株譜
INVESTOR OUTLOOK

ネルソン・ペルツ:大学中退と父の卸事業から、英国不動産の最大の失敗、デュポンの敗北、P&Gの改革、ディズニーの売却まで

失敗と成功

会社を変えるために、株主が経営陣に正面から喧嘩を売る。それで株価が上がることもあれば、負けて去ることもあります。ヘッジファンド、トライアン・ファンド・マネジメントを率いるネルソン・ペルツは、その「物言う株主」の代表格です。本人が講演やインタビューで語った成功と失敗を、八つの場面で並べました。最新の動画は、2026年6月のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)主催のものです。

筆者がこの八つの話を通して読んで気づいたのは、勝ち負けの理由が驚くほど一貫していることでした。ペルツの成功と失敗を分けているのは、「会社の中で、誰が損益に責任を持っているか」です。 この物差しで、順に見ていきます。

先に断っておきます。整理に使った資料では、年商、取得価格、売却価格、株価、人員数、投票率などの数字の多くが「動画原文との照合が必要」とされています。どの動画の話かが不確かなエピソードもあります。以下は資料の表現のまま、「本人がそう語った」ものとして読んでください。しかも資料は本人の語りだけで、相手企業側の言い分は入っていません。

ウォートンを中退し、父の食料品卸を継いだ

話の出発点は、大学の中退です。1960年代の初め、ペルツはウォートン・スクールで会計や経済の講義に興味を持てず、1年か2年でやめたと語ります。スキーに打ち込み、メイン州で皿洗いなどをしながら雪の上で暮らしました。春に雪が解けると、次の夏に向かうガソリン代が要ります。そこで、ニューヨークの旧ワシントン・マーケットで、ホテルやレストラン向けに野菜や冷凍食品を売っていた父の卸会社に、トラックの送迎という臨時の仕事を求めました。

1週間か2週間働くうちに、見逃されている商機が多いと気づき、父に指摘します。すると「ここに残って自分でやれ」と言われ、営業組織を一から作ることになりました。ボストン、ボルチモア、ワシントン、フィラデルフィアの同業者を買って統合し、年商200万ドルだった事業を、1970年代には1億5,000万ドル規模に育てたといいます。父から受け継いだ教えは二つ。現金が王であることと、売上を増やして経費を下げることです。ウォートンを出る必要すらなくなるほど基本的だった、と本人は言います(数字は要確認)。

筆者は、この始まり方がペルツらしいと思います。机の上の理論より先に、トラックの荷台で商売の穴を見つけている。のちに企業の「穴」を見抜く目は、ここで育ったのでしょう。

包装会社を作り、1株10ドルの株に56ドルがついた

1980年代、ペルツは赤字に苦しむトライアングル・インダストリーズの支配権を握りました。当時の時価総額は約2,000万ドルだったと語ります。ナショナル・キャンに買収提案をし、さらにアメリカン・キャンを買収して統合し、世界最大の包装会社を作りました。ガラス瓶からアルミ缶への移行を見越して、米国、欧州、トルコ、アジアに工場を建てています。1987年のブラックマンデーでは自社株を買い付け、持ち株比率を11%から60%超まで引き上げたそうです。

その後、フランス政府系の企業がこの会社に買収を持ちかけます。金曜日に10ドルで終えた株に、月曜日に56ドルを現金で提示された、と本人は語ります。売却の時期は1988年か1989年かが資料で食い違い、売却先の記述も確定していません。

筆者がここで注目するのは、ペルツが教訓にした「過半数を持つ意味」です。過半数を握っていれば、売る価格を他人に邪魔されず、自分で決められます。株を買うのは結婚に近い長期の覚悟だが、途方もない値段を提示されたら売る、という割り切りも、なかなか痛快です。

英国の不動産株で、最大の失敗をした

ここから失敗の話です。1989年から1990年、ペルツはロンドンに上場する不動産会社に投資しました。純資産価値を大きく下回る価格で取引されていたので、建物を順に売って現金を作り、次の買収に回す計画でした。ところが直後に第1次湾岸戦争が起き、英国の不動産の取引が止まります。売れない不動産に資金が固定され、多額の損失を出しました。本人は、これが自分のキャリアで最大の失敗だと語ります。

教訓は地味です。どれほど調べても、戦争のような想定外のマクロの衝撃は予測できない。だから自分が関わる会社には、必要以上の現金の余裕をいつも持たせる、というものです。

ここはあえて感想を言うと、この話がいちばん信用できる、と筆者は思います。後の戦いはほとんどが「負けても結局は勝った」に着地するのに、湾岸戦争の失敗だけは挽回の物語を持ちません。安く買ったという割安さは、売れなくなった瞬間に意味を失う。この単純な事実を、勝ち続けた人がいまだに語るのは、誠実だと思います。

スナプルの再建と、ハインツの広告費

1990年代の後半、ペルツはクエーカー・オーツが運営に失敗し、赤字を続けていた清涼飲料のスナプルを買収し、再建しました。前の持ち主はブランドの動かし方を理解していなかった、と分析します。売上は減少から二桁成長に転じ、キャドバリー・シュウェップスに売却され、ハーバード・ビジネス・スクールの事例研究にもなったといいます。ただし、買収の年や売却先の記述には、資料に不確かな点が残ります。

2006年ごろのハインツでは、経営陣が四半期の利益を達成するために、広告費を売上の1.5%まで削っていたと語ります。ペルツは広告費を約3倍の、売上の約5%に増やさせました。委任状争奪戦(株主総会で議決権を集める争い)を経て、取締役の席を二つ得ています。その後、32から36四半期続けて売上と利益が伸びたそうです。争った相手のビル・ジョンソンCEOとは、のちに親しくなったといいます。

ここで出てくる言葉が「正しいより、金持ちになりたい」です。自分の正しさを証明するより、結果を取る、という意味でしょう。四半期の見栄えのために広告費を削るのは大罪だ、とも言います。筆者は、この一言に、ペルツの流儀が詰まっていると感じました。敵だった人と親しくなれるのも、勝ち負けよりお金の結果を見ているからでしょう。

デュポンの戦いに負け、その後に勝った

2015年のデュポンの委任状争奪戦は、ペルツが負けた戦いとして語られます。化学部門のケマーズを、投資適格の格付けで分離する案を出したのに対し、会社側は低い格付けで分離し、18%という大きな配当を約束した、と本人は言います。アクティブ運用の機関の票は集まったものの、個人投資家とインデックスファンドが会社側に回り、46%の投票率で敗れました。

ところが、その直後にデュポンの株価は75ドルまたは82ドルから48ドルへと急落し、ケマーズも21ドルから12ドルに下がったといいます。業績予想を2四半期続けて外したCEOが退き、ペルツは株を売らずに買い増して、新しいCEOと組みました。最終的にダウとの統合の交渉をまとめ、117ドル相当の価値で手放したと語ります。「選挙に負けても、長い戦争には勝てる」というのが本人の整理です。過剰な負債を負わせる分離は破壊的だとも言います(数字は要確認)。

筆者は、この話の面白さと危うさが同居していると思います。負けた直後の株価急落は、ペルツの主張を裏づけるように見えます。ただし、同じ戦いを会社側から見れば、別の筋書きがあるはずです。資料に会社側の言い分はありません。

P&Gの本社を、11,000人から4,000人にした

さて、ここから成功の中心に入ります。2017年のP&Gでは、株価が約10年にわたって70ドル台で停滞し、市場シェアを失い続けていた、と本人は語ります。従業員10万人に対して、損益に責任を持つのはCEOの一人だけ。本社部門は11,000人にのぼりました。トライアンは35億ドルを投じて委任状争奪戦を挑み、会社側は1億ドルを使って抵抗したとされています。

結果は僅差で、取締役の席を得ました。マッキンゼーも交えた構造改革で、本社を4,000人にし、7,000人は各事業部に移しました。解雇はなかったそうです。損益責任を持つ七つの事業部の構造にして、株価は70ドル台から160ドル超になったと語ります。教訓は、責任と権限を事業部に与えれば、巨大企業でも成長を取り戻せる、ということです。

筆者がいちばん驚いたのは、「損益に責任を持つのがCEO一人」という数字の並びです。10万人の会社で、成績表の責任者が一人しかいない。これでは、誰も自分の成績を意識しません。解雇なしで本社を縮められたという点も、意外でした。

GEにラリー・カルプを呼んだ

GEの株価が暴落した2015年から2017年にかけて、ペルツは、巨大な本社に2万人がいたことや、過去の不透明な会計の扱いを問題視したと語ります。自分もリスクを負う大株主として投資し、ダナハーの元CEOであるラリー・カルプを、ハーバード・ビジネス・スクールまで会いに行って招きました。カルプは同社を救い、ヘルスケア、エネルギー、航空の3社に分けて再生させた、というのが本人の整理です。会計処理の細部は、資料でも要確認とされています。

ここでの教訓は、肥大した本社と会計の不透明さは致命的だが、一人の優れた経営者が会社を立て直せる、ということです。筆者は、ペルツの得意技が「人を連れてくること」だと気づきました。自分が経営するのではなく、経営できる人を探し、会いに行く。ここは地味ですが、物言う株主の腕の見せどころでしょう。

ディズニーの戦いに負け、119ドルで売った

直近の場面がディズニーです。ペルツは、後継者計画に失敗し、損益責任を持つ現場の幹部がおらず、会議にはスタッフ職ばかりが出てくる組織だと批判しました。トライアンは80ドル台半ばで株を買い、改革を要求したといいます。

結果は、委任状争奪戦での僅差の敗北でした。本人によれば、終結の当日に1株119ドルで全株を売りました。約2年後の株価は105ドルにとどまり、市場並みに伸びていれば200ドル手前だったはずなので、経営陣は約90ポイントの株主価値を捨てた、と主張します。同時に、株価が80ドル台に戻れば、また関与するとも話しています。以上は本人の主張で、ディズニー側の見方やその後の経営の評価は、資料に含まれません(数字は要確認)。

筆者は、この比べ方にはひっかかりを覚えます。119ドルで売った後の株価と比べるのは、本人に都合のよい物差しの置き方です。売った時点で何を得て、他に何ができたかは語られません。「約90ポイントを捨てた」という言い方も、仮定に基づく主張であって、確定した損失ではありません。

いまの見方(2026年の発言を中心に)

2026年2月と6月のWSJの発言には、いくつか新しい点があります。まず、市場の位置づけです。ペルツは、プライベート・エクイティ(非上場企業への投資ファンド)の時代が行き詰まったと見て、「プライベート・エクイティは、いわば顔から転んだ」と語りました。そのうえで、トライアンの原点は委任状争奪戦ではなく、会社丸ごとの買収と保有だと言い、「大物アクティビストの時代は終わった」という司会者の見方に反論しています。

最大の警戒は、インデックスファンドです。主要企業の約25%を持ち、議決権では30%から35%の影響力があるのに、株価の上下に利害がない。本人は「彼らは、勝負に自分の持ち分を賭けていない」と批判し、立法による改善を望んでいます。AIについては、綿繰り機に匹敵する大変革と評価し、トライアンでも運用や事業運営に使っていると語りました。一方で、政府がブレーキをかけることを最大の懸念に挙げています。

関税は、相手国に保護関税を下げさせる交渉の手段なら賛成。政府の歳入源になるなら反対です。金、暗号資産、金利についての新しい発言は、資料の動画にありません。株は遺言に残すつもりで平均5年から6年持つが、途方もない高値がつけば売る、という立場も変わりません。なお、資産運用会社の全株取得などの最近の個別案件にも言及がありますが、資料の数字や時期に食い違いがあるため、本稿では扱いません。企業のお金の使い道をめぐる他の投資家の議論は、企業の稼いだお金の使い道の記事に整理しています。

過去の発言と並べると、金利と財政への見方は、2026年の動画ほど前面に出ていません。2024年11月のサミットでは、連邦政府の歳出が膨らんだことが、赤字と国債利回りの上昇を招いたと指摘しました。選挙後の高揚感には「木は天まで伸びない」と述べて警戒しています。2022年には、相場の上昇がわずかな銘柄に集中している異常さも語りました。いずれも数字は要確認で、2026年の動画に、金利や中央銀行についての新しい見解はありません。

筆者は、インデックスファンド批判に一理も二理もあると思います。ただし、批判する側も、株価が上がる局面で得をする立場です。議決権が少数の運用会社に集中する構造は、ガバナンスの議論として重要です。それでも、物言う株主の利益と、中立な改善案は分けて考える必要があります。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

最初に書いた通り、ペルツの語りを通して読むと、成功と失敗の分かれ目は「組織の中で誰が損益に責任を持つか」に一貫しています。P&Gは損益責任がCEO一人に集中していました。ディズニーは現場に責任者がいませんでした。GEは巨大な本社が現場の上に乗っていました。逆にうまくいった例では、責任を事業部に戻しています。企業の診断としては分かりやすい物差しです。ただ、同じ型の診断をあらゆる会社に当てはめてしまう危うさもあります。型が先にあって、会社の個別事情が後から合わされている可能性は、割り引いて見たいところです。

もう一つは、負けの扱い方です。デュポンの敗北は、短期の負けが長期の勝ちにつながった、という筋書きで語られます。しかし同じ戦いは、会社側から見れば別の語りになるでしょう。勝った話は本人が語り、負けた話も「結局は勝った」に着地する構造は、物言う株主の語りの癖かもしれません。唯一、湾岸戦争の失敗だけが、挽回のない純粋な失敗として語られています。その教訓が現金の余裕という地味なものだという点に、筆者は誠実さを感じます。ディズニーの話は、先ほど述べた通り、主張として読むのが妥当です。

個人投資家が持ち帰れるものを、あえて挙げます。現金の余裕を持つこと、安く買ったことと売れることは別だと知ること、経営者個人ではなく仕組みの問題として企業を見ること。この三つです。逆に、物言う株主の活動そのものは、個人が真似できるものではありません。ペルツが何年もかけて取締役の席を得て、会社の仕組みを変えていく方法は、資金と交渉力を持つ側にだけ許されたものです。

もう一つあります。ペルツの語りは、買収した会社の「組織図」を細かく語る点が特徴で、相場の数字の予想はほとんど語られません。この人の話から相場の方向を読もうとしても、得られるものは少ないでしょう。保有先の会社で誰が損益に責任を持っているかを、自分で調べる。そのほうが、実際の判断に結びつくと筆者は考えます。

出典

  • StreetFins「Guest Speaker: Nelson Peltz of Trian Partners」、2021年4月20日(YouTube)
  • David Rubenstein「Bloomberg Wealth: Nelson Peltz」、2022年7月27日(YouTube)
  • FII Institute「"How To Invest" With Richard Attias & Nelson Peltz, Trian Fund Management - Day 2 - FII6」、2022年10月27日(YouTube)
  • University of Miami Business School「Nelson Peltz, CEO & Founding Partner, of Trian Management, L.P., in conversation with Miami Herbert」、2024年1月12日(YouTube)
  • CNBC Events「The Activist with Trian Partners' Nelson Peltz at CNBC's Delivering Alpha Investor Summit 2024」、2024年11月18日(YouTube)
  • Insider Investor「Bill Ackman & Nelson Peltz full Interview on CNBC (2015)」、2018年6月20日(YouTube)
  • CNBC「Billionaire Investor Nelson Peltz Discusses Proxy Fight With P&G (Full) | CNBC」、2017年10月6日(YouTube)
  • Bloomberg Originals「Peltz: This Is a Dark Day for DuPont Investors」、2015年5月13日(YouTube)
  • The Wall Street Journal「Watch: Trian CEO Nelson Peltz at WSJ Invest Live | WSJ」、2026年2月3日(YouTube)
  • WSJ Events「Nelson Peltz's Critique of Disney, Index Funds and Tariffs | WSJ」、2026年6月17日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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