株譜
INVESTOR OUTLOOK

セス・クラーマン:問題はAIの技術ではなく値段。待てる現金と、「土地と電力」という迂回路

人物

AIが沸き立つなか、「値段が高すぎる」と言って動かない投資家がいます。ヘッジファンド、ベイポストの創業者セス・クラーマンです。筆者が注目するのは、予想を当てる力ではなく、崩れたときに買える状態を保つという、この人の「待ち方」です。

1982年に2,700万ドルで始め、26年間で年率約20%の複利を実現しました(2008年12月のハーバード・ビジネス・スクール誌のインタビューの数字)。公の場にほとんど出ない人なので、顧客向けの書簡や数少ない対談が、貴重な資料になります。

2026年の素材は、6月にニューヨークで開かれた「iConnections Global Alts」の対談が中心です。ただし要約記事であり、本人の逐語記録ではありません。確度は中程度として扱います。13Fを分析した第三者の記事もありますが、本人の発言ではなく推測なので、ここでは使いません。過去の書簡や発言は、考え方を知るために添えます。

AIは「バブルの特徴」がそろうが、断定はしない(2026年6月)

クラーマンは、AIをバブルと断定はしません。ただ、楽観ムードや「新時代」論など、バブルの特徴はそろっていると見ています。社名に「AI」をつけただけで株価が上がる、靴メーカーのオールバーズを、過熱の例に挙げました。

AIが世界を大きく変える可能性は高い。問題は技術ではなく、遠い将来を織り込むために、40倍や事実上無限大の倍率を払う値段だ、といいます。どの企業が勝つかは、誰にも確信できません。

自分のポートフォリオの約1割は、AIの広がりの恩恵を受ける銘柄(アマゾンのAWSやアルファベットなど)です。ただし、守れる値段でしか買わない方針だと言います。技術の将来性と、その値段は別の話。そういう切り分けです。

データセンターの「土地と電力」を安く持つ(2026年6月)

面白いのは、AIそのものに高値で乗る代わりに、AIが必要とする実物の隙間を狙っている点です。電力インフラに隣接する未開発地を、保有しているそうです。自分たちで建てる気はありません。許認可が通りやすいことと、電力を確保できること。この二つを満たす土地を、簿価という低い基準で、「オプション」として持つ発想です。

アジア(中国を除く)のデータセンター事業の私募持ち分も、公開市場の倍率より約4割安く取得しました。

商業用不動産では、滞っていた案件が動き始め、再調達コストよりずっと安い案件が増えたと述べています。最も確信が強い案件は、高齢者向けの居住施設(アシステッドリビング)です。コロナ後に入居率が戻らず、破綻した施設が多く、市場の整理が始まっているといいます。大手が見ない領域を狙えるのが利点だとも語りました。

クレジットは「時期が来ている」、ただし時期は当てない

クレジット(企業の債券や融資)については、こう見ています。所有者の交代、格下げ、倒産、強制売却がゆがみを生む。経営難の企業を狙うファンドが出口を探すうちに、資金が足りなくなる局面が来る。「信用サイクルの時期が来ている」が、時期の予想はしない、というのです。AIに負けると見られるソフトウェア関連の債券が、極端に低いキャッシュフロー倍率で売られている点も、調べる対象だと述べました。

マクロの警戒は、起きる確率は低いが、起きたら織り込まれていないリスクとして語られました。米国の債務はGDP比でほぼ100%。構造的な財政赤字は年2兆ドル超です(記事は5年で50兆ドルへの道筋と紹介)。ホルムズ海峡のリスクは過小評価されていて、備蓄の取り崩しが速く、封鎖が数か月続けば原油は150ドルを超えうるといいます。

FRBは辛抱強く、利上げは1〜2回ありうるが、望ましい道は利下げ、という見方でした。システム全体の信用不安ではなく、個別案件のゆがみが中心だとしています。

現金を積んで待つ(過去の書簡と発言)

クラーマンの本質は、機会が来るまで待つことにあります。

2008年の金融危機では、ベイポストは長年、運用資産(140億ドル超)の40〜50%に及ぶ現金を積んで待っていました。投げ売りで割安になった資産を買い進め、現金の比率は約半分に下がっています。リターンを目標に置くのは愚かで、目標にすべきはリスクとリターンの関係だと述べました。グリーンスパンがバブルを放置したことや、証券化商品の不透明さも、厳しく批判しています。

2013年末には、資産の半分近い約140億ドルが現金でした。運用資産が300億ドルに達したところで、顧客に現金を返します(2010年末に続き2度目)。理由は二つ。巨額を割安に投じ続けるのは難しいこと。そして、規模を膨らませると「何か大きな案件はないか」と基準が緩む危険があることです。国債の信認低下に備えた「安いオプション」として、資産の約1.5%を金のオプションに充てました。規模より優秀さを守る姿勢です。

2020年1月の書簡では、2019年の相場を押し上げた「ロケット燃料」はやがて尽きると警告しました。ベイポストの現金比率は、2019年末で約31%だったそうです。保守的な構えが成績を抑え、2019年の運用成績は1桁台後半にとどまったと報じられています。待つことには代償がある、と本人も認めた形です。この率直さが、筆者にはいちばん信用できる点に映ります。

2017年2月、トランプ政権の発足直後には、顧客宛ての書簡で、投資家が減税に酔い、保護主義のリスクをほぼ無視していると警告しました。評価は「危険なほど高い」。トランプは値動きが荒く、市場が最も嫌うものだ、という趣旨です。

投資の手順(解説記事、確度は低め)

運用の手順は、第三者の解説記事(Guru Gems、2026年9月、確度は低い)がまとめています。

  • 投資の前に、「3年後に失敗していたら何を議論しているか」を考える(事前検死)。
  • 買う前に、売る条件を決める。
  • アナリストが持ち株に惚れないよう、「今日また買うか」と問う。
  • 借り入れは避け、契約上の保護がある優先債などを好む。

機会が乏しいときに無理に全額を投資するのは、高校の同級生と結婚するようなものだ、というたとえも紹介されています。本人の発言としては断定できないので、手順の紹介にとどめます。

2008年のインタビューでは、バリュー投資は「資質」だと言い切っています。忍耐と規律を持てるかどうかで決まる、遺伝的なものに近いといいます。「今回は違う」と信じ込む癖は、何度も同じ崩壊を生む。この言葉が出たら警戒する、というのが彼の教訓です。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

今年の発言でいちばん示唆的なのは、「AIの勝者が分からないのだから、その周辺の実物を安く持つ」という発想だと思います。メインの舞台に高値で乗るより、舞台装置である土地や電力に注目する。この迂回路は、個人投資家が真似できるものではありませんが、考え方は転用できます。話題のテーマに乗る前に、「そのテーマが必ず必要とするもので、まだ安いものは何か」と問う癖です。

もう一つ、現金の持ち方がマークスやグランサムとは違います。彼らが「いつ崩れるか」を論じるのに対し、クラーマンは「崩れたときに買える状態を保つ」ことだけを考えています。時期の予想は一切しません。その代わり、待つコスト(2019年の成績)を払うことを織り込んでいます。待つ人の強みは、予想の正確さではなく、待てる体力にあると筆者は考えます。

ただし、6月の対談の要約はまだ一つの資料に頼っており、本人の言葉の細部までは確認できていません。数字や固有名詞を引用するときは、元の資料の確認をお勧めします。


出典(日付は発言日)

  • iConnections Global Alts NY 2026 の対談(要約記事)、2026年6月15日(iConnections)
  • ハーバード・ビジネス・スクール誌のインタビュー、2008年12月23日(Market Folly)
  • Grant's Interest Rate Observer 会議での発言、2014年1月29日(Hedge Fund Alpha)
  • 顧客宛て書簡(NYT報道をCNBCが転載)、2017年2月7日(CNBC)
  • 顧客宛て書簡(2020年1月15日付、CNBC報道)、2020年1月22日(CNBC)
  • Guru Gems の解説記事、2026年9月(Guru Gems)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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