株譜
INVESTOR OUTLOOK

流動性とレバレッジ:市場の配管をめぐる警告はどこまで本気か

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株価の議論は、たいてい利益と金利の話になります。ところが2026年の発言には、価格ではなく「売買の仕組み」を心配する声が目立ちました。売りたい人がいるとき、買い手は出てくるのか。国債の買い手は誰に替わったのか。個人はどれだけ借りて買っているのか。売りたくても売れない資産は、どれだけ増えたのか。いわば、市場の配管の話です。

筆者は、22人の発言を読んで、一つの共通点に気づきました。この種の警告は、「いつ崩れるか」を当てる予言として読むと外れやすいが、「どこが薄くなっているか」の記録として読むと、とても役に立つ。 引き金を特定できる人はいません。それでも、配管の細くなった場所は、平時の数字から見えてきます。

脆さの場所は、三つに分かれました。仲介役と国債市場、個人の借入、そして売りにくい資産です。そのうえで、政府の流動性対策を支えと見るか、価格の操作と見るか、これが引き金になるのか構造にとどまるのか、という二つの割れ目があります。

なお、本稿は公開発言の整理であり、投資助言ではありません。数字は発言時点のもので、二次情報は報道ベースとして扱いました。

問い1:どこが脆いのか

仲介役と国債市場

ジェイミー・ダイモンは、4月のJPモルガンの年次株主への手紙で、2010年と2025年の金融システムの違いを表にしました。ヘッジファンド、未公開株ファンド、国の資金を運用するファンド、民間の融資ファンドといった、銀行ではない金融業者が大きく広がりました。世界の量的緩和(中央銀行による資金供給)は、2.9兆ドルから17.4兆ドルへ増えています。ところが、証券会社の手元にある在庫は、市場の大きさに比べて少ない。売買を仲介する力が弱く、極端な変動のときは、買い手がいなくなりやすいというのです。

同じ手紙は、家計の純資産がGDPの560%と、2006年の住宅ピークの460%を大きく上回ることや、外国人が米国の株と債券を約30兆ドル持っていることも挙げています。価格を決めるのは、いちばん端にいる買い手と売り手で、急落が急落を呼ぶ悪循環が起こりうる。パニックのときは、人はいちばん売りやすいものから売る、という整理も添えました。

ビル・グロスの寄稿は、ウェルス・アドバイザー誌(10月、二次)が伝えました。各国の中央銀行が、準備資産としての米国債の保有を分散し、その代わりに、価格差を狙う取引をする、借り入れを使ったヘッジファンドの保有割合が、2023年の約2倍の8.5%に上がったといいます。平時は流動性を出しても、資金繰りが締まれば売りに回る。安全なはずの米国債が、売り材料に変わるのです。10年債の利回りは、イラン戦争の始まりから1ポイント超上がり、24年ぶりの高さになりました。グロスは9月末のフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、政府、住宅ローン、社債を合わせた信用残高が約84兆ドルに達したと指摘し、1年物の短期国債を除いて、債券は持つなと結論づけました(二次)。

ジェフリー・ガンドラックは、9月のCNBCで、AI以外の優良社債の上乗せ金利が、国債との差で70から78(0.01%単位)とほぼ変わらないのに、AI関連は約50広がったと話しました。利回りの高い低格付け債でも、AI関連は約150広がり、AI以外は横ばいだそうです。AI関連の起債が多すぎて、発行後すぐに上乗せ金利が広がるのは、格付けを信用していない証拠だと見ています。10月のインタビューでは、AI大手の社債による資金調達は続くが、信用市場の限界に達した瞬間に、市場は急停止すると語りました。

エド・ヤルデニは、10月15日に、コアウィーブの債券が額面の8割を割り、データセンター向けの債務も下がったと伝えました。ただし本人は、大手IT企業5社は財務が強く、借入の費用に鈍感なので投資は続き、苦しいのは債務の重い周辺の業者だと見ています。

個人の借入

韓国では、個人の借入が焦点です。ジョン・リーは、9月の記事で、証券市場の信用融資の残高が約33兆ウォンに戻り、20・30代の残高が、2024年末の1兆7,607億ウォンから、2026年6月末の4兆1,943億ウォンと、約2.4倍になったことを取り上げました(二次)。問題は金融教育の不在だとして、借り入れを使った商品は避けるべきだと助言しています。イ・チェウォンは、7月に、KOSPIが14か月で3.9倍に急騰し、株価が利益の約8倍と割安の圏内にあっても、速度の調整が必要だと話しました。個別企業の借り入れ型ETFと、借金での投資を、強く心配しています。

米国では、ビル・アックマンが、8月に、1日だけのオプション、借り入れ型ETF、スポーツ賭博への資金流入が、投機の増加の兆しだと指摘しました。少し慎重になる局面だ、と。レイ・ダリオも、7月末に、借り入れ型ETFなどに素人が殺到し、「ばくちをしている」状態だと評しています(二次)。

ところが、アックマンは4月に、これとは逆の面も話していました。短期志向で借り入れを使った資金が多く、決算の悪い数字で優良企業が無理やり売られ、一時的に「ばかみたいに安く」なる。そこを拾うのが自分たちの手法だ、というのです。筆者は、ここが興味深いと思います。借りて買う側の売りは、長期で持つ側にとっては好機にもなるのです。

売りたくても売れない資産

ポール・チューダー・ジョーンズは、4月のポッドキャストで、機関投資家の運用資産に占める未公開株の比率が、2007〜08年の約7%から約16%に上がり、不動産やインフラも増えたと話しました。2008年よりも「はるかに売りにくい」ので、資産の置き場に注意が必要だそうです。同じ番組では、米国は株式に過度に頼った「借り入れ状態」にあると言い切りました。株式の時価総額はGDPの252%で、1929年の頂点は約65%、2000年は170%だったと挙げています。

PIMCOは、6月の報告で、上場していない事業開発会社(BDC)の解約圧力が収まらず、解約の請求が払える現金を上回って、投資家には一部しか戻らない状況だと伝えました。2023年に、上場していない不動産投資信託で起きた解約の局面と似ています。ただ、BDCの純資産価値は借り手の返済力に直結するため、評価の見直しを先送りする余地が、より小さいといいます。結論は「壊れてはいないが、癒えてもいない」。

ハワード・マークスは、4月のメモで、いまの直接融資は1980年代末から90年代初めの利回りの高い債券に似ており、最終的にはその債券は良好な成績に落ち着いた、という読者の指摘に共感を示しました。澤上篤人は、10月のブログで、銀行融資を上回る規模にふくらんだ民間融資の行方を注視すると書き、バブル崩壊は時間の問題だと見ています。

問い2:政府の流動性対策は支えか、価格操作か

スタンレー・ドラッケンミラーは、8月のウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、財務省が長期債を買い戻す1回あたりの上限を、20億ドルから40億ドルへ倍にしたことを批判しました(二次)。「流動性の管理ではなく、価格の管理だ」というのです。長期金利は「世界でもっとも重要な価格」で、米国に残った唯一の財政規律役だと言います。買い戻しを短期証券で賄うなら、財務省版の小さな量的緩和に等しく、インフレ目標を超えている時期に金融環境を緩める。中間選挙の終盤に買い戻しを広げれば、政治日程に沿った債務管理に見える、とも書きました。

ビル・ミラーは、同じ出来事を別の目で見ています。8月のCNBCで、ビットコインが戻った主因を、7月末の日米による円支援と、米財務省が長期債の買い戻しを倍にしたことなど、政府の流動性対策だと説明しました(二次)。暗号資産固有の材料ではなく、金利と流動性の動きが原因だという見方です。ドラッケンミラーは信認への傷と見て、ミラーは資産価格の追い風と見る。同じ出来事が、害にも支えにも見えています。

ジェレミー・シーゲルは、8月末に、ウォーシュ議長のジャクソンホール講演を高く評価し、通貨の量と銀行の貸し出しを物価の見通しに入れ直す枠組みを支持しました。政策金利は約3.6%、銀行の貸し出しは年7〜8%増で、政策は決して景気を締めつけていないといいます。

ガンドラックは、9月に、FRBの「十分な準備金体制」という新しい文言から、将来は保有資産の縮小を引き締めの道具にする可能性もあると見ました。マイク・ウィルソンは、9月に、最大の不確実性はウォーシュの資産規模と信用の考え方だと話し、新議長は通貨の量を重んじる立場に近く、流動性の扱いが最大の不確実性だと繰り返しています。

問い3:引き金になるのか、構造にとどまるのか

ダイモンは、民間の融資ファンドが約1.8兆ドルで、利回りの高い債券(1.5兆ドル)や、借り入れの多い企業向けの融資(1.7兆ドル)と同じ規模なので、全体では連鎖的な危機の種にはならないと見ています。ただし、信用が悪化する局面が来れば、損失は想定より大きくなる、という但し書きがあります。

セス・クラーマンは、6月に、信用の悪化局面の時期は来ているが、時期の予想はしないと話しました(二次)。中心は、システム全体の不安というより、個別の案件の歪みだそうです。PIMCOも、6月の長期見通しで、損失の局面は来たとしながら、連鎖的な危機の可能性は2005〜06年ほどではないと見ています。

マーク・スピッツナーゲルは、9月のビジネス・インサイダーで、リスクの主因はAIそのものの価値ではなく、長年の超低金利と、システム全体の借り入れの過剰にあると話しました(二次)。すぐに崩れる引き金は見当たらなくても、小さな衝撃で、無秩序な巻き戻しになりうるというのです。引き金を特定せず、構造を重く見る立場です。クリストファー・ウッドは、6月に、スペースX、アンソロピック、オープンAIの三つの巨大IPOが、他の銘柄から流動性を吸い上げると見ました(二次)。スペースXは、実際に売買できる株が4.2%しかないのに、ナスダック100の指数の計算では12.7%として扱われ、指数連動型の資金に強制的な買いが生じるといいます。

ウォーレン・バフェットは、5月のCNBCで、買いの好機は誰も電話に出ないときだと話しました。暴落時は、取引先の証券会社が電話に出ないか、出ても買値と売値の幅が広い。現金を持つ意味を、流動性が消える局面の実態から説明しています。ダイモンの指摘する仲介役の薄さを、別の側から言い当てた発言です。

なぜ割れるのか

割れる理由は三つあります。

一つ目は、脆さの測り方です。ダイモンやグロスは、仲介役の薄さや買い手の入れ替わりといった構造を見ます。ガンドラックやヤルデニは、社債の上乗せ金利や、個別の債券の価格を見ます。構造は平時に見えにくく、価格は動いてから分かります。どちらを先行指標と見るかで、警戒の強さが変わります。

二つ目は、政府の役割です。ドラッケンミラーは、政府の介入が信認と規律を損なうと考えます。ミラーやシーゲルは、流動性の供給を、資産価格や景気の追い風と考えます。

三つ目は、規模の評価です。ダイモン、クラーマン、PIMCOは、個別の歪みはあっても、連鎖的な危機は過去ほど大きくないと見ます。スピッツナーゲルやPTJは、規模ではなく、引き金のないまま積み上がる借り入れそのものを問題にします。起こる確率が低くても、起きたときの大きさを重く見るかどうかの違いです。

株譜の見方

以下は、公開された発言から筆者が推測した部分であり、確定した事実ではありません。

冒頭の主張に戻ります。この議論で意見が一致しているのは、問題が見えにくいという点です。ダイモンの表、PTJの未公開株の比率、PIMCOのBDC解約の報告は、いずれも「平時には表に出ない数字」を取り上げています。警戒する側の主張の価値は、引き金を当てることではなく、構造を記録しておくことにあると、筆者は読みます。

また、連鎖的な危機にはならないという見立てと、無秩序な巻き戻しがありうるという見立ては、実は矛盾しないと感じます。システム全体が崩れなくても、特定の市場、たとえば長期国債やBDCで、売りたい人に買い手が現れない局面は起こりえます。ダイモンも、連鎖的な危機にはならないとしながら、損失は想定より大きくなると書いています。

最後に、個人の借入に関する警告は、韓国に偏っています。ジョン・リーとイ・チェウォンの発言は、どちらも韓国の信用融資と借り入れ型ETFの話です。米国の個人の借入は、アックマンとダリオが投機の兆しと話すにとどまり、数字は示されていません。地域ごとの数字を確認せずに一般化しないほうがよいと、筆者は考えます。

これから見る場所は、三つです。 米国債の入札で買い手が付くか、BDCの解約請求と払い戻しの比率が悪化するか、韓国の20・30代の信用融資の残高が減るかです。この三つが動くまでは、配管の警告は、まだ記録の段階です。

注意

本稿は、公開された発言を整理したものであり、投資助言ではない。数字は発言時点のもので、予想は外れうる。二次情報は報道ベースとして扱った。個別の商品や取引を勧めるものではない。

出典

  • Jamie Dimon、JPMorganChase年次株主レター、2026年4月6日。https://www.jpmorganchase.com/ir/annual-report/2025/ar-ceo-letters
  • Bill Gross、WealthAdvisor(二次)、2026年10月3日。https://www.thewealthadvisor.com/article/even-bond-king-says-dont-own-bonds
  • Bill Gross、フィナンシャル・タイムズ寄稿(DNYUZ転載、二次)、2026年9月30日。https://dnyuz.com/2026/10/04/even-bond-king-bill-gross-warns-dont-own-bonds-as-long-term-debt-enters-a-new-ear-of-volatility/
  • Jeffrey Gundlach、CNBC Halftime Report等(YouTube)、2026年9月16日。https://www.youtube.com/watch?v=xusUcwrhPCQ
  • Jeffrey Gundlach、YouTube インタビュー、2026年10月9日。https://www.youtube.com/watch?v=c929kxoH6q8
  • Ed Yardeni、Yardeni Research QuickTakes、2026年10月15日。https://yardeni.com/research/quicktakes/2026/10/15/ai-scare-raises-growth-fears-and-lowers-bond-yields
  • John Lee、アジア経済(二次)、2026年9月2日。https://view.asiae.co.kr/article/2026090410245945793
  • Lee Chae-won、ファイナンシャルニュース(二次)、2026年7月6日。https://www.fnnews.com/news/202607081826109252
  • Bill Ackman、Fortune Titans and Disruptors(YouTube)、2026年8月5日。https://www.youtube.com/watch?v=PujkGebv1Nw
  • Bill Ackman、Bloomberg Deals(YouTube)、2026年4月29日。https://www.youtube.com/watch?v=Eay9M42jlQo
  • Ray Dalio、Fortune(二次)、2026年8月4日記事。https://fortune.com/2026/08/04/ray-dalio-ai-bubble-1929-2000-ipos-wealth-is-not-money/
  • Paul Tudor Jones、Invest Like the Best、2026年4月28日。https://podscripts.co/podcasts/invest-like-the-best-with-patrick-oshaughnessy/paul-tudor-jones-lessons-from-50-years-in-markets-invest-like-the-best-ep470
  • PIMCO、クレジット市場のレンズ、2026年6月29日。https://www.pimco.com/ch/en/insights/the-credit-market-lens-what-bdc-redemptions-and-nav-pressures-mean-for-investors
  • PIMCO、長期見通し「Rupture and Resilience」、2026年6月10日。https://www.pimco.com/us/en/insights/rupture-and-resilience
  • Howard Marks、オークツリーのメモ、2026年4月9日。https://www.oaktreecapital.com/insights/memo/whats-going-on-in-private-credit
  • 澤上篤人、長期投資家日記、2026年10月16日。https://sawakami.blog/2026/10/%e3%81%9f%e3%81%a0%e3%81%ae%e5%86%b7%e3%82%84%e6%b0%b4%e3%81%a0%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%8b%e3%80%81%e3%80%81%e3%80%81.html
  • Stanley Druckenmiller、ウォール・ストリート・ジャーナル寄稿(The Standard HK、二次)、2026年8月24日。https://www.thestandard.com.hk/finance/article/340854/US-Treasury-buybacks-a-mistake-costing-credibility-says-Druckenmiller
  • Bill Miller、CNBC Closing Bell(二次)、2026年8月24日。https://www.cnbc.com/video/2026/08/24/bitcoin-comeback-sparked-in-part-by-ai-rotation-says-miller-value-partners-miller.html
  • Jeremy Siegel、WisdomTree Weekly Siegel Commentary、2026年8月31日。https://resources.wisdomtree.com/weekly-siegel-commentary/archive-august-31-2026
  • Mike Wilson、Morgan Stanley Thoughts on the Market、2026年9月21日・9月28日。https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/market-breadth-shrinking-group-stocks-mike-wilson
  • Seth Klarman、iConnections Global Alts NY(要約記事、二次)、2026年6月15日。https://iconnections.io/insights/seth-klarman-baupost-ai-era-global-alts-ny-2026/
  • Mark Spitznagel、ビジネス・インサイダー(二次)、2026年9月7日。https://thedeepdive.ca/black-swan-investor-warns-ai-rally-will-end-in-crash/
  • Chris Wood、Business Standard(二次)、2026年6月9日。https://www.business-standard.com/markets/news/spacex-ipo-marks-the-peak-of-ai-euphoria-says-chris-wood-of-jefferies-126060900683_1.html
  • Warren Buffett、CNBC Squawk Box、2026年5月2日。https://www.cnbc.com/2026/05/02/cnbc-transcript-berkshire-hathaway-chairman-warren-buffett-sits-down-with-cnbcs-becky-quick-during-the-2026-berkshire-hathaway-annual-meeting-today-.html

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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