株譜
INVESTOR OUTLOOK

アックマン:180億ドルが40億ドルに減った2年半──判断の誤りは防げない、だから「外れても生き残れる資金」を先につくった

失敗と成功

ビル・アックマンは、いまや米国で最も発信力のある投資家の一人です。X(旧ツイッター)のフォロワーは270万人。そんな彼が2026年8月、Fortuneのポッドキャストで、10年ほど前に自分のヘッジファンドが潰れかけた時期を詳しく語りました。番組は冒頭で、1つの投資だけで40億ドル近い損失が出たと紹介しています。本人は「デューデリジェンス(投資前の調査)の失敗だった」という趣旨の言葉も口にしています。

筆者がこの書き起こしを読んで、いちばん大事だと感じた点は次の一文です。投資家は判断の誤りを避けられない。だから、外れても生き残れる資金の形を先につくる。アックマンを立て直したのは、銘柄選びの巧さより、この構造の手当てだった。

もともとの企画は「ハーバライフの空売りと、コロナ時のCDS」でしたが、実際の中心はバリアントとハーバライフ、そして解約の連鎖から永久資本をつくるまでの流れです。コロナ時のCDSは、番組のナレーションが触れるだけで、本人はほとんど語っていません。以下、場面ごとに追います。

ゴッサム:最初の失敗は「非公開資産の混在」

話は、パーシング・スクエアを作る前にさかのぼります。アックマンはデビッド・バーコウィッツと組み、経験のないまま、ゴッサム・パートナーズを始めました。5年目に運用の幅を広げ、株を持つ会社だけでなく、上場していない会社への投資もヘッジファンドに混ぜたのです。投資家がいつでも資金を引き出せるファンドに、売りにくい資産を入れると、扱いが複雑になります。

筆者は、ここが後の話の伏線だと見ています。「いつでも引き出せる資金」と「すぐには売れない資産」の食い違いは、形を変えて、のちの解約の連鎖でも彼を苦しめたように見えるからです。

そこでパーシング・スクエアでは、非公開投資をやめました。資金を集めるときの売り文句は、「37歳の自分は、すでに一度ヘッジファンドを作り、成功も失敗も経験した。米国で最も経験のあるマネージャーだ」。失敗から目をそらす人が多いなか、自分は失敗から学ぶのが得意だ、と語ります。立ち上げの資金のうち5,000万ドルは、ルカディア・ナショナルのジョー・スタインバーグが出しました。金額以上に、名の通った投資家が出資したことが分かれ目だった、といいます。

成功の型:壊れた優良事業に入る

成功例として語られるのは、ゼネラル・グロース・プロパティーズとチポトレです。

ゼネラル・グロースは、株価が99.5%下がり、返せない借金を抱えていました。大きな上場企業が破綻すれば、株主は全額を失うのがふつうです。それでもアックマンは、売る側の「合理的な判断」とは反対に、発行済み株式の25%を買いました。ゴールドマン・サックスが反対するなか、取締役会に入り、債権者が元本と利息を全額受け取れる形での再建を引っぱりました。

チポトレは、食の安全をめぐる危機のさなかに10%を買いました。創業者のスティーブ・エルズを会長に回し、ブライアン・ニコルを新しいCEOに迎えています。

共通するのは、土台の事業が良いこと。そして、行き詰まった会社の経営、コスト、お金の集め方を変えられる立場に立つことです。ここは素直に感心しました。株価が99.5%下がった会社の株を25%も買うのは、事業の質への確信がなければできません。ただ、この「口を出して直す」やり方が、次のバリアントでは裏目に出ます。

バリアント:「売るのが正解だった」

転機になったのは、製薬会社バリアント・ファーマシューティカルズへの大きな投資です。パーシング・スクエアは製薬を避けてきました。それでも入ったのは、前の取引で儲けさせてくれた経営陣を信頼したからです。結果は「悲惨な投資」だったと本人は言います。疑わしい商売のやり方が表に出て、事業は思ったほど頑丈ではなく、借金も使いすぎていました。

ここで判断を誤ります。口を出さない株主のはずが、問題を直そうと取締役会に入ったのです。「正解はたぶん売ることだった」と振り返ります。取締役になった時点で、問題は「自分の監視下」のものになってしまったからです。

この一言がいちばん刺さりました。成功の型であるはずの「中に入って直す」が、このバリアントでは逃げ道を塞ぐ罠になった。成功の型と失敗の型は、同じ手の裏表なのだと思います。

ハーバライフとアイカーン:空売りは「やらない」と決めた

同じころ、ハーバライフの空売りも進めていました。パーシング・スクエアはもともと空売りを本業にしておらず、一部の会社には、倒産に備える保険のようなCDSで賭けていたくらいです。ハーバライフについては、ねずみ講だと証明できると考えました。政府も調べているのだから、これほど良い空売りはないと見たのです。

ところが、カール・アイカーンが反対側に立ちました。ハーバライフの内情は知らないまま、大量に株を買い、値上がりに追われた空売りの買い戻しを誘ったのです。実際にそうなりました。バリアントの問題も重なっていた時期で、アイカーンが反対側にいたのは厳しかったといいます。とはいえ、すべてをアイカーンのせいにはしません。「空売りはもうやめた。二度とやらない」。アイカーンとはのちに「抱き合って」和解したものの、最初の事業パートナーには選ばない、と笑っていました。

筆者は、ここで「理屈が正しくても負ける」と認めた点を評価します。ハーバライフの見立ては正しかった可能性があります。けれども空売りは、損失に上限がなく、正しさが認められるまで待つ時間を稼げません。やめる判断は、負け惜しみではなく合理的だと思います。

解約の連鎖:持ち株が売られ、さらに下がる

投資家は、最初はすぐに資金を引き上げませんでした。しかしバリアントの問題が18か月続き、ハーバライフも重なって、解約が始まります。「一人がいなくなると、連鎖が起きる」と彼は言います。解約を見越して、ファンドの持ち株が先に売られる。成績が悪くなる。すると、また解約が出る。少数の銘柄に集中して投資する運用者にとって、死のスパイラルに近かったそうです。

ピークで約180億ドルあった運用資産は、解約に応じた結果、約40億ドルまで減りました。上場している持ち株会社のパーシング・スクエア・ホールディングスも、底では約30%下がっていましたが、手元の資本は約40億ドルありました。

致命傷になりかけたのは個々の銘柄の損より、資金が逃げる仕組みのほうでした。バリアントもハーバライフも、判断の誤りです。しかし、誤りが「解約の連鎖」にまで膨らんだのは、構造の問題です。筆者はこの区別を、この話の核だと考えます。

打った手:3億ドルの借り入れで「永久」にする

ここで彼は、社員を集めて言いました。上場しているから永久資本なのではない。自分たちがその株を十分に持って、初めて永久資本になる、と。

そこで自分で借金をしました。3億ドルは、JPモルガン・チェースが個人に出した最大の無担保ローンだと、彼は信じています。この資金と、ヘッジファンドから引き出した資金で、上場会社の株を買い増し、永久資本の形をつくりました。

社員にはこう伝えたそうです。「いま、史上最も良い位置にいる。永久資本という聖杯を手に入れた。あとは原則を守って働き、複利で抜け出そう」。その後の8年は、会社の歴史で最良でした。資金集めに人手を割かずに済み、運用に集中できたからです。バフェットがヘッジファンドの運用をやめたのも、投資家への対応に追われたくなかったからではないか、という見立てもつけ加えました。

底にいたときの支えは、「毎日、ほんの少し前進する」という合言葉でした。1日1%の積み重ねは、最初は傾きが小さく、あるところから急に立ち上がる、と語ります。

筆者が驚いたのは、どん底で個人が借金をして、会社の株を買い増したことです。自分の資産を賭けて「外れても潰れない形」を買ったわけで、言葉だけの反省ではありません。

再発を防ぐ「チェックリスト」

立て直しの過程で、彼は投資のチェックリストを作りました。事業の質について、求める特徴と、やらないことを書き出したものです。インタビュアーによると、社内の多くの机には、そのルールを刻んだ小さな石板が置かれているそうです。道を外れかけたら誰かに頭をたたいてほしい、と彼は話しています。チェックリストは人生でも役に立つ、というのが本人の説明です。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。アックマンは、失敗の原因を「判断の誤り」と「構造の弱さ」に分けています。バリアントは判断の誤りでした。売るべきだったのに、取締役に入ってしまった。一方、解約の連鎖は構造の問題です。いつでも解約できる資金で、少数の銘柄に集中投資をしていたからです。そして彼が手を打ったのは、構造のほうでした。判断の誤りは、これからも起きます。だから、外れても生き残れる資金の形を先につくる。この順番こそが、彼の立て直しの本体だと筆者は見ています。

読者が自分の運用に引き寄せるなら、問いは「どの銘柄が当たるか」だけでなく、「外れた時に、売らされずに持ち続けられるか」でしょう。生活資金と切り離した余裕のあるお金か、借金を使っていないか。この点検は、相場が荒れる前にしかできません。

なお、この記事の根拠は、Fortuneの番組の書き起こしです(一次資料)。損失額や運用資産の額は、本人の発言と番組の紹介をそのまま写したもので、第三者の資料では確かめていません。コロナ時のCDSは、本人の説明が素材にないため、書いていません。

出典

  • ビル・アックマン Fortune「Titans and Disruptors of Industry」、2026年8月5日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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