デービッド・アインホーン:「米国株は史上最も割高」と言い続け、2025年は9.0%対17.9%。それでも手法を変えない理由
「米国株は史上最も割高だ」と言い続け、その結果、相場に置いていかれる。それでも考えを変えない運用者は、頑固なのか、それとも筋が通っているのか。ヘッジファンド、グリーンライト・キャピタルの創業者デービッド・アインホーンの2026年の書簡を読むと、この問いが頭から離れません。
筆者の答えは、次の一文です。アインホーンの手法の中心は「相場のタイミング」ではなく「個別の誤解の拾い方」にあるので、市場全体への慎重さを貫いても、買い物は止まりません。ただし、金と金利で「当てに行く」賭けは別の話で、そこが今年の傷になりました。
アインホーンは1996年の創業以来、割安株を買い、割高な株を空売りするバリュー型のロング・ショート運用を続けてきました。2008年にリーマン・ブラザーズの損失が公表より大きいと主張し、後に正しかったことが証明されたことでも知られます(2008年7月のNPR)。四半期書簡は、成績の良し悪しを数字で隠さずに書くことで評判が高いものです。
この記事は、2026年に出た書簡と、5月のソーン投資会議での講演を軸にします。第2四半期の成績は、中国系の証券会社が紹介した報道(確度は低い)に頼っているため、その数字は「報道ベース」と明記します。
「史上最も割高」な米国株と、2025年の9.0%(2026年1月20日)
2025年第4四半期の書簡で、グリーンライトは2025年の運用成績を9.0%としました。S&P500の17.9%に対しては、大きな劣後です。書簡は「米国株式市場は、運用を始めて以来最も割高で、米国の歴史でも最も割高と言える」と述べています。年末のエクスポージャー(持ち高)は総計139%、純ロング39%。創業来の年率は12.7%(S&P500は10.2%)、累計3,406%で、顧客の利益は61億ドルと記しました。
収益の源泉は変わっています。2025年はマクロ運用が純収益に12.8%寄与し、ロングは2.4%、ショートは6.3%の足かせになりました。マクロの主役は金で、年間64%の上昇。書簡によれば、中核の見立ては「財政・金融政策の無責任が、いずれ大問題を起こす」ことですが、2025年の主因は別にありました。米国が覇権を失う過程で、各国がドル依存を減らし、金準備を増やしたことです。銅は先物のオプションで保有して約40%上昇し(AIが銅を必要とする)、米国の利下げを市場より早く当てて、金利先物でも収益を上げました。原則は「マクロの洞察を得たら、それを可能な限り直接的な形で表現する」ことだといいます。
「両足をブレーキとアクセルに」(2026年4月13日)
2026年第1四半期の書簡は、投資家が悪いニュースで売らないよう「条件づけ」されたという分析から始まります。コロナ、2022年夏、2023年秋、2025年の「解放の日」。売った人は毎回、チェックマーク形の急回復で損をしました。売り続けた人は運用者を辞めたか市場から去り、残ったのは受動的な投資家と「売らないことを学んだ人」だけです。最も慎重な人でも、片足をブレーキに、片足をアクセルに置いて投資している、と書いています。
その状況で、グリーンライトは総エクスポージャーと純エクスポージャーを低く保ち、資本保全を最優先にして、下落局面で攻めに転じる余力を残す方針を取ります。慎重さの代価は大きなものでした。2026年5月は5.1%下落し、年初来は1.7%の上昇にとどまっています。同時期のS&P500は年初来で10%超、ナスダックは16.1%上昇しました(2026年6月、インスティテューショナル・インベスター)。
第2四半期の成績は、報道によれば-4.3%(年初来1.9%)で、S&P500の15.2%上昇に対し大きく劣後しました。書簡は「強い相場で劣後するとは予想したが、損失は予想していなかった」と述べたと伝えられます。マクロが約4%の足を引っ張り、要因は金と米金利の損失、ハイプ(熱狂)の強い分野でのいくつかの空売りの損失だそうです(報道ベース、確度は低い)。
「劣後は予想したが、損失は予想していなかった」。筆者は、この一言にいちばん正直さを感じました。慎重な運用者でも、置いていかれる覚悟はしていても、自分の賭けで負ける覚悟は薄くなりがちだからです。
金は利益を確定し、金利は持ち続ける(2026年4月13日)
金は、2026年初の1オンス4,339ドルから、1月下旬に5,595ドルまで上がりました。実物とバイナリー・コール・オプション(一定の価格を超えれば一定額を受け取る取引)で大きな利益を得ています。オプションが現値に入ると性質が変わり、深く外れたプットを売ったような動きになるため、大半を売って利益を確定しました。そのため、戦争で金が下げた3月以降も、利益の大半を守れたといいます。金は引き続き保有しますが、オプションは大幅に縮小しました。
金利は逆です。SOFR先物のロングを維持しています。新FRB議長が「データ依存」から将来を見る枠組みに変え、景気後退を防ぐために利下げに動くと見るからです。戦争で原油が急騰し、市場は利下げに疑念を持ち、一時は利上げまで織り込んだため、3月と四半期で損失になりましたが、持ち続けるといいます。歴史的に、原油価格のショックは多くの景気後退に先行しており、成長と雇用への逆風になる、という見立てです。
ただし、9月にFRBが利上げに動いたことを踏まえれば、この賭けは逆風が続いたはずです。9月以降の本人の説明は、今回の素材にはありません。
イラン戦争については、書簡は率直に認めています。戦争の行方、停戦、ホルムズ海峡の閉鎖がいつまで続くか、原油と経済への影響のどれも「見当がつかない」。大統領の発言が数時間ごとに変わることへの当惑も記し、複数のシナリオを並べたうえで、市場がすでに何を織り込んだかを先に評価する方針を示しました。結論は、多くの投資家が「好ましい決着」に傾いており、原油が100ドル超という前提なら、株はもっと深く調整するはずだ、というものです。
「AIの敗者」と見られた銘柄を拾う(2026年4月〜5月)
慎重な運用者ですが、買い物は積極的です。第1四半期の書簡は、AIによるホワイトカラー雇用への影響を恐れて売られた、学生ローン最大手のSLMを、予想EPS(1株利益)の約7倍・4倍(2026年・2028年)で購入したと明かしました。約9割の融資に親や祖父母の連帯保証があり、AIが雇用を変えても、労働者は適応して再教育すると見ています。コムキャストから分離して指数から外れ、売られたバーサント・メディアや、米国販売の不振で売られたクロックスも買いました。
5月15日のソーン投資会議の講演(NotebookLMの整理による)では、米国市場全体は割高に見えるが、経営陣が事業を持続可能で規律ある現金創出型に再配置している企業には、明確な機会がある、と語りました。例に挙げたのは、行動医療のアケイディア・ヘルスケア、公的医療保険のセンティン、エンジニアリングのフルアー、ヴァーサント・メディア、ヴィクトリアズ・シークレットです。
アケイディアは、2022年の約90ドルから2024年末の報道で急落し、2026年1月に約11ドルまで下げました。調査の結果、問題は経営面に限られ、資産の質は高いと判断し、平均取得16.24ドルで上位5位まで増やしています。期末には23.39ドルまで戻りました(第1四半期書簡)。2024年に約51ドルで買った小さな初期の買いは損失で、これも隠していません。
売却した銘柄も、数字つきで開示しています。レバノン国債は1年の保有で内部収益率66%。キンドリルは4年超で17%。グローバル・ペイメンツはほぼ原価で手放しました。グラフィック・パッケージングは15.06ドルから9.94ドルに下げましたが、「割安すぎる」として保有を続けています。
市場構造は「壊れている」(NotebookLMの整理、2022〜2025年)
背景にあるのは、バリュー投資の環境変化に対する本人の診断です。動画の整理によれば、彼は伝統的な機関投資家が減り、パッシブ運用とクオンツ取引が増えた結果、市場の構造が根本から壊れていると述べています。PER10〜11倍の割安株を買って13〜14倍への再評価を待つ従来の道は、もう機能しない。だから、PER3〜5倍で無借金・低負債の放置された企業を探し、自社株買いや配当で、企業自身に価値を還元させる。外部が気づかなくても、年に10〜20%の自社株買いをすれば、数年で1株の価値が上がるという数学を使います。
自分の誤りへの態度も一貫しています。「間違っていると分かったら、すぐに考えを変えろ」。誰でも予測が当たるのは65〜70%程度で、30〜35%は間違えるという前提を受け入れる。投資は「パズル解き」で、公表された事実に、経営陣のトーンから推論を重ねる。自分のことは、ライバルが消えた市場の「メイタグの修理マン」と笑います。ただし、これらの引用は字幕との照合が済んでいないので、紹介にとどめます。
規模を追わない(2026年7月)
グリーンライトは、2026年7月1日付でヘッジファンドを新規資金に閉じると発表しました(インスティテューショナル・インベスター)。理由は「再び事業を支える規模に戻った」ため。閉鎖は無期限になりうるとのことです。2020年5月に再開した経緯があります。
書簡は、米国株の割高さに加えて、トランプ大統領の「クレジットカード金利に10%の上限」「政府が企業の株式を持つべき」という発言を挙げ、社会主義への懸念はニューヨーク市の新市長だけではないと皮肉りました。規模を追わず、運用に適した大きさで止める姿勢は、グリフィンやクラーマンにも通じます。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
アインホーンの書簡で印象に残るのは、劣後の理由を市場のせいにせず、自分の構えの代価として、数字で書いていることです。「史上最も割高」と言い続けて相場に置いていかれる年が続いても、考え方を変えない。変えない理由は、手法の中心が「相場のタイミング」ではなく「個別の誤解の拾い方」にあるからだと思います。割高な市場全体を嘆きつつ、売られすぎた銘柄は買う。この二つは矛盾せず、片足ずつ使い分けているのでしょう。
ただ、筆者が割れ目だと見るのは、マクロの賭けの扱いです。金と金利の賭けが外れた第2四半期は、マクロで稼いだ2025年の成功が、そのまま重荷に変わった例でもあります。マクロを足すと分散にはなりますが、別のリスクも持ち込む。マークスやクラーマンが「時期を当てない」と割り切るのに比べ、アインホーンは金や金利で「当てに行く」人です。その差が、第1四半期の利益と第2四半期の損失の差に出たのではないか。筆者は、個別の誤解を拾う力のほうに、より大きな信頼を置いています。
もう一つ、2025年秋の書簡でAIの資金調達を数字で逆算した人が、2026年にはAIの「敗者」を安く買っています。技術の勝者と投資家の勝者は別だ、という論理を、売りと買いの両側から実行しているわけで、ここは参考になります。
読者が見るべきは、グリーンライトの次の書簡で、金と金利の損失をどう説明するかです。そこに、手法を変えない人の本音が出ます。
出典(日付は発言日。書簡は掲載日)
- グリーンライト 2025年第4四半期の投資家向け書簡、2026年1月20日(Hedge Fund Alpha)
- グリーンライト 2026年第1四半期の書簡、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)
- インスティテューショナル・インベスター「Greenlight trades upside protection as rally extends」、2026年6月1日(Institutional Investor)/同「Greenlight to close to new capital」(Institutional Investor)
- 第2四半期書簡の紹介記事(報道ベース、確度は低い)、2026年10月13日(華盛通)
- ソーン投資会議2026での講演、2026年5月15日、ほか動画の整理(NotebookLM)
- NPR、2008年7月1日(NPR)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。