「いま一番割安なものは何か」:割安の答えは、人気のない場所に集まった。ただし、安いことと儲かることは別
指数が高値圏にあり、AIと半導体に資金が集中している2026年。「割安なものはあるのか」という問い自体が、ずいぶん難しくなりました。ところが投資家に聞いてみると、意外なほど具体的な答えが返ってきます。
本稿では、2026年の発言を中心に、18人が挙げた割安の場所と、その根拠を並べます。並べてみると、答えにははっきりした偏りがありました。割安の答えは、見事に「人気のない場所」へ集まりました。ただし、人気がないことと割安であることは別物です。安さの裏に「安いままでいる理由」がないかを見分けることが、この問いのいちばん大事なところです。
「割安」の定義は人によって違います。株価収益率(PER)の低さ、現金収支の利回り、同種の会社との評価差、あるいは単に人気のなさ。何が割安かより、何をもって割安と呼んでいるかに注目して読んでください。
「古臭い」と見られた優良企業
ビル・アックマン:メガテックが置き去りになっている
パーシング・スクエアのアックマンは、6月3日のポッドキャストで、市場は常に新しいもの(半導体・エネルギー)に資金を向け、質の高いものが置き去りになると述べました。マイクロソフト・メタ・アマゾンは、いま「古臭い会社」扱いで割安だと見て保有しているといいます。同じ日に、
「バリュエーションは、相場につないだゴムひもだ」(2026年6月3日)
と語り、株価の水準が高すぎると引き戻され、安すぎると引き上げられると説明しました。
9月30日のブルームバーグTVでは、今の相場は極めて偏っていると述べ、自社は5年先の収益で保有を決めると語りました。S&Pグローバルを21倍(30倍超が普通)、インターコンチネンタル取引所を17倍(24倍)などで買えたそうです。8月5日には、指数が時価総額加重なので倍率が高いのは、大企業が10年前より成長性の高い優良企業になったためで、単純に割高とは言えないとも述べています。
筆者は、世界一の巨大企業を「古臭い」と呼ぶ市場の気分そのものが、すでに珍しい光景だと思います。割安はニュースの外側にある、という発想を、アックマンは体現しています。
テリー・スミス:自分のポートフォリオが「割安のまま」
ファンドスミスのスミスは、7月15日の半期書簡で、見直し後のポートフォリオが、資本収益率31%、粗利益率62%、営業利益率29%、現金転換率92%、フリーキャッシュフロー(事業で自由に使える現金)の利回り4.3%だと示しました。S&P500の同じ利回りが、AI設備投資の「軍拡競争」で2%を下回ったことと比べると、2倍以上の差があります。保有企業のキャッシュフローは今後3〜5年に年約14%伸びるとみて、「割安のまま上がること」を期待しているそうです。
サウラブ・ムカルジェア:質の高い株の上乗せが縮んだ
マーセラスのムカルジェアは、8月15日の運用報告で、質の高い株の評価の上乗せ(平均株の2倍)が、多年来の低水準まで縮んだと指摘しました。FY26は割安株(バリュー)が+14%、質の高い株が−3%と、歪みが極まっている、という整理です。割安なのは安い株ではなく、安くなった優良株だという論法になります。
モニッシュ・パブライ:嫌われたバーティカルSaaS
パブライは、5月5日の動画で、いまの嫌われ者はバーティカルSaaS(業界特化型ソフトウェア)だと述べました。人事担当が自前でAIソフトを作ってワークデイをやめるのは夢物語で、ソフトウェアはコーディングだけではない。コーディングは自動化が進むが、全体の5分の1程度だといいます。能力の輪の内側にある分野が売られたので、買い場だったと語っています。
「別の国・別の市場」にある割安
パブライ:トルコ
同じ動画で、パブライはトルコについて、浮動株が17日で入れ替わるほど短期売買が多く、優良企業が極端に安いと述べました。一方、インドは良い会社が少数に絞られ、研究され尽くして割高だといいます。インドのペプシ系ボトラーとトルコのコカ・コーラ系ボトラー、空港運営会社でも評価に大差があり、トルコ1か国に絞る戦略を選んだと説明しています。
筆者は、この話にいちばん引き込まれました。「短期売買が多いから安い」というのは、安さの理由が構造として説明されているからです。理由の分かる安さは、理由の分からない安さより、はるかに信頼できます。
イ・チェウォン、ウッド:韓国の半導体
Life資産運用のイ・チェウォンは、4月14日に、韓国のPERは8倍、米国は25倍で、サムスン電子とSKハイニックスのPERは1〜3月期実績で4倍未満の見込み(世界最低水準)だと述べました。ただし7月6日には、速度調整が必要だと慎重な姿勢も示しています。
ジェフリーズのウッドは、6月29日に、ハイニックスとサムスン電子を買い増しました。12か月先予想PERはハイニックス7.8倍、サムスン6.8倍で、マイクロンの9.2倍より低い数字です。ただ、半導体の価格は山を越えたとの見方もあり、割安かどうかは利益が続くかに依存します(別の記事「半導体は成長株か景気循環株か」を参照)。
リー・ルー:中国の競争力ある企業
ヒマラヤ・キャピタルのリー・ルーは、10月5日のコロンビア大学の対談で、時価総額首位企業のGDP比が従来の2〜4%に対して、エヌビディアで約15%に達していると指摘されました。「市場はいつも奇妙なことをする。市場に指図される必要はない」と答えています。極端な集中の裏で、割安に放置された優良企業が増え、理性を保てる人には「他の時期より良い機会」になる、というのが彼の見方です。中国についても、競争力ある企業が非常に安いと述べました。
プラシャント・ジェイン、ラジーブ・タッカー:インドは「一部」
ジェインは、7月17日のポッドキャストで、銀行は割安で長期成長に沿い、医薬品に前向きだと述べました。消費は成長が鈍いが評価額は妥当だといいます。タッカーは、8月4日の手紙で、ニフティ100が20.8倍、スモールキャップ250が34.6倍と、小型のほうが大型より約6割高いと警告しました。5月1日には、調整後も「全てが割安になったわけではない」と述べています。インド全体ではなく、セクターを選ぶという立場です。
「形の違う資産」にある割安
セス・クラーマン:土地と、倍率の低い私募持ち分
ベイポストのクラーマンは、6月15日の対談(要約記事)で、電力インフラ隣接の未開発地を、土地の簿価という低い基準でオプションとして持つ発想を語りました。アジア(中国除く)のデータセンター事業の私募持ち分も、公開市場の倍率より約4割安く取得したそうです。商業用不動産は、再調達コストより大幅に安い案件が増えたとも述べています。
カール・アイカーン:製油所
カール・アイカーンは、8月3日の声明で、自身が50%超を持つ会社は過小評価されがちで、71%を持つ精製のCVRエナジーが現在の例だと述べました。新設には巨額の資本と長い期間がかかり、既存設備には地政学的な脅威があるため、製油所に「極めて魅力的な機会」があるといいます。
ジェフリー・ガンドラック:短期のTIPSだけ
ダブルラインのガンドラックは、9月10日のウェビナーで、短期のTIPS(物価連動債)は割安で好きだと述べました。市場の織り込む期待インフレが低すぎる、という理由です。ただし、30年債に対する30年TIPSの差は5年間ほぼ一定で、同じだけ金利が上がったため、名目長期債が嫌でも、30年TIPSは守ってくれないと注意しています。割安の範囲を、満期で絞っているのです。
「割安なものは少ない」と見る人たち
ジム・チャノス:空中の城を剪定せよ
ジム・チャノスは、7月31日のポッドキャスト(報道ベース)で、「空中の城を剪定せよ。2035年のEBITDAの40倍で割安と言うアナリストからは離れよ」と助言しました。ショートブック(空売りの持ち高)は約40銘柄。指数はロングのまま保有し、ヘッジとして空売りを組み合わせます。割安を探すより、割高を避けることに重点を置く立場です。
マイク・ウィルソン、ダン・ローブ:下がった分、見えてきた割安
モルガン・スタンレーのウィルソンは、9月28日に、ラッセル3000の半数超が6月高値から20%以上安いと指摘しました。指数と中身の乖離は続かず、債券の値動きが収まらなければ、指数が5〜10%下げて水準を合わせる可能性があるが、本人はむしろ歓迎だといいます。
サード・ポイントのローブは、第2四半期の書簡(7月15日、要約)で、評価が正常化し、レバレッジが大きく減り、ポジションの偏りも小さくなったので、リスクと機会のバランスはより魅力的になったと述べました。ゴールドマン・サックスの戦略チームは、7月23日に、AIと相関が低い3つの着眼点(消費者の「体験」関連、コンパウンダー、M&Aの候補)を挙げています。
「割安が来る時」を語る人たち
ウォーレン・バフェット:誰も電話に出ない時
バフェットは、5月2日のCNBCで、買いの好機は、誰も電話に出ない時だと述べました。暴落時は取引先の証券会社が電話に出ないか、出ても買値と売値の幅が広く、こちらの意図を逆手に取られる。屠殺場に行くようなもので、しばらくホットドッグが食べられなくなる、という言い方でした。
筆者は、この一言がいちばん刺さりました。割安の場所を挙げたのではなく、割安が本当に現れるときの「感触」を語っているからです。裏返せば、いま挙がっている割安は、電話がまだ通じる程度の割安だ、という読み方もできます。
ラメデオ・アグラワル:騒音が多いときこそ
モティラル・オスワルのアグラワルは、6月17日のインタビューで、「買って持ち続ける」戦略は今も有効だが、以前より忍耐が要ると述べました。外国人の売りが続く局面を、中東の混乱を含めて「道路の穴」と呼び、割安を探すというより、騒音の中で持ち続けることを勧めています。インドの国債の譲渡益非課税が「巨大な一手」で、ルピーが安定すれば資金が戻る、とも述べました。割安を、価格ではなく資金の流れの変化で見ている点が特徴です。
ラジーブ・タッカー:急落を機に入れ替える
タッカーは、3月の急落で、民間大手銀行を買い増しました(エンジェル・ワンの整理、4月16日)。HDFC銀行を1,866クロール(ガバナンス懸念で会長が辞任した後に急落)、ICICI銀行を563クロール、コタク銀行を861クロール買い、リライアンス・インダストリーズなどを売っています。「割安」の中身は急落した質の高い銀行で、売却の資金源は割高になった側という入れ替えです。
割安の「定義」を並べ直す
18人の「割安」を、何で測っているかで分けると、次のようになります。
- 倍率が低い:イ・チェウォン、ウッド、アックマン(S&Pグローバル21倍など)
- キャッシュフロー利回りが高い:スミス(4.3%)
- 同種の会社との差:パブライ(インドとトルコ)、クラーマン(公開市場より約4割安)
- 人気のなさ:アックマン(古臭い会社)、パブライ(SaaS)、リー・ルー
- 市場の織り込みとの差:ガンドラック(短期TIPSの期待インフレ)
- 代替コスト:アイカーン(製油所の新設コスト)
なぜ答えが割れるのか
一、何と比べるか
スミスは指数のキャッシュフロー利回りと比べ、パブライは別の国と比べ、クラーマンは公開市場の倍率と比べます。比べる相手が違えば、同じ会社が割安にも割高にもなります。
二、割安を支える前提
ウッドやイ・チェウォンの割安は、半導体の利益が続くという前提に乗っています。その前提が崩れれば、倍率の低さは罠になります。リー・ルーやパブライの割安は、市場の人気が戻ることに頼っています。
三、割安は「安さ」だけではない
ムカルジェアが指摘するように、割安株が上がり、質の高い株が下がった年もあれば、その逆の年もあります。割安の定義に、質を含めるかどうかで、同じ年の結論が変わります。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
18人の答えを並べて印象的だったのは、冒頭に書いたとおり、割安の場所が「人気のない場所」とほぼ一致していることです。アックマンの古臭い会社、パブライのトルコとSaaS、リー・ルーの中国は、いずれも今の相場の中心から外れています。
ただ、人気がないことと、割安であることは別です。パブライのトルコの例は、短期売買が多くて評価が低いという構造的な理由が見えているので、筆者は信頼できると感じます。一方で、理由が説明されていない安さは、安いままでいる理由が隠れているだけかもしれません。それを見るのが、タッカーの言う「全てが割安になったわけではない」という注意の意味だと思います。
チャノスの「割安を探すより、割高を避ける」という立場は、他の人たちと正反対に見えて、実は補い合っています。割高を避ける人が空けた場所に、割安を探す人が入っていく、という構図です。個人投資家としては、自分がどちらの役割を担っているのかを、先に決めておくほうがよいでしょう。
見るべきものは二つです。ひとつは、安いと思った銘柄の「安い理由」を一言で言えるかどうか。もうひとつは、バフェットの言う「電話が通じなくなる」ほどの局面が来たとき、自分が買う側に回れる現金を残しているかです。
出典
- ビル・アックマン All-In Podcast、2026年6月3日(YouTube)/Fortune Titans and Disruptors、2026年8月5日(YouTube)/ブルームバーグTV、2026年9月30日(YouTube)
- テリー・スミス ファンドスミス半期書簡、2026年7月15日(ファンドスミス)
- サウラブ・ムカルジェア マーセラス運用報告、2026年8月15日(Marcellus)
- モニッシュ・パブライ YouTube(本人チャンネルの転載)、2026年5月5日(YouTube)
- イ・チェウォン 韓経マガジンBUSINESS、2026年4月14日(韓経マガジン)/ファイナンシャルニュース、2026年7月6日(fnnews)
- クリストファー・ウッド Business Standard、2026年6月29日(Business Standard)
- リー・ルー コロンビア大学 第36回グレアム&ドッド昼食会、2026年10月5日(コロンビア大学%20CBS.pdf))
- プラシャント・ジェイン フリープレス・ジャーナル、2026年7月17日(FPJ)
- ラジーブ・タッカー バリュー・リサーチ、2026年5月1日(Value Research)/PPFAS『ユニットホルダーへの手紙』、2026年8月4日(PPFAS)
- セス・クラーマン iConnections Global Alts NY 2026(要約記事)、2026年6月15日(iConnections)
- カール・アイカーン アイカーン・エンタープライゼズ第2四半期決算声明、2026年8月3日(SEC)
- ジェフリー・ガンドラック DoubleLine「Gundlach Unlocked」、2026年9月10日(YouTube)
- ジム・チャノス Prof G Markets(ベンジンガ報道)、2026年7月31日(Webull)
- マイク・ウィルソン モルガン・スタンレー「Thoughts on the Market」、2026年9月28日(Morgan Stanley)
- ウォーレン・バフェット CNBC「Squawk Box」公式書き起こし、2026年5月2日(CNBC)
- ラメデオ・アグラワル ビジネス・トゥデイ、2026年6月17日(Business Today)
- PPFAS月次解説 エンジェル・ワン、2026年4月16日(Angel One)
- ダン・ローブ サード・ポイント第2四半期書簡(要約)、2026年7月15日(X)
- ゴールドマン・サックス戦略チーム、2026年7月23日(Goldman Sachs)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、株譜の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。