藤野英人:28億円が「3,240円」になった日と、ドン・キホーテ、セリア、フジテレビ──当たりと外れは同じ一本の線の上にあった
成功談より先に、失敗談が動画の題名になる運用者は珍しい。レオス・キャピタルワークスの創業者、藤野英人がそうです。2025年9月6日に楽待が公開した動画の題名は「資産28億円が『3240円』に」でした。題名の数字は公開情報なので、これだけは確かです。
本稿は、この動画を含む藤野の出演動画をNotebookLMで整理したノートをもとに、彼の当たりと外れを場面ごとに並べます。ノートは原文との照合が済んでいない部分があり、数字には出どころを添えます。
題名だけ見ると、運の悪かった人の話に思えます。ところが場面を並べると、そうではありませんでした。藤野さんの当たりと外れは、同じ一本の線の上にあります。世間のレッテルを剥がして中身を見たときに勝ち、見て出した自分の結論に従わなかったときに負けているのです。
外れ1:自分で決めた規則を、市場の大きさを理由に破った
ノートによれば、藤野が40代のころ、あるパチスロ関連企業が新規上場しました。調べると、社長の人柄は好印象だったものの、企業の質には疑問があり、自分の基準では「投資してはならない」判定でした。ところが、その会社は時価総額が大きく、運用の比較対象の中で存在感がありました。藤野は「市場での位置が大きいから無視できない」という理由をつけて、自分の規則を破って買います。株価は懸念どおりに急落し、ファンドは大きな損をしました。
ここで重要なのは、損失額ではなく、失敗の形です。分析は正しかった。間違えたのは、分析の結論に従わなかった点です。藤野の教訓は、どれほどベテランになっても、自分で決めた規律を例外なく守る、というものだと整理されています。
筆者が胸に刺さったのは、この失敗に「分析の誤り」がないことです。自分の頭が出した答えを、外の事情で上書きしてしまう。投資の失敗は、知識の不足より、こういう小さな言い訳から始まることが多いのではないでしょうか。なお、この件の金額や年はノートにありません。時期は「2000年代半ば」とノートが推定するだけなので、本稿でも確定とはしません。
外れ2:2008年、28億円が3,240円になる
最大の失敗は、リーマンショックの後に来ました。ノートによれば、藤野が創業したレオス・キャピタルワークスは、2007年ごろ、会社の価値が40億円とされ、藤野の持ち分は約28億円でした。2008年秋の暴落で運用残高が激減し、会社は存続の危機に陥ります。会社を残すため、藤野は自分の株を1株1円で手放す決断をしました。2009年2月4日に口座に振り込まれたのが3,240円。親戚から借りて会社に入れた資金も失い、約2,000万円の借金が残った、といいます。
役員から平社員の電話番に降格し、給料は半分以下になりました。品川の水族館でイルカのショーを見ながら、涙が出たという逸話もノートにはあります。辞めようと同僚に謝ると、「お金のために私を誘ったんですか。私はまだ頑張ります」と言われ、踏みとどまりました。実際の3,240円は、銀行窓口で現金として引き出し、額に入れて社長室に飾ったとされます。
この件の数字のうち、28億円と3,240円は、動画の題名で裏づけられます。1株1円、2,000万円、40億円という数字は、ノートの記述だけで、一次の発言と照合していません。会社がその後に運用残高1.8兆円規模へ育ったという話も、ノートの整理です。
数字の重さもさることながら、「お金のために私を誘ったんですか」という同僚の一言が、筆者にはいちばん響きました。28億円が消える物語の中で、人を引き止めたのは金額ではなかった。ここは、あとの「見方」で触れます。
この経験が残したもの:「2日半の法則」と現金3割
別のノートは、この暴落の経験から、藤野が経験則を二つ引き出したと整理しています。一つは、暴落は2日半ほどで一度下げ止まり、3日目の前場付近が底の節目になりやすいという見方。もう一つは、普段から現金を3割残し、5〜10%以上の急落では3日目あたりに割安株を買い増すという運用ルールです。2026年9月の動画でも、現金を3割残す理由が語られています。
ここは、失敗が運用ルールに変わった例として読めます。ただし「2日半」は本人の経験則であり、統計で検証されたものではありません。ルールの形で覚えておく価値はありますが、数字そのものを信じ込むのは危ういと筆者は考えます。
当たり1:ドン・キホーテを「バッタ屋」の時代に買う
成功談の代表が、ドン・キホーテ(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)です。上場してまもなく、店は10店舗ほどで、市場には「バッタ屋」と見られていました。藤野は新宿・歌舞伎町の店に深夜2時に行き、高校生を含む多様な客がにぎやかに買い物をする様子を見て、ただの安売り店ではなく、娯楽性のある店だと判断します。また、同業の粗利益率が1〜2%程度なのに対し、この店は5〜6%以上ある、という構造も確認したといいます。
結果は、約20年で株価が100倍になった、というのが本人の語りです。教訓は、誰でも見に行ける現場に足を運び、世間のレッテルより店の中身を見ることでした。
当たり2:セリアと、安物売りへの偏見
もう一つの例が、100円ショップのセリアです。2009年ごろ、100円ショップは「安物売り」として、株式市場で高い評価を受けていませんでした。藤野は、在庫管理の仕組みやデザイン性の高い売り場に着目して買います。以後10年ほどで約100倍になったそうです。
ドン・キホーテと同じ型です。市場が低い評価のまま放置している企業の中に、仕組みで勝っている会社がある、という見方です。
当たり3:スポンサーゼロのフジテレビ
近年の例が、フジ・メディア・ホールディングスです。2025年に不祥事対応への批判でスポンサーが一時ほとんどいなくなり、株価が急落した局面で、藤野は「0がマイナスになることはない」と判断したといいます。膨大な不動産の含み益があり、短期で行き詰まる恐れが小さいこと、経営陣が交代したこと、現場の若手と話して改革の意欲を確認したことが理由とされます。
2026年6月の動画の題名には「今3倍」とあり、株価が約3倍になったことは題名で裏づけられます。保有比率は、ノートは5.12%とするものの、動画の題名や報道では「約5%の大株主」と紹介されているため、約5%と書くにとどめます。
三つの当たりに共通するもの
ドン・キホーテ、セリア、フジテレビ。業種も時代も違う三つの当たりを並べると、共通点が三つ見えてきます。
一つ目は、市場の評価が低いこと。「バッタ屋」「安物売り」「スポンサーゼロ」と、いずれも悪いレッテルを貼られていました。二つ目は、レッテルの裏に、数字で確かめられる中身があったことです。粗利益率の高さ、在庫管理の仕組み、不動産の含み益。三つ目は、自分の足で確かめたことです。深夜2時の歌舞伎町の店、売り場、現場の若手との対話。机の上の資料だけでは、レッテルは剥がせません。
ここで気をつけたいのは、レッテルが貼られているだけで買ってはいけない、ということです。悪い評価の裏に中身がなければ、それはただの悪い会社です。藤野さんの強みは、レッテルを疑うことではなく、疑ったあとに中身を確かめる手間を惜しまないことにあると、筆者は読みました。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
藤野さんの話で目を引くのは、当たりの型と外れの型が、同じ一本の線の上にあることです。当たりは、世間のレッテル(バッタ屋、安物、スポンサーゼロ)を剥がして中身を見たときに生まれました。外れは、自分の中身の評価(質が低い)を、世間の事情(時価総額が大きい)で上書きしたときに生まれています。つまり、勝敗を分けたのは、現場を見ることそのものより、見て出した結論に従ったかどうかに見えます。
もう一つ、28億円から3,240円は、投資の失敗というより、会社の持ち分という集中の失敗です。個人投資家が自分の資産の分散を考えるとき、勤め先や事業の持ち分が最大の集中になりうる、という見方もできます。ただし、これは本人の主張ではなく、筆者の解釈です。
ここは割れる所だと思います。「失敗が運用ルール(現金3割)に変わった」と読めば、美しい学びの物語です。しかし、現金を3割残せば、強気相場では取り残されます。筆者は、このルールを「賢い」と見るか「臆病」と見るかは、読者が、暴落で眠れなくなるタイプかどうかで決まると思っています。眠れなくなる人にとっては、3割の現金は、利回りではなく安眠のための費用です。
読者への宿題を一つ。自分が過去に「買ってはいけない」と思いながら買った銘柄はありませんか。理由が「みんな持っているから」「無視できないから」だったなら、それは藤野さんの外れ1と同じ型です。
前に触れた同僚の一言についても、書いておきます。「お金のために私を誘ったんですか」という言葉は、会社の価値が28億円どころか1円になった局面で、人が残る理由を教えてくれます。資産の数字が消えても、一緒に働く理由が残っていれば、会社は続けられる。これは藤野さんの「人を見る」投資の裏返しでもあるでしょう。ドン・キホーテもフジテレビも、最後は現場の人の熱量を確かめています。数字と人。この二つを両方見ることが、彼の型だと感じます。片方だけでは、レッテルを剥がしても、中身の確かさまでは測れないからです。
もっとも、この逸話はノートの記述で、一次の発言との照合は済んでいません。美談として受け取りすぎないよう、距離を置いて読むのが安全です。
最後に、この記事の答え合わせの方法を書いておきます。藤野さんの言葉が正しいかどうかは、次の急落のときに見えます。現金を3割残していた人が、本当に3日目あたりで買い増せるのか。そこで手が止まるなら、ルールは知識として持っているだけで、自分のものにはなっていません。暴落は、他人の経験則を、自分の経験則に変える試験の日でもあります。そのとき手を動かせるように、買う銘柄の候補と、買う条件を、平時のうちに書き出しておく。それが、藤野さんの失敗談から持ち帰れる、いちばん実用的な一歩だと筆者は考えます。書き出すだけなら、お金も才能も要りません。
なお、本稿で採らなかったのは、2026年の社長・CIOの交代と新事業に関する記述です。ノート自身が根拠が薄いと注記しており、日付と動画の対応も確認できていません。
出典
- 藤野英人 楽待「【藤野英人の絶望】資産28億円が『3240円』に…《株怖》」、2025年9月6日(題名のみ確認)
- 藤野英人 PIVOT「【DIGEST】投資は10年先を読め」、2025年3月5日(ノート経由)
- 藤野英人 CARINAR「100万人が資産を預ける投資家の思考法/どん底のフジテレビに投資して今3倍」、2026年6月18日(題名のみ確認)
- 藤野英人 田端大学 投資学部「フジテレビに大株主が急浮上!」、2025年2月7日(題名のみ確認)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。