株譜
INVESTOR OUTLOOK

ジム・チャノス:空売りの勝ち負けを分けたのは、分析の正しさではなく「耐えられる大きさ」だった

失敗と成功

ジム・チャノスは、エンロンを空売りした投資家として知られています。空売りとは、株を借りて先に売り、値下がりしたところで買い戻して利益を得る取引です。ワイヤーカードのように「正しいのに待たされた」話は、別稿「失敗から学ぶ:投資家が語る「最大の間違い」まとめ」に書きました。本稿では、本人が講演やインタビューで語った八つの場面を時系列に並べ、空売りという仕事の勝ち方と負け方を見ていきます。

八つの場面から、筆者は勝ち負けの分かれ目を一つに絞りました。チャノスの勝ち負けの境目は、分析が正しかったかではなく、株価が逆に動いてもいつまで耐えられる大きさだったかにあった。

先に断っておきます。整理に使った資料には、日付や株価、損益の数字について「動画原文との照合が必要」という注記が多くついています。1980年代や1990年代の話が、2020年代の動画での「振り返り発言」として語られているためです。本稿の数字は、すべて「本人がそう語った」ものとして読んでください。

最初の空売り:株価は2倍半になってから、倒れた(1982年)

チャノスの原点は、1982年8月にさかのぼります。当時24〜25歳の若手アナリストだった本人は、ピアノ製造から保険・金融の複合企業へ急拡大したボールドウィン・ユナイテッドが、住宅ローン保険会社を買収すると発表する場面に出会いました。株価は24〜25ドル。ウォール街のアナリストは絶賛していました。

本人は、有価証券報告書(10-K)を3回読みました。それでも、14%の高利回りをうたって売っていた年金商品の、収益の仕組みが理解できませんでした。弁護士を通じてアーカンソー州の保険局の公開文書を取り寄せて調べると、将来数年分の予想利益を1年目に前倒しで計上していることが分かります。保険子会社は、実質的に債務超過でした。そこで24ドルで売りを推奨しました。

ところが、株価は下がりません。一時は20ドルまで下がったものの、強気相場と買い推奨に押されて、1982年12月までに50ドル超へ、約2.5倍に跳ね上がりました。それでも同じ月に、フォーブス誌が追撃報道を出し、アーカンソー州当局が保険子会社を差し押さえます。事態は急転し、1983年の初めに破産を申請しました。本人は、これを当時としては米国史上最大級、90億ドルの破綻だったと語ります。

教訓は二つあります。一つは、経営者のスピーチや噂ではなく、開示された文書と規制当局の文書を、自分で読むこと。もう一つは、分析が正しくても、群衆が不合理を続ければ、株価は250%以上も逆に動きうることです。だから、ポジションの大きさの管理が要ります。筆者は、この最初の失敗が、のちの「サイズの規則」の原点だと見ています。分析が正しくても、株価が2.5倍になる経験は、骨身にしみるはずだからです。

「池に小石を投げる子供」と書かれて、解雇された(1985年)

1985年9月、ドイツ銀行で証券会社側のアナリストをしていたチャノスは、ウォール・ストリート・ジャーナルの1面に、実名と似顔絵つきで載りました。優良企業を陥れる、邪悪な空売り屋の黒幕として、です。フランクフルトの経営陣は激怒し、その日のうちに、年内での契約不更新を告げられました。

本人は、解雇されたその日に、主要な顧客へ電話を入れました。すると、ソロスのファンドや富裕層の顧客から、頼まれたのです。自分たちの買い持ちをヘッジする、空売り専門のファンドを立ち上げてほしい、と。27歳のチャノスは、2年間の独占運用契約を結び、1985年10月1日にキニコス・アソシエイツを創業しました。本人は「若いときにこそ、事業とキャリアのリスクを取れ」と語ります。解雇された日に、顧客から創業を頼まれたという展開は、意外でした。批判された人が、その批判のおかげで仕事を得たのです。

2年の契約が切れた約3週間後に、1987年10月19日のブラックマンデーが来ました。新しい資金を受け入れる体制が整ったところで暴落が起き、資金が集まりました。創業からの5年間は、S&P 500が年20〜30%上がる強気相場の中で、空売りだけのポートフォリオで年20〜30%の絶対リターンを出したと語ります。WSJの記事で批判された10社のうち9社が、のちに破産または起訴されたという話も添えています。

AOL:10倍に上がり、2年間の打撃は約5%だった(1996〜1998年)

最大級の失敗として本人が挙げるのが、アメリカ・オンライン(AOL)の空売りです。

1996年の後半、AOLは全米に無料のお試しCDを大量に配り、急成長していました。そのマーケティング費用を、費用にせず資産として計上する会計をしていたのです。フリーキャッシュフローは、大幅な赤字でした。本人は、株式分割を調整して10ドル付近から売り、上がるたびにポジションを調整しながら向き合いました。

しかし、インターネットという新しい概念への群衆の熱狂は強く、株価は80ドル(一部は100ドル近く)まで、約10倍になります。本人は1998年後半に降参し、ポジションを閉じました。その後AOLはタイム・ワーナーと合併し、会計の問題が露わになりますが、本人の空売りは利益に変わりませんでした。

それでもファンドが生き残った理由を、本人は「サイズ」で説明します。1銘柄の最大の比率を、ファンド全体の0.75〜1%程度に厳しく抑えていた。だから株価が8〜10倍に跳ねても、2年間のファンド全体への打撃は、合計で約5%に収まったというのです。本人の言葉は、「コンセプトに魅了された群衆が、明確な会計上の警告を何年も無視し続ける力を、低く見積もった」という趣旨でした。

筆者は、この数字がいちばん印象に残りました。株価が10倍になっても、ファンド全体では約5%の打撃にとどまる。分析の当たり外れより、大きさの規則が結果を決めた、という実例だからです。

銀行株の空売りを、転換点のあとも引っ張りすぎた(1991年)

1989〜1990年には、商業不動産バブルが崩れ、S&L(貯蓄貸付組合)の危機が起きました。このとき本人は、不動産会社や問題のある銀行の空売りで、大きく勝ちます。

ところが、「銀行システムは悪化する」というテーマへの確信が強すぎました。1991年にFRBの緩和と市場の反転で銀行株が底を打ち、急反発しても、売りを持ち続けたのです。1991年通年のファンドの成績は、大きく傷ついたといいます。

本人の言葉は「転換点をはるかに過ぎるまで、銀行を売り続けた」。そして、この教訓は2008年に生きました。金融株が80〜90%下がった段階で、冷静に買い戻して勝てたと語ります。テーマが正しくても、価格に織り込まれたら手じまいにかかる、という学びです。筆者はここに、人間の癖を見ます。勝っているときほど、降りる理由が見つからないのです。

エンロン:株価は60ドルから80ドルまで上がり、それでも規則を守った(2000〜2001年)

歴史的な成功は、2000年秋のエンロンです。

きっかけは、テキサス版WSJのコラムでした。エンロンなどのエネルギー商社が、デリバティブにマーク・トゥ・モデル(モデルによる見積もり会計)を使う許可を、SECから得たと知ったのです。当時のエンロンは、売上高が全米7位、株価は60ドル。ウォール街のアナリストのほぼ全員が「買い」でした。

本人は、10-Kの脚注を調べました。そこで見つけたのが、CFOのアンディ・ファストウ自身が出資者になる、簿外の特別目的会社との不透明な取引です。また、報告された業績の裏で、投下資本利益率(ROIC)がわずか6%、資本コストを下回っていることも確かめました。2000年11月、60ドルで空売りを始めます。

その後、株価は一時80ドルまで上がりました。それでも本人は、ファンドの上限である5%の枠内で、規律どおりに維持しました。2001年8月、CEOのスキリングが突然辞任した日、株価は36ドルから40ドルへ一時反発します。ここで最大の量を売り増しました。2001年10月末に問題が開示され、12月に破産を申請します。

さらに、競合ダイネジーのCEOが電話会議で「エンロンの会計はうちと同じだ」と述べたのを聞き、翌朝ダイネジーも空売りしました。同社株は28ドルから3ドルへ、約90%下がっています。本人の教訓は、成長をうたう会社での大規模な役員の自社株売りと、突然の経営陣の辞任は、破滅の合図になりうる、というものです。筆者が感心したのは、株価が60ドルから80ドルに上がる間も、枠を守り続けた点です。読みが正しくても、枠がなければ降りていたかもしれません。

ヴァリアント:いったん買い戻してから、再び売り直した(2014〜2015年)

2014年2月、チャノスは、ヘッジファンド業界で人気だったヴァリアント・ファーマシューティカルズを、130ドルで空売りしました。自社で新薬を開発せず、他社の既存薬を買って大幅に値上げする、買収型の会社です。本人は、買収した薬の研究開発費や無形資産の償却を除いた、自社流の調整後の利益で、実態を良く見せていると見ました。

株価は逆に上がり、2015年の半ばには260ドルと倍になります。ファンドの1銘柄の上限(5%)に触れたため、180ドル、200ドル、210ドル付近で、一部を買い戻しました。

2015年の秋、架空売上の疑いや、過剰な値上げへの批判が噴き出して、下落が始まります。本人は、下落の途中でポジションを再び積み増し、最終的には10〜15ドル、さらに5〜9ドルまで下がったところで、全部買い戻しました。ヘッジファンド業界全体で、単一銘柄としては史上最大の損失(400億ドルとされる)を生んだ銘柄で、本人は大きな利益を得たと語ります。

本人の言葉を借りれば、逆に動く局面では、ルールに従って機械的にリスクを減らす。事実が裏づけられて下がる局面では、増やす。この「動的なリスク管理」が、長く生き残る鍵だといいます。

人気のヘッジファンド銘柄が倍に上がっても、感情で動かず、規則どおりに減らす。筆者は、この機械的な動きを、感情を排除する工夫として納得しました。

テスラ:4年はヘッジ、その後の暴騰は痛手だった(2015〜2021年)

2015年秋に公表したテスラの空売りは、長く続く格闘になりました。本人の見立てはこうです。テスラは粗利率が20%に届かない自動車メーカーなのに、自動運転、ロボット、エネルギーなどの「夢と希望」で、極めて高い評価がついている。2016年のソーラーシティ買収も、「倒産寸前の屋根・金融会社を、テスラ株で救済した取引」だと強く批判しました。

2015年から2019年は、S&P 500が大きく上がるなかで、テスラの株価は横ばいでした。そのため、優れたヘッジ(アルファ)になりました。しかし2019年の後半から2021年にかけて、個人投資家の参入、ゼロ金利、オプション取引で、株価が5〜10倍に暴騰します。含み損は痛烈でした。本人は、上限(2〜5%)を守るため、上昇局面で一部を買い戻したと語ります。

資料には、2023年末にファンドの外部資金を返したという記述もあります。ただ、ほかの動画との整合を確認する必要があるため、ここでは確かなこととしては扱いません。

教訓として、本人は空売りの適性を語ります。空売りに向く人は、生まれつきだといいます。その成り立ちは、みんなが褒めてくれる市場のなかで、非難に耐える気質にある、と。また、市場の動きのタイミングを計るのは愚か者のゲームだから、インデックスの買い持ちと個別の空売りを組み合わせた、保険のような構造にしている、とも言います。

ただ、筆者は「生まれつき」という説明には少し疑問を感じます。気質のせいにすると、規則の効果が見えにくくなるからです。筆者は、気質より規則の寄与のほうが大きいと見ています。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。八つの場面を並べて最も目立つのは、チャノスの勝ち負けの境目が、「分析が正しかったか」ではなく「いつまで耐えられる大きさだったか」にあることです。ボールドウィン、AOL、ヴァリアント、テスラ。どれも分析自体は、あとから見れば正しかった。それでも株価は一度、あるいは何倍にも逆に動きました。生き残れたのは、1銘柄の比率に上限を置き、上がれば機械的に減らす規則があったからだ、と本人は語ります。これは本人の自己説明です。帳簿を見たわけではないので、あくまで本人の整理として受け取りたいところです。

銀行株を持ち越した1991年の話は、勝ったテーマを手放す難しさを示しています。逆に、負けている間は、持ち続ける理由がいくらでも見つかります。テーマへの確信が強いほど、価格がすでに織り込んだことに気づきにくい。個人投資家が買い持ちで同じことをするときにも、当てはまりそうです。

エンロンの話にも、少し違う読み方ができます。本人は「脚注を読んだ」と語り、その部分は、誰でも再現できる手順に見えます。一方で、規則が守られたのは、株価が60ドルから80ドルへ上がる間も5%の枠内だったからです。読みの鋭さと、枠の規律の両方がそろっていました。もし最初から大きく張っていたら、80ドルの時点で降りていたかもしれません。勝ち話は読みの部分だけが語られがちですが、本人の語りを順に見ると、勝ちの半分は枠のほうにあるように見えます。ただし、これも結果を知ったうえでの整理で、当時の本人の判断を再現したものではありません。

「サイズの規則」は、空売りに限った話でもありません。買い持ちでも、一つの確信に資産を寄せすぎれば、逆に動いたときに降りられなくなります。AOLで約5%の打撃で済んだことと、1991年に傷ついたことを並べると、規則が効くのは、勝っているときではなく、読みが外れたときだと分かります。

最後に、個人投資家が自分で空売りをすべきではない、という本人の勧告は、重く読むべきだと思います。株価の上昇に上限がない。借り入れ費用がかかる。毎朝、周囲から批判される。プロでさえ何倍にも逆に動かれるのだから、というのが本人の理屈です。空売りの話は、他人の売りの根拠を知るために読み、真似はしない。その距離の取り方が妥当ではないでしょうか。空売りがどんな場面で効き、どんな場面で負けるかは、別稿「空売りはどこで効き、どこで負けるか」でさらに整理しました。

出典

  • Prime Quadrant「Jim Chanos speaking at the 2016 Prime Quadrant Conference」、2018年1月19日(YouTube)
  • Real Vision「An Investor's Guide to Short Selling (w/ Jim Chanos and Jim Grant)」、2020年12月12日(YouTube)
  • Hedgeye「Jim Chanos: "Casino Capitalism: Fraud, Mania & Euphoria On Wall Street"」、2020年11月2日(YouTube)
  • Trend of Earnings「Kyle Bass & James Chanos: Vanity Fair Summit」、2017年8月11日(YouTube)
  • CNBC「Watch CNBC's full interview with Kynikos' Jim Chanos and journalist Bethany McLean on Enron's fall」、2021年12月2日(YouTube)/「Jim Chanos on his legendary Enron short bet two decades later」、2024年2月20日(YouTube)
  • Generating Alpha Podcast「Episode 29: Jim Chanos」、2025年7月31日(YouTube)
  • Trinity Student Managed Fund「Jim Chanos | Founder of Kynikos Associates | Enron, Beyond Meat, and the "Golden Age of Fraud"」、2026年9月22日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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