ビル・ナイグレン:袋詰めのアルバイトで買った初めての株から、教室で笑われた2,500万ドル、GEの「バリュー投資の呪い」、アップルの半分のポジションまで
安い株を買う人が、いちばん陥りやすい罠は何か。ビル・ナイグレンの失敗談を読むと、その答えが二つ見えてきます。
ナイグレンは、米国のバリュー投資のファンド「オークマーク」を運用するハリス・アソシエイツの最高投資責任者です。本稿では、本人がインタビューやポッドキャストで語った「自分の成功と失敗」を、十の場面で並べました。最新の本人動画は2026年7月30日のグルフォーカスで、「いまの見方」の節は2026年3月と7月の発言を土台にしています。
二つの失敗は正反対に見えて、根は一つでした。ナイグレンの失敗は、方向こそ正反対ですが、どちらも「自分の数字」ではなく「感情や外聞」で判断をゆがめた点で同じです。GEでは安さに甘えて持ち続け、アップルでは世間の目を気にして半分に縮めました。
先にお断りします。整理に使った資料では、年、株価、運用額、割合の数字の多くが「動画原文との照合が必要」とされています。資料の中で数字や経緯が食い違う箇所は、本稿では載せていません。具体的には、ネットフリックスの投資の数字、メタの売却の有無、GEの売却理由などです。残りは資料の表現のまま、「本人がそう語った」ものとして紹介します。
袋詰めのアルバイトで、初めての株を買った
1978年から1979年ごろ、ナイグレンは食料品店で袋詰めのアルバイトをして貯めたお金で、初めて株を買いました。第2次オイルショックで、ガソリンが1ガロン29セントから1ドルへ急騰していた時期だと語っています。選んだ基準は単純で、市場平均に対する株価収益率の大きな割引と、高い配当利回りです。AT&T、ガルフ・オイル、テキサコの3銘柄を、各10株ずつ買いました。
予想していなかった原油の急騰が追い風になり、石油会社2社が大きく上がりました。幼いころ母親と特売を回った経験から、安くなったものを買うバリュー投資が自分の感覚にいちばん合う、と実感したそうです。2026年7月の動画での話で、数字は要確認です。
筆者は、特売を回る母親の姿が投資の原点だという話が好きです。派手な物語ではありませんが、のちの「安く買う」姿勢が、生活感覚から来ていることがよく分かります。
教室で、純現金のある「つまらない会社」を推した
ウィスコンシン大学の証券分析のプログラムで、他の学生は株価収益率50倍のコンピューターやレーザー関連の高成長株を発表していました。ナイグレンが選んだのは、サラダシューターやエアポッパー、電気ヒーターなどを作るナショナル・プレストです。株価が32ドルなのに対し、1株あたり40ドルの純現金をバランスシートに持っていた、と語っています。事業の価値が実質マイナスで取引され、現金が下値を守っている、という判断です。
教訓は、夢を追う成長株より、純現金で下値が守られた「安全域」のある割安株のほうがはるかに確実だという確信です。現金が株価を上回っている極端な例ですが、彼の投資の原点がここにあることが分かります。
銀貨の交換で、最初の車を買った
6歳だった1964年から高校・大学の時代にかけて、米国政府が1965年に硬貨から銀を外した時期の話があります。牛乳配達をしていた祖父が持ち帰る小銭の袋から、自分の小遣いで出した新しい25セントや10セントの硬貨を入れ、銀を含む1964年以前の硬貨を額面で抜き出す交換を続けました。貯めた銀貨は大学時代に売り、その利益で最初の自動車を買ったといいます。
低リスクで確実な価値の差を取る威力を知り、市場の歪みで資本を増やす感覚を原体験として身につけた、というのが本人の整理です。2025年6月のポッドキャストでの話です。
「2,500万ドルを集める」と言って、教室で笑われた
ミネソタ大学の4年生のとき、起業家精神のクラスの最終課題で、ナイグレンはミューチュアル・ファンド(投資信託)を作るビジネスプランを発表しました。手数料1%で預かり資産が2,500万ドルなら、年25万ドルの収入になる。経費が半分でも十分によい、という試算です。発表の前には、ミューチュアル・シェアーズのマイケル・プライスに電話で取材までしたそうです。
ところが「2,500万ドルを集める」と言った瞬間、教室中に大爆笑され、激しく落胆したといいます。数十年後に、目標の1,000倍にあたる約250億ドルを運用するようになった、と本人は語ります。嘲笑されるほど、証明してみせようとする反骨心と粘り強さが育った、という話です。数字は要確認です。
筆者は、この逸話がきれいに整いすぎていることが、逆に気になりました。反骨心が成功の原動力になったという筋書きは、本人の記憶の中で磨かれたものでしょう。事実の記録としてではなく、本人が自分をどう理解しているかを示す語りとして読むのが、安全だと思います。
保険会社の幹部候補を、その場で断った
ノースウェスタン・ミューチュアル・ライフに入社して2年目のころ、ナイグレンは幹部候補の育成プログラムに抜擢されると告げられました。本人は「自分は保険会社の幹部ではなく投資家だ」と考え、その場で辞退したと語っています。買い推奨のレポートが2通なければ買えない風土が、バリュー投資と合わないと痛感したそうです。そしてハリス・アソシエイツの面接を受けて入社しました。入社の年は、資料内で表現が揺れているため、本稿では特定しません。
以後、長くハリスで運用を続け、オークマークのファンドは約30年にわたり、S&P500を年2.3%から2.5%上回ったと本人は語ります。自分たちの姿勢は、上場株の投資に「未公開株の視点」を持ち込むことだ、という表現です。数字は要確認です。かつての上司ピーター・フォーマンの鉄則として、「買うのはバランスシートと、それを動かす人間だ」という趣旨の言葉も紹介しています。
キャピタル・ワンが49ドルから12ドルになった
2008年の金融危機で、ナイグレンはキャピタル・ワンの株を1株約49ドルで買いました。直後に株価は12ドルまで75%下落します。彼は投げ売りせず、事業の価値を信じて保有し続けたと語ります。株価が買値の水準まで戻った後に、少量を売りました。
2020年には、1四半期で株価が50%下落しても売りませんでした。2022年の後半に再び30ドル近辺まで下がった局面では、大きく買い増したといいます。教訓は、市場のパニックに振り回されず、独立した企業価値の評価に基づいて、価格が下がったときに買い増すことです。2024年10月の動画での話で、株価の推移は要確認です。
ここで気になるのが、次のGEの話との違いです。同じ「下がったら買い増す」でも、キャピタル・ワンは報われ、GEは報われませんでした。両者を分けたのは何だったのか。この問いを持ちながら、先へ進んでください。
ITバブルで、運用資産が100億ドルから20億ドルに減った
1997年から2000年のITバブルのピーク期、ハイテク株が暴騰し、伝統的なバリュー株は徹底的に売られました。顧客やアドバイザーから「1銘柄だけでもハイテク株を買ってくれ」と頼まれても、ナイグレンは折れませんでした。収益のないドットコム企業の高い株価は、本質的な価値から離れていると判断したからです。
オークマークの運用資産は、1997年から98年の約100億ドルから、解約が相次いで2000年には20億ドルへ、約8割減ったと本人は語ります。しかし2000年から2002年のバブル崩壊では、S&P500やナスダックが暴落するなかでプラスのリターンを出し、2001年にモーニングスターの年間最優秀の運用者に選ばれたといいます。教訓は、顧客の解約圧力や流行に屈せず、確信のある規律を守り抜くこと。本人はこれを「退屈でいる規律」と言い表しています。2017年のグーグルでの講演の話とされます。
筆者は、ここで一歩引いて読みたいと思います。この話は、その後の成功で美談になりました。しかし同じ規律を守ったまま、解約の波で閉じたファンドは、語り手になれません。生き残ったから、規律が報われた物語になるのです。
GEで、「バリュー投資の呪い」にかかった
失敗として語られるのが、2014年から約10年のゼネラル・エレクトリック(GE)の保有です。電力部門などで報告上の利益が前倒しで計上され、現金の流出と乖離していました。それでも、経営陣が現金ベースの報酬体系に変えたことを評価します。航空エンジンとヘルスケアの二つの事業だけで、買値以上の価値があると判断しました。
ところが、企業文化の改革には想定以上に5年から10年かかり、保険事業の損失の見積もりが毎年拡大します。株価は事業価値以上の速さで下がりました。それでも「さらに割安になった」と自分に言い聞かせ、持ち続けてしまった。この「株価は下がったが事業価値はそれほど下がっていないから魅力が増した」と自分をだます落とし穴を、本人は「バリュー投資の呪い」と呼びます。
ポール・チューダー・ジョーンズの言葉として "losers average losers"(負け株を買い増す者は負ける)を胸に刻み、悪魔の代弁者による冷徹な検証と、誤りを素早く扱う手順の必要を学んだと語っています。2023年8月のモーニングスターでの話で、売却の理由と時期は資料でも未確認とされています。
筆者は、この告白がいちばん貴重だと思いました。バリュー投資の弱点は、割安さが判断の根拠になる点にあります。株価が下がるほど割安さは拡大し、根拠が強まったように感じられてしまう。本人がそれを自覚して語っていることが、読み手として信頼できる理由です。
アップルを「半分のポジション」で買った
2009年から2010年ごろ、リーマンショックの直後に、アナリストがアップルへの投資を提案しました。アップルは市場平均以下の株価収益率で取引され、ファンダメンタルズ(業績の実力)の面では、極めて魅力的な割安株でした。ところが、投資家が敏感な時期に「バリュー投資家のハリスが成長株を買っている」と見られる評判や心理的な抵抗を、過剰に警戒します。本来はフルサイズで買うところを、半分のポジションに縮めて買ったと語っています。
約12年保有し、株価は買値の20倍から30倍以上になりました。しかし半分にしていたため、逃した利益は、金融危機で銀行株が被った全損失をはるかに上回る大きさになったといいます。教訓は、他人の視線や「バリューかグロースか」というラベルを恐れて、判断を弱めてはならないことです。この反省を、のちのアルファベットへの大きな投資につなげたとも語ります。数字は要確認で、2026年7月の動画の話として整理されています。
筆者がここで驚いたのは、金融危機の大損より、買わなかった半分のほうが痛かったと言い切ったことです。失敗は、買って損した株だけではない。確信があるのにラベルを恐れて小さくした分も、立派な失敗として数えているのです。
買収で表面の利益が隠れた会社を、買った
フィサーブは、2019年にKKR傘下のファースト・データを、全株式交換で買収しました。買収額は220億ドル、負債込みで390億ドルと本人は語ります。大規模な買収では、株式の希薄化や複雑な償却費で、見かけの利益が押し下げられます。市場は不確定要素を嫌って売りました。
ナイグレンは、買収後のシナジーと、ファースト・データが持つ次世代の決済端末「クローバー」の隠れた価値に着目し、株価収益率14倍、S&P500より25%割安という水準で投資したと語ります。教訓は、複雑な買収や非現金の費用で表面の数字が覆い隠された企業は、バリュー投資家にとって最高の狩り場になる、ということです。2022年のポッドキャストでの話で、クローバーの評価額などの数字は要確認のため、本稿では触れません。
いまの見方(2026年3月と7月の発言を中心に)
2026年7月、ナイグレンは株式市場全体がバブルだという見方を明確に否定しました。株価収益率は過去30年から40年の平均をわずかに上回る程度で、低金利と低インフレを考えればある程度高いのは辻褄が合う、という立場です。市場の上昇はテクノロジーとAIのインフラが主導しており、ゲイリー・コーンの「AI関連を除けば今年の市場はわずかに下落している」という司会者側の観察に同意しました。
その外側に、広い割安の機会があるといいます。S&P500の株価収益率22倍から23倍に対し、オークマークの平均は12倍だそうです。割安なものと割高なものの株価収益率の倍率比も、過去33年の平均の約4.4倍に対し、現在は約7倍と、過去33年で上位10%に入るバリュー向きの環境だと語りました。1999年から2000年のITバブルの崩壊前夜に似た配置だとも述べています。
一方で、半導体は、サイクルのピークを警戒して持ちません。「分からないなら、持つべきではない」という趣旨です。暗号資産は、本質的な価値を算定できないとして、ジェイミー・ダイモンに知的に同調し、ポートフォリオには入れないと明言しました。
2026年3月のインタビューでは、リセッションへの過度な恐怖を批判しています。投資家が経験した景気後退が、2008年とコロナの「百年に一度」級に偏っているため、通常の景気循環の後退を過大に恐れている、という見立てです。銀行株は、金融危機のトラウマで不当に低い倍率に据え置かれていると評価しました。ソフトウェアは、AIの影響の振れ幅が広がったとして、割引率に1.5%を上乗せしています。投資の時間軸は、7年先の本質的な事業価値を推定し、60セント、つまり40%の割引で買う規律です。数字はすべて要確認で、その後の相場との照合は本稿では行っていません。
筆者は、S&P500とバリュー側の株価収益率の乖離を根拠に、割安株への配分に強い確信を示す点は、彼のファンドの立場と一致する見方だと受け止めます。割安さの指標の一部は本人が使う分類や計算の仕方に依存していて、外部の人が同じ数字を確かめるのは難しいでしょう。また、AIや大型ハイテクは業績に裏付けられていると見ながら、市場全体は高くないとも見る点は柔軟ですが、どこからを割高と見るかの線引きは曖昧に感じました。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
冒頭に書いたとおり、ナイグレンの失敗談でいちばん有用なのは、GEの「バリュー投資の呪い」と、アップルの「半分のポジション」です。前者は、安くなったことを買い増しの理由にしてしまう誤り。後者は、他人の目を気にして確信を弱めてしまう誤りです。方向は正反対ですが、「自分の数字」ではなく「感情や外聞」で判断をゆがめた点で共通しています。
語りの構造には注意も要ります。ITバブルの流出も、キャピタル・ワンの49ドルから12ドルへの下落に耐えた話も、戻ったから、生き残ったから語れる話です。戻らなかった銘柄の例は、資料のほとんどにありません。
個人投資家が持ち帰れる点は三つあります。第一に、買い増しの前に、事業の価値そのものが下がっていないかを自分で疑うこと。第二に、周りの評価やラベルを理由に、確信のあるポジションを小さくしすぎないこと。第三に、「分からないものは持たない」と決めることです。逆に、手本にしにくいのは、40%の割引で買って7年持つ、というプライベート・エクイティ的な保有の仕方でしょう。個人は、そこまで長く、解約もされず、評価損に耐えられる環境にいるとは限りません。
本人が挙げる「PERスプレッド」や「ラッセル1000バリューの変質」といった説明は、バリュー投資の立場から見た市場の歪みの説明であり、同じ数字をグロース投資家が見れば別の結論になりえます。バリュー指数に大型ハイテクが流入して変質したという指摘は、指数連動の商品を選ぶ個人にとっても重要です。「バリュー」という名前の商品に何が入っているのかを自分で確かめる習慣は、立場に関係なく役に立ちます。
次に株を買い増したくなったとき、確かめるのは一つです。下がったのは株価だけか、それとも事業の価値もか。
出典
- Talks at Google「Value Investing Principles & Approach | Bill Nygren | Talks at Google」、2017年12月14日(YouTube)
- The Intrinsic Value Podcast「Fiserv Deep Dive w/ Bill Nygren & Mike Nicolas (MI138)」、2022年2月1日(YouTube)
- Morningstar, Inc.「Bill Nygren: The State of Value Investing Today」、2023年8月16日(YouTube)
- Behind the Balance Sheet「Why Bill Nygren Invests in Tech Giants as a Value Investor- Behind the Balance Sheet podcast」、2024年10月3日(YouTube)
- Bald Investor「Bill Nygren's Winning Stock Portfolio | How to Outperform the S&P 500」、2024年10月19日(YouTube)
- The Investor's Podcast「The Way to Win w/ Bill Nygren (RWH058)」、2025年6月21日(YouTube)
- Drew Cohen「He Beat the Market over 25 Years: Bill Nygren Interview」、2026年3月23日(YouTube)
- GuruFocus「Value Investing Live with Bill Nygren」、2026年7月30日(YouTube)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、株譜の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。