株譜
INVESTOR OUTLOOK

リー・ルー:バフェットの講演で電球が点いた学生から、ティンバーランドで7倍、空売りに手を出した最大の失敗、BYDを20年以上持つまで

失敗と成功

借金を抱えた中国人留学生が、バフェットの講演をきっかけに投資の道へ進み、のちにチャーリー・マンガーから資産を預かるまでになる。リー・ルー(李録)は、ヒマラヤ・キャピタルの創業者です。この人の語りを読んで、筆者がいちばん面白いと感じたのは、失敗が「損をしたこと」ではなく「買わなかったこと」に置かれている点でした。

近年のAIや中国についての発言は、別稿でも触れています(たとえば「地図:東アジア(中国・香港・韓国)」)。本稿は、その見通しではなく、本人が大学の講演や対談で語った「自分の成功と失敗」を、六つの場面と三つの考え方の変化に分けて並べます。

先に断っておきます。整理に使った資料では、倍率や金額の多くが「動画原文との照合が必要」とされています。ティンバーランドの7倍、韓国株の5〜6倍、見送った銘柄の50〜100倍、BYDの売上の1,000倍近い増加、学生時代の利益の額、マンガーから資金を預かった時期などです。本稿でも、すべて「本人がそう語った」ものとして読んでください。

1993年ごろ:コロンビア大学でバフェットの講演を聴いた

リー・ルーは中国で生まれ育ち、文化大革命の時代には、市場経済や民間企業に触れる機会がありませんでした。渡米して間もないコロンビア大学の学生のころは、英語も十分でなく、学費や生活費で多額の借金を抱え、どう食べていくのか不安だったと語ります。

そんなとき、ブルース・グリーンワルド教授の講義に偶然参加し、ゲストで来たウォーレン・バフェットの講演を聴きました。「株式は紙切れではなく事業の一部の所有権だ」「市場は感情的なミスター・マーケットにすぎない」「安全域を持って安く買う」。頭の中で電球が点いたようだった、と言います。コネも資金も資本主義の背景もなくても、事業の価値を徹底的に調べて割引で買えば生き残れる。そう考えて、バリュー投資を選びました。

本人によれば、わずかな自己資金で始めた投資で、年7万ドルほどの学費と生活費、借金を返したうえ、在学中に数十万ドルの利益も出したそうです。1996年にはコロンビア大学から、学士、経営学修士、法学博士の三つの学位を取ったとされます(以上の数字と「三つの学位の同時取得」は要確認)。

本人が語る教訓は、株式投資は短期の値動きを当てるギャンブルではない、ということです。「100%の所有者の精神」で、本質的価値より大幅に安い事業を買う、知的な作業だといいます(Columbia Business Schoolでの講演、2006年。動画の公開は2023年11月4日)。

1998年:誰も買わないティンバーランドに、大きく張った

最も詳しく語られる成功が、1998年秋のティンバーランドです。アジア通貨危機のさなかで、靴・衣料のティンバーランドは、株価が28〜30ドル(時価総額は約3億ドル)まで急落していました。アジアの売上が落ち、ナイキやリーボックも苦戦し、業績見通しをめぐる株主訴訟も抱えていました。創業家が議決権の98%を握る同族経営で、アナリストの報告もなく、本人の言葉では、ウォール街の機関投資家の95%が敬遠していたそうです。

本人は、バリュー・ライン(投資情報誌)の安値リストでこの会社を見つけ、貸借対照表を徹底的に調べました。流動資産は約3億ドル(年末に約1億ドルの現金回収が見込まれる)。自社所有の建物などの固定資産が1億ドル。時価総額3億ドルに対して、清算価値と同等以上の下値の保護がある、と判断しました。

さらに、「調査報道の記者のように」、裁判所の記録を全部取り寄せて読みました。訴訟は不正ではなく、経営陣と投資家の感情的なもつれだと確かめます。近所の人や関係者への聞き取りで、経営陣の誠実さも裏づけました。アジアの需要がなくなっても、全体の利益への影響は5%に満たない、という計算もして、ファンド資産のかなり大きな割合を集中して投じたといいます。

その後の2年で、業績は年30%の勢いで伸び、PERは5倍から15倍に上がり、株価は7倍になりました。当初は本人と経営陣の3人だけだったアナリスト説明会に、50〜60人が詰めかける人気銘柄になったところで、全部売ったそうです(Columbia Business Schoolでの講演、2006年。公開は2023年11月4日)。

教訓は、市場の大半が感情と制度上の制約で投げ売りしている場面では、一次資料を徹底して下値を正確に測り、安全域があれば迷わず大きく投じるべきだ、ということです。

90年代末の韓国:時価総額6,000万ドルの百貨店とホテル

アジア金融危機の直後、韓国に、時価総額6,000万ドルで取引されていた会社がありました。百貨店とホテルを運営しています。税引き前の利益は年3,000万ドル。簿価の資産は2億4,000万ドルで、うち現金と流動性の高い有価証券が7,000万ドル、100%所有のホテルや百貨店株などの固定資産が1億8,000万ドルでした。

それなのに、打ち捨てられていました。韓国市場全体が冷え込み、北朝鮮の核の危険(100km圏内)がある。インサイダーの保有が50%超で、外国人の保有はゼロ、という条件だったからです。

本人は自分で韓国へ飛び、ホテルや百貨店と周辺の不動産を見て回り、直近の不動産売買の事例を調べました。不動産の価値は、帳簿の2〜4倍あると確認します。借金がなく、毎年3,000万ドルの利益を出す会社が、時価総額6,000万ドルで買える。地政学の危険を考えても、80〜90%の割引で、圧倒的な安全域がある。そう判断したといいます。

購入後、この株は12ドルから70ドル台へ、関連する百貨店の株は22ドルから約100ドルへ、それぞれ5〜6倍になりました(Financial Reviewの動画、2020年9月21日)。本人の言葉では、「常識と基本の論理」に従っただけ、です。

BYD:20年以上持ち、50%超の下落を7〜8回やり過ごした

最も長い成功が、中国の電気自動車・電池メーカー、BYD(比亜迪)への投資です。本人は2002年に最初の投資をし、2008年にはマンガーの資金を預かって大きく追加したと語ります(この点は要確認)。当時は、小型電池メーカーが完成車に進出し始めた段階でした。参入の壁が低い自動車産業での激しい競争や、中国企業の技術と品質への根強い疑いもありました。

本人は、創業者・王伝福の技術力と経営の手腕、そして電池と電動輸送という長期の大きな流れを、確信していました。株を短期売買の対象ではなく、事業の所有権と見ています。持続的な競争優位を持つ「複利の機械」として、長く伸びる余地があると評価しました。

20年以上持ち続けるあいだに、売上は10億元規模から1兆元近くへ、1,000倍近くになったとされます(要確認)。保有中に株価が50%以上下がる場面が7〜8回あり、最悪のときは80%下がりましたが、一度も動じずに持ち続けたそうです(Himalaya Capitalの動画、2026年4月7日。講演は2024年12月7日)。

教訓は、本当に優れた事業と経営者を見つけたら、保有中の猛烈な値動きに感情を揺さぶられず、借金なしで耐えて、事業が長期に生む価値を享受することです。

最大の失敗:空売りと「慣習的なヘッジファンド」に手を出した(2000年代初頭)

失敗として本人がいちばん重く語るのは、ファンドを始めた初期の判断です。運用成績は驚異的だったのに、機関投資家や出資者から、「毎月、毎週、安定してプラスを」「下がる相場でも上がる、銀行のような運用を」と強く求められました。ロングだけのファンドとして資金を集めるのに、苦労していたのです。ジュリアン・ロバートソンに招かれてオフィスを共有し、有名ヘッジファンドの慣行や手法を取り入れようとした時期でした(このオフィス共有の細部は要確認)。

本人は、出資者の圧力に折れ、空売りや短期のトレードといった手法に手を出します。空売りは、理論上の利益が最大100%なのに、損失は無限大です。日々の値動きとポジションの調整に、精神と時間を奪われました。本人の言葉では、「両手を後ろで縛って戦う」ような愚かな状態でした。

その結果、見送った機会があります。経営陣の本質を完全に理解し、保有現金以下で取引されていると確信していた優良企業への、集中投資です。その企業はその後50〜100倍になり、過去最大の機会損失になったといいます(Columbia Business Schoolでの講義、2006年。公開は2020年4月24日)。

教訓は、投資の最大の失敗は、お金を失ったことではない、ということです。自分が絶対的に理解している機会に、確信を持って資金を投じなかったこと。そして、出資者の気まぐれや業界の慣行に合わせて、自分の得意な領域や運用の型をゆがめることは、運用者が決して犯してはならない過ちだとも述べています。

1997年:他人の委員会に入らず、無借金の小さな会社を作った

1997年、コロンビア大学を出たとき、バリュー投資を本当に実践している運用会社は少なく、働きたいと思える会社に採用枠がなかった、と本人は語ります。他人のファンドや投資委員会に入ると、集団の心理的な圧力で客観性が損なわれる。そう考えて、自分でヒマラヤ・キャピタルを作りました。借り入れは一切せず、スタッフも10人ほどに絞っています。

1997年のアジア危機、2000年のITバブル崩壊、2008年の金融危機、2020年のコロナ・ショック。どの下落局面でも、無借金だったので、強制的に売らされることを避けられたと語ります。27〜30年で市場平均を大きく上回る複利を得て、2003年か2004年には、マンガーから個人の資産を預かるほど信頼されたとされます(この時期は要確認)。

本人の整理は、こうです。投資とは、個人の客観性と規律にかかった孤独な探求である。借金を持たず自立していれば、周囲がパニックのときでも平静を保てる(Stock Compounderの動画、2020年12月22日)。

考えを変えた三つのこと

資料には、本人が語った考えの変化も、三つ載っています。

第一は、投資対象の規模です。1990年代後半は、理解しやすい小さな会社を中心に探していました。経験を重ねて、プラットフォームやネットワークの効果で参入障壁を強め、成長し続ける大きな会社もあると理解します。そこで、規模にかかわらず、理解できる優良企業に広げました(コロンビア大学北京センターの中国ビジネス会議、2021年4月14日)。

第二は、売る基準です。初期は、その価格で買いたくないと感じたら売るルールでした。しかし、強い競争優位と高い資本利益率を持つ「複利の機械」のような会社に出会います。短期の割高感で手放すと、買い直すときも同じ価格判断に悩み、莫大な複利を取り逃がす。そう考えを改めました。今は、優れた会社を見つけたら、会社自身に複利を働かせる超長期保有だといいます(Stock Compounderの動画、2020年12月22日)。

第三は、公の場での発言です。特定の銘柄を人前で熱弁すると、自分を大きく見せたい心理が働き、間違いを認められなくなる。だから避ける、という趣旨を述べています(この点は資料側で要確認)。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

六つの場面のうち、失敗として語られるのは一つだけです。しかもその失敗は、「間違った銘柄を買った」ことではなく、「確信のある機会に投じなかった」ことでした。リー・ルーにとっての失敗は損失ではなく機会費用だ、という整理は、独特だと思います。ただし、見送った会社が50〜100倍になったという数字は要確認で、確かめようがありません。結果を知ってから語る「逃した魚」は、大きく語られがちな点にも注意したいところです。

もう一つ、ティンバーランドと韓国の二つの成功談に共通するのは、「人が避ける理由が、分析すると小さい」ことです。同族経営、訴訟、北朝鮮の危険、外国人の保有ゼロ。どれも不安に見える一方、本人は数字と現地調査で、実際の下値を測りました。空売りの失敗は、この「調べて測る」作業から離れ、他人の期待に合わせた時期の話だと読めます。成功と失敗の分かれ目は、調べる深さではなく、誰の期待に合わせたかにある。そんな見方もできるのではないでしょうか。

個人投資家が持ち帰れるのは、調査報道の記者のように調べる姿勢のうち、裁判記録や現地の聞き取りのような手間の部分でしょう。個人が韓国の百貨店を見に行くのは現実的ではありませんが、決算書の注記や訴訟の開示を読むことなら近い作業です。本人の手法を真似るのではなく、「怖い理由を、自分で数字にしてみる」習慣だけを借りるのが、無理のない使い方だと考えます。

BYDの20年を超える保有は、最も語られやすい成功談です。ただ、50%超の下落を7〜8回、最悪で80%という数字は、持つ側の精神的な負担の大きさを示しています。無借金でなければ耐えられない、という本人の説明は、1997年の創業の話とつながっています。長期保有を可能にしたのは、銘柄選びだけでなく、借金のない体制だと読めます。これは本人の語りをつなげた筆者の推測で、本人がそう断言したわけではありません。

考え方の変化の三つ目、公の場で銘柄を語らないという話は、この記事の読み方にも関わると思います。人前で熱弁した銘柄は、あとから手放しにくくなる。本人はそう考えています。その本人が、過去の成功談を講演で語っています。講演は結果が出たあとであり、売り込みではなく振り返りだから、という区別をしているのでしょう。ただ、聞き手は、語られた成功だけが残り、語られなかった失敗が消えていることを、割り引いて受け取る必要があります。

売る基準が「割高になったら売る」から「会社に複利を任せる」へ変わった点は、初期のティンバーランド(全額売却)と後期のBYD(20年以上保有)の違いとして表れています。どちらが正しいというより、事業の質に応じて使い分けている、という読みが自然です。個人が「優れた会社」を見分けるのは難しく、安易に後者を真似れば、ただの持ちっぱなしになりかねません。

最後に、中国株に関する見通しは、別稿に譲ります。ここで紹介した場面は、いずれも過去の投資の振り返りであり、現在の個別銘柄の推奨ではありません。

出典

  • INVEST : REPEAT「Li Lu - Invest like a Journalist (Columbia Business School Speech 2006)」、2023年11月4日(YouTube)
  • The Financial Review「Li Lu realizes the standard of CBS classes has dropped a bit since the times of Graham & Buffett」、2020年9月21日(YouTube)
  • Himalaya Capital「Li Lu: Global Value Investing in Our Era (2024-12-07)」、2026年4月7日(YouTube)
  • Chase Chimichurri「Li Lu, Columbia Business 2006 - Greenwald」、2020年4月24日(YouTube)
  • Stock Compounder - Brad Kaellner「What is the best way to learn investing? Li Lu Q&A (Part 2)」、2020年12月22日(YouTube)
  • Columbia Global Center Beijing「13th Columbia China Business Conference | Fireside Chat: Value Investing in China」、2021年4月14日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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