株譜
INVESTOR OUTLOOK

藤野英人:日経平均10万円は「既定路線」、ただし薔薇色ではない。強気と現金3割は矛盾しない

人物

36年間、運用の現場に立ってきた人が、「未来を予測できたことは一度もない」と言う。藤野英人は、そういう人です。

その藤野が2026年に語った日本株の話を、筆者は一通り読みました。強気なのに現金を3割も持つのは、矛盾でしょうか。筆者は、そうは思いません。藤野の強気と慎重さは矛盾していません。「長期では株を持つ。短期では過熱に乗らない」という役割分担が、現金3割という具体的な数字になっているのです。

藤野は2026年6月15日付で、レオス・キャピタルワークスの社長とファンドマネージャーを退きました(同年6月3日のプレスリリース)。いまはレオスのファウンダー、HEVN STAGE代表取締役会長、「フッシーの会」主宰です。運用の最前線から一歩引いた立場で、何を語ったのか。ここでは本人の発言だけを扱い、レオス傘下の月次レポートの内容は本人の見解ではないので含めていません。

「未来を予測できたことは一度もない」から始まる

1月20日の日経BOOKプラスのインタビューで、藤野は36年を振り返り、未来を予測できたことは一度もなく、簡単な一年も一度もなかったと語りました。だから不確実な未来を前提に、勝ったり負けたりしながら進む。基本は長期の分散で、一部は現金で持っておく、というわけです。

筆者は、この出発点がいちばん大事だと思います。強気の見通しを語る人が「予測は当たらない」と先に断っている。これは弱腰ではなく、後の「現金3割」を支える土台になっているからです。

同じインタビューで目を引いたのが、2026年を「資本主義に対して民主主義が反撃する年」と見立てた点です。インフレで物価は上がるのに給料が上がらず、苦しい人が増えています。選挙は「お金の総量」ではなく「人の頭数」で決まります。米国の中間選挙が最大のイベントで、専門家の多くが強気予想を並べるなかでも、民主主義が相場に何らかの変化を起こす仮説は頭の片隅に置くべきだ、という話でした。

分散投資への指摘も現実的でした。株も金もほぼ全資産が上がる局面では、資産同士の値動きがそろい、分散の効きが弱くなります。唯一、相対的に下がっているのは通貨です。現金もまた価値が上下する資産と考えるべきだ、と藤野は言います。現金を持つ理由を、安心のためではなく「選べる自由」のためと捉えている点が、筆者には新鮮でした。

暴落の翌日に言えた「誰にもわからない」

3月9日、N高グループ投資部での特別講義は、日経平均が急落した直後の収録でした。藤野は、イランの情勢がどう収まるのかは「誰にもわからない」と率直に述べています。ドローンやAIの軍事利用で戦争の形が変わり、過去の歴史をそのまま当てはめられないからです。それでも、世の中は一直線に墜落し続けないので、どこかで反転は来るはずだ、とも話しています。

暴落の翌日に「わからない」と言い切るのは、案外むずかしいものです。筆者は、ここに藤野という人の誠実さがあると感じました。

日本株の話は具体的でした。PBR(株価が会社の純資産の何倍か)が1倍を割っている企業が改善を打ち出す姿勢は、見栄え重視でも「何もしないよりまし」と評価します。そのうえで、東京証券取引所の元社長の整理を借り、上場企業を三つに分けました。本質的に改善する会社、何があっても動かない会社、空気で動く会社です。大事なのは三つ目をどう動かすか。PBR1倍を超えて満足せず、米国の2.5〜3倍の企業を見れば、その先の余地が見えるといいます。

投資の作法は意外なほどあっさりしています。損切りや利確のラインは設けない。本質的によくないと思えば売り、よいと思えば買う。20〜30年勝ち続ける日本株は「ないかもしれません」から、一つの銘柄を長く持つことを前提にするより、世の中の変化を柔軟に見る力が大事になる、という考え方です。例として「株仙人」と呼ばれる片山晃を挙げ、約60万円の元手を6年半で10億円にし、その後約200億円まで増やしたという話(本人談の紹介)を引きつつ、並外れた努力が前提だとも釘を刺しました。

自分の仕事の価値は、AIで下がる

同じ講義で藤野は、自分の職業の話までしました。予測、調査、分析という運用者の価値は、AIで大きく下がる。運用はあと1〜2年でAIに任せられ、プロのファンドマネージャーが不要になる可能性もある、と。根拠は実体験です。ピッチイベントで32社をAIに評価させたところ、審査員の見立てとほぼ一致して驚いたといいます。

自分の仕事が要らなくなると、運用のプロ自身が語る。この一言がいちばん刺さりました。筆者はここを、悲観ではなく個人投資家への実践的な忠告として読みます。情報を集めて分析する力で差がつかなくなるなら、残る差は「行動の規律」にあるからです。

藤野の見立てでは、上場株ではAIと同じ条件で戦うことになり、勝てる余地が小さくなりえます。データの乏しい未上場やスタートアップは、まだAIが読み切れません。日本は解雇しにくいため、効率化は新卒採用の抑制として表れ、「第二就職氷河期」が来るかもしれないとも述べました。

「重い経済」への移行と、モメチン相場への警戒

8月5日、日経BOOKプラスに載った書籍の再構成で、藤野はAIの見方を示しました。AIの本質は電力とデータの問題だ、というのです。見た目は軽くても、発電、送電、蓄電、冷却といった「重い」基盤の上でしか成り立ちません。世界はソフト、広告、金融の「軽い経済」から、エネルギー、インフラ、物流、製造の「重い経済」へ移っており、日本の製造業や商社にチャンスが来ている。投資家は成長率だけでなく、その企業がどの供給構造に位置するかを見るべきだ、という主張です。

一方、7月9日公開の楽待の動画では、半導体など特定の急騰銘柄に資金が極端に集中する過熱を指して「モメチン相場」と言っていました。キオクシアについては「プロ投資家としては買えない」と言い切っています。短期の個人投資なら波に乗ることも否定しませんが、職業投資家としては慎重に構える。その裏で、利益を出しているのに放置された東証スタンダード市場の銘柄に目を向けるべきだ、という趣旨も語っています。

筆者が面白いと思うのは、AIの恩恵を「重い経済」の側に探しながら、AI関連の過熱には乗らない点です。強気の理由と、慎重の理由が、同じ「どこに実体があるか」という問いから出ています。

10万円は既定路線、ただし持たざる人が苦しい

8月6日の日本経済新聞電子版に出た再構成記事で、藤野は「日経平均10万円」はすでに既定路線だと述べました。ただし薔薇色の話ではないと強調します。インフレでは、資産を持つ人と持たない人の差が広がります。持たない人は生活費の上昇だけを受けるからです。都心では、入居者の入れ替え時に賃料が10〜15%上がる例もあります。デフレ期は我慢が得でしたが、インフレ期は黙って耐えるだけでは苦しくなる。賃上げ交渉や転職など、行動を変えるべきだという提案でした。

9月13日付の同紙では、AI革命の時代には、株に投資していないこと自体が大きなリスクになりうると論じています。2026年2月に話題になった米シトリニ・リサーチのレポートが警告する「見せかけのGDP」にも触れました。AIで企業利益が増えても、雇用、賃金、消費が弱くなる、という懸念です。AIの恩恵が先に株価へ出るなら、果実を受け取れるのは株の保有者だ、という論理です。

筆者は、この主張の前半には同意しますが、後半には少し引っかかります。「株を持たないのがリスク」という理屈は、相場が上がり続ける間は強いものの、持った直後に下がる人には酷な言い方だからです。この点を、藤野は次の守りの規律で補っています。

9月16日と17日に公開されたプレジデントの動画で語ったのは、こうでした。現金は常に3割残す。暴落は概ね2日半で一度止まるという経験則(「2日半の法則」)があるので、慌てて売らない。残した現金で、3日目の前場あたりに冷静に買い増す。基本は「小さく、ゆっくり、長く」です。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

藤野の発言を並べると、強気と弱気が同居しているように見えます。日経平均10万円を既定路線と呼びながら、モメチン相場には手を出さず、現金は3割置く。しかし冒頭に書いたとおり、これは矛盾ではありません。「予測は当たらない」という出発点から見れば、強気で株を持つことと、外れた時の備えを置くことは、同じ一本の線の上にあります。

気になるのは、AIが運用者という職業そのものを脅かす、と本人が語っていることです。個人投資家にとっては、情報の差が縮むほど、差が出るのは行動の規律の側になります。現金3割と2日半の法則は、まさにその規律の見本でしょう。

ただし宿題も残ります。現金を3割置いたまま上昇相場に取り残される悔しさと、どう折り合うか。これは読者それぞれが、自分の生活費と気持ちに照らして決めるほかありません。見るべきは、相場が荒れた日に、自分が「2日半」待てるかどうかです。


出典(日付は発言日・公開日)

  • 藤野英人 日経BOOKプラス インタビュー、2026年1月20日(日経BOOKプラス)
  • 藤野英人 N高グループ投資部特別講義、2026年3月9日(ログミー ファイナンス/2/3)
  • 藤野英人 日経BOOKプラス、2026年8月5日(日経BOOKプラス)
  • 藤野英人 日本経済新聞電子版、2026年8月6日(日本経済新聞)/同、2026年9月13日(日本経済新聞)
  • 楽待「【日経平均10万円時代に備えろ】モメチン相場のキオクシア…」、2026年7月9日(YouTube)
  • プレジデント公式チャンネル「なぜ現金を3割残すのか?…」、2026年9月16日(YouTube)/「NISAの積立額はどう決める?…」、2026年9月17日(YouTube)
  • レオス・キャピタルワークス 役員異動のプレスリリース、2026年6月3日(PR TIMES)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、株譜の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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