デビッド・テッパー:「このFRBとは戦わない」。上半期32%の運用を支える、集中と売り抜けの癖
株は割高だと認めているのに、売らない。デビッド・テッパーのこの態度は、矛盾に聞こえます。アパルーサ・マネジメントの創業者で、1993年の創業から2019年まで、手数料控除後で年率約25%の複利で運用し、2019年に外部資金を返還した人です。現在の資金の約9割は本人のものだといいます(2026年10月17日のモトリーフールの記事、確度は中程度)。倒産した企業の債券や、危機の最中の銀行株で大きく儲けたことで知られます。
矛盾に見える理由は、水準を見ているからです。テッパーが見ているのは水準ではなく、中央銀行が流動性(市場に回るお金)を増やすのか、絞るのか、という方向でした。割高でも、お金が増える間は戦わない。その代わり、方向が変わったら迷わず減らす。 これがこの人の売買の骨格だと、筆者は読んでいます。
先に、正直に言っておくことがあります。2026年のテッパー本人の発言は、公開資料にほとんど出てきません。最も新しいのは2025年9月のCNBCで、2026年のものは、13F(四半期ごとの保有開示)の報道と、取締役会宛ての書簡の報道です。13Fは過去の持ち高であり、発言ではありません。だから今回は、2025年9月までの発言で考え方の骨格を確認し、2026年の動きをその骨格に当てはめて読む構成にしました。NotebookLMの整理による数字は、字幕との照合が済んでいないものが多いので、本文では出典が報道である数字を中心に使っています。
「このFRBとは戦わない」(2025年9月18日)
2025年9月、テッパーは株を「かなり割高」と認めながら、第一の規則は「FRBに逆らわない」ことだとして、市場に残る姿勢を示しました。倍率は好きではないが、持たないでどうするのか。相場は「泡立っている」。利下げの始まったときに建設的でありながら、水準には「惨めな気分」でもある、と語っています。「パンチボウル(宴の酒)はまだそこにある」という言い方でした。
同時に、利下げをやり過ぎれば危険だとも警告しています。経済が堅調なのに連続して大幅に利下げをすれば、ドル安とインフレの危険領域に入る、という見方です。1998年のLTCMショック後や、2000年のY2K(コンピューター2000年問題)対応の過剰緩和のあと、市場が過剰に浮き上がり、2000〜01年の崩壊につながった、という歴史を引きました。番組の司会者が「主要7銘柄以外の493銘柄は割安では」と水を向けると、それらも予想PERは20倍前後で、一律に安いと言えるポケットはもうない、と反論しています。
この論理は新しくありません。2010年9月、彼は「株が上がる道は二つしかない。経済が良くなって上がるか、悪くなってFRBが量的緩和で押し上げるか」と語り、「テッパー・ラリー」と呼ばれました。2017年3月には、株は割安ではないが、世界の中央銀行が緩和を続けるなか空売りは難しい、まだ麻薬が配られており、パンチボウルは満たされている、と述べています。ただし、2018年12月にFRBが4回目の利上げをした翌日には、「FRBの救済は死んだ」と書き、現金は悪くないと結論づけました。このときはFRBが方針を転換して相場が急反発したので、読みは外れています。
筆者は、この外れ方に注目します。政策に従う人は、政策が変わった瞬間に迷う。テッパーの強みは追随の速さですが、弱みも同じ場所にあります。
エヌビディアは「行ったり来たり」(2024年9月、2025年9月)
エヌビディアについて、テッパーは大きくは持ちません。2025年9月には、持ってはいるが「行ったり来たり」で少し売買していると説明しました。大きな比率にしない理由は中国への懸念で、アリババなどの中国大手が自前のチップを作り始めているからです。2025年6月末の保有は、約2.77億ドルにとどまりました。
2024年9月には、エヌビディアを第2四半期に84%超売却したと説明しています。売却後に株価が戻ったことを問われて、下がったときに買わなかったのは残念としつつ、成長予想が実現するかは「自分には分からない」と正直に話しています。見抜けるほど賢くない、という趣旨の言い方でした。分からないものは持たない、という割り切りが、結果として上昇を逃した例になっています。
筆者はこの正直さが好きです。ただ、見抜けないから持たない、という割り切りは、強気相場では地味に痛い選択です。
2026年の動き:AIの「周辺」に集中し、上がったら売る
13Fの報道で見る2026年は、集中投資の姿が鮮明です。第1四半期にアパルーサはアマゾンを98%積み増して約9億ドルの最大保有とし、ウーバーを242%、ビストラを114%、TSMCを18%買い増しました。マイクロンも11%増やし、サンディスクを約1.79億ドルで新規取得しています。一方でアリババを33%、エヌビディアを13%、アルファベットを3%減らしました(5月15日の報道)。
第2四半期には、アマゾンを15%超積み増して約12億ドルとし、メタを約55%、アルファベットを約7%買い増し、アップルを2.4億ドルで新規取得しました。他方でマイクロンを41%削減し、サンディスクは全売却しています。メモリ株は第2四半期に急騰したあと7月に調整しており、暴落を先読みしたように見えます。ただ、関係者によれば、四半期終了後にはメモリ株の下落に乗じて、売却分より多く買い戻したといいます(8月14日の報道)。13Fの見た目だけでは、売買の全体像はつかめません。
2026年上半期は32%の上昇で、公開株ポートフォリオの約4割が、アマゾン(17.7%)、マイクロン(12.4%)、TSMC(9.9%)の3銘柄に集中していました。マイクロンは上半期に3倍超になったあと、約41%を削減しています(10月17日のモトリーフール)。AIの主役であるエヌビディアではなく、クラウド、メモリ、半導体の製造、発電といった周辺の主役を、集中して持つ姿が見えます。2025年9月に語ったAIデータセンターの電力需要への関心が、ビストラへの積み増しにつながっている、とも読めます(ノートの整理による)。
筆者が驚いたのは、3倍になった銘柄を、4割も減らす胆力です。上がるほど持ちたくなるのが人情なのに、半分近くを現金に換える。ここに「方向が変わるまでは乗り、利益は早めに取る」という癖が出ていると思います。
2月には、家電のワールプールの取締役会に書簡を送り、大規模な増資を「驚き」と非難しました。調達コストは10%超で、公開市場の税引後負債コスト5%未満より遥かに高く、レバレッジ削減という名目にも合わない、という数字の理屈でした。「この経営陣は過去に数億ドルの株主価値を壊した。もう言い訳は許されない」とも述べています(2月25日の報道)。アパルーサの第8位の保有(約2.8億ドル)だった会社です。
中国は「買えるものは全部」(2024年9月)
もう一つ、テッパーを語るときに外せないのが、2024年9月26日の発言です。中国当局が追加緩和を発表した直後、何を買っているのかと問われて、「全部」と答えました。FRBの利下げが中国の緩和を呼ぶと見ていたが、これほど大きな措置は予想外だった、といいます。中国企業はPER一桁、2桁成長という割安さで、自分のポジション上限(10〜15%)を使い切れていないと述べました。発言後の週にCSI300は約14〜16%上昇し、アリババは約半年で4割上がったと後の報道が伝えています。
2025年9月には、中国株の予想PERは前年の一桁から13倍程度に上がり、前年ほど極端な割安ではない、ただし二桁の利益成長を考えれば米国株よりまだ魅力的だ、と見直しました(ノートの整理による)。そして2026年第1四半期にアリババを33%減らしています。割安で買い、割安さが薄れたら減らす。政策転換の初動に大きく乗り、動きが落ち着けば利益を確定する、という流れです。
失敗と成功の話(短く)
過去の事例で最も語られるのは、2009年の銀行株への投資です。2008年春に多くの持ち高を売って現金を積んでいたテッパーは、2009年2月の米財務省の金融安定化計画の白書と条件書を丁寧に読み、国有化はないと判断して、優先株や債券を買いました。2009年のフラッグシップは約132.7%上昇しています(2010年8月の取材)。利益の大半は、普通株ではなく、資本構成の上位の優先株と債券から出た、というのが本人の整理です。学生時代には、持っていた全資金を投じた企業が3か月後に倒産したという失敗談もあります(NotebookLMの整理による、字幕未照合)。
この人は、条件書を丁寧に読んで動く人でもあります。流動性の方向を見る大づかみな話の裏に、細かい文書の読み込みがある。筆者には、そこがこの人の本当の強さに見えます。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
テッパーの言葉は、「割高だと分かっているのに売らない」という点で誤解されやすいと思います。彼の論理は、水準ではなく、中央銀行の流動性の方向を優先する、政策追随型です。その彼が同時に「やり過ぎれば危険領域」と言うのは、追随の終わり方も見ているからです。2026年のFRBは9月に利上げに動きました。彼の第一の規則に従えば、この局面は「戦わない」の前提が崩れたことを意味します。その後の発言が素材にないので推測にとどまりますが、第2四半期のマイクロン削減や、現金を厚くしているとされる点は、すでに警戒を強めていたことの表れではないかと、筆者は見ています。
もう一つ、彼の売買は「集中して持ち、上がれば売る」型で、個人が真似るのは難しいものです。上位3銘柄で4割を占めながら、勢いのある銘柄を3分の1以上減らす胆力は、外部資金がなく、損失を自分だけが負う立場だからできる面があります。個人投資家が持ち帰れるのは、「割高と認めても、方向が変わるまでは空売りしない」「上がり過ぎたら一部を現金にする」という二つの原則くらいでしょう。
最後に、13Fは便利ですが限界があります。保有の変化は発言ではなく、四半期末の時点の姿にすぎません。メモリ株を売って、期末後に買い戻していたという報道は、その限界をよく示しています。読者が次に見るべきは、FRBの政策の向きと、次の13Fでのマイクロンやアマゾンの増減です。
出典(日付は発言日。13Fは報道日)
- CNBC「David Tepper: Fed could cut a few more times, but easing too much risks entering 'danger territory'」ほか、2025年9月18日(要約:Benzinga、Insider Monkey)
- CNBC、2024年9月26日(Bloomberg)
- アパルーサ2026年第1四半期13F、2026年5月15日(CNBC)/第2四半期13F、2026年8月14日(CNBC)
- ワールプール取締役会への書簡、2026年2月25日(CNBC)
- モトリーフール、2026年10月17日(Motley Fool)
- CNBC NetNet(アパルーサ本社での取材)、2010年8月(CNBC)/CNBC、2018年12月20日(CNBC)/CNBC、2017年3月8日(CNBC)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。