くのが妥当だと考えます。
動画の収録時期が古い可能性は、あらためて強調しておきます。公開日が新しくても、中身が古ければ、いまの市場観としては使えません。希薄化への警戒や短期売買への警戒といった考え方の軸は、時代を超えて通用しやすい。けれども、金利水準を前提にした「株は魅力的」という議論は、金利が変われば結論も変わります。
個人が持ち帰れるものは、三つあると考えます。
- 買う値段を軽く見ないこと。エンスターとマルケルは、質の高い会社でも高く買えばリターンが抑えられることを示しています。
- 一度断ったものも、事実に応じて考え直す柔軟さ。
- 1株あたりの価値で考える習慣。
逆に、17銘柄への集中投資や、危機のときに数百万株を買い足す判断は、専門家の世界の話です。個人が真似るには前提が違います。運用規模の話も同じで、個人は小さな会社を自由に選べる立場にあります。大きな資金を前提にした手法を真似るより、自分の資金規模だから使える機会を探すほうが、理にかなうと考えます。
最後に、経営者の人柄が決め手になった場面が三つ並んでいることにも、注意したいところです。タワーのCEOとの面談、ペン・ナショナルのCEOの言葉、ムーディーズの経営陣との対話。どれも結果的にうまくいった例で、人柄を見誤った例は語られていません。人柄の見極めは、成功した話にだけ後から理屈をつけやすいのです。個人が真似るなら、印象よりも、過去のお金の使い方や、希薄化の履歴のような、記録に残る行動を確かめるほうが安全でしょう。
出典
- Talks at Google「Trying to Solve the Investment Puzzle | Chuck Akre | Talks at Google」、2017年3月10日(YouTube)
- Superinvestors「How We Find Compounding Machines - Chuck Akre & John Neff」、2025年12月25日(YouTube)
- The Financial Economics「This Is How Compounding With Low Risk Works | Chuck Akre | Stocks | Investment」、2026年8月6日(YouTube)
- The Financial Economics「What Actually Makes a Stock Go 100X? | Chuck Akre | Stocks | Investment」、2026年8月11日(YouTube)
- The Financial Economics「Stocks vs Gold, Real Estate & Bonds: Which Creates More Wealth | Chuck Akre | Investment」、2026年8月21日(YouTube)
- The Financial Economics「This Is What REALLY Drives Stock Prices | Chuck Akre | Stocks | Investment」、2026年9月1日(YouTube)
- The Financial Economics「How to Compound at Above-Average Returns | Chuck Akre | Stocks | Compounding」、2026年9月17日(YouTube)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。