逆張りの備えは「中庸」か「保険」か:時期を当てないと言う二人が、まったく違う形で備えている
熱狂に逆らって備えるのは難しい。難しさの正体は、方向よりも時期にあります。
この問いに、2025〜26年の公開発言でいちばん対照的に答えているのが、オークツリーのハワード・マークスと、ユニバーサ・インベストメンツのマーク・スピッツナーゲルです。二人とも、崩れる時期は当てられないと認めています。それでも備え方は正反対に近い。
筆者がこの記事で言いたいのは、時期を当てられない以上、備えの本当の違いは「外れたときに何を支払うか」にある、ということです。マークスは持ち方の濃さを調整し、スピッツナーゲルは別の商品で保険を買います。支払うものが、まるで違います。
中庸という備え方
マークスの考えは、2025年12月のメモ「バブルなのか」にあります。AIはおそらく史上最大級の変革技術です。ただ、熱狂が歴史的なバブルの型にならなければ、それは「初めて」のことだ、というのです。変革技術は、必要以上の設備と高すぎる資産価格を生み、投資した側の損失で終わることが多い。AIは新しいため、影響の大きさも時期も勝者も読めません。今回は借り入れが損失を増幅しうる、とも書いています。
そこで出した処方は、全力投入でも全面回避でもありません。「選別と慎重さをもって取る中庸の持ち方が、最善の方法に思える」。
2026年2月のメモ「AIは突き進む」でも、同じ助言を繰り返しています。AIは本物で、潜在力はむしろ過小評価されていそうだが、それはAI関連の資産が割安や適正だという意味ではない、という切り分けです。技術が本物であることと、価格が妥当であることは別の問題だ、と筆者も思います。
時期については、2025年11月のメモ「炭鉱のゴキブリ」の言い方が使えます。問題を見抜く利益は「早さ」にあり、皆が気づいた時点では、すでに価格に織り込まれている。時期は当てるものではなく、早く気づくことで差をつけるものだ、という位置づけです。
10月のメモでは、年金のリスクの取り方を「リスクを負える財務力」と「リスクを取る意欲」の2軸で整理しています。耐えられない損失になりうるリスクを取るほど愚かなことはない、とも言い切りました。備えの大きさは、相場観ではなく、自分が耐えられる損失で決まるわけです。
保険という備え方
スピッツナーゲルは、まったく別の形で備えます。2026年9月の報道によれば、S&P500が8,000を「楽々」超える最後の熱狂相場を経たのち、約80%下がると言っています。強気が4年続き、バブルの原因は長年のゼロ金利で、崩壊の引き金は借入コストの上昇だという見立てです。
この8,000という水準は、2025年9月に6,653だった時点で初めて示した目標で、その後に約16%上がりました。予想の一部は、実際に当たってきたのです。
ただし、これは「売れ」という意味ではありません。彼は、熱狂の最終局面に乗りながら、暴落の危険を買って守る立場です。AI向けの巨額投資、循環的な資金調達、隠れた債務についてはマイケル・バーリの懸念に同意しつつ、自分は「時期は外すことになる」と先に断っています(2026年9月、二次報道)。引き金は特定せず、借り入れの膨らみすぎという構造を重く見ています。
2020年3月には、同社の暴落対策の運用方式が、ヘッジ部分の資本に対して3,612%のリターンを記録したと報じられました。これは顧客の運用全体ではなくヘッジ部分の数字で、他のヘッジファンドからは批判も出ています。スピッツナーゲル自身は、この方式を、普段は小さな損を払い続け、暴落時に大きく取り戻して、安い株を買う資金に変える保険だと説明しています。
数字で並べる
二人の違いを、材料から整理します。
- 時期:マークスは示しません。スピッツナーゲルも、最終的な天井は誰にも当てられないと言いますが、2026年9月7日の電子メール報道では、熱狂の終盤は「数か月先」に天井を迎えると見ていました。
- 備えの形:マークスは持ち方の濃さの調整(中庸、選別、公開債を持つ)。スピッツナーゲルは、暴落の危険を買う別の商品です。
- 外れたときの代償:マークスの代償は、上昇の取り逃がしです。スピッツナーゲルの代償は、毎年払う保険料で、暴落が来なければ「コストだけが残る」。
- 検証のされ方:保険は、暴落のたびにしか、効果が確かめられません。
「早すぎる」ことの記録
スピッツナーゲルの予想には、外れの記録が付いています。2013年に株が最大40%下がりうると予想したものの、2010年代は長い景気拡大が続き、予想は大幅に早すぎたと、記事自身が書いています。同様の警告は、2024年の景気後退、2025年のバブル崩壊でも繰り返されたと報じられています。
彼は、時期の予想は愚か者の仕事で、この保険は時期を当てなくても機能すると言い切ります。ここに、二人の違いがいちばんよく出ていると筆者は感じます。マークスは、自分の見通しが外れても、持ち方が中庸なので大きく傷みません。スピッツナーゲルは、見通しが外れても、保険料以外の損は小さい設計だと言います。けれども、その保険料を何年払い続けられるのかは、材料からは分かりません。
備えの「道具」をどう疑うか
もう一つ、二人は備えに使う道具への目も違います。スピッツナーゲルは、分散投資を「分散による悪化」と皮肉り、聖杯ではなく「大きな嘘」だと言い切ります(2024年9月、二次報道)。2026年2月の報道では、1月の書簡で、金と暗号資産は最近は守りの資産ではなく投機的な売買として動いており、流れが反転すれば他のリスク資産と一緒に大きく下がる、と警告したと伝えています。安全だと思われている道具が、危機のときに期待どおりに働かない、という主張です。
マークスは、道具の質を別の面から見ます。2025年11月のメモでは、私募クレジット(非公開の貸付)が人気だが、他の条件が同じなら、見切りをつけやすい公開債を持つほうがよいと書きました。2026年4月のメモでは、直接融資は1980年代末から90年代初めの高利回り債に似ており、一度は信用サイクルを通る必要があるかもしれない、という読者の指摘に共感を示しています。
二人は「何を持つか」ではなく、「いざというとき動かせるか、同じ方向に動かないか」を問うています。違いは、答えが「身軽な公開資産」か「暴落で逆に動く商品」かにあります。
株譜の見方
ここからは、筆者の個人的な推測です。
冒頭の主張に戻ります。逆張りは「安いときに買う」ことのように語られますが、この二人を読むと、本当の難しさは、待っている間の費用をどう払うかにあると感じます。マークスは、上昇の取り逃がしという形で払います。スピッツナーゲルは、保険料として払います。どちらも、時期が来る前に払う費用です。
個人にとって使いやすいのは、どちらかといえばマークスの発想だと筆者は考えます。彼の基準は、耐えられない損失になりうるリスクを取らないことで、相場観を要求しません。スピッツナーゲル流は、暴落対策の商品が個人向けに使いにくいうえ、効果の検証に暴落が必要という点が重いのです。
ただ、スピッツナーゲルも2023年には、個人に対して、予想で売買せず、低コストの指数ファンドを持ち、20%下がっても売らず、下落時に買い増す方法を勧めていました。保険を買わない個人向けの助言は、むしろ中庸に近いのです。
明日から見るなら、S&P500が8,000に届くかどうかと、その途中で借入コストが上がるかどうかです。スピッツナーゲルの筋書きが進むのか、マークスの中庸で足りるのかの、答え合わせになります。
なお、この記事の材料は、マークスの方は一次のメモ、スピッツナーゲルの方は二次報道です。3,612%や約80%の数字は報道の引用で、原典の確認はしていません。
出典
- ハワード・マークス オークツリーのメモ「Is It a Bubble?」、2025年12月9日/「Cockroaches in the Coal Mine」、2025年11月6日/「A Look Under the Hood」、2025年10月28日/「AI Hurtles Ahead」、2026年2月26日(Oaktree)
- マーク・スピッツナーゲル Puck インタビュー(ベンジンガ経由)、2026年9月20日/ビジネス・インサイダー、2026年9月7日(Startup Fortune)/2026年2月11日(Tekedia)/Fortune、2023年8月5日/ザ・ウェルス・アドバイザー、2020年3月31日
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。