株譜
INVESTOR OUTLOOK

ジェレミー・シーゲル:株と債券のどちらが安全かは、使う時期で変わる

TIPS

株と債券のどちらが安全なのか。この問いは、いつも少し急ぎすぎています。来年使うお金なのか、20年先のお金なのか。株価が下がることを怖いと言うのか、インフレで購買力が減ることを怖いと言うのか。先にここを決めなければ、「安全」の答えは出ません。

長期の株式研究で知られるジェレミー・シーゲルは、株の強さを説く人です。ただし、短期の値動きを軽く見ているわけではありません。ウォートン校が紹介した2022年の対談で、株式の実質リターンは長期には粘り強い一方、短期には非常に大きく揺れる、と両方を並べています。

株か債券かを一つ選ぶより、使う時期に合わせて資金の役割を分けることが大切です。近く使う資金を守る役と、長い時間をかけて購買力を育てる役を分けて初めて、シーゲルの「長期」が実行できる形になります。

6.7%は、未来の約束ではない

シーゲルは長期の株式投資を扱った著書の第6版をめぐる2022年のウォートン校対談で、1802年から2022年6月までの米国株式の実質リターンは年率6.7%だったと説明しました。1994年の初版が使ったデータは1992年末まででしたが、金融危機と新型コロナ禍を含むその後の30年を足しても、同じ6.7%だったといいます。

これは米国市場の歴史データであり、日本の投資家の円換算の成績をそのまま示すものでもありません。ここは数字だけが一人歩きしやすいところです。1802年から2022年までという長い測定期間で、物価を差し引いた平均が6.7%だった、という歴史の記録です。来年も6.7%になる予想ではありません。まして、どの年に買っても同じ結果になるという話でもありません。

本人も、短期の株式リターンは「非常に変動が大きい」とはっきり言っています。長い期間での強さと、途中の激しい下落は矛盾しません。むしろ、途中で大きく揺れるからこそ、長期の平均だけを見て近い支出まで株に入れると危うくなります。

この区別が大事です。平均リターンは、保有を続けられた人の結果です。下落の最中に資金が必要になり、売らなければならなかった人には、長い平均は助けになりません。筆者は、ここに「長期投資」のいちばん実務的な条件があると見ています。

ドットコム崩壊の日に、何を分けたか

その条件がよく見えるのが、2000年から2001年のドットコム崩壊です。ウォートン校は2001年3月、S&P500が前年3月の高値から2割超下げた日にシーゲルへ話を聞いています。ナスダック総合指数は同じ時点で、2000年3月の高値から6割超下落していました。

この場でシーゲルは、長く持てる人にとっては、下がった株は前年より良い賭けになり得ると話しました。一方で、今後数年のうちに資金が必要な人は、そもそも株式市場にいるべきではない、とも答えています。暴落時に「必ず買え」と言ったわけではありません。底値を当てられるとも言っていません。

判断の順番は、予想より先に資金の期限です。数年後に住宅資金、学費、生活費として使うなら、下落の最中に換金を迫られるかもしれません。その資金にとって、株式の長い歴史は助けになりません。反対に、使う時期が十分遠く、下落しても売らずに済むなら、価格が下がったことと事業の価値が消えたことを分けて考える余地が生まれます。

ここは意外に厳しい話です。「長期で持つ」は、気合いのことではありません。売らなくてよい資金の置き方を、上がっているときに済ませておくことです。下がってから決めようとしても、選択肢は狭くなります。

債券は負け役ではなく、時間を買う役

では、債券や現金は何のために持つのでしょうか。2001年のインタビューでシーゲルは、債券は短い期間では株式より安全になり得ると説明しました。同時に、当時の歴史比較では、インフレを差し引いた長期リターンは株式より低かったとも述べています。これは、債券が不要だという結論ではありません。ただし、債券なら何でも近い支出に備えられるわけではありません。満期前に売れば価格が下がることがあり、返済までの期間や発行体の信用力によっても危険は違います。

債券や現金の役目は、近く使うお金を株価の下落から切り離すことです。利回りだけでなく、「悪い日に株を売らずに済む時間」を買う役だと考えると分かりやすいでしょう。現金は値下がりしにくい一方で、物価が上がれば買えるものは減ります。債券も、名目の利息があってもインフレで実質の力を失うことがあります。

2022年の対談でシーゲルが強調したのは、債券の実質利回りを考えることでした。元本が物価に連動する米国債の利回りから見える実質金利が低下してきたこと、そして株と国債の値動きの関係も変わったことを説明しています。金融危機や新型コロナ禍の局面では国債が上がり、株安を和らげた時期がありました。しかし、それがいつでも繰り返されると決めつけるのも危険です。

債券の安全は、株より値動きが小さいという一面だけでは測れません。使う時期まで価値を保ちたいなら、インフレと金利の動きも見る必要があります。株のリスクと債券のリスクは、同じ物差しでは測れないのです。

成長の速さと、株主のもうけは別

シーゲルの研究には、もう一つ大事な留保があります。良い会社や伸びる業界の株を買えば、必ず良い投資になるわけではない、という点です。2005年のウォートン校インタビューで、彼は新しく成長が速い企業ほど、投資家が払う価格が高すぎることがあると説明しました。売上や利益の伸びが速くても、市場がそれ以上の成長をすでに株価に織り込んでいれば、株主のリターンは伸びません。

これは「人気株を避けろ」という単純な戒めではありません。企業の成長と、投資家が得るリターンは別だ、という話です。2000年前後にテクノロジー株が大きく崩れた背景にも、利益や現金収支で支えにくい期待が株価に積み上がっていた、とシーゲルは見ていました。

長期で株を持つことは、話題の会社を永久に握ることではありません。分散した株式を、価格と期待の関係を意識しながら、期限の長い資金で持つことです。長期という言葉を、値段を見なくてよい免罪符にしない。この姿勢が、シーゲルの研究を読むときの肝だと思います。

株譜の見方

株が下がると、株を減らすか、買い増すかという二択に意識が寄りがちです。筆者は、その前に「この資金はいつ使うのか」を見直すほうが大切だと考えます。数年以内に使う分まで株に入っているなら、相場観が当たっても外れても、売らされる危険は残ります。

答え合わせに使えるのは三つです。第一に、生活費や大きな支出に必要な資金を、株価が下がった日に売らずに済む形で置けているか。第二に、債券を利回りだけでなく、インフレを除いた価値と資金の期限で見ているか。第三に、株の成長期待がすでに高い値段に織り込まれていないかです。

シーゲルの1802年以降の数字は、株が長い時間をかけて購買力を増やしてきた記録です。しかし、その記録が働くのは、途中の変動に耐えられる資金で持つ場合です。「何を買うか」より前に、「いつまで使わないか」を決める。 これが、株と債券の安全を取り違えない出発点になります。

出典

  • ジェレミー・シーゲル、ウォートン校「Why Stocks Will Remain Strong in the Long Run」、2022年10月25日(2022年6月までの1802年以降の実質リターン、短期変動、実質金利)
  • ジェレミー・シーゲル、ウォートン校「His Bet Is Still On Stocks」、2001年3月19日(ドットコム崩壊時の長期・短期資金、当時の測定期間の株・債券・現金の比較)
  • ジェレミー・シーゲル、ウォートン校「The Future for Investors」、2005年3月23日(成長期待と株主リターンの関係)
  • ジェレミー・シーゲル、ウォートン校「How to Invest In Stocks & Bonds」、2024年7月9日(YouTube)。原VTTは補足確認に用い、2022年の歴史データと混同していません。
  • 米証券取引委員会 Investor.gov「Bonds - FAQs」(債券の満期前売却、金利・信用・インフレのリスクの補足確認)

本記事は公開発言と研究を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

← 著名投資家の市場見通し 一覧へ / 発言と実際の保有の突き合わせはヘッジファンド13Fで。