株譜
INVESTOR OUTLOOK

現金は「眠る資産」か「買う権利」か:バフェットからタッカーまで、現金を語る17人の理由

TIPS

現金を持つか、持たないか。投資の相談でいちばんよく出る問いの一つですが、2026年は答えが変わりやすくなっています。米国の10年債の利回りが5%前後まで上がり、アスワス・ダモダランによれば、短期国債でも約4%の利回りが得られます。「現金は利息がつかない」という昔の前提が、いまは当てはまりません。

17人の発言を読んで、筆者が気づいたことがあります。現金を持つ人は、現金を「機会が来たときの買う権利」と見ています。持たない人は、現金を「時間とともに目減りする資産」と見ています。ところが、現金を上手に使っている人に共通するのは、比率の高さでも低さでもありません。いつ、どの条件で使うかを、先に決めていることです。この記事では、そこに行き着くまでの道筋を追います。

現金は「買う権利」と見る人たち

バフェットとパブライ:短期国債で、いつでも

まず、現金の「質」にこだわる人から。バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットは、何が起きても対応できるよう、いつも現金を持っていると語っています。その形は短期の米国債です。マネーマーケットファンド(短期の債券を集めた投資信託)や、企業の短期の借用証書は使いません。2008年に怖い思いをしたからだといいます。現金の量より中身を問う発言で、筆者には経験者の言葉として説得力がありました。

モニッシュ・パブライは、いまはS&P500の定額積立が最良ではないと話し、代わりにバークシャーB株を挙げました。時価総額の約4割が現金なので、暴落したときには「ただのオプション」がついてくるといいます。自分では現金を持たず、現金を持つ会社の株を持つという、回り道です。発想としては面白いのですが、バークシャー自体の株価が下がる危険は、そのまま残ります。

ラジーブ・タッカー:現金は「買う権利」

インドのPPFASのタッカーは、現金を「不特定の資産に対する、不特定の行使価格で、不特定の時点に使えるコールオプション(買う権利)だ」という考えで説明します。どの銘柄がどこまで下がるかは分かりません。それでも、下がったときに現金があれば、すぐに動けます。2024年11月の手紙には、「私たちはテストクリケットをしていて、T20ではない。打席を失わないことが、6を打つことより大切」とあります。長い試合で、一振りの派手さより、打席に立ち続けることを選ぶ、という意味です。

2026年8月の手紙では、こう振り返りました。2024年の熱狂のなかで現金を積み上げ、嘲笑された。その現金は、株式の比率を自由に動かせるファンドで最大約25%から14〜15%まで下がり、「近く1桁台」にするつもりだ、と。調整で投資の機会が増えたので、現金を減らしていくという説明です。売り買いのタイミングを予測するのではなく、価格が魅力的になるのを待つ。笑われても待った人が、機会が来たら動く。これは筋が通っています。

セス・クラーマン:投げ売りの日のために

ベイポストのクラーマンは、2008年の取材で、長年、140億ドル超の運用資産のうち40〜50%を現金にして待っていたと話しました。投げ売りで割安になった資産を買い進め、現金の比率は約半分まで減ったそうです。

2020年1月付の書簡(報道による)では、現金比率は2019年末で約31%でした。2019年の運用成績は1桁台後半にとどまったと伝えられています。現金を持つことは、機会が来るまで、成績を犠牲にして待つことでもあります。待つ代償を、数字で隠さないところが印象的です。

デビッド・テッパー:現金があったから、読めた

アパルーサのテッパーは、2010年8月の取材(古い発言)で、2008年春に多くの持ち高を売って現金を積み、リーマン破綻後の混乱でも借り入れがなかったと語りました。2009年2月には、米財務省の金融安定化計画の白書を丁寧に読み、国有化はないと判断します。そしてバンク・オブ・アメリカの優先株を、額面の12%などで買いました。2009年の主力ファンドは約132.7%上昇しています。

筆者がうならされたのは、現金があったから、混乱のなかでも冷静に書類を読めた、という読み方ができる点です。現金は、お金であると同時に、考える余裕でもあります。

プレム・ワツァ:利回りを追わなかった結果

フェアファックスのワツァは、2026年3月の株主への手紙で、低金利だった2019〜22年に利回りを追わなかったと説明しました。債券ポートフォリオ(債券の運用資産)の半分超(2021年は67%)を現金と短期国債に置いたので、利上げのあと、高い利回りで再投資できたのです。利息と配当の収入は、2021年の6.4億ドルから2025年には26億ドルまで増えました。「現金を持っていたこと」が、あとから収益になった例です。

ダモダランとオ・ゴニョン:変動の大きい局面で

ダモダランは、自分の配分を明かしています。大手テック7社のうち5銘柄を持ち、新しい資金は利回り約4%の短期国債が中心で、ふだんより現金が多いそうです。

申韓銀行のオ・ゴニョンは、変動の大きい局面では現金を持つことがいちばん大事だと話しました。下がったときにさらに安く買えますし、損失への備えにもなるからです。ただし現金だけでなく、配当株や債券のような、定期的にお金を生む資産で組むべきだとも言っています。

現金は「目減りする資産」と見る人たち

佐々木融:実質金利がマイナスなら「増税状態」

ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融は、実質金利(金利からインフレ率を引いたもの)がマイナスの間は、預金などの現金が目減りする「増税状態」だと断じています(連載の見出しによる)。インフレ率並みまで金利を上げるべきだ、という立場です。現金の価値が減る、という前提そのものが違います。

ジョン・リー:「現金化せよ」は最悪の助言

元メリッツ資産運用のジョン・リーは、サムスン電子とSKハイニックスを持ち続けるべきか、現金にすべきかを聞かれました。答えは、「現金化せよ」は最悪の助言だ、というものです。6か月後、1年後の価格を知っている人は、世界に一人もいないからです。

レイ・ダリオ:「富とお金は同じではない」

レイ・ダリオは、「富とお金は同じではない」と話しました。たとえば、AI企業の持ち分を100ドルで買い、その値上がり益を担保にお金を借りたとします。市場が崩れて、皆が現金を必要とすると、価格が25ドルまで落ちても借入は返さなければなりません。富は、売ってはじめてお金になるのです。現金を持てという直接の助言ではなく、「いざというときに現金にできる範囲」を考えることの大切さを示す話です。ここは、「現金は目減りする」派の論客が、実は現金の価値を別の形で語っているようで、筆者は面白く読みました。

中間の人たち

藤野英人:現金も「価値が上下する資産」

藤野英人は、現金も「価値が上下する資産」と考えるべきだと話します。基本は長期の分散投資で、一部は現金にして、すぐ使える余裕を持つ。パニックの局面では、インフレに弱いはずの円やドルの現金が、かえって強みを持つ可能性があるとも話しました。

グランサムとハートネット:配分と心理

ジェレミー・グランサムは、個人への助言として、米国以外の株を約6割、貴金属を5〜10%、残りを債券と現金にする配分を語りました。

BofAのハートネットは、現金比率が記録的な低水準だと指摘しました(要約サイトの二次情報)。その後、現金への資金流入が週1,664億ドルで、2020年4月以来の大きさになったとも伝えています。

プラシャント・ジェイン:現金0.3%

3Pのジェインは、2025年6月末の時点で、ファンドの現金を0.3%まで下げていました(報道による)。現金を持たないのは、ファンドとして株を持ち続ける役割があるためでもあります。個人がこの比率をそのまま真似する意味は小さいでしょう。

数字で比べる:誰がどれだけ持っているか

発言に出てきた現金の比率を、時期とともに並べます。置かれた立場が違うので、単純には比べられません。

  • クラーマン(ベイポスト):2008年に運用資産の40〜50%、2019年末に約31%(報道による)
  • ワツァ(フェアファックス):債券ポートフォリオの半分超、2021年は67%を現金と短期国債に置いた
  • タッカー(PPFAS):株式の比率を自由に動かせるファンドで最大約25%から14〜15%へ。ファンド全体では2026年3月に23%から22%へ小幅に低下(二次情報)
  • パブライ:バークシャーB株を通じて、時価総額の約4割が現金
  • ジェイン(3P):2025年6月末で0.3%
  • グランサム(個人向けの助言):配分の「残り」を債券と現金に

比率は、5%未満の人から50%に近い人までばらつきます。共通するのは、それぞれの比率に「理由」が付いていることです。

現金を投資の物差しにする:グリーンブラット

ジョエル・グリーンブラットは、益回り(株価に対する利益の割合)を国債の利回り(当時約4.5%)と比べ、成長がそのリスクに見合うかを問うべきだと話しました(二次情報)。例として、PER16.7倍なら益回りは6%で、2年で利益が1.4倍に増えるなら、その成長を選ぶ、と挙げています。現金や国債を、「何もしなかった場合の収益」の基準にする考え方です。現金の利回りが約4%なら、リスクのある資産には、それを上回る見返りが求められます。

この見方に立つと、現金の比率より、現金の利回りが「投資を見送るかどうかの基準」になります。ジェレミー・シーゲルが、30年物TIPS(物価連動国債)が約3.4%、PER20倍の益利回り5%に対して、株を持つ見返りの上乗せ(株式リスクプレミアム)が約1.6ポイントと薄いと指摘したのも、同じ構図です。

現金を「いつ減らすか」

現金を持つことより難しいのは、減らすときです。

クラーマンは2008年、投げ売りで割安になった資産を買い進め、現金の比率を約半分に減らしました。テッパーは2009年2月、米財務省の計画の条件を読み、国有化はないと判断してから買いました。タッカーは2026年8月、調整で機会が増えたとして、現金を近く1桁台にすると予告しました。三人とも、減らすきっかけを「価格」や「制度の条件」といった、確認できるものに置いています。

一方、ジョン・リーは2021年の発言で、売るのは次の四つのときだけだと語っていました(古い発言)。「60歳で現金が必要なとき」「より良い会社を見つけたとき」「買い間違えたとき」「世の中が変わったとき」。現金を作る条件を、先に決めておく考え方です。

なぜ意見が割れるのか

一、現金の「利息」をどう見るか

ダモダランは約4%の利回りを、佐々木融は実質金利のマイナスを見ています。名目の利回りと、インフレを引いた実質の利回りの、どちらを重く見るか。それだけで、現金の評価は反転します。

二、誰のお金か

バフェットやクラーマンは、他人のお金を預かる立場です。いつでも払い戻しに応じられる状態を保たなければなりません。ジェインには、ファンドとして株を持ち続ける役割があります。個人のお金には、こうした制約が別の形で現れます。

三、機会が来ると信じるか

タッカーは、2024年の熱狂では嘲笑されましたが、2026年には現金を減らし始めました。現金を持つ人は、いつか機会が来るという前提に立っています。来なければ、機会損失です。クラーマンの2019年の1桁台後半という成績は、その代価でした。

株譜の見方

ここからは、筆者の個人的な推測です。

17人を並べて分かるのは、現金を持つ人の多くが、「いつ使うか」を決めていることです。バフェットは「何が起きても対応できるよう」、クラーマンは「投げ売りの日」、テッパーは「書類を読んで買えるとき」と、使い道に条件があります。現金を置く理由というより、使うための条件の話です。

反対に、現金を減らす人は、使う条件が満たされたと判断しています。タッカーの現金削減が、その典型に見えます。現金比率の数字より、どの条件が満たされたら減らすのかを、自分で書いておくほうが役に立つと、筆者は思います。

もう一つ、佐々木融の「増税状態」という見方は、現金に利息がつく今の環境では、当てはまる度合いが弱まっているかもしれません。ただ、物価が上がり続けるなら、実質金利がまたマイナスに戻る可能性もあります。現金の評価は、金利そのものより、インフレとの差で決まります。

最後に、個人投資家が自分の現金比率を考えるときの問いを、17人の発言から三つに絞ります。これは筆者の整理であって、誰かの発言ではありません。

一つ目は、「この現金は、何のためか」です。生活費や緊急時の備えなのか、下落時に買うための資金なのか。前者は、クラーマンやバフェットとは別の話です。後者でも、買う条件を決めていなければ、タッカーのように「待つ」ことが、ただの先送りになります。

二つ目は、「現金に何%の利息がつくか」です。短期国債が約4%なら、リスクのある資産に、それを上回る見返りを期待できるかを確かめたいところです。グリーンブラットの考え方が、その確認に使えます。

三つ目は、「減らす条件は何か」です。価格でも、制度でも、自分の人生の節目でもかまいません。条件があいまいだと、相場が上がるたびに現金が足かせに見え、下がるたびに足りなく見えます。

発言を読む限り、現金の比率が高い人も低い人も、「持つ理由」と「使う条件」を持っていました。どちらかが欠けた現金は、判断を先送りするだけの資産になりやすいと思います。答え合わせに見るべきなのは、現金の利回りと、手持ちの現金を減らす条件が満たされたかどうかの二つです。


出典

  • ウォーレン・バフェット CNBC「Squawk Box」公式書き起こし、2026年3月31日(CNBC)
  • モニッシュ・パブライ YouTube(本人チャンネルの転載)、2026年7月21日(YouTube)
  • ラジーブ・タッカー ゼロダ・デイリー・ブリーフ、2026年1月22日(Zerodha)/PPFAS『ユニットホルダーへの手紙』、2024年11月18日(PPFAS)・2026年8月4日(PPFAS)
  • セス・クラーマン ハーバード・ビジネス・スクール誌(Market Folly転載)、2008年12月23日(Market Folly)/CNBC、2020年1月22日(CNBC)
  • デビッド・テッパー CNBC、2010年8月(CNBC)
  • プレム・ワツァ フェアファックス 2025年株主への手紙、2026年3月6日(Fairfax)
  • アスワス・ダモダラン Musings on Markets、2026年10月8日(ブログ)
  • オ・ゴニョン ヘラルド経済、2026年9月28日(ヘラルド経済)
  • 佐々木融 東洋経済オンライン「マネー潮流」、2026年4月8日(東洋経済)
  • ジョン・リー ファイナンシャルニュース、2026年8月3日(fnnews)
  • レイ・ダリオ Fortune(The Diary of a CEO 出演回)、2026年8月4日(Fortune)
  • 藤野英人 日経BOOKプラス、2026年1月20日(日経BOOKプラス)/ログミーファイナンス、2026年3月9日(ログミー)
  • ジェレミー・グランサム GMO(The Diary of a CEO 出演回)、2026年6月25日(GMO)
  • リチャード・ハートネット 要約サイト、2026年9月10日(Finvaulta)・2026年10月8日(Finvaulta)
  • ジョエル・グリーンブラット コロンビア大学講義(ニュースレター要約)、2025年6月19日(Thematic Edge)
  • ジェレミー・シーゲル ウィズダムツリー週次コメント、2026年10月5日(WisdomTree)
  • PPFAS月次解説 エンジェル・ワン、2026年4月16日(Angel One)
  • プラシャント・ジェイン モニーコントロール(トレーディングビュー転載)、2025年7月17日(TradingView)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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