デービッド・アインホーン:大学院に全部落ちた日から、リーマン空売りで勝って年間マイナス18%になるまで──12の場面で読む失敗と成功
空売りの名手と呼ばれる人は、自分の失敗をどう語るのか。グリーンライト・キャピタルを率いるバリュー投資家、デービッド・アインホーンの場合、失敗談がそのまま「次からこうする」という規則の一覧になっています。
12の場面を並べて見えてきたのは、成功と失敗の分かれ目が一つだったことです。アインホーンの成功と失敗を分けたのは、手法の違いではなく、自分の見立てを事実で点検し続けられたかどうかでした。成功した案件では市場の思い込みを疑い、失敗した案件では自分の物語に酔っていたからです。
最近の市場見通しは別稿「デービッド・アインホーン:最近の市場見通し」にまとめました。本稿はそちらと重ならないよう、本人が大学の講演、ポッドキャスト、カンファレンスで語った「自分の失敗と成功」を12の場面に分けて並べます。
先に断っておきます。ここで使う数字の一部(リーマン空売りの年のファンド成績、サン・エジソンの時期と損失額、アップルの年次など)は、整理に使った資料で「要確認」とされています。そうした数字は本文でそのつど断り、断定を避けます。
大学院にすべて落ち、投資銀行に入った:1991年
1991年にコーネル大学を卒業するとき、アインホーンは経済学の博士課程を志望しました。ところが、出願した大学院にすべて落ちます。そこで学内の就職説明会で40〜50社と面接し、CIAやカーギル、コンサルティング会社、航空会社などの中から、一緒に働くのがいちばん楽しそうに思えた投資銀行ドナルドソン・ラフキン・ジェンレット(DLJ)のアナリストを選びました。
本人は、DLJの2年間を「職業人生で最悪の2年間」と呼びます。勤務時間を会社に完全に支配されたからです。それでも、初日から2週間の会計の基礎研修で、財務諸表を読む技術を身につけました。後年の空売りの武器になる技術です。大学院に落ちたことについて、本人は「彼らは私に大きな恩を売ってくれた」と語ります(Bloomberg Wealth、2025年6月4日。DLJの2年間の話はオックスフォード・ユニオンでの質疑、2017年12月15日)。
全部落ちた日が、のちの空売りの原点になった。この皮肉は、筆者にはなかなか味わい深く感じられます。
27歳で独立し、集金は「ほぼ不可能」だった:1996年
アインホーンはヘッジファンドのシーゲル・セラーでアナリストを2年務めたあと、1995年末の報酬への不満をきっかけに、隣の席の同僚と独立を決めました。1996年1月のニューヨークの猛吹雪のなかで、オフィスを探したといいます。目標は1,000万ドルの調達でしたが、27歳の若者に資金を預ける投資家はほとんどおらず、集金は「ほぼ不可能」でした(Bloomberg「Masters in Business」、2024年2月8日)。
そこで本人は、資金が集まるのを待たずに始めます。生活費を極限まで抑え、失敗しても前職と同じアナリストに戻れるから、実質的な危険は小さいと考えました。自分が20万ドル、パートナーが20万ドルを出し、外部から100万ドル弱を集めて、1996年5月に合計130万〜140万ドルで創業しています(ケンブリッジ・ユニオン、2023年6月22日)。最初の8か月は37%、翌1997年は57%の上昇(いずれも報酬後)。運用資産は1年目に1,000万ドル、2年目に1億ドルへ増えました。
教訓として本人が挙げるのは、「時間を味方につけろ」です。3年の運用実績を作るには、今すぐ始めるしかない。
57%の年の翌年に、投資家に怒られた:1998年1月
1997年に57%という最高の成績を出したアインホーンは、1998年1月、恒例の投資家向け夕食会で、資金が急増したため、ファンドを一時的に新規受け入れ停止にすると発表しました。祝福されると思っていたのに、実際は逆でした。投資家から「集めすぎではないか」「このリターンをどう維持するのか」と責められ、質疑応答は「血の海」になったといいます(Masters in Business、2024年2月8日)。
57%は、環境が整った一回限りの数字でした。期待値の管理は難しい。調子が良いときほど、運用の規模を自分で絞るべきだ、というのが本人の学びです。
バフェットとの昼食を約25万ドルで落札した:2000年代初頭
2000年代の初めに、ウォーレン・バフェットのチャリティ昼食会を、約25万ドルで落札しました。落札前に伝記を2〜3冊読み、株主への手紙をすべて読み、年次株主総会にも足を運んで質問を準備したそうです。尊敬する先達から学ぶには徹底した準備が要る。知識や人脈への投資は、25万ドル以上の価値があった、と本人は振り返ります(Bloomberg Wealth、2025年6月4日)。
アライド・キャピタルの会計を暴いて空売りした:2002年
最初の大きな空売りの成功が、2002年のアライド・キャピタルです。当時の時価総額は26億ドル。税金を払わずに利益を全額配当し、自社株を高値で発行して拡大する登録投資会社でした。アインホーンは、破綻した投資先(ヴェロシティ、スターテック、ネテルなど)の評価額を額面のまま据え置いていること、100%所有する未公開の子会社(ビジネス・ローン・エクスプレス)から2,900万ドルの手数料と25%という高い金利を受け取って、利益を膨らませていることを指摘しました。「左のポケットから右のポケットへの移転」にすぎない、という趣旨です(「The Speech」、2008年6月12日。オックスフォード・ユニオンでの質疑、2017年12月15日)。
結果は大きな成功とされます。資料には「同種の金融機関の空売りで80%以上の下落」という記述がありますが、資料側で要確認とされているため、本稿では確かな数字としては扱いません。
筆者が注目したいのは、数字より手順です。会計の数値をそのまま信じず、非公開の子会社との取引や評価額の妥当性を、一つずつ疑う。DLJで身につけた財務諸表の読み方が、ここで効いています。
ニュー・セントゥリーで「自分が直せる」と思った:2005〜2007年
最大の失敗として本人が挙げるのが、サブプライム住宅ローン大手のニュー・セントゥリー・ファイナンシャルへの投資です。ロング(買い)で保有していましたが、2005〜2006年に会社が事業戦略を、よりリスクの高い方向へ変え始めました。通常ならすぐ売るべき場面で、本人は「経営陣より自分のほうがうまくできる、間違いを直せる」と考え、自ら取締役に就いて方針転換を試みます。2007年初めに会社は破綻しました。グリーンライトにとって「最大の投資の誤りの一つ」だったと語ります(SKAGEN社のオンライン対談、2025年2月14日)。
教訓は短い。経営陣の戦略に納得できないなら、取締役として直そうとするより、売るほうがはるかによい。
筆者はここに、アインホーンの「自分ならできる」という自負の強さを見ます。それは武器でもあり、罠でもある。この後の場面でも、同じ構図が顔を出します。
リーマンの空売りで勝ち、ファンドは負けた:2007〜2008年
ニュー・セントゥリーの失敗から、本人はサブプライム問題の見方を改めました。AAA格付けの債券でさえ損失を受ける構造を見抜き、最もリスクを抱えて最も強く否認していたリーマン・ブラザーズを標的にします。リーマンは「リスクは管理されている」「自社株買いを加速する」と説明していましたが、アインホーンは大量の空売りを積み、財務の不透明さを公の場で追及しました。2008年9月にリーマンは破綻し、空売りは大きな利益になります。
ところが、2008年通年のファンドの成績はマイナス18%(資料側で要確認)でした。金融危機がロング側の景気循環株に与える打撃の見積もりが、甘かったためです。本人はこの結果を「ひどい結果だ」と言い切り、深く反省しています(2025年2月14日)。一つの空売りが大成功しても、マクロの崩壊でロング側がまとめて崩れれば、ポートフォリオ全体では損をする。危機を見抜いたことと、危機で儲けたことは別なのです。
リーマンの勝ちを語る前に、通年の負けを先に語る。この順序に、成績を飾らない姿勢が出ていると筆者は感じました。ただし、マイナス18%は要確認の数字なので、確かな数字としては受け取らないでください。
サン・エジソンの赤信号を見ないふりをした
もう一つの大きな失敗が、再生可能エネルギー企業のサン・エジソンです。不正な会計や急な資金繰りの悪化を示す危険信号(レッドフラグ)が、多数出ていました。アナリストに再調査を命じたものの、「問題ない」という報告を鵜呑みにし、本人の言葉では、危険信号を「盲目的に、ほとんど意図的に無視した」。同社は2016年に破産を申請し、ファンドは大きな損失を出して、多くの投資家が解約に動きました(2025年2月14日、Bloomberg Wealth)。
ここは資料に不整合があります。破産は2016年なのに、損失の期間が「2015〜2018年」と書かれており、損失額も未確認です。本稿では「時期と損失額は要確認」としたうえで、本人の語り方だけを紹介します。
不正の見抜きを得意とする人でも、望ましい物語に目がくらむと、赤信号が見えなくなる。「間違いと分かったら、すぐに考えを変えろ」という本人のいちばん強い助言は、この失敗から出ていると読めます。
アップル:「誤解された」成長株を数年持った:2010年頃
成功の代表が、2010年頃のアップルです。当時の市場は、iPhoneのヒットは一時的で、サムスンや中国メーカーに真似され、ノキアやブラックベリーのように利益が落ちると見ていました。アインホーンは、アップルをハードウェア、ソフトウェア、サービスが一体となった消費者ブランドと見直します。利益の成長率は30〜40%なのに、株価収益率(PER)は6〜9倍。市場の誤解だと判断して、ポートフォリオ最大のロングを作りました。
4〜5年保有し、利益は年に25〜30%伸び、PERは9倍から18倍に倍増。グリーンライト史上「最も利益を出した投資」だったといいます(ケンブリッジ・ユニオン、2023年6月22日)。具体的な年と倍率は、資料側で要確認です。
インフレ・スワップと金:コンセンサスの逆を取った:2020年5月
2020年5月、消費者物価指数(CPI)の上昇率は年0.1%で、FRBは利上げの検討すらしないとしていました。アインホーンは、巨額の刺激策(2.2兆ドルのCARES法など)とマネープリンティングによって、少ない財に多くの通貨が追いかける構造ができると見て、市場の予想インフレ率は低すぎると判断します。実際のCPIと予想の差額を受け取るインフレ・スワップと、金の大きなポジションを作りました。のちにCPIは8.5%に上がり、インフレ・スワップは「より成功した投資の一つ」になっています(ソーン2022、2022年6月10日。Bloomberg Wealth、2025年6月4日)。
2024年の進行中の二つ:CNHとペロトン
2024年の講演では、成功も失敗も確定していない案件を二つ語っています。
農機大手のCNHインダストリアルは、農産物価格の下落でサイクルの底にあり、短期の投資家に嫌われていました。ピーク時の1株利益(EPS)1.70ドルが、底では1.00ドルを少し上回る程度まで落ち、株価は10ドル。3〜4%の配当と5〜6%の自社株買いで年に10%を還元するから、数年後に利益が回復すれば株価は倍になる、と見ています。底の利益には高い倍率を払い、ピークの利益には低い倍率しか払わない、という考え方です(CNBCイベント、2024年11月18日)。
ペロトンは、最高値の160ドルから4ドルまで約97%下がりました。本人は、160ドルは誤った価格だったとしたうえで、月40ドル以上を払う、解約率の低い300万人のコア会員がいることに注目します。過大な人件費や非効率な販促費を削れば、利益は倍増すると判断しました。資料では株価は4ドルから8ドルに倍増とされていますが、要確認です。本人は、高値からの下落率だけで買うのは危ないとも述べています。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
12の場面を並べて目立つのは、失敗が「反省の語り」で終わらず、具体的な行動の規則に変わっていることです。ニュー・セントゥリーは「経営陣の方針に納得できないなら売る」。サン・エジソンは「赤信号が出たらプライドを捨てて撤退する」。リーマンは「一つの空売りの成功に酔わず、ロング側の相関を見る」。ただし、これは本人が語りを整理した結果であり、当時の判断が実際にそうだったかは確かめようがありません。
成功の側にも共通点があります。アップル、インフレ・スワップ、CNH、ペロトンは、いずれも市場が一つの見方に偏った場面です。アップルは「一時的なヒット」、インフレは「起きない」、CNHは「サイクルの底の利益は価値がない」、ペロトンは「溶ける氷」。そこで本人は、事実から別の見立てを組み立て、市場が追いつくまで時間を味方につけます。逆に、ニュー・セントゥリーもサン・エジソンも、自分の側の物語が強すぎて事実が見えなくなった例です。成功と失敗を分けたのは、見立てを事実で点検し続けられたかどうか。筆者はそう整理しました。もちろん、結果を知ったうえでの整理で、当時の本人に同じように見えていたとは限りません。
個人投資家にとって役立つのは、空売りの技術よりも、ロングで失敗したときの対応です。「取締役になって直す」はプロの話ですが、「持っている会社の方針が変わったとき、期待して持ち続けるか、売るか」は誰にでも起こります。本人の答えは明快で、売るほうがよい、というものでした。サン・エジソンの話と合わせて、「持ち続ける理由を探し始めたら危ない」と読み替えられると、筆者は思います。
資料の限界も書いておきます。リーマン後の長い不振期の全体像、つまり何年にどれだけ負けたかは、今回の資料では細かく追えませんでした。サン・エジソンの時期と損失額も未確認のままです。ここでの読み方は、年表や成績表としてではなく、本人が自分の失敗をどんな言葉で語るかを知る資料として使うのが安全です。
最後に、CNHとペロトンは、現時点では結果が出ていません。成功談として読むのは早く、本人の見立てが外れる場合もあります。見立ての根拠(利益の水準、配当、自社株買い、会員数)を、確認する材料として読むのが妥当でしょう。
出典
- David Rubenstein「Bloomberg Wealth: Greenlight Capital's David Einhorn」、2025年6月4日(YouTube)
- SKAGEN Fondene「Virtual fireside chat and Q&A with value investor David Einhorn」、2025年2月14日(YouTube)
- CNBC Events「Active Alpha with Greenlight Capital's David Einhorn at Delivering Alpha 2024 Investor Summit」、2024年11月18日(YouTube)
- Bloomberg Podcasts「David Einhorn: Market Structures Are Broken | Masters in Business」、2024年2月8日(YouTube)
- Cambridge Union「David Einhorn | Cambridge Union」、2023年6月22日(YouTube)
- Sohn Conference Foundation「Sohn 2022 | An Investment Idea from David Einhorn」、2022年6月10日(YouTube)
- OxfordUnion「David Einhorn | Full Q&A | Oxford Union」、2017年12月15日(YouTube)
- foolingthepeople「David Einhorn: The Speech Part 1」、2008年6月12日(YouTube)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。