暴落が来たら何をするか:先に売る、現金で待つ、動かず積む、下で買う。割れ目は「前提」にあった
暴落を予想する人は多くいます。けれど、予想が当たるかどうかとは別に、「では来たら何をするのか」に答える人は、驚くほど少ない。2026年の発言を集めると、暴落への備えを語った人は25人いました。答えは大きく四つです。先に売って離れる。現金を持って待つ。動かずに積み立てる。下がったところで買う。
四つは、ぶつかり合っているように見えます。けれど実際は、行動が違うのではなく、暴落についての「前提」が違うのです。 先に売る人は「暴落は避けられる」と考え、現金で待つ人は「避けられないが、買い場になる」と考えます。動かない人は「暴落は短い」と信じ、下で買う人は「底は見分けられる」と信じています。割れ目は、その前提の正しさにあります。
なお、本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。個別銘柄の売買を勧めるものでも、暴落の時期や規模を予想するものでもありません。
行動1:先に売って、暴落から離れる
澤上篤人:売って初めて、投資は一件落着する
澤上篤人は、昨年10月の個人ブログで、投資は売って資金を回収し、利益を手にして初めて一件落着すると書きました。相場がどこまで上がるかは神のみぞ知る。決定的に大事なのは「どこかで投資収益を確保する」ことだといいます。高値圏の熱狂では誰も早めの売りを考えず、それがかえって上昇を続けさせる。だから個人は、大事なお金を暴落で失わないよう、早い段階でバブル高から離れよ、という立場です。
6月のブログでは、大きく下げた個別株を少しずつ拾う以外は、大きな下落を待つ一手だと書きました。待つのも投資で、買い向かうのは投げ売りの時だ、と。日経平均が1,800円超下げた10月13日には、強烈な上昇相場でも大きな下げを短期間に繰り返すと地合いが一変し、強気の買いが尻すぼみになって、売り方が勢いを増すと解説しています。
スピッツナーゲル:売らずに、尾部を守る
マーク・スピッツナーゲルの「先に売る」は、少し形が違います。9月の電子メール(報道による)で、S&P500がなお約20%上がって8,000を超えたあと、1929年以来とも言える約80%の暴落が来ると答えました。熱狂の最終局面は「数か月先」。リスクの主因は、AIそのものの価値ではなく、長年の超低金利、パンデミック期の刺激策の遅れた副作用、システム全体の過剰なレバレッジだといいます。別の報道では、バーリの懸念に同意しつつ「タイミングは外す」と述べ、すぐに崩れる引き金は見当たらないとも話しました。つまり彼は、先に降りるのではなく、上昇に乗りながら、いざという時の大きな下げだけを守る形をとっています。
ダリオとポール・チューダー・ジョーンズ:売れないことが、いちばん怖い
レイ・ダリオの言葉で、筆者がいちばん考えさせられたのは「富とお金は同じではない」でした(Fortune経由、二次情報)。AI企業の持ち分を100ドルで買い、値上がり益を担保に借りたとします。市場が崩れて、皆が現金を欲しがると、価格が25ドルまで落ちても借入は返さねばなりません。富は、売って初めてお金になる。それを人は忘れる、という指摘です。10月には、AIは「典型的なバブル」で崩れる点に近づいていると述べ、引き金として、富裕税や、含み益を現金化させる動きを挙げました。
ポール・チューダー・ジョーンズも、同じ方向から警告しています。機関投資家の持ち資産に占める未公開株(PE)の比率は、2007〜08年の約7%から約16%に上がり、不動産やインフラも増えた。2008年より「はるかに非流動的」で、資産の置き場に注意が必要だというのです。
行動2:現金を持って待つ
バフェット:買いの好機は、誰も電話に出ない時
バフェットは3月のCNBCで、何が起きても対応できるよう、常に現金を持つと述べました。形は短期の米国債。マネーマーケットファンドやコマーシャルペーパーは使わない。2008年に怖い思いをしたからだといいます。5月には、買いの好機は誰も電話に出ない時だと話しました。暴落時は証券会社が電話に出ないか、出ても売値と買値の幅が広く、こちらの意図を逆手に取られる。屠殺場に行くようなもので、しばらくホットドッグが食べられなくなる、という言い方です。ここは思わず笑ってしまいましたが、現場を知る人の実感でしょう。
タッカー、パブライ:現金は「いつでも使える権利」
ラジーブ・タッカーは、「現金は、不特定の資産に対する、不特定の行使価格で、不特定の時点に使える、コールオプションだ」という考えを引きました(ゼロダの記事、二次情報)。何がいつどれだけ下がるかは分からない。けれど、下がった時に現金があれば、すぐ動ける。この見方に立つと、現金は「遊んでいるお金」ではなく「持っているだけで価値がある権利」になります。
運用現場の動きも見えます。今年3月の急落で、PPFASは民間大手銀行を買い増しましたが、現金比率は23%から22%へ小幅に下がっただけで、業界で最高水準が続いたといいます(エンジェル・ワンの整理、二次情報)。8月の書簡では、現金は最大約25%から14〜15%まで下がり、「近く1桁台」にすると予告しました。2年の時間調整と一部の価格調整で、投資機会が増えたからです。
モニッシュ・パブライは、バークシャーB株を例に、時価総額の約4割が現金で、暴落時には「ただのオプション」があると説明しました。8月には、向こう10年のS&P500が年率マイナス2%からプラス2%の間でも驚かない、とも話しています。ヴィジャイ・ケディアは、強い新しい発想が乏しいため、いくつか銘柄を売って現金を作ったと述べました(二次情報)。
オ・ゴニョンとワツァ:現金だけに頼らない
オ・ゴニョンは9月のインタビューで、変動の大きい局面では現金を持つことが最重要だと述べました。下落時にさらに安く買う機会になり、ヘッジにもなるからです。ただし現金だけに寄らず、配当株や債券のような「キャッシュフローを生む資産」でポートフォリオを組むとも言います。プレム・ワツァは、低金利だった2019〜22年に利回りを追わず、債券ポートフォリオの半分超(2021年は67%)を現金と短期国債に置きました。そのため、利上げ後に高い利回りで再投資できたと説明しています。
藤野英人:現金も「価値が上下する資産」
藤野英人の視点は一風変わっています。現金も「価値が上下する資産」と捉えるべきだ、というのです。3月の講義では、株が急落するその日、金も下がっていたと指摘しました。本当のパニックなら、金がここまで上がっているぶん、現金確保のために金も売られるだろう、と。インフレで不利だった円やドルの現金が、パニックの局面ではむしろ強みを持つ可能性もあるといいます。
アインホーン:売った人は、毎回損をした
デビッド・アインホーンは、4月の書簡で、近年の投資家は悪いニュースで売らないよう「条件付け」されたと書きました。コロナ、2022年夏、2023年秋、2025年の「解放の日」と、売った人は毎回、チェックマーク形の急回復で損をしたからです。それでもグリーンライトは、保有の総量と純量を低く保ち、資本の保全を最優先に、下落局面で攻める余力を残す方針です。ただし、5月までは相場の上昇に取り残されたという注記がつきます。備えには、取り残されるという代金がかかります。
行動3:動かずに積み立てる
奥野一成:理解のない人が、全部売ってしまう
奥野一成は、相場を予測せず、5年後にリスク資産をどれだけ持ちたいかという自分の計画に従って、ドルコスト平均法で淡々と積み立てるのが、再現性の高い方法だと述べました。「〇〇ショック」が紙面に踊る局面では、多めに積み立てる柔軟さも持つ。2020年3月のコロナショックで積立を続けた人は、1〜2年後に資産を大きく増やしたといいます。
さらに警告しているのが、保有先への理解が浅いまま暴落に遭うと、全部売ってしまうことです。2024年8月5日の日経平均急落では、投資先を理解していない新NISAの初心者に、全部売ってしまった人が多かった。理解のある投資家は積立を続け、回復局面で資産を増やした、と書いています。
続ける理由は、人それぞれ
ヘンドリク・レーバーは、相場は毎月、関心のあるテーマを気まぐれに移すと述べ、だから積立と長期保有が理にかなうとしました。ジョン・リーは、サムスン電子とSKハイニックスを持ち続けるべきか、現金化すべきかを聞かれて、「6か月後、1年後の価格を知る人は世界に一人もいない」と短期予測を拒み、「現金化せよ」は最悪の助言だと言い切りました。佐々木融は、急上昇した資産を追いかけず、少しずつ積み立てて長く持つ規律が重要だと述べています(二次情報)。
ピーター・リンチは、1929年のような大恐慌が再び起きる可能性は低いとみています。失業保険、社会保障、SEC、証拠金規制があるからです。ただ、運用していたマゼランも、10回あった相場の下落では、毎回市場より大きく下がったと明かしました。動かない理由は、傷つかないからではなく、傷ついても戻ってくると知っているからなのでしょう。
林園は、「買ったら売らない」戦略は変えないと答えました。イ・チェウォンは、「損切りは絶対にしない。誤りを犯した時は即売る」と述べ、売買を、価値の判断が正しいかどうかで決めると説明しています。ラメデオ・アグラワルは、センセックス(インドの株価指数)の年12〜15%の複利は持続可能で、暴落時に買えばさらに高く、天井で買えば約10%だと話しました。S・ナレンは、積立と、日々の相場やSNSの雑音に動かされない気質が重要だと説いています(二次情報)。
行動4:下がったところで買う
ジェレミー・グランサムは、自分は常に弱気なわけではなく、2009年3月には「恐怖の中で再投資せよ」と書いたと述べました(本人インタビュー、二次情報)。相場の転換点は「トンネルの先に光が見えたとき」ではなく、闇が昨日より少しだけ薄くなったときに来る、という考え方です。
マイク・ウィルソンは、今回の調整は2月に始まったのではなく、昨年秋の流動性の引き締まりから始まっていたと見ています。足元では多くの銘柄が30%以上下落し、勝者と敗者の格差は20年超ぶりの大きさ。結論は「まだ割安ではないが、買い物リストは用意しておけ」でした。
ビル・アックマンは、市場が短期志向になり、優良株が急落する局面が仕込み時だと言います。ヒルトンはマクロの悪材料で売られた時に大きく買い、アマゾンはトランプ関税導入で株が叩かれた時に買い増したそうです。デービッド・テッパーは、第2四半期の13F(二次情報)によれば、マイクロンを41%削減し、サンディスクを全売却しました。関係者によれば、四半期終了後にはメモリ株の下落に乗じて、売却分より多く買い戻したといいます。これは13Fと関係者の話に基づくもので、本人の発言ではありません。
なぜ割れるのか
割れる理由は三つあります。
一つ目は、暴落を予想できるかどうかの前提です。澤上は「大きな下げが来る」前提で動き、スピッツナーゲルは「時期は分からない」前提で守りを置きます。林園やジョン・リーは、そもそも予想を行動に使いません。
二つ目は、自分の資金の性質です。タッカーのファンドやバークシャーは、解約や配当の制約が小さく、現金を持つ余裕があります。積立を続ける個人は、毎月の収入があることが前提です。同じ「待つ」でも、資金の性質で意味が違います。
三つ目は、過去の読み方です。アインホーンは、売った人が毎回回復で損をした事実を、備えが薄い証拠と読む。奥野は、同じ回復を、動かない人が勝つ証拠と読む。同じ事実から逆の結論が出ています。
株譜の見方
以下は、公開された発言から筆者が推測した部分であり、確定した事実ではありません。
まず、四つの行動は、一人の中で組み合わされていることが多いようです。バフェットは現金を持って好機を待ちますが、保有株は売りません。タッカーは現金を持ちつつ、急落時には実際に買いました。現金で待つことと、動かないことは、同じ人の中で両立しています。
次に、現金を持つ人の発言は、「いつ使うか」になると急に曖昧になります。バフェットは「誰も電話に出ない時」と言い、グランサムは「闇が薄くなったとき」と言う。公開発言の範囲で、具体的な数字を示した人は見当たりません。筆者は、これは各人が誠実に「底は分からない」と認めているからだと読みます。数字を示さないこと自体が、暴落の行動を考える出発点だと思います。
最後に、最初の問いに戻ります。筆者は、ダリオの「富とお金は同じではない」が、どの行動を選ぶ人にも関わる指摘だと考えます。担保付きで借りている人、近く現金が必要な人は、暴落の最中に売らざるを得ません。つまり、四つの行動のどれを選ぶかより先に、「自分は暴落のとき、売らずにいられる資金か」を確かめておくことが大切です。その答えが、前提を選ぶ答えにもなります。
注意
本稿は、公開された発言を整理したものであり、投資助言ではありません。引用は要約であり、二次情報は報道ベースとして扱いました。テッパーの動きは13Fと関係者の話に基づくもので、本人の発言ではありません。数字は発言時点のものです。
出典
- 澤上篤人、長期投資家日記、2025年10月10日。https://sawakami.blog/2025/10/%e6%8a%95%e8%b3%87%e3%81%af%e3%80%81%e6%8a%95%e4%b8%8b%e8%b3%87%e9%87%91%e3%82%92%e5%9b%9e%e5%8f%8e%e3%81%97%e3%81%a6%e4%b8%80%e6%ae%b5%e8%90%bd%e3%82%88.html
- 澤上篤人、長期投資家日記、2026年6月16日。https://sawakami.blog/2026/06/%e5%87%84%e3%81%84%e3%83%90%e3%83%96%e3%83%ab%e7%9b%b8%e5%a0%b4%e3%81%a8%e3%80%81%e6%97%a5%e7%b5%8c%e5%b9%b3%e5%9d%87%e6%a0%aa%e4%be%a1.html
- 澤上篤人、長期投資家日記、2026年10月13日。https://sawakami.blog/2026/10/%e4%b8%8b%e3%81%92%e3%82%8b%e6%99%82%e3%81%af%e3%80%81%e6%97%a9%e3%81%84%e3%81%97%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%84%e3%82%88.html
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