株譜
INVESTOR OUTLOOK

ウォーレン・バフェット:11歳の売り急ぎから、繊維工場の20年まで。失敗が育てた物差し

TIPS

バフェットの成功談は、世界中で語り尽くされています。ただ、本人の回想には、成功と同じ熱量で失敗の話が混ざっています。しかも、その後の判断の物差しをはっきり形づくったのは、失敗のほうです。

八つの場面を見渡すと、失敗は同じ型を繰り返していました。バフェットの失敗は型がほぼ三つに決まっていて、同じ型を繰り返さないための物差しが、そのまま彼の投資の流儀になった。

ここでは、過去の株主総会やインタビューの動画を手がかりに、八つの場面を拾いました。年号や金額は、本人の回想を動画から書き起こした二次的な要約に基づいています。当時の公的な記録で、一つずつ照合したものではありません。その点は割り引いて読んでください。

11歳、最初の株を売り急ぐ(失敗)

1942年、11歳のバフェットは、初めて株を買いました。シティ・サービスの優先株で、1株38ドルです。買った直後に27ドルまで下がって動揺し、40ドルに戻ったところで売りました。本人の回想では、1株あたりの利益は2ドルほど。ところが、売ったあとに株価は200ドルを超えます(2022年12月公開のインタビュー動画)。

引き出した教訓は、株価に気を取られず、事業そのものの値打ちを見ることです。「株式市場など存在しないことにしよう」という考え方の原点は、ここにあります。

筆者は、11歳の失敗が、その後も続く考え方の出発点になっている点に驚きました。

20歳のガイコ、44年かけた完全子会社化(成功)

20歳のバフェットが惚れこんだのが、代理店を通さず保険を直接売る自動車保険の会社、ガイコでした。販売コストが低いという強みを見抜き、手持ち資金の大半をつぎこみます。1976年に同社が拡大しすぎて、破綻の瀬戸際に立ったときも、低コストの強みは変わらないと判断して出資を続けました。1995年には残りの持ち分も買い取り、完全子会社にしています(2023年1月公開のインタビュー動画)。

教訓は、一時的な不祥事や管理の失敗で苦境に陥っても、低コストの仕組みと強い顧客基盤を持つ会社は立ち直る、ということです。本人に言わせれば「一生に何度も来ない絶好球」です。20歳で見つけた会社を、44年かけて完全に自分のものにした粘りには、素直に感心します。

繊維会社バークシャーという最大の誤算(失敗)

1960年代の前半、バフェットは師のグレアムの教えどおり、「吸い殻投資」をしていました。会社の運転資金より安く放置されている株を買う手法です。ニューイングランドの繊維会社、バークシャー・ハサウェイも、その一つでした。

ところが、経営権を握ったあと、繊維事業は20年にわたって資金と労力を吸い上げ続け、最後は閉鎖に追い込まれました(2024年8月公開の講演動画)。

この痛手が、手法の転換につながります。本人は「素晴らしい事業を買って、あとはじっと座っていればいい」と語っています(2021年7月公開のインタビュー動画)。そこそこの会社を安く買うのではなく、素晴らしい会社を適正な値段で買う。ひどい事業では時間が敵になる、という認識です。

ここは納得しました。安く買えば守られる、という考えを、20年の実体験で捨てたのですから、重みが違います。

1972年のシーズ・キャンディーズ(成功)

その転換点とされるのが、1972年に約2,500万ドルで買った、カリフォルニアのチョコレート会社、シーズ・キャンディーズです。工場や設備に追加の資金をほとんど必要とせず、贈答品としての顧客の忠誠心と、値上げの余地を持っていました。

マンガーと組んだ最初の大きな「質への転換」とされています。有形資産の安さを頼りにする買い方から、強い経済的な堀を持つ会社を買う方向へ、進んだのです(2021年5月公開の株主総会Q&A動画)。

繊維の失敗と、このキャンディー会社の成功が、わずか数年のうちに並ぶのは、劇的です。筆者は、失敗の痛みが新しい買い方を生んだ、いちばん分かりやすい場面だと思います。

1993年のデクスター・シュー(失敗)

1993年に買収した靴メーカー、デクスター・シューは、本人がのちに自分の代表的な失敗として語る一件です。理由は二つあります。

  • 安い輸入靴との競争に負け、会社の価値が事実上ゼロになったこと。
  • その対価として、バークシャー株を渡してしまったこと。

バークシャー株はその後大きく値上がりしたため、二重に高くつきました(2024年5月公開の株主総会動画)。筆者は、この「二重の損」という数え方が、失敗を値段で測る人らしいと思います。

教訓は、成長している自社の株を、買収の対価に使ってはならない、ということです。自社株は、自分がいちばんよく値打ちを分かっている資産です。それを手放すのですから、買う側の判断は、ほかの取引より厳しくなければなりません。

1989年のUSエアと、2024年のパラマウント(失敗)

1989年、バフェットは航空会社USエアの優先株に3億5,000万ドルを投じました。小切手が決済された直後に、会社は赤字に転落し、長く経営危機が続いたといいます。巨額の資本が要り、価格競争の激しい航空業の構造的な弱さを、本人はこのとき身をもって知りました(2024年8月公開の講演動画)。

もう一つは、2022年から2024年にかけて持っていたパラマウント・グローバルです。動画配信の競争が激しくなって業績が落ち込み、同社は大幅な減配に追い込まれました。バフェットは、自分の判断の誤りだったと認め、2024年に全株を売っています(2024年5月公開の株主総会動画)。ここで目立つのは、誤りを認めてからの動きの速さです。

一方で、筆者は、USエアで懲りたはずの航空業にのちに再び手を出した話を思い出して、苦笑しました。型は分かっていても、繰り返すことがあるのです。

やらなかった失敗と、1969年の撤退(不作為と自制)

失敗には、買って損をするものだけでなく、買わなかったことで逃すものもあります。

本人が挙げるのが、ファニーメイの例です。事業の中身は分かっていて、自分の分かる範囲の話でした。それでも決断できず、「sucking my thumb」、つまり指をしゃぶったまま機会を逃しました。会計帳簿には載らないけれど、いちばん高くつく失敗が、こうした不作為のミスだといいます(2024年8月公開の講演動画)。なお、そのときに語られた機会損失の金額は、動画の原文で確認できなかったので、本稿では取り上げません。

対照的なのが、1969年の撤退です。市場が過熱し、会計の見せ方を競うような風潮が広がるなか、バフェットは、理解できないゲームに参加することを拒みました。出資者に資金を返して、パートナーシップを解散したのです。本人の回想では、1956年の設立から13年間、一度も損失を出さなかったそうです(2021年7月公開のインタビュー動画)。打たなくてよい球は打たない、という自制を示した例です。

13年間無損失のまま、あえて店じまいする。これは意外でした。成績の絶頂で降りる決断のほうが、買う決断より難しいと思います。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。八つの場面を並べて目につくのは、失敗の型がほぼ決まっていることです。

  1. 構造的に報われない事業を、安さにつられて買う(繊維、航空、パラマウント)。
  2. 支払い方を誤る(デクスターの自社株払い)。
  3. 売り急ぐ、あるいは動かない(シティ・サービス、ファニーメイ)。

成功のほうは、強い顧客基盤と低いコスト構造があれば、いったん傷んだ会社でも立ち直る、という一点にまとまります。失敗が型に収まっているから、物差しにできる。筆者はそこに、この人の強さがあると見ています。

そう考えると、2026年7月にバフェットがアルファベットを語った言葉は、これらの失敗談の延長に置けます。資産の軽いテクノロジー企業を避けてきたのは自分の誤りだった、と認めた件です。以前につくった物差しを、新しい事例に当てて見直しているにすぎません。

個人投資家にとっての学びは、自分が過去にした失敗の型を、言葉にして残しておくことだと思います。買う前にその型と見比べるだけでも、いくらかの足止めになります。


出典(日付は動画の公開日。年号・金額は本人の回想の要約)

  • 「Warren Buffett Charlie Rose Full Interview」、2022年12月26日(YouTube)
  • 「Warren Buffett's Most Iconic Interviews Ever, interviewed by Charlie Rose」、2023年1月4日(YouTube)
  • 「Warren Buffett's Most Iconic Lecture EVER」、2024年8月5日(YouTube)
  • 「Watch Warren Buffett preside over the full 2024 Berkshire Hathaway annual shareholders meeting」、2024年5月5日(YouTube)
  • 「Becoming Warren Buffett Interview | Rule #1: Never Lose Money」、2021年7月20日(YouTube)
  • 「TIMESAVER EDIT 2021 Berkshire Hathaway Annual Meeting Full Q&A」、2021年5月10日(YouTube)
  • ウォーレン・バフェット CNBC「スクォーク・ボックス」抜粋、2026年7月15日(CNBC)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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