モニッシュ・パブライ:通貨が崩れる国で、倉庫をどう見たか──レイサシュのケース
通貨が大きく下がり、物価が上がっている国の株を買う。多くの投資家は、そこで話を終えます。国が不安定なら危ない。これは自然な判断です。
モニッシュ・パブライは、トルコで逆の順番を取りました。国を買うのではなく、会社を見た。通貨安や物価高の中でも、倉庫という資産、借入、賃料、顧客との関係がどう動くかを先に考えたのです。
本稿の結論は、国の不安を割安の理由にするだけでは足りないということです。通貨安に耐える事業か、資産価値と借入の差はどれほどか、そして賃料が物価に追いつけるか。パブライのレイサシュのケースは、新興国投資を「安い国の株を買う話」から引き戻します。
会社名と、本人の保有をまず分ける
対象企業は、トルコの物流会社レイサシュ(Reysaş)です。物流、倉庫、輸送を手掛ける会社で、同グループには不動産投資会社のレイサシュGYOもあります。トルコの公表プラットフォームKAPには物流会社の会社情報が載っています。
レイサシュGYOの2025年6月30日までの活動報告書の関連会社欄には、物流会社レイサシュがGYOの発行済み資本の62%を持つとあります。同じ表で、パブライ・インベストメント・ファンド3は物流会社レイサシュの資本の17.46%を持つと記載されています。これはGYOそのものの持分ではありません。
ただし、この数字をパブライ個人や全ファンドの現在の持分と読み替えてはいけません。本人は動画で、物流の持株会社とREITの両方について話し、持分を調整した経緯にも触れています。どのファンドがいつどの株を何株持ったかは、公開動画だけでは確定できません。本稿では、2025年6月30日時点の会社構造と一部株主構成だけを公式資料で確認し、売買の細部は本人の説明として扱います。
「トルコが安い」からではなく、倉庫を見に行った
パブライは2019年にトルコを訪れ、投資家と企業を回ったと説明します。その際、倉庫を貸す会社について、時価総額と清算価値の差が大きいと聞きました。疑ったのは、数字の派手さです。本当に資産がその価値を持つのか。借入はどれほどか。倉庫はどこにあり、借り手はいるのか。
動画では、創業家に会い、倉庫を実際に見て、地元の不動産仲介業者なら資産をどう値付けするかを確認したと話しています。ここがこのケースの中心です。国の株価指数や為替だけを見て買ったのではない。倉庫が賃貸できる資産としてどれだけ再調達価値を持つかを、現場で確かめようとした。
本人の回顧では、時価総額を大きく上回る資産価値を見込んだといいます。その投資成績を外から正確に測るには、取得価格とその後の持分変化をたどる必要があります。本稿では採算そのものの断定を避け、どの資産をどう確かめたかを追います。
通貨安は、資産が消えることと同じではない
トルコリラが大きく下落したことは、本人も前提に置いています。それでもレイサシュを検討した理由は、収入と資産が物価に取り残されない可能性を見たからです。倉庫の賃料は、契約更新や需要の強さによって物価上昇へ追随し得ます。土地と建物も、通貨の額面では上がることがあります。
もちろん、これは自動的な防御ではありません。借入が外貨建てなら、通貨安はむしろ傷になります。賃料の改定が遅ければ、物価高が利益を削ります。テナントが弱れば、倉庫の評価額が高くても現金は入ってきません。新興国の資産を語るときは、土地の値段だけで安心するのが一番危ないと筆者は思います。
パブライが見たのは、こうした不安を無視する企業ではありません。通貨安と高インフレの影響を受けにくい事業を選ぶ、という考えです。動画では、トルコ市場全体の株を買うのではなく、通貨やインフレと結び付きにくい事業へ絞ったと説明しています。これは国別の強気予想ではなく、企業ごとの損益構造を見る話です。
清算価値だけでは、売る理由になる
このケースには、パブライ自身の変化も出ています。過去の彼なら、資産価値に近づけば売却を考えたかもしれません。ところが動画では、資産を売ればいくらかという清算価値だけでは足りない、と説明します。倉庫資産を増やし、賃料を生み、利益を再投資できるなら、その会社は単なる土地の束ではありません。
値上がりしたら売るというルールを、そのまま当てはめるわけにはいきません。レイサシュでの問いは「何倍になったら売るか」ではなく、資産が複利で増えるなら、清算価値は出口の目安なのか、保有を続ける根拠なのか、というものです。本人が現在も割安と見ることは投資判断であり、読者がそのまま採用できる結論ではありません。
ただ、評価の考え方としては有用です。不動産や物流の会社を見るとき、純資産に比べて株価が安い、というだけでは不十分です。賃料収入は伸びているか。借入の返済期限と金利はどうか。新しい倉庫へ再投資した資金は、どれだけの収益を生むか。ここまで見て初めて、割安が一時的な放置なのか、複利の入口なのかを考えられます。
株譜の見方
筆者は、この話をトルコ株の推奨とは読みません。むしろ、国の不安が大きいほど、会社ごとの資産と負債を雑に見ないという教訓だと受け取ります。為替が崩れている国では、売上や利益の額面だけを見ると、実態を見失いやすいからです。
確認したいのは四つです。第一に、賃料や料金が物価に追いつく契約か。第二に、借入はどの通貨で、いつ返すのか。第三に、資産を売った場合の価値と、事業を続けた場合の収益のどちらが大きいのか。第四に、少数株主がその価値を受け取れる持株構造かです。
パブライの現在の含み益や評価は、確定したリターンではありません。だからこそ、答え合わせは株価ではなく、倉庫の稼働、賃料、借入、資産売却の実績に置くべきです。国の物語に乗るより、資産の現金収支を追う。この順番を守れるかが、新興国の割安株を読む分かれ目になります。
出典
- モニッシュ・パブライ、Copenhagen Business School Investment Club、2026年8月25日開催(YouTube)、15:07〜18:21、34:11〜38:19。本人の現地調査と保有構造・評価の説明。本人の回顧を、自動文字起こしを含む資料で参照しました。細かな売買価格や評価益は確定していません。
- KAP:Reysaş Taşımacılık ve Lojistik Ticaret A.Ş.会社情報
- Reysaş GYO activity report(対象期間:2025年1月1日〜6月30日、19頁)
- Pabrai/Dhandho 2022 Investor Call Transcript
本記事は公開発言と会社開示を紹介し、筆者の見方を添えたものです。本文の持株比率は2025年6月30日時点の開示であり、現在の持分や評価益を示すものではありません。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。