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個人投資家の制度と熱狂:NISA・年金・税は味方か、過熱の入口か

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NISAは個人の味方なのか、それとも過熱の入口なのか。筆者の答えは、制度そのものは味方だが、守ってくれるかどうかは使う側の条件で決まる、というものです。

この数年で、個人が株式市場に入る道は広がりました。日本にはNISAとiDeCo、韓国には年金貯蓄の口座があります。ところが同じ2026年に、家計の株式保有の高さやオプション取引の急増を「熱狂の目印だ」と警告する人も出てきました。同じ事実から正反対の結論が出るのはなぜか。15人の発言を、三つの問いに分けてたどります。

問い1:制度は個人を守るのか

使い倒せと勧める人たち

制度の利用を最も具体的に勧めるのが、日本の運用者・奥野一成です。資産づくりの優先順位は「企業型DC→iDeCo→NISA」だと言い切っています。企業型DCとiDeCoは、掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税で、受け取るときにも控除があります。NISAは運用益の非課税だけなので、優先度は下がるというのです。60歳まで引き出せない点も、年金づくりには「壊せない貯金箱」として利点になります。企業型DCなら月5.5万円を30年積んで、1,980万円が無税になる計算です。制度を使わないのは、国が整えた高速道路を避けて、舗装のないあぜ道を行くようなものだ、とも言っています。

韓国のジョン・リーも、制度を使う立場です。個別株よりETF(株の詰め合わせを売買できる商品)を勧め、口座は一般口座でなく年金貯蓄の口座を開くよう言います。年600万ウォンを入れると、約100万ウォン(14〜15%)が税額控除で戻ってくるので、それを再投資すれば複利が効く、という理屈です。退職年金を元本保証の預金に置くのは「誤った習慣」で、20〜30年後に使う金なら、変動を恐れず株式型にすべきだと言います。

その一方で、条件もはっきり付けています。株は「少なくとも5年は使わない金」でやること。結婚資金のように近く使う金は入れないこと。70歳なら株は資産の30〜40%に落とすこと。新生児の株口座はS&P500とKOSPI200(韓国の代表的な株価指数)に連動するETFの二つで足りるが、退職年金を全部S&P500にするのは良くない、とも話しています。

ブラックロックのラリー・フィンクは、国全体の視点です。3月の年次書簡で、1989年以降に米国株へ投じた1ドルは15倍を超え、賃金に連動する1ドルを大きく上回ったと示しました(報道による)。富は働いて得る所得より、資産を持つ人に偏っている。AIがその偏りをさらに広げかねない。だから少額から始められる口座を広げ、市場への参加を増やすべきだ、という訴えです。日本の制度変更で3年に1,000万人が新たに参入した例も挙げています。ただ、ブラックロックは約14兆ドルを運用する会社で、参加が増えれば自社の商売にも合います。この点は割り引いて読むべきだと筆者は思います。

筆者は、奥野の高速道路のたとえにはうなずきます。税の優遇は金額が確かめられ、再現できる数少ない「確実な得」だからです。ただし、ジョン・リーが細かく条件を付けていることのほうが、実は大事です。得を取れる人は、条件を守れる人に限られるからです。

制度の「設計」を問う人たち

韓国のイ・チェウォンは、制度を個人の得ではなく、市場全体の評価につなげて見ています。配当にかかる税と売却益にかかる税の率をそろえ、相続税と会社の承継の制度を直せば、「韓国株が割安に放置される状態(コリアディスカウント)」は消え、KOSPIが5,000に届く時代も開ける、という考えです。商法の改正と配当所得の分離課税で、遅れたガバナンスの問題は大半が解消したとも整理しています。

インドのサミール・アローラは、制度を変える時期を問題にします。証券取引にかかる税の引き上げは、相場が世界に出遅れて外国人が売っている最中には、悪いシグナルになる。強い局面なら増税は吸収できるが、弱い局面では心理を冷やす、というのです。外国人が見ているのは、公平さ、税の分かりやすさ、政策の安定だといいます。

筆者は、二人の話を並べると、制度は個人を守る道具であると同時に、市場の空気を変える道具でもあると感じます。どんなに良い制度でも、入れる時期を間違えれば逆効果になり得ます。

問い2:個人の参加が増えるのは、過熱のしるしか

「カジノの客が増えた」と見る人たち

ウォーレン・バフェットは、5月のCNBCで、いまの市場を「教会にカジノが付いたようなもの」にたとえています。その上で、いまはカジノの客が増えている、というのです。1日だけのオプション取引は、投資でも投機でもなく賭博だと言い切っています。投資そのものが悪いわけではないが、多くのものの値段は、後から見ればばかげていた、と振り返ることになるそうです。

カナダのプレム・ワツァは、もっと数字を並べて警告しました。米国株は世界の株の指数(MSCIワールド)の70%を占めていて、1989年に世界の50%を占めた日本に似ている。米国の家計の74%が株を持ち、外国人の保有も過去最高。ETFの数は米国の上場銘柄数を上回り、オプション取引も記録的です。これらをまとめて「極端な投機のしるし」と見ています。

ポール・チューダー・ジョーンズは、ここ数年の個人の株式比率が、史上最高の水準にあると話しています。ジム・チャノスも、家計の株式保有が総資産の30%を超え、ドットコムバブルの頂点だった27%を上回ったと指摘しました。ロビンフッドの口座の平均残高は約1.2万ドルで、10〜11月に調整後で7%減った、リスクの高い銘柄に偏っていた形跡がある、とも言っています(報道による)。ドイツのヘンドリク・レーバーは、スペースXの新規上場を「警戒信号」と見ました。誇大な内容が並ぶ目論見書を、個人が難なく買ってしまうのは、価格が大きく動く前触れだというのです。

日本の奥野とジョン・リーも、売買の仕方には厳しいです。奥野は、SNSでの「マウント」の取り合いは、売買型の投資を奪い合いのゲームだと思っている証拠だと見ています。ジョン・リーは、100株買って毎日スマホを見るのは賭博だと言い、「10%損したら損切り、10%もうけたら利益確定」は投資でなくカジノだと切り捨てました。

「広がりは健全だ」と見る人

反対側に立つのは、フィンクです。参加が増えるのは、国民が成長を分け合うことだと見ています。

筆者は、ここがこの問いの面白いところだと思います。「家計の株式保有が増えた」という同じ事実から、フィンクは「健全な広がり」を、ワツァとチャノスは「過熱のしるし」を読み取っています。両方とも数字を出していて、どちらかが嘘をついているわけではありません。分かれるのは、増えた個人が何をしているかの見積もりです。長く積み立てているのか、1日で売買しているのか。数字だけでは、そこが見えません。

正直に言えば、筆者はワツァの警告のほうが当たっていると思います。ただし、警告が当たる時期までは言えません。ワツァが挙げたのは、水準が高いという事実で、崩れる日付ではないからです。

問い3:個人は何を、どう持つか

ここも、発言は三つに割れます。

一つ目は、個別株を選べと言う立場です。インドのヴィジャイ・ケディアは、ムンバイでの講演で、指数は経済も市場も個人投資家の心理も映さないと言い切りました。インドの代表的な指数「ニフティ50」は、2021年9月から2026年8月で年約7.1%の上昇でした。しかし、構成する50銘柄のうち13銘柄は、指数の約33.7%を占めながら、合計でマイナス0.8%だったといいます。2,867銘柄の3年間を見ても、4割超が損失、約2割が2倍以上でした。だから指数やETFに従わず、個別銘柄で勝負すべきだという主張です(二次情報)。

二つ目は、積立と分散で雑音を避けよという立場です。インドのS・ナレンは、一般の投資家に必要なのは、積立、適切な配分、そして日々の相場やSNSの雑音に動かされない気質だと説きます(二次情報)。為替に詳しい佐々木融は、株高も金(ゴールド)高も「通貨の価値が下がっているだけ」と見ています。だから急上昇した資産は追わず、少しずつ積み立てて、長く持つ規律が大事だというのです。ジェレミー・グランサムも、個人には「いちばん分散すること」を第一に挙げ、債券と現金、少量の貴金属を持つよう言います。

三つ目は、ほったらかしには落とし穴があるという立場です。奥野は、指数連動のほったらかし投資は、持っている先への理解が浅いと、暴落で不安になって全部売りがちだと警告します。2024年8月5日の日経平均の急落では、投資先を理解していない新NISAの初心者に、全部売ってしまった人が多かった。理解のある人は積立を続けて、回復局面で資産を増やした、という話です。澤上篤人は、さらに踏み込みます。世界の機関投資家の年金運用が、平均株価につかず離れずの機械的な運用になったと批判し、どの企業に頑張ってほしいかを選ぶ役割が捨てられたと言います。指数に任せる運用の神話は崩れ、本格派の「選ぶ運用」が大復活すると予想しています。

ここで筆者が引っかかるのは、ケディアと澤上の主張が、個人が自分で選べることを前提にしている点です。選ぶ力がある人にはそのとおりでも、全員がそうとは限りません。グランサムの「いちばん分散」は、個人の学習の余地を低く見積もった、慎重な答えだと思います。

なぜ割れるのか

割れる理由は三つあります。

一つ目は、制度の評価の物差しです。奥野やジョン・リーは、税の優遇の金額と、60歳まで引き出せない仕組みの長所を見ています。イ・チェウォンやアローラは、制度が市場全体の評価や心理に与える影響を見ています。個人にとっての得と、市場にとっての意味は、別の物差しで測られているのです。

二つ目は、参加の増加をどう読むかです。フィンクは、国民が成長を分け合えると見ます。ワツァやチャノスは、過去の過熱と同じ目印だと見ます。

三つ目は、個人の力量への信頼です。ケディアは個別企業を選べると見て、奥野は理解を深めれば積立を続けられると見ます。グランサムは何より分散を優先します。

同じ「積立」でも、前提がちがう

積立を勧める声は多いのですが、前提はそろっていません。奥野の条件は、積み立てる先の企業を理解していること。ジョン・リーの条件は、5年は使わない金でやること。佐々木の条件は、急上昇した資産を追わないこと。ナレンの条件は、日々の雑音に動かされない気質です。

条件が違えば、失敗の形も違います。理解が浅い人は、急落で売ってしまう。近く使う金を入れた人は、下落のときに現金が要る。雑音に動かされる人は、積立をやめる。この三つは、いずれも制度の問題ではなく、使う側の問題です。

制度を勧める人と、過熱を警戒する人の間に、実は大きな食い違いはないと筆者は見ています。食い違うのは、条件を満たす個人がどれだけいるか、という見積もりだけです。

株譜の見方

以下は、公開された発言から筆者が推測した部分で、確定した事実ではありません。

冒頭の主張に戻ります。制度は味方です。奥野の企業型DCの上限や、ジョン・リーの税額控除のように、確かめられる数字の裏づけがあるからです。ただし、味方になるのは、期間と用途と理解の条件を満たした人にとってだけです。一方で、「制度が過熱を呼ぶ」という主張には、因果の証拠が示されていません。制度の整備と過熱の関係は、今回の発言の範囲では結論が出ていない、と筆者は読みます。

バフェットやワツァの警告も、個人が悪いと言っているわけではありません。指しているのは市場全体の構造です。オプション取引やETFが増えたのは、個人が自分で選んだ結果というより、商品を用意する側が増やした結果でもあります。個人の側の規律と、商品を作る側の責任は、分けて考えたいところです。

この15人の発言で手薄だったのは、出口の話です。ジョン・リーが「70歳なら株は30〜40%に」と話した程度で、取り崩しの議論はほとんどありません。入口ばかり広がって、出口が語られていない。筆者はここが、いちばん気になりました。

明日から見るなら、自分に問う三つです。この金は5年以上使わないか。持っている先を、自分の言葉で説明できるか。相場が2割下がっても、積立を続けられるか。三つとも「はい」と言える人にとって、NISAは頼れる味方です。一つでも怪しければ、制度の前に、まず金額と持ち方を見直すべきだと思います。

注意

本稿は、公開された発言を整理したもので、投資助言ではありません。個別の商品や口座の選択を勧めるものでもありません。引用は要約であり、二次情報は報道ベースとして扱いました。税制や口座の条件は国と時期によって異なるため、実際の利用にあたっては最新の公式情報を確認してください。数字は発言時点のものです。

出典

  • 奥野一成、ゴールドオンライン連載、2025年11月1日。https://gentosha-go.com/articles/-/72683
  • 奥野一成、ゴールドオンライン連載、2025年11月4日。https://gentosha-go.com/articles/-/72706
  • 奥野一成、ゴールドオンライン連載、2025年11月5日。https://gentosha-go.com/articles/-/72812
  • John Lee、ファイナンシャルニュース(二次)、2026年8月3日。https://www.fnnews.com/news/202608031133246201
  • John Lee、ニューシス経由(二次)、2026年8月31日。https://www.fnnews.com/news/202609020010242298
  • John Lee、アジア経済(二次)、2026年9月2日。https://view.asiae.co.kr/article/2026090410245945793
  • Larry Fink、ブラックロック年次書簡(Funds Society報道、二次)、2026年3月。https://www.fundssociety.com/en/news/markets/larry-fink-long-term-investing-works-a-kind-of-civic-miracle/
  • Lee Chae-won、韓経マガジンMONEY(二次)、2026年1月16日。https://magazine.hankyung.com/money/article/202512194706c
  • Lee Chae-won、中央日報 J-The House(二次)、2026年2月19日。https://v.daum.net/v/20260219000445392
  • Samir Arora、CNBC-TV18(二次)、2026年2月2日。https://www.cnbctv18.com/market/union-budget-2026-stock-market-needs-recognition-as-independent-sector-stt-hike-may-hurt-sentiment-samir-arora-helios-capital-fpis-alpha-article-19839451.htm
  • Warren Buffett、CNBC Squawk Box、2026年5月2日。https://www.cnbc.com/2026/05/02/cnbc-transcript-berkshire-hathaway-chairman-warren-buffett-sits-down-with-cnbcs-becky-quick-during-the-2026-berkshire-hathaway-annual-meeting-today-.html
  • Prem Watsa、フェアファックス 2025年株主への手紙、2026年3月6日。https://www.fairfax.ca/wp-content/uploads/2026/03/FFH_Fairfax-Financials-Shareholders-Letter-2025-with-attachments-092704.pdf
  • Paul Tudor Jones、Invest Like the Best、2026年4月28日。https://podscripts.co/podcasts/invest-like-the-best-with-patrick-oshaughnessy/paul-tudor-jones-lessons-from-50-years-in-markets-invest-like-the-best-ep470
  • Jim Chanos、エコノミスト誌(The Nightly転載、二次)、2025年12月17日。https://thenightly.com.au/business/the-economist-ai-bubble-fears-in-focus-as-famed-short-sellers-reveal-where-theyre-placing-their-bets-c-21029805
  • Hendrik Leber、ACATIS 月次投資レポート2026年7月、2026年7月10日。https://www.acatis.de/fileadmin/user_upload/ACATIS_Investment_report_July_2026.pdf
  • Vijay Kedia、Outlook Money「The Money Question」(二次)、2026年9月23日。https://www.outlookmoney.com/invest/stock-specific-investing-is-key-to-wealth-creation-says-vijay-kedia-owner-of-kedia-securities
  • S. Naren、Business Today(二次)、2025年10月28日。https://www.businesstoday.in/personal-finance/investment/story/when-an-asset-class-has-done-extremely-well-be-very-careful-icici-prudential-cio-sankaran-naren-on-gold-investment-499926-2025-10-28
  • 佐々木融、マネ育チャンネル(二次)、2026年2月10日。https://www.gaitame.com/media/entry/2026/03/24/120000
  • Jeremy Grantham、The Diary of a CEO(GMO掲載)、2026年6月25日。https://www.gmo.com/americas/research-library/jeremy-grantham-joins-the-diary-of-a-ceo-the-biggest-bubble-in-american-history_inthenews/
  • 澤上篤人、長期投資家日記、2025年12月4日。https://sawakami.blog/2025/12/%e6%96%b0%e8%91%97%e3%80%81%e3%82%88%e3%81%86%e3%82%84%e3%81%8f%e8%84%b1%e7%a8%bf.html
  • 澤上篤人、長期投資家日記、2025年12月10日。https://sawakami.blog/2025/12/%e5%b9%b4%e9%87%91%e9%81%8b%e7%94%a8%e3%81%ae%e3%81%82%e3%82%8b%e3%81%b9%e3%81%8d%e5%a7%bf.html

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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