景気後退は来るのか:投資家18人の答えは「来ない」「外から来る」「中から来る」の三つに割れた
足元の数字は、景気後退とは言いにくいものです。クーパーマンが8月に引いたアトランタ連銀の推計(GDPナウ)では、7〜9月期は前年比4.3%増。S&P500の4〜6月期の増益率は、前年同期比50%超の見込みでした。シーゲルは8月、雇用統計は予想を大きく下回ったものの、失業率は4.1%に下がったと指摘しています。
一方で、芳しくない数字もあります。7月の小売売上高は前月比0.6%減(予想は0.1%増)で、ブレント原油は8月17日時点で約89ドルと、イラン戦争の前より22%高い水準でした(いずれもクーパーマンが8月14日のCNBCで引いた数字)。FRBは9月に利上げに動き、米10年債の利回りは5%付近にあります。強い数字と重い数字が、同居しているわけです。
こうした局面で、投資家たちは景気後退をどう見ているのか。2025年10月から2026年10月までの発言を集めると、18人の見方は「来ない」「外から来る」「中から来る」の三つの筋道に整理できました。
筆者の読みを先に言います。18人の答えを分けているのは、景気の現状認識ではなく、「いまの強さが何に支えられているか」の見立てです。 そして、その見立ての分かれ目は、突き詰めれば長期金利にあります。それぞれの前提を並べて、なぜ割れるのかを考えます。
一つ目の筋道:来ない、来ても浅い
シーゲルは、もっとも明確な「来ない派」です。3月、イラン戦争の膠着と原油高で、10%超の調整の可能性は高まったものの、景気後退や弱気相場は見ないと書きました。5月には、ブレントが約110ドル、WTIが約100ドルの局面でも、この水準が年末まで続けば、実質消費とGDPを約0.8ポイント押し下げるが、景気後退ではないと話しています。AI設備投資と戦争関連の政府支出が、相殺するというのです。最大の下振れの経路は、ガソリンが5ドルを超えて、消費者心理が一気に冷えることだとしました。
8月には、雇用の伸びが月2〜4万人でも失業率が安定する、新しい均衡に入ったと読んでいます。人口増の鈍化、移民の抑制、高齢化が背景です。
フィッシャーも、3月に、2026年の深刻な景気後退の確率は低いと話しました。株は不況の数か月前から下がりますが、年初に最高値を更新したこと、世界の貸し出しが18か月前から加速していることが根拠です。ただし9月には、市場が織り込んでいない最大の危険として、「弱気相場を伴う古典的な景気後退」が17年間起きていない点を挙げました。過剰の大掃除が済んでいないので、起きたときは想定より悪い驚きになる。ただし今すぐではない、と見ています。
ウィルソンは、景気より利益で語ります。3月末、原油高は歴史的に景気の循環を終わらせてきたが、それは利益の成長が減速かマイナスの局面だったと整理しました。今は利益の成長が加速していて、原油の上げ幅も景気後退の事例の半分程度だといいます。9月には、ラッセル3000の4割超が6月以降に20%以上下落しながら、中位の銘柄の利益成長は約15%で、「典型的な中期への移行」だと話しています。
リンチは、時間の長さが違います。2025年10月のポッドキャストで、1929年のような大恐慌が再び起きる可能性は低いと語りました。1982年以来、10〜12回の下落と11回の景気後退がありましたが、GDPの減少は最悪でも5〜6%にとどまりました。失業保険、社会保障、証券取引委員会、証拠金の規制があり、米国人の63%が持ち家を持つ(1920年代は賃貸が中心)という理由です。
ヤルデニは、基本シナリオの確率を70%に置いています。3月にホルムズ海峡の封鎖を受けて、景気後退と弱気相場の確率を20%から35%へ上げました。9月の時点では、強気の基本シナリオ(「狂騒の2020年代」)を80%から70%、弱気のシナリオ群を20%から30%に置いています。10月には、ペルシャ湾産原油の出荷が戦前の約98%(イランを除く)まで戻ったと書きました。3月の35%よりは低いのですが、9月にむしろ上げ方向へ動いている点には、注意したいところです。
二つ目の筋道:外から来る(原油・地政学)
こちらは、ショックの出どころを外に置きます。
グリフィンは、5月のCNBCで、ホルムズ海峡の閉鎖があと6〜12か月続けば、世界の景気後退は避けられないと話しました。米国はエネルギーの自給のおかげで最悪の被害は免れますが、成長に響き、景気後退入りもありうる。最初に打たれるのは、中東産の燃料を失う、パキスタンやバングラデシュなどの新興国です。
エラリアンは、3月、戦争の期間と広がりの度合い次第で、世界経済は物価高と景気停滞が同時に起きる状態(スタグフレーション)に傾くと警告しました。短く限定的なら、エネルギーと物価への一時的な打撃で済みますが、長引けば、インフレをあおり、供給網を乱し、成長を損ないます。FRBの政策の余地は限られているので、リスクは高いといいます。6月には、米国とイランの覚書合意を「朗報だが決定打ではない」と評価しました。
アインホーンは、4月の書簡で、歴史的に原油価格のショックは多くの景気後退に先行しており、成長と雇用への逆風になると書きました。短期金利の先物の買い持ちを続けているのは、景気後退を防ぐためにFRBが利下げに動くと見たからです。ただし、9月に利上げが行われたので、この賭けには逆風が続いたと考えられます。9月以降の本人の説明は、素材にはありません。
ダイモンは、4月の株主への手紙で、2026年の「パーティーの邪魔者」をインフレとしました。インフレが緩やかに下がる代わりに、緩やかに上がり始めるだけで、金利が上がり、資産価格が下がります。景気後退でもインフレが勝てば、スタグフレーションです。一方で、追い風として、「大きく美しい法案」による約3,000億ドル(GDP比約1%)の財政刺激と、規制緩和も挙げました。
この派の共通点は、原因が「戦争と供給」で、解決も外交にあるという前提です。だから、6月の覚書合意や、10月の出荷の回復は、リスクを下げる材料として働きます。
三つ目の筋道:中から来る(バブルと金利)
もっとも数が多いのが、中から崩れるという筋道です。
クーパーマンは、8月のCNBCで、来年のどこかで景気後退が起き、おそらく相場を押し下げると話しました。景気の循環が終盤にあり、AIの熱が冷めれば、株が打撃を受ける。類例に挙げたのは、1970年代前半に人気を集めた大型優良株50銘柄(ニフティ・フィフティ)です。当時は、物価の上昇、金利の上昇、石油危機が重なりました。「もっとも危険な3語は『今回は違う』だ」と言い切っています。報道によれば、3月には早ければ2026年末としていた時期を、8月に2027年へ修正しました。
ポール・チューダー・ジョーンズは、10月のCNBCで、2027年は株式市場にとって非常に厳しい年になると話しました。新規上場や公募増資が、自社株買いの需要を上回る需給が、2002年以来で最悪だといいます(報道による)。年内はまだ上がる余地がありますが、通年では空売りです。景気後退そのものより、株の需給が先に崩れる、という筋道です。
ドラッケンミラーは、1月のインタビューで、深刻な経済悪化は、大恐慌や金融危機のように、必ず資産バブルが先行すると、歴史を調べて確信していると語りました。2026年にもっとも恐れるリスクは「物語主導のバブル」で、AI関連は「8回あたり」かもしれない。バブルがなければ、普通の景気後退で済む、という経験則です。
タンゲンは、ノルウェー政府年金基金のトップとして、8月の政治集会で、AI投資バブルの崩壊と米中の貿易紛争が重なった、長期不況をリスクに挙げました。極端な場合は、株式投資の価値の少なくとも80%が失われうるといいます。報道は、これを差し迫った崩壊の予測ではないとしています。3月の基金のリスク評価では、AIバブルのシナリオで、基金の価値が約35%減ると試算されていました(報道による)。
澤上篤人は、12月末、過去40年、世界は中央銀行のマネー供給で、景気後退や不況を人為的に抑え込んできたが、その結果、不況による淘汰が働かず、ゾンビ企業を温存したと書きました。この贅肉を削ぐため、暴落から始まる調整は当然だ、というのです。10月には、データセンター建設は、大量の資金調達が可能なカネ余りが前提で、金利の上昇で資金調達のハードルが上がれば、半導体やAI株の高騰に急ブレーキがかかると話しました。
スピッツナーゲルは、9月に、S&P500が8,000を超えたあと約80%下がると話しました(報道による)。原因は長年のゼロ金利で、引き金は借り入れの費用の上昇だといいます。
ハートネットは、9月に、ディーゼル価格が1ガロン6ドルの記録的な水準で、スタグフレーションのリスクが過小評価されていると警告しました。10月には、信用市場の「炭鉱のカナリア」と、中央銀行の引き締めの継続を理由に、中間選挙に向けてリスクを避ける側に寄っています(いずれも要約サイトを通じた情報、確度は中程度)。
この派の前提は、現在の強さを「持続しない部分」と見ていることです。利益、設備投資、株高の資産効果。いずれも、金利が上がれば反転します。
別の軸:雇用だけが先に傷む
三つの筋道とは別に、景気後退の定義そのものを揺さぶる声があります。AIが、雇用をGDPから切り離すという話です。
エラリアンは、2025年12月、AIの登場で「強い成長が、強い雇用創出に結びつく」関係が崩れつつあり、これが不安にさせると書きました。マークスは、12月のメモで、AIは究極の省力化技術で、新人の事務職、若手の弁護士、若手のアナリスト、運転手などが置き換わりうると指摘し、雇用の見通しを「恐ろしい」とまで書いています。2026年2月には、導入の速さが社会の適応力を超え、製造業の海外移転が雇用に与えた打撃より、広く速い影響を及ぼしうると懸念しました。
藤野英人は、3月の特別講義で、日本は解雇しにくいため、効率化が新卒採用の抑制に出て、「第二就職氷河期」が来る可能性があると語っています。
筆者は、この見方に、もっとも居心地の悪さを覚えます。GDPが4%成長していても、働く人の多くは、景気後退のような経験をしうるからです。シーゲルが「生産性の加速」と読み、エラリアンが「不安」と読む同じ現象が、ここでも分かれます。
なぜ割れるのか
三つの違いがあります。
一つ目は、何を景気後退と呼ぶかです。 GDPが2四半期連続で落ちることを指すなら、足元の4%成長からは遠い。株の暴落を指すなら、需給や評価の議論になります。雇用を指すなら、AIの議論になります。同じ「景気後退」という言葉でも、語っている現象が違うのです。クーパーマンやジョーンズが語る2027年の景気後退は、実際には、株式市場の調整と重なっています。
二つ目は、ショックの出どころです。 外から来ると見る人は、外交の進展で確率が下がると考えます。中から来ると見る人は、ショックが止まっても、金利と評価の問題が残ると考えます。ヤルデニの3月の警戒が、海峡の再開で和らいだのは前者の動きで、ジョーンズやドラッケンミラーの警戒は後者の議論であり、外交が進んでも消えません。
三つ目は、政策の余地です。 澤上は、リーマン時のような国と中央銀行の総動員は、インフレと金利上昇のいまは打てないと見ています(2025年10月、12月)。ダイモンは、世界の財政赤字がGDP比で約5%と極端に高く、債務は最終的に対処が必要だと書きました。ウィルソンやシーゲルは、利益と生産性の強さが、衝撃を吸収すると見ます。余裕が厚いか薄いかの評価が、そのまま「来る・来ない」の評価に変わるのです。
株譜の見方
ここからは、公開された発言をもとにした筆者の推測です。
冒頭の主張に戻ります。18人を並べて感じるのは、「来ない派」も「中から来る派」も、現在の強さを同じ事実として認めていることです。違うのは、その強さが何に依存していると見るかです。来ない派は利益と生産性に、中から来る派は、低金利のあとの借り入れと、株価の資産効果に置いています。判断の分かれ目は、結局のところ長期金利にあります。10年債が5%付近にあることを、「景気の強さの反映」と読むか、「資金調達の重しになる」と読むか。これは、前の記事で取り上げた株価水準の議論とも、同じ論点に行き着きます。
もう一つ、フィッシャーと澤上の診断は、意外と近いのです。「過剰の整理が済んでいない」という点です。ただしフィッシャーは、それが今すぐの話ではないとし、澤上は「いつ起きてもおかしくない」とします。時期の読みを避けて、診断だけを共有する。この態度は、投資家として使いやすいと思います。時期を当てるより、「整理が先送りされるほど、起きたときの規模が大きくなる」という点を覚えておくほうが、実用的だと筆者は考えます。
最後に、AIと雇用の話は、景気後退の定義を静かに変えています。失業率やGDPの数字が良くても、新卒採用が絞られる世界は、統計上の景気後退とは別のかたちで、家計に効いてきます。株を持つ側と、働く側とで、同じ景気が違って見える。 この可能性は、頭の隅に置いておきたいところです。
明日から確かめる数字は、三つです。米10年債の利回りが5%付近を保つのか、7月に落ち込んだ小売売上高が戻るのか、そしてペルシャ湾産原油の出荷が戦前の水準を保つのか、です。
出典(日付は発言日。動画・番組は公開日)
- レオン・クーパーマン CNBC(ビジネス・インサイダー報道)、2026年8月14日(AOL)
- ウィズダムツリー「Weekly Siegel Commentary」(ジェレミー・シーゲル)、2026年3月9日・5月4日・8月10日(WisdomTree)
- ケン・フィッシャー(フィッシャー・インベストメンツ公式動画)、2026年3月4日・9月22日(Fisher)
- モルガン・スタンレー「Thoughts on the Market」(マイク・ウィルソン)、2026年3月30日・9月21日(Morgan Stanley)
- ザ・コンパウンド・アンド・フレンズ 第211回(ピーター・リンチ)、2025年10月3日(Podscripts)
- ヤルデニ・リサーチ QuickTakes、2026年3月29日・9月15日・10月3日(Yardeni)
- ケン・グリフィン CNBC「The Exchange」、2026年5月5日(CNBC)
- モハメド・エラリアン CNBC(フォーチュン記事)、2026年3月2日(Fortune)/プロジェクト・シンジケート寄稿、2026年6月17日(Project Syndicate)、2025年12月19日(Asianet)
- グリーンライト 2026年第1四半期の書簡(デービッド・アインホーン)、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)
- JPモルガン・チェース 年次株主レター(ジェイミー・ダイモン)、2026年4月6日(JPMorganChase)
- ポール・チューダー・ジョーンズ CNBC、2026年10月13日(JournalArta)
- スタンレー・ドラッケンミラー モルガン・スタンレー「Hard Lessons」、2026年1月30日収録(Morgan Stanley)
- ニコライ・タンゲン、2026年8月11日(European Pensions)、NBIMリスク評価の報道、2026年3月31日(IDN Financials)
- 澤上篤人「長期投資家日記」、2025年10月20日・12月30日、2026年10月13日(sawakami.blog)
- マーク・スピッツナーゲル、2026年9月7日(Startup Fortune)
- マイケル・ハートネット「The Flow Show」要約、2026年9月10日・10月8日(Finvaulta)
- ハワード・マークス オークツリー・メモ、2025年12月9日(Oaktree)、2026年2月26日(Oaktree)
- 藤野英人 N高グループ投資部での特別講義、2026年3月9日(ログミーファイナンス)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。