株譜
INVESTOR OUTLOOK

中国株・香港株・韓国株の「安さ」は同じ安さではない:11人の食い違いを読む

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「米国より安い」。東アジアの株について、投資家の見方がそろうのは、ほぼこの一点だけです。そこから先の「だから買う」と「だから危ない」で、意見は真っ二つに割れます。

筆者が11人の発言を読んでいちばん驚いたのは、その割れ方が、市場ごとにまったく別物だったことです。同じ「PER8倍」でも、中国の安さは「家計の傷を織り込んだ値段」で、韓国の安さは「半導体の高い利益が続く前提の値段」です。 安いから買う、安いから危ない、という議論を、一つの物差しで切ることはできません。

本稿では、2025年10月から2026年10月までの発言を中心に、市場ごとに見ていきます。

中国株:「停滞の10年」を、安さと見るか、病と見るか

リー・ルー:競争力のある企業が、非常に安い

ヒマラヤ・キャピタルのリー・ルーは、10月初めのコロンビア大学の対談で、中国市場はこの10年ほぼ停滞だったと整理しました。原因は二層構造です。製造業は国の方針(中国製造2025)に沿って、成熟した世代の半導体をほぼ自給できるまで伸びました。そのしわ寄せが来たのが、家計の不動産です。2021年のピーク時、典型的な家庭の純資産の約7割が住宅でした。住宅価格が平均で約4割下がり、家計資産は6〜7割減ったといいます。家計は消費を減らし、預金はGDP比で約120%に膨らみました。

それでも彼は、競争力のある企業は非常に安く、「今は良い機会」だと言います。政治リスクは中国に限らず米国にもあるもので、その時々の目標と過去の記録を調べて判断するものだ、というのが立場です。家計の傷をここまで細かく挙げた人が、それでも買いだと言う。筆者はそこに、この議論の核心があると感じました。傷の深さを知っていて、その上で値段を見ているのです。

張坤:価値の回帰は遅れても、欠席はしない

易方達基金の張坤は、3月の年報で、中国経済の長期的な上昇力は残り、自分が買うのは中国で最も優れた企業群で、株価は割安だと述べました。短期の市場は感情に左右される投票機だが、長期では、企業が生み出す手元の現金(フリーキャッシュフロー)を量る秤になる、という言い方です。4月には、目先の困難は構造的ではなく周期的で、核心都市の中古住宅価格の安定や、ホテルの客室収益の回復などの兆しがあるとも語りました。

ところが、行動は慎重です。主力ファンドは4〜6月期に、株式の組入比率を93.12%から75%へ、香港株を46%から25%へ、ほぼ半分にしました。同期の基金は−13.52%(基準は+2.03%)でした。8月末には、上期の社会消費品小売総額が+1.3%にとどまったことを、「節約のパラドックス」と診断しています。割安を信じつつ、足元の消費の弱さも認めているのです。言葉は強気、手は慎重。これが張坤の特徴だと思います。

林園:完全な強気相場はまだ

林園は、上証指数が4,000点を超えた後でも、完全な強気相場ではないと言います。強気相場の始まりは、市場参加者の半分以上が損益ゼロ以上になる局面で、上証の目安は約4,300点以上だそうです。経済が冷え込む今は、資金の行き場が株に向かい、泡沫が出るのは好ましい、という立場です。

慎重な側:カルミニャック、ロジャーズ、ウッド

エドゥアール・カルミニャックは、7月の書簡で、中国経済の緩やかな悪化を懸念しています。北京が内需刺激を拒むのは、実際には政治的な自由化を要するからだ、という分析です。昨年10月の書簡では、米中の対立は、双方の切り札(米国は先端半導体、中国はレアアース)が拮抗している以上、「両者は妥協する運命にある」と見ていました。対立が収まることと、中国経済が良くなることは別の話だ、という区別が読み取れます。

ジム・ロジャーズは、中国は1984年から強気だと語りました(報道による)。8月には、中国は歴史的に何度も回復してきたと述べています。クリストファー・ウッド(ジェフリーズ)は、1月にアジア(日本除く)の相対ポートフォリオで中国を1ポイント引き下げ、6月にはアリババを外しました。一方で、9月には、グローバル国債ポートフォリオで中国国債の比率20%を維持するとしています。株は減らし、債券は維持する形です。

香港株:IPOブームは強さの証拠か

香港では、惠理(バリュー・パートナーズ)の謝清海が強気を語りました。昨年11月の報道(二次情報)によれば、香港のIPO調達額は10月までに約240億ドルと前年の3倍で、世界一になりました。新規上場後の平均上昇率は9%に達し、下落が反転したといいます。中国の不動産低迷が、民間の貯蓄を投資に向かわせたとも指摘しました。

けれど、1月の講演では、安定だけでは香港を再び偉大にできないと述べ、国家安全から経済・社会改革へ軸足を移すべきだと訴えています。株高を喜ぶだけでなく、制度の課題も挙げているのです。

ここで、前に出てきた張坤の動きと並べてみます。謝清海の強気と、張坤の香港株の半減は、同じ半年の間に並んでいます。香港は「IPOで資金が戻った市場」であると同時に、「中国本土の運用者が比率を落とした市場」でもある。この食い違いは、筆者には大きなヒントに見えます。IPOの盛況は、買い手の元気さを示しますが、売り出す側にとっては「いまが売り時」という合図でもあるからです。

韓国株:ガバナンス改革と半導体、どちらが主役か

イ・チェウォン:「韓国は昇る太陽」から「ピークは年内」へ

Life資産運用のイ・チェウォンは、韓国で最も強気に語る一人です。2月のインタビューでは、KOSPIが5,000を超えた背景を、商法改正と配当所得分離課税によるガバナンスの改善に、世界的な流動性と半導体好況が重なったと整理しました。12か月先PERは韓国が10〜11倍で、台湾20倍、日本17〜18倍に比べて割安だと言います。

4月には「韓国は昇る太陽」と述べ、韓国のPER8倍に対して米国は25倍だと比べました。相続税60%が残る限り、会長たちは株価が上がるのを嫌がるので、相続税を改革すれば「KOSPIは7000〜8000まで行ける」とも話しています。

ところが7月には、見方が変わります。半導体の好況は続くが、株価は実績に1年6か月先行するので、ピークは年内につく可能性が高い。KOSPIは14か月で3.9倍に上がり、PERは約8倍だが、速度調整が必要だ、と。個別企業のレバレッジETFと借金投資には、強い懸念を示しました。強気と警戒が、同じ人の中に並んでいるのです。

ジョン・リー:最高益でも下がるのが市場

元メリッツ資産運用のジョン・リーは、サムスン電子とSKハイニックスを持ち続けるべきか、現金化すべきかを聞かれて、「6か月後、1年後の価格を知る人は世界に一人もいない」と答えました。両社が過去最大の利益を出しているのは事実ですが、最高益でも下がるのが市場だ、価格当てではなく長期投資をすべきだ、と。「現金化せよ」は最悪の助言だと言い切っています。9月には、S&P500 ETFとKOSPI200 ETFの組み合わせを勧めました。

ウッド:売られたものを、買いに行く

クリストファー・ウッドは、多くの投資家が韓国のAI・半導体株を売る中で、ハイニックスとサムスン電子を買い増しました。KOSPIは前の週に16%超下がっていました。DRAMは、純資産に対する株価の倍率(PBR)ではなく、利益に対する倍率(PER)で評価すべきで、12か月先予想PERはハイニックス7.8倍、サムスン6.8倍、マイクロン9.2倍だといいます。

しかし、7月末の週報にはこう書かれています。7月19日の週にKOSPIが1日で10.8%安の6,023.66となり、サムスンが13.4%、ハイニックスが14.7%下げた。買い増したあとに、さらに大きな下落があったわけです。割安だから買った、買った直後にもっと下がった。ここは、割安という言葉の限界をよく物語っています。

オ・ゴニョンとドラッケンミラー

申韓銀行のオ・ゴニョンは、6月の基調講演で、指数の水準だけではバブルとは言えず、韓国の経常黒字の拡大は、半導体輸出がエネルギー輸入の負担を相殺していることを示すと述べました。AIと半導体が、韓国経済の新しい成長エンジンだという見方です。ただ、9月のインタビューでは、韓国銀行の引き締めが2027年上期まで続く見込みで、市場の予想は来年2月と5月に利上げして最終3.5%(現在3.00%)だと紹介しました。「ウォンの一人勝ち」はいつまでも続かない、とも言っています。

スタンレー・ドラッケンミラーは、1月収録のインタビューで、AIが「不安になるほど過熱」したために他の分野を探し、日本と韓国には大きなポジションがあると述べました。理由の詳細は語られておらず、AI過熱を避けた先の選択肢として、韓国が選ばれたという位置づけです。

なお、韓国の株価の動きは激しいです。ウッドの記録では、6月末の前の週にKOSPIが16%超下がり、7月の週にはさらに1日で10.8%下げました。イ・チェウォンが同じ7月に「速度調整が必要」と述べたのは、この値動きと重なる時期です。

数字を並べる

PERの発言は、時期と対象が違うので単純比較はできませんが、並べると次のようになります。

  • イ・チェウォン(2月):KOSPI 12か月先 10〜11倍、台湾20倍、日本17〜18倍
  • イ・チェウォン(4月):韓国8倍、米国25倍(サムスン電子とSKハイニックスは4倍未満の見込み)
  • ウッド(6月):ハイニックス7.8倍、サムスン6.8倍
  • イ・チェウォン(7月):KOSPI 約8倍

「安さ」は確かに共通しています。ただ、どの数字も、半導体のサイクルの高い利益を前提にしています。そこが慎重派の論点です。

なぜ意見が割れるのか

一、中国は「家計の損失」をどう見るか

リー・ルーは、家計の損失を過去の出来事として扱い、企業の競争力を見ます。張坤は、消費の弱さを周期的なものと見ながら、実際には組入比率を下げました。カルミニャックは、内需を刺激しない政治的な理由を重く見ます。同じ家計の損失を、一時的と見るか、構造と見るかで、買う理由が変わります。

二、韓国は「政策による再評価」と「半導体の山」が混ざっている

イ・チェウォンの整理では、KOSPIの上昇は、ガバナンス改革(長く続く効果)と半導体の好況(サイクル)の合算です。前者を重く見る人は「昇る太陽」と言い、後者を重く見る人は「ピークは年内」と言います。この二つは、同じ株価の中で分けて見ることができないので、人によって結論が変わります。

三、割安を「買い場」と読むか

ウッドは売られた局面で買い増しましたが、その後に1日で10.8%の下落がありました。ジョン・リーは、価格の予測そのものを拒みます。割安だからといって、買った直後に上がる保証にはなりません。時間軸を数年に置く人と、数か月に置く人で、同じ割安が違って見えます。

四、政治リスクの扱い

リー・ルーは、政治リスクを、米国にも通じる「通常のリスク」として扱います。林園や張坤は、政策の方向を前提にして企業を選びます。カルミニャックは、政治の選択が経済の方向を決めると見ます。政治をリスクの外に置くか、中心に置くかが、中国と香港の評価を分けます。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の整理を、もう一度確かめます。中国の安さは、家計の傷を織り込んだ価格に見えます。韓国の安さは、半導体の利益が続く前提の価格に見えます。同じ「PER8倍」でも、前者は「利益が低いことの反映」、後者は「利益が高いことの反映」になりうる。ひとまとめに「東アジアは安い」と考えるのは、危ういと筆者は思います。

張坤とウッドの行動の差も、興味深い点です。張坤は割安を語りながら比率を下げ、ウッドは暴落を買いに行きました。どちらが正しかったかは、本稿の時点ではまだ分かりません。ただ、発言と持ち高を並べて読むと、「割安」という言葉の重さが、人によってまるで違うことが見えてきます。

イ・チェウォンの見方の変化も、参考になります。2月は「KOSPI5000」を評価し、4月は「7000〜8000」の可能性を語り、7月は「ピークは年内」と述べました。見方を変えた人を責めるより、そのたびに何を根拠にしていたのかを確認する材料として読みたいところです。

最後に、個人投資家として気をつけたいことを一つ。「割安」を一つの数字で語る発言を、市場全体の評価にそのまま置き換えないことです。中国は家計、香港は新規上場の資金、韓国は半導体と、見るべき変数が三つに分かれています。「何が回復すれば、この安さは解消されるのか」を、市場ごとに一つずつ確かめるほうが、11人の議論を自分の判断に使いやすいと思います。

出典

  • リー・ルー コロンビア大学 第36回グレアム&ドッド昼食会、2026年10月5日(コロンビア大学%20CBS.pdf))
  • 張坤 易方達基金 年報・四半期報告(報道引用)、2026年3月31日(澎湃新聞)・2026年4月22日(東方財富)・2026年7月21日(東方財富)・2026年8月31日(格隆匯)
  • 林園 全景財経(騰訊転載)、2025年11月24日(騰訊)
  • カルミニャック 四半期書簡、2025年10月18日(カルミニャック)・2026年7月1日(カルミニャック)
  • ジム・ロジャーズ タイガー・ブローカーズ転載、2026年2月6日(Tiger Brokers)/リスク・サイエンシズ誌、2026年8月13日(EurekAlert)
  • クリストファー・ウッド Business Standard、2026年6月29日(Business Standard)・2026年7月28日(Business Standard)・2026年1月30日(Business Standard)/アウトルック・マネー、2026年9月27日(Outlook Money)
  • 謝清海 タイガー・ブローカーズ、2025年11月10日(Tiger Brokers)/ビッグ・ライチ、2026年1月28日(Big Lychee)
  • イ・チェウォン 中央日報、2026年2月19日(中央日報)/韓経マガジンBUSINESS、2026年4月14日(韓経マガジン)/ファイナンシャルニュース、2026年7月6日(fnnews)
  • ジョン・リー ファイナンシャルニュース、2026年8月3日(fnnews)/アジア経済、2026年9月2日(アジア経済)
  • オ・ゴニョン イートゥデイ、2026年6月18日(etoday)/ヘラルド経済、2026年9月28日(ヘラルド経済)
  • スタンレー・ドラッケンミラー モルガン・スタンレー「Hard Lessons」、収録2026年1月30日(モルガン・スタンレー)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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