株譜
INVESTOR OUTLOOK

パブライ:フェラーリを100倍、フロントラインを200倍にし損ねた男──「真似る」ことで当たったものと、グレアムに偏りすぎた20年

失敗と成功

「真似をする」ことは、恥ずかしいことでしょうか。モニッシュ・パブライは、そう思っていません。2025年10月のベン・グレアム・センターでの講演の副題は、「他人の最良のアイデアを恥知らずに借りて、仕事と人生で成功する方法」でした。自分がうまくいったことは、すべて真似だった、と言い切る人です。

ところがこの人は、2026年のインタビューで、真似し損ねた投資の話を何度も自分から持ち出しています。筆者はそこに引かれました。パブライの話の肝は、真似るのが得か損かではありません。何を真似るかを一つ間違えると、20年を棒に振るという点です。 以下、講演とポッドキャスト(いずれも本人チャンネルの転載で、一次の情報です)から、当たりと外れを順に見ていきます。

当たり1:バフェットの手数料体系を、30年後に真似る

パブライがファンドを始めたのは1999年です。手本にしたのは、バフェットが1956年から69年まで運営していたパートナーシップでした。年間の固定報酬は0%。運用成績が年6%に届くまでは報酬を取らず、それを超えた分の25%だけを成功報酬にする、という珍しい仕組みです。投資家にも運用者にも有利なはずなのに、誰も真似していませんでした。

パブライは「人間は真似できない、という自分の仮説の証拠だ」と喜び、その型をそのまま使いました。最初の投資家には「家族の資金は、固定報酬ゼロのマネージャーに預けるべきだ」と話したそうです。他に同じ条件の相手がいないので、自分は独占だった、と笑います。のちにチャーリー・マンガーにこの話をすると、真似した人は少数いたが、無名で誰にも見つからなかっただろう、と言われたといいます。2025年の時点でも、ゼロ報酬のファンドは見当たらず、「56年待っても真似する人が来ない」と本人は言います。

筆者が面白いと思ったのは、答えが公開されていたのに、30年間誰も解かなかったことです。真似のむずかしさは、考えつくことではなく、本当にやることにあるのだと、この一件がよく示しています。

当たり2:慈善の仕組みを、そのまま移植する

もう一つの当たりは、財団ダクシャナです。2006年、ビジネスウィーク誌で、インドのビハール州のある数学教師の話を読みました。極貧の家庭の子30人を選び、無料で衣食住を与え、10か月後にその9割以上を超難関のIIT(インドの工科大学)に合格させている、という内容でした。受験者200万人に対し、約1万6,000席。合格率は1%に届きません。

パブライは、この仕組みは自分には思いつけなかったと認め、そのまま真似たと言います。ここでも手順は同じで、自分で考えるのをやめて、うまくいっている型を借りています。これは意外と簡単にできないことだと筆者は思います。自分の頭で一から作りたくなるのが、人の常だからです。

外れ:グレアムに偏りすぎた20年

ところが投資の側では、自分の真似を「ひどい出来だった」と評します。理由は、ベン・グレアムを飲みすぎて、チャーリー・マンガーが足りなかったことでした。

グレアム流は、割安なものを買い、値段が適正に近づいたら売ります。しかしウォルマートのような事業は、適正に近づいても売るべきではありませんでした。素晴らしい事業はごく稀で、割高に見えても持ち続けるべきだ、というのが今の考えです。この単純な教えを学ぶのに、20年以上かかったといいます。「若くして老け、賢くなるのは遅すぎる」という言い回しまで使っています。

筆者はここがいちばん正直な告白だと感じました。真似に失敗したわけではないのです。正しい師匠の教えのうち、「売る」という一部だけを守り抜いてしまった。真似が上手すぎたことが、裏目に出たわけです。

具体的な外れ:フロントラインとフェラーリ

痛みを伴う例が二つあります。

一つはタンカー会社のフロントラインです。株を2倍になったところで売ったところ、その後の上昇は200倍でした。昨年、ノルウェーの海上掘削の会議に出た際、予定になかった見学先がフロントラインの本社だったそうです。「神様が私の間違いに鼻を押し付けたいのだと思った」と語ります。本社には船の模型が並んでいて、あの大型タンカーが200倍になったのか、と眺めて回りました。自分は発行済み株式の2%を持っていた、とも話しています。

もう一つはフェラーリです。会社の1%を、1,000万ドル未満、おそらく600万ドル程度で買いました。まだグレアムの呪縛の下にいたころで、早く売ってしまった。その時価総額は、いまや1,000億ドルに近づいています。1%なら10億ドル、つまり100倍です。「間違えた、だよね。100倍だ。どれだけ馬鹿か」と本人が言います。フェラーリは、10分で売り切れる車を、約8割の利益率で売る特別な会社だった、と振り返ります。

筆者が舌を巻いたのは、自分の失敗の数字を、自分で並べて笑えることです。負けを語る人は多くても、取り逃した利益をここまで細かく数える人は珍しいと思います。

学んだ型:1銘柄が95%になる

この経験から出た結論が、集中の考え方です。講演で、「うまくやれば、ポートフォリオは最終的に1つの銘柄が95%を占める」と話しました。本物の優良事業と優秀な経営者の組み合わせはごく少なく、それは自分のポートフォリオにも何度か入っていたのに、持ち続ける賢さがなかった、というのです。2〜3%しか持っていなくても、放っておけば90%に育つ。だから、見つけたら頭を切り替えて持ち続ける。

実際、あるファンドでは2つの事業が約70%を占めるようになりました。投資家には「多すぎると感じたら解約してよい。純資産の20%未満をこのファンドに置いているなら、放っておくことを勧める」と手紙を書いたそうです。電話もメールも一件も来ず、解約もなかったといいます。

筆者には、この静けさが印象に残りました。偏りを正直に知らせ、それでも誰も動かなかった。信頼があれば、集中投資は怖がられないのだと思います。

外れたときの考え方:非対称性

すべての真似が成功するわけではありません。本人は、人生でやったことの大半は、真似したものもしなかったものも、うまくいかなかったと言います。それでも、アマゾンが小さな賭けを続けてAWSを当てたように、失敗の損が小さければ、当たったときの利益が50件の失敗を賄います。バフェットの成功率についても、約60年で300〜400件のうち、会社を作ったのは12件ほどだと2026年のインタビューで整理しました。だから大事なのは、素晴らしい会社を見つけたら売らないことだ、という結論につながります。

打率ではなく、負けの小ささと勝ちの大きさを見る。筆者はこの考え方に納得します。ただし、損が小さく済むのは、賭けを小さく保てた場合に限られます。ここは後の「90%は退屈に」の話と合わせて読むと分かりやすくなります。

今の型:チェックリストと「90%は退屈に」

現在のパブライは、個別株に入るのは、自分が客として使っていて、値段があり得ないほど安いと感じ、調べ続けても確信が揺らがないときだけだといいます。それでも資金の10%までで、残りの90%はバークシャーに置く。リスクを取る「実験」は小さく、土台は退屈にする考え方です。企業を見る際の213項目のチェックリストは、借金の大きさ、長く続く競争優位(堀)、経営者とオーナーの質の三つに大別されるそうです。

売る失敗を20年かけて学んだ人が、買う前の手順を213項目まで増やした。筆者はこれを、後悔から作った道具だと受け取りました。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

パブライの話は、「真似は簡単」という話ではないと思います。真似る相手を選ぶこと、真似た後にやり続けること、その両方が難しいのです。バフェットの手数料体系は誰でも読めたのに、30年間、誰も実行しませんでした。パブライ自身も、グレアム流の「売る」規則を20年間忠実に真似し続け、そのせいでフェラーリとフロントラインを逃しています。真似の失敗とは、正しい相手を真似たのに、その中の「売る」という一つの教えだけを大事にしすぎたことでした。

読者が自分の投資に引き寄せるなら、手本にした人の教えを、一部だけ切り取っていないかを点検するのがよいでしょう。「安く買って、高くなったら売る」だけを覚えていないか、ということです。

もう一つは、後悔の語り方です。フェラーリを100倍、フロントラインを200倍と、数字を自分で並べて笑う人は多くありません。ただし、これらの数字は本人の記憶によるもので、持ち株比率や買値は、第三者の資料で確認していません。この記事の数字は、すべて本人の発言として読んでください。

出典

  • モニッシュ・パブライ ベン・グレアム・センター講演、2025年10月14日(YouTube)
  • モニッシュ・パブライ The Investor's Podcast、2026年3月23日(YouTube)
  • モニッシュ・パブライ My First Million、2026年5月5日(YouTube)
  • モニッシュ・パブライ Knowledge Inside、2026年8月19日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

← 著名投資家の市場見通し 一覧へ / 発言と実際の保有の突き合わせはヘッジファンド13Fで。