株譜
INVESTOR OUTLOOK

ウォーレン・バフェット:当たりは「安いから」ではなく「説明できたから」──最も高くついた失敗は、分かっていて動かなかったこと

失敗と成功

ウォーレン・バフェットの失敗談といえば、繊維会社バークシャー・ハサウェイと、自社株で払ってしまった靴会社デクスター・シューが有名です。この二つは別稿「ウォーレン・バフェット:11歳の売り急ぎから、繊維工場の20年まで。失敗が育てた物差し」に、八つの場面としてまとめました。ガイコの話もそこに入れてあります。直近の動画で話題になったアルファベットへの投資は、「バフェットの発言まとめ」に詳しく書いています。

本稿では、その二つと重ならない話を拾います。一つは、本人が「当たり」と語る買い物を、何を見て買ったのかという型に分けてたどること。もう一つは、本人が失敗の値段をどう数えているかです。

素材を読み比べると、当たりと失敗は対になっていました。バフェットの当たりの買い物は、「安いから」ではなく、なぜ守られていて、どこに余裕があるのかを自分の言葉で説明できたから買えた。そして最も高くついた失敗は、損をした取引ではなく、分かっていたのに動かなかったことだった。

素材は、株主総会、CNBCの取材、過去のインタビュー動画などです。金額や年は本人の回想で、当時の記録で一つずつ照合したものではありません。ワシントン・ポストの取得額やガソリンスタンドの現在価値といった数字は、動画の原文で確かめるのが望ましい、という注記も資料についています。

安全域を見て買う:1973年のワシントン・ポスト

1973年は、ニクソン政権下でウォーターゲート事件の報道があり、放送免許への不当な異議申し立ても重なって、ワシントン・ポストの株価が急落していた時期です。

バフェットが見たのは、会社全体の価値と、株式市場の値段との差でした。新聞やテレビ局などを合わせた事業全体の価値は、少なくとも4億〜5億ドルある。ところが市場の時価総額は、8,000万〜1億ドルしかない。この差を「圧倒的な安全域」と判断して、集中的に買いました。

投じたのは970万ドル(約1,000万ドル)で、株式の約10%を取得。その後の自社株買いで持ち分は約18%に上がり、保有株の価値は15億〜20億ドル以上になったといいます。

教訓は明快です。市場の短期的なパニックや政治の騒ぎに流されず、本当の価値に対して大きな余裕をもって買えば、複利が成果を出す。しかもここでの「余裕」は、感覚ではなく、事業全体の価値と時価総額という二つの数字の差で示されています。筆者は、この「説明できる安さ」こそが、単なる割安狙いとの違いだと思います。

創業者の熱量を買う:1983年の家具店

1983年に買ったネブラスカ・ファニチャー・マートは、数字の読み方が違います。オマハにある全米最大の単独の家具店で、創業者はロシア移民のローズ・ブランキン、通称「ミセスB」でした。英語も話せなかった彼女が、手元の500ドルから築いた低価格の仕組みと、仕事への情熱を、バフェットは絶賛しています。

買収は、複雑な会計監査や書類の手続きなしに、シンプルな合意と小切手で決めたそうです。約5,500万ドルで株式の80%を取得しました。店は1か所で年間3億2,500万ドルを売り上げる巨大店舗に育ちます。オマハ周辺の住民一人あたりに直すと500ドル相当です。

バフェットが語る教訓はこうです。「複雑な報告書を出すビジネススクール卒の経営者より、事業を心から愛し、毎朝タップダンスをして出社する創業者の情熱と低いコスト構造こそが、最強の投資対象だ」。ここで見ているのは、値段の安さよりも、人と仕組みです。

ここは意外でした。数字を積み上げる人というイメージのバフェットが、この買い物では人の熱量を決め手にしています。あの規模でも、数字ではなく人を見て決める買い方が通ったことに驚きます。

資金の出どころを買う:1967年の保険会社

1967年のナショナル・インデムニティの買収は、事業そのものより、仕組みを買った例です。オマハの損害保険会社を、840万ドル(または870万ドル)の小切手で、全株取得しました。

保険会社には、将来の保険金の支払いに備えて預かっているお金があります。運用に回せる、先に入ってきた資金で、「フロート」と呼ばれます。バフェットは、これを利回りの高い資産に再投資できる、独特の仕組みを見抜いた、と説明されています。

この買収で手に入れたフロートが、のちのバークシャーによる大規模な株式投資や企業買収の、資金の原点になりました。教訓は、単体の事業の利益だけでなく、ほかの優れた事業や株に再投資できる資金を安くつくる仕組みが、成長を加速させる、ということです。筆者は、これがバークシャーの本質だと見ています。個々の買い物の裏に、買い物をし続けるための資金の仕組みがあったのです。

分類に縛られず、消費者の行動を買う:アップル

テクノロジー企業への見方は、バフェットの中で、最も変わった部分の一つです。長年、「10年後、20年後の業績が予測できない」として、ハイテク企業を自分の分かる範囲の外に置いてきました。ビル・ゲイツからマイクロソフトについて何時間も説明を受けても、自分は「最も出来の悪い生徒だった」と語っています。

2016年から買い始めたアップルでは、見方を改めました。同社をハイテク企業としてではなく、世界最高の消費財の会社と位置づけ直したのです。顧客は「2台目の車を手放してでもiPhoneを持ち続ける」ほど、強く執着している。ティム・クックの自社株買いも評価しました。

取得にかかった額は約300億〜350億ドル。ポジションは、最高時に1,700億〜1,800億ドル以上になりました。アップル自身の自社株買いで、バークシャーが何もしなくても持ち分の比率が上がり、史上最大の利益を生んだ、と語っています。

教訓は、ハイテクという分類にとらわれず、消費者の行動に表れる強みと、顧客の厚みを見極めることです。この変化は、2025〜26年のアルファベット投資にもつながりますが、その話は前述の稿に譲ります。筆者は、長年「分からない」と言い続けた人が、分類を捨てて見方を変えた点に、素直に感心しました。

為替リスクを消して買う:日本の五大商社

2019〜2020年に始めた、日本の五大商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)への投資は、もう一つの型を示しています。

本人の説明では、五社は株価に対して約14%という高い益利回りを生み、配当は70%増えていました。一方、日本は金利が0.25〜0.5%ととても低く、円建ての債券を出せます。円で資金を調達して円の株を買えば、為替リスクを消したうえで、大きな利ざやが取れる。そう判断しました。

五社それぞれに5%を投資し、のちに7.4〜9.9%近くまで増やします。100億ドル(約1.5兆円)以上の含み益と、大きな配当収入が得られたそうです。グレッグ・アベルとともに来日して経営陣と関係を築き、今後50年以上の長期保有を決めたと語っています。

教訓は、他人が見落としている高利回りと増配の事業を、きわめて安い債券調達と組み合わせれば、リスクを抑えた構造的な機会をつくれる、ということです。為替のリスクを消すところまで設計したのが、いかにもバフェットらしい点だと思います。

失敗の値段:複利で数える

次に、失敗の値段の数え方を見ます。

20歳のガソリンスタンド。 手元の約10,000ドルから、軍の仲間とともに、シンクレアのガソリンスタンドの半分の所有権を2,000ドルで買いました。自分で窓拭きや接客をして、経営しようとしたのです。全資産の20%にあたるこの2,000ドルは、全額を失いました。バフェットはこれを、複利で計算すれば現在の価値で約60億ドルの損失にあたる、と語ります。伝えたいのは2,000ドルという金額ではありません。「堀」(競争の優位)のない事業に、お金と時間を注ぎこんだ機会費用です。

2,000ドルを80年かけて数え直す執念には、少し笑ってしまいましたが、考え方としては本物だと思います。

理解していたのに動かなかった。 もう一つが、「不作為の失敗」です。1980年代から90年代、ファニーメイが問題に見舞われていた時期、バフェットは事業の仕組みも割安さも熟知していました。自分の分かる範囲の話です。それでも「sucking my thumb」、つまり指をしゃぶったまま、買うのをためらいました。結果、会社全体を格安で買える好機を逃し、バークシャーに少なくとも50億ドル以上の機会損失を与えたといいます。本人は、最大の失敗は、決断して損をした失敗ではなく、理解できているのに行動しなかった失敗だと言います。会計帳簿には現れないけれども、いちばん高くつく、と。

筆者は、この言葉がいちばん刺さりました。多くの人は、損した取引を悔やみます。しかしバフェットは、買わなかった取引のほうを高く数えています。

航空株を二度買う。 1989年のUSエアは、3億5,000万ドルの優先株を買った直後に、会社が赤字に転落した例です。本人は、航空株を買いたくなったら思いとどまらせてくれる電話相談が必要だ、と語っていました。ところが2010年代の後半に、大手4社を再び買います。そして2020年のパンデミックで、世界の環境と航空需要が劇的に変わったと判断し、全株を売りました。同じ業界でも、環境が変われば判断を改める、という例です。ただ、航空株は何度も手を出してはやめており、ここは「学んだ」と言い切れない部分だと筆者は見ています。

手法を直した三つのこと

見方の修正も、本人の口から出ています。

1967年に、バークシャーは1株あたり10セントの配当を、一度だけ払いました。バフェットはこれを「あれは恐ろしい過ちだった」と振り返ります。配当を出さず、全額を社内に残して再投資することが、株主価値を最大にする。そういう原則をここで確立しました。1度しか払わなかった配当を「恐ろしい過ち」とまで言い切る辛口さは、おもしろいところです。

一方、かつては慎重だった自社株買いは、評価を変えました。自社株が本来の価値を大きく下回る条件を満たすなら、「買えるもののなかで最良だ」、つまり最も有効な資金の使い道になる。そう考えて、数百億ドル規模の自社株買いを進める方針に転じています。

もう一つは、2026年7月のCNBCの取材で明かした、慈善の計画の見直しです。ゲイツ財団への新たな追加の寄付はやめました。亡くなった後に残る遺産(約1,400億ドルのA株)は、故スザンヌ・バフェット財団と、子ども3人が運営する財団に集めます。そして没後8年以内(2034年末まで)に、全額を社会へ分配する、という条件に変えたそうです。子どもたちの誠実な管理能力を長年見てきた結果、家族の財団を通じて直接分配させるのが最も確実だと結論した、と説明しています。

歴史に当てはめる:重力、物価、待つ現金

こうした判断の背景には、本人が引く歴史があります。

まず物価です。第二次世界大戦中、政府は戦時国債を大量に発行しました。債務はGDP比で30〜40%から120%へふくらみます。戦争が終わった直後の1946年1月に年率約1%だったインフレ率は、年末には約15%まで上がりました。国債を買って国に貢献した人々の購買力は、実質で大きく奪われたのです。

バフェットは、供給を上回る現金を人々に配れば通貨の価値が失われる、というこの仕組みを、パンデミック以降の財政に当てはめます。「米国で私が怖いのは財政政策だ」と話しています。そして、インフレへの最良の防御は「自分の稼ぐ力」と、追加の資本をあまり必要とせず、値上げで価格を転嫁できる事業を持つことだ、と言います。

次に金利です。1965年から1981年まで、ダウ平均は864から865と、ほとんど動きませんでした。その後、FRB議長のポール・ボルカーが、プライムレートを21.5%まで上げてインフレ期待を断ちます。バフェットは、金利をあらゆる資産の価値の基準になる「重力」だと言います。低金利に押し上げられた高い株価倍率は、金利が正常に戻って重力が強まると、評価損を生みます。

だから、自分が納得できる球が来るまで、現金(短期国債)を持って待つ。パニックの場面では、2008年にゴールドマン・サックスやゼネラル・エレクトリックへ大きく出資したように、「他の誰も電話に出られない」ときに動く準備をしている、という説明です。2024〜26年には、現金を3,000億〜4,000億ドル規模まで積み増した、という整理が、資料にあります。

筆者は、この説明を「待つことを正当化する理屈」としても読めると考えます。ただ、2008年に実際に動いた実績があるぶん、説得力は残ります。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。当たりの買い物を並べると、バフェットが見ているのは「価格の安さ」だけではないと分かります。ワシントン・ポストは事業全体の価値との差、家具店は創業者と低いコスト構造、保険会社は資金の出どころ、アップルは消費者の執着、商社は為替を消した利ざや。買い方の型は、どれも違います。共通するのは、何がその事業を守っているのか(堀)と、どこで余裕(安全域)が取れるのかを、自分の言葉で説明できることです。説明できないものには手を出さない。それが「能力の範囲」という言葉の中身だと、筆者は読みました。

失敗談のほうは、機会費用の数え方が独特です。ガソリンスタンドの2,000ドルを、複利で60億ドルと数える。そう数えれば、失敗は金額ではなく、時間の失い方になります。個人投資家にとっては、損した額より、そのお金が複利で働く時間を失ったと考える見方が役に立つと思います。もっとも、60億ドルは仮の計算なので、そのまま受け取る必要はありません。

一方で、いちばん高くついたのは、理解しているのに動かなかった不作為の失敗でした。これは、現金を厚く持つ局面で起きやすい失敗です。バフェットは現金を積みながら、同時にアルファベットのような買いも実行しました。待つことと動くことを両立させているわけです。待つ側の人は、待つ理由と、動く条件の両方を、あらかじめ言葉にしておくとよいのではないでしょうか。ファニーメイの教訓は、「分かっていたのに」という後悔を避けるために、買う条件を事前に書いておく、という形で使えます。

買い方の型を並べて気づくのは、どの買い物にも「相手がいた」ことです。ワシントン・ポストでは、政治の騒ぎにおびえた売り手。家具店では、書類より握手を選んだ創業者。商社では、円の低金利を使わなかった他の投資家。バフェットは、安い物を探していたというより、相手が合理的でない場面を探していたようにも読めます。これは推測ですが、個人にとっても、安さの理由が相手の事情(強制売却、騒ぎ、見落とし)にあるかを問うことは、割安に見えるものを選り分ける助けになると思います。

最後に、手法の修正について。配当を「恐ろしい過ち」と悔やみ、自社株買いの評価を変え、テクノロジーの分類を改め、慈善の計画まで見直しています。80年のあいだ、原則は変えずに、手段を直し続けているのです。変えないものと変えるものを分けて持つ点は、ほかの長寿の投資家にも共通していると思います。

なお、本稿の数字は、動画をもとにしたNotebookLMの整理であり、動画の発言箇所までは照合していません。

出典(日付は動画の公開日)

  • Think Rich「Warren Buffett's Most Iconic Interviews Ever, interviewed by Charlie Rose」、2023年1月4日(YouTube)
  • jazz on the coast「Warren Buffett Second "Adam Smith's Money World" Interview」、2023年9月27日(YouTube)
  • CNBC Television「Berkshire's 2023 annual shareholder meeting: Watch the full morning session with Warren Buffett」、2023年5月6日(YouTube)/「…afternoon session…」、2023年5月7日(YouTube)
  • Investor Center「Warren Buffett's Most Iconic Lecture EVER (MUST WATCH)」、2024年8月5日(YouTube)
  • CNBC Television「Watch Warren Buffett preside over the full 2024 Berkshire Hathaway annual shareholders meeting」、2024年5月5日(YouTube)/「…2025…」、2025年5月4日(YouTube)
  • Life Stories「Becoming Warren Buffett Interview | Rule #1: Never Lose Money」、2021年7月20日(YouTube)
  • IDP「TIMESAVER EDIT 2021 Berkshire Hathaway Annual Meeting Full Q&A with Warren Buffett & Charlie Munger」、2021年5月10日(YouTube)
  • CNBC Television「Watch CNBC's full interview with Berkshire Hathaway Chair Warren Buffett」、2026年5月2日(YouTube)
  • David Blackwell「CNBC's Interview with Warren Buffett July 15th 2026」、2026年7月15日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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