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INVESTOR OUTLOOK

ドーン・フィッツパトリック:民間市場に「痛みの18〜24か月」が来ると見るソロス・ファンドのCIOは、流動性を差し出す側に回る

人物

予想が外れても、運用の骨格が崩れない。そんな作り方は可能なのでしょうか。ソロス・ファンド・マネジメントのCEO兼CIO、ドーン・フィッツパトリックの発言を読むと、可能だと思えてきます。

ソロス・ファンドは、ジョージ・ソロスが作った組織で、いまはオープン・ソサエティ財団の資金を運用しています。運用額は、2021年の対談で本人が「約270億ドル」と話していた規模です。市場の見通しを長く語る場面は多くありませんが、ブルームバーグの番組や運用者向けのポッドキャストには、折に触れて出ています。

予想が外れても崩れない理由は、戦術の置き場所にあります。彼女の戦術の核は、予想を当てることではなく、流動性が枯れた局面で買い手に回ることにあります。だから利下げの時期を外しても、運用の骨格は揺らぎません。

本稿が「いま」として扱うのは、公開されている最新の動画、2026年3月3日のブルームバーグでの発言です。数字は、動画の内容を整理した資料に基づきます。その後半年の動きは本人の言葉では確認できないため、記事の後半で、確認できる範囲の「答え合わせ」を試みました。

表面は平穏、水面下は激しい回転(2026年3月)

フィッツパトリックはまず、指数の表面が「横ばいから小幅高」に見えても、水面下ではセクター間の激しい回転が起きていると診断しました。地政学的なショック、原油価格、AIによる市場の混乱で、投資家には疲労感がたまっているという見立てです。それでも、マクロの基本は強気でした。米国と世界の経済は、直近のニュースにかかわらず、市場の事前の期待を上回って成長する。インフレは減速しつつあり、政策金利は「やや抑制的」にとどまるため、経済を壊す水準ではない、とも言います。

原油高への見方は冷静でした。原油支出は米国消費者の支出全体の約5%にすぎない、と数字を示します。司会者が、ジェイミー・ダイモンの言うようにインフレは「パーティのスカンク」ではないかと水を向けると、彼女はインフレは低下に向かうと答えました。AIは今のところインフレには影響しないが、将来は生産性の向上を通じて、長期の強い抑制要因になる、と見ています。

FRBについては、利下げを2回と予想しました。ただし条件があります。原油高などの混乱が約3か月未満に収まる場合に限る、という前提です。一過性なら、FRBはその影響を見過ごせる。さらに、AIの設備投資ブームは金利が0.5%高くても低くても止まらないので、FRBはAIによる熱気も部分的に見過ごすべきだ、とまで言っています。

いちばんの警戒:プライベート市場と、大型IPOの波

最も強い警戒を向けたのは、プライベート(非公開)市場です。ブルームバーグTVの短い映像では、"painful 18 to 24 months" と表現しています。向こう18〜24か月は痛みを伴う調整が続くという意味で、対象はプライベート市場の投資家やアロケーター(資金の配分役)です。

根拠として、いくつかの構造を挙げました。

  • ソフトウェア企業の再評価は正当で、そこへ貸してきたプライベート・クレジットが試される。
  • 上場のBDC(ビジネス開発会社)は、純資産価値に対して平均約23%の割引で取引されている。一方、非上場のBDCやインターバル・ファンドは、純資産価値で投資家に返す義務があり、投資家は非上場から上場へ資金を移す。その結果、プライベート・クレジットのセカンダリー(既存持ち分の転売)の売り圧力は避けられない。
  • プライベート・エクイティは「キャッシュフローを生んでいない」ため、分配が回らず、投資家の流動性が詰まる。
  • 銀行がプライベート・クレジット・ファンドに出している約3,000億ドルの裏付け融資に、規制当局が時価評価を求めれば、ファンドは追加の現金を求められ、連鎖が起きかねない。

筆者がこの警戒でおもしろいと思うのは、対象が株式市場そのものではないことです。指数の表面が穏やかでも、資金の出口が詰まる場所は別にある。資産全体を一つの財布として運用する組織のCIOだからこそ、見える景色なのかもしれません。

もう一つの論点が、2026年の超大型IPOです。オープンAI、アンスロピック、スペースXなどが上場し、それぞれ浮動株を10%ほど売り出すだけで、調達額は約2,500億ドルに達します。2022年以降の米国のIPO総額を超える規模です。パッシブのインデックス・ファンドが、これらの新銘柄を買うために既存の組み入れ銘柄を売る形になり、歴史を見れば、大型IPOが急増した局面の6か月後に、市場全体のバリュエーション(株価の割高感)は切り下がる傾向があるといいます。

差し出す側に回る:流動性を売る戦略

警戒の一方で、彼女は混乱を好機とも見ています。原則は「流動性の対価が跳ね上がったときに、流動性を供給する」こと。つまり、流動性のプレミアム(すぐ現金にできない代償として上乗せされる利回り)が吹き飛ぶ局面で、流動性を差し出すことです。具体的には、過度に売り込まれた上場BDCの買い増しや、プライベート・クレジットのセカンダリーの安値売りに応じる準備をしています。

株式では、資産の軽い企業から「旧世界のリアル経済」の企業への買いシフトに注目します。インデックスを丸ごと買うより、個別企業で勝者と敗者を選別する、アルファ(市場平均を上回る収益)重視です。JPモルガン、ゴールドマン・サックス、ウォルマートのような巨大企業は、営業レバレッジを使ってテクノロジーとAIに大型投資をしており、それが競合に対する「堀」になって、1〜2年後に明確な優位として表に出ると見ています。ドルについては、アロケーターが過去の過剰な米国資産への配分を正常化する動きは続くが、それは米国への不信任ではなく、単なる再調整だと整理しました。

2025年の発言:利下げの反対側に賭け、反対側を買った

2025年3月のブルームバーグでの発言も、見ておきたいところです。トランプ政権の発足から6週間という時期でした。市場が2025年に3回の利下げを織り込んでいたのに対し、彼女は「その反対側に賭ける」と宣言します。政権とベセント財務長官は、市場の痛みへの耐性が従来より高いと見たからです。ベセントはかつてソロス・ファンドのCIOを務めており、「最も市場リテラシーが高い財務長官」と評価しています。

同じ時期に、補足的レバレッジ比率(SLR)規制の改定を確実視しました。米国債の純発行の買い手がレバレッジをかけたヘッジファンドでは持続可能でないので、銀行に国債を買わせるための緩和が行われる、という論理です。欧州では、国防費の増加で国債発行が急増し、12〜24か月以内に国債オークションの不調が起きるリスクがあるとして、英国とフランスを最も脆弱な国に挙げました。

売買では、2024年12月のピークから13%以上下げたマグニフィセント・セブン(テスラは40%下落、エヌビディアは24%下落)を「反撃の買い」の対象にしました。さらに、2024年末に香港株の指数のコール・スプレッドを買い、保有していると明かしています。債券では、10年債利回りが4.80%に急騰した2025年1月のような局面を、「変動は味方だ」と捉え、買い増す戦術を語りました。

2025年7月28日公開の「Capital Allocators」では、サイクルの位置を「後半」と認め、市場と同等のリスク(株式60%・債券40%相当)を中立としたうえで、パブリック市場のベータ(市場全体への連動分)を中立より引き下げていると話しました。プライベート・エクイティに対しては、出資約束を担保にした借り入れで見せかけの収益率(IRR)を押し上げる手法や、運用期間の延長で成功報酬の権利を延ばしながら管理手数料を請求する要求を批判し、「同意はするが、手数料は払わない」と交渉していると語っています。

答え合わせはどこまでできるか

確認できる範囲で、答え合わせをしておきます。

3月の条件付きの予想(原油の混乱が3か月未満なら利下げ2回)は、条件が満たされなかったように見えます。2026年9月にFRBが25ベーシスポイントの利上げを行い、10月になっても原油は1バレル90〜100ドルの水準にあります(シーゲルの10月5日の発言)。彼女が見ていた「一過性の原油高」は、少なくとも7か月続きました。

2025年3月の「3回の利下げの反対側」は、ガンドラックが2024年秋からの利下げ幅を合計175ベーシスポイントと数えている点が手がかりになります。2024年に100ベーシスポイントの利下げがあったとすれば、2025年は75ベーシスポイント、つまり3回分となり、市場の織り込みどおりだった可能性が高い(この2024年の数字は素材にないため推量です)。

当たった可能性があるのは、欧州の国債の警告です。ヤルデニが10月7日に、世界的な利回り上昇の最悪の局面としてフランスの国債利回り急騰を挙げ、カルミニャックも米国とフランスの利払い費の増加を試算しています。オークションの失敗という形で実現したかどうかは、素材からは確かめられません。

変わらない原則

発言の底に流れる原則は、一貫しています。

  • 毎日良いアイデアを持つ必要はない。待つ。
  • コンセンサス・トレードは嫌う。ただし債券は満期があるので、「買っている自分が正しければ最終的に勝つ」と考え、集中して持つ(2023年の発言)。
  • 間違いはすぐ切る。放置すれば損失が増え、思考の余地も奪う。
  • 毎年9〜11%といった固定のリターン目標は危険だ。機会が最悪のときに無理なリスクを取り、最良のときに取り損ねる。
  • 就任時のポートフォリオは過度に分散されており、「保証された平凡さ」だった。外部運用者を絞って、確信のあるアイデアに集中した。

経歴の中には、これらを裏づける場面があります。1990年、シティバンクのインターン時に銀行危機の最中を見て、投資される側ではなく投資する側になろうと決めました。1994年のメキシコ・ペソ危機では、ギャップ・リスクの怖さと、混乱の裏にある機会を学びます。2008年のリーマン危機では、UBS傘下のオコナーを率いて、プライムブローカーから資金を引き揚げるという、政治的に危険な判断をしました。2020年3月のコロナ・ショックでは、強制売却に追い込まれた住宅ローンREITのポートフォリオを48時間以内に入札し、40億ドル規模(対談により数字が異なる)を買い取ったと語っています。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

2026年3月の発言でいちばん注目したのは、警戒の対象が株式市場そのものではなく、その外側にあるプライベート市場だったことです。

もう一つは、予想と戦術の距離です。利下げの予想は外れたかもしれませんが、彼女の戦術の核は、予想が当たらなくても、流動性が枯れた局面で買い手に回ることにあります。つまり、利下げの時期を外しても、運用の骨格は崩れない作りになっている。筆者は、予想の的中率より、この「外れても壊れない形」のほうに、はるかに学ぶ価値があると見ています。

今回の「痛みの18〜24か月」が正しければ、2027年後半から2028年初めにかけてが、その買いの出番になる計算です。個人の投資家が真似できるのは、同じ資産を買うことよりも、「皆が売りたいときに現金があるか」を点検することではないでしょうか。読者が見るべきは、上場BDCの割引の広がりと、プライベート・クレジットのセカンダリー価格です。ここが崩れ始めたとき、彼女の読みの答えが出ます。


出典(日付は動画の公開日)

  • ブルームバーグ・ライブ「Soros' Fitzpatrick on Navigating Market Volatility」、2026年3月3日(YouTube/別編集)
  • ブルームバーグTV「Investors Face 'Painful' 18-24 Months, Soros CIO Says」、2026年3月3日(YouTube)
  • ブルームバーグ「Soros CEO, CIO on Where To Put Capital to Work」、2025年3月4日(YouTube)/ブルームバーグ・ポッドキャスト「Investors Underestimate Trump's Tolerance for Stock Selloff」、2025年3月4日(YouTube)/「Soros Fund Management CEO & CIO Dawn Fitzpatrick Talks Private Investment」、2025年3月4日(YouTube)
  • Capital Allocators「CIO Greatest Hits: Single Family Offices – Dawn Fitzpatrick (Soros)」、2025年7月28日(YouTube)
  • ブルームバーグTV「Soros' CEO Fitzpatrick on Coming Contraction in Credit」、2023年6月7日(YouTube)
  • ブルームバーグ・ウェルス(デビッド・ルーベンスタイン)、2022年6月1日(YouTube)
  • ブルームバーグTV「George Soros's CIO Revives His Legendary Risk Appetite」、2021年3月25日(YouTube)
  • 答え合わせに使った他の投資家の発言:ジェフリー・ガンドラック(2026年10月9日、YouTube)、ジェレミー・シーゲル(2026年10月5日、WisdomTree)、エド・ヤルデニ(2026年10月7日、Yardeni)、エドゥアール・カルミニャック(2026年10月6日、カルミニャック)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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