株譜
INVESTOR OUTLOOK

「いま一番怖いリスクは何か」:14人の答えは割れたが、見ている景色は同じだった

一問

「いま一番怖いリスクは何か」。同じ問いを14人の投資家に向けると、答えはほとんど重なりませんでした。金利を挙げる人、熱狂の終わりを挙げる人、信用のほころびを挙げる人がいます。そのうえ「怖がらないこと自体がリスクだ」と言う人までいます。

並べ終えて、筆者が気づいたことを先に書きます。答えは割れていますが、14人が見ている景色は同じです。金利は高いのに、株はまだ崩れていない。その不自然な静けさの先に、各人が別々の落とし穴を見ているのです。

本稿では、2026年9月から10月の発言を中心に、各人が何をいちばん怖がっているのかを整理します。一人の発言から「これが最大のリスクだ」とまで言い切っていない場合は、そう明記します。

答え1:長期金利そのもの

クリストファー・ウッド:「米10年債が5%を超えること」

金利を挙げた人の中で、いちばん話が具体的なのが、ジェフリーズのクリストファー・ウッドです。9月2日の週報の紹介記事で、短期の株式リスクは国債利回りの上昇だと述べました。米10年債が5%を超えれば、株式調整の明白な引き金になる。外国人が米国債を大量に売りうるなら、米国株も同様に売りうる、という理屈です。

9月17日のインタビューでは、5%を明確に上抜ければ株式のリスクが高まり、5.5〜6%に向かえば市場は非常に不快になると続けました。株が金利上昇を無視できているのは、米国の利益成長が強いからだといいます。

筆者は、この「線を引いて見ている」姿勢に好感を持ちました。怖いと言うだけでなく、どの水準を超えたら怖いのかを数字で示しているからです。

アスワス・ダモダラン、エド・ヤルデニ:数字は「余裕のなさ」を示す

ニューヨーク大学のダモダランは、10月8日のブログで、10月初のインプライド株式リスクプレミアム(株が国債に対して上乗せして稼ぐ見込みの利回り)が3.70%と、今年初めて4%を下回ったと示しました。対米10年債の数字です。9月は10年債が54bp上昇(4.75%から5.29%)し、1962年以降の月次変化の上位10%に入る大きな動きでした。本人の配分は、普段より現金が多く、新規資金は利回り約4%の短期国債中心だといいます。

ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニは、10月3日に、米10年債利回りが5.25%を超えてもS&P500は動じず、年末目標7,900まで2.2%に迫ると書きました。利回り上昇が成長の強さの織り込みなら利益は保たれる。しかし続けば、株の倍率が下振れリスクになる、という整理です。

ジェレミー・シーゲル:実質金利と株の薄い余裕

ウォートンのシーゲルは、10月5日の週次コメントで、30年物TIPS(物価連動債)が約3.4%まで上昇したと指摘しました。PER20倍の益利回り5%に対して、株式リスクプレミアムは約1.6ポイントと薄い。それでも株はよく耐えており、理由は利益見通しが実質金利の逆風を上回っているからだ、と述べています。怖がってはいるが、まだ折れていない、という立場です。

答え2:熱狂の終わり

ポール・チューダー・ジョーンズ:「1999年に似ている」

ポール・チューダー・ジョーンズ(PTJ)は、10月13日のCNBC出演(二次情報)で、いまは1999年に似ており、AIの恩恵を受ける企業とそうでない企業に市場が二分されていると述べました。年末にかけてまだ上昇する余地は残るとしながら、警戒は2027年に置いています。危険の「場所」より「時期」に重きを置いた答えです。

マーク・スピッツナーゲル:行き過ぎた後の巻き戻し

ユニバーサ・インベストメンツのスピッツナーゲルは、9月7日の電子メール取材(二次情報)で、強烈な見通しを語りました。S&P500がなお約20%上がって8,000を超えたのち、1929年以来とも言える約80%の暴落が来る、というのです。熱狂の最終局面は「数か月先」に天井を迎えるといいます。

主因はAIの価値そのものではなく、長年の超低金利、パンデミック期の刺激策の遅れた副作用、システム全体の過剰なレバレッジだと説明しました。同じ取材で、自分でもタイミングは外す可能性があると認めています。

ビル・アックマン:集中しすぎた市場

パーシング・スクエアのアックマンは、9月30日のブルームバーグTVで、今の相場は極めて偏っていると述べました。注目がスペースX、アンスロピック、それを支える半導体などに集中しているといいます。自社は5年先の収益で保有を決め、質の高い銘柄を割安に買えたと語っています。「何が怖いか」への直接の答えというより、集中した市場への距離の取り方を語った発言です。

答え3:信用とドル

ジェフリー・ガンドラック:「プライベートクレジットは2005年に似る」

信用の話で筆者が最も重く受け取ったのは、ダブルラインのジェフリー・ガンドラックです。10月9日のYouTube配信で、プライベート・エクイティ(未上場株ファンド)が所有する保険会社に、粗悪なプライベートクレジット(非公開の貸し出し)を組み込ませる構造は、2005年ごろのCDO問題と同じリスクを持つと述べました。あわせて、ドルの基軸通貨転落リスクや信用不安に備え、金(3,800ドル以下なら買い)を確保すべきだとも語っています。

怖いものは、金利そのものではなく、その上に積まれた信用の構造です。2005年といえば、危機の3年前。「まだ誰も騒いでいない時期」に似ていると言われると、筆者は気味の悪さを感じます。

ジェイミー・ダイモン(JPモルガン):インフレ、高い資産価格、金利上昇

JPモルガンの7〜9月期決算(10月13日)では、1株利益が5.57ドルと市場予想の5.90ドルを下回りました。自社株買いは4〜6月期の約67億ドルから約10.6億ドルへ大幅に縮んでいます。声明は、根強いインフレ、高い資産価格、金利上昇への警戒を示したと報じられています(TIKRの記事による二次情報)。数字が示すのは、手元の資本を厚く持つという行動で、それが警戒の度合いを物語っています。

答え4:景気後退を見誤ること

ケン・フィッシャー:17年間起きていない「古典的な景気後退」

フィッシャー・インベストメンツのケン・フィッシャーの答えは、いちばん意外でした。9月22日の動画で、市場が織り込んでいない最大の危険は、「弱気相場を伴う古典的な景気後退」が17年間起きていないことだと述べたのです。大掃除(過剰の整理)が済んでいないので、いつか起きたときは、人々が想定するより悪い驚きになります。

ただし今すぐではありません。インフレやイラン戦争のような誰もが話す懸念は、既に織り込み済みと見ています。筆者は、「みんなが怖がっているものは怖くない」という逆向きの発想に、なるほどと思いました。

BofAのハートネット:スタグフレーションと中間選挙

BofAのリチャード・ハートネットは、9月10日の分析(要約サイトの二次情報)で、ディーゼル価格が1ガロン6ドルの記録的水準にあり、スタグフレーション(物価高と景気停滞の同居)のリスクが過小評価されていると警告しました。10月8日には、中間選挙に向けて「リスクオフ寄り」と述べています。民主党完勝なら株は10%超下落し、分割議会か共和党完勝なら株に好材料、という整理です。現金への資金流入は週1,664億ドルで、2020年4月以来最大だといいます。怖がる人が増えていること自体を、数字で示しています。

答え5:怖がらないことが怖い

藤野英人:株を持たないリスク

レオス・キャピタルワークスの藤野英人は、9月13日の再構成記事で、逆の角度から答えました。インフレ下で株を持つことは「守り」の意味が強くなり、AI革命の時代には「株に投資していないこと」自体が大きなリスクになりうる、というのです。AIの恩恵が先に株価に出るなら、果実を受け取れるのは株の保有者だ、という論理です。

マイク・ウィルソン:「無警戒ではない」

モルガン・スタンレーのウィルソンは、9月21日のポッドキャストで、S&P500が最高値圏でも「無警戒」ではないと述べました。6月以降、ラッセル3000の4割超が20%以上下落し、先行きPER(予想利益に対する株価の倍率)は19倍と、1年前より約20%低下しています。「評価が下がるのに利益が強いのは典型的な中期への移行」だと整理し、数回の追加利上げで強気相場は終わらないと見ています。

佐々木融:インフレの時代に戻ったこと

ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融は、9月4日のインタビューで、世界的な長期金利上昇の主因は日本の財政悪化懸念より、世界がデフレ・ディスインフレからインフレの時代に戻ったことだと述べました。リーマン後とコロナ後の財政出動と中銀の資金供給で、通貨価値が低下した結果だといいます。怖いのは個別の出来事ではなく、時代の転換そのものだという答えです。

怖がりながら、何を買っているか

「怖い」と言いながら、まったく逆の行動を取る人もいます。ハートネットは、10月1日の分析(要約サイトの二次情報)で、10年ローリングの米国債リターンが100年ぶりの低水準にあることを根拠に、「屈辱を買う」として長期の米国債と大手IT企業の社債を勧めました。一方でダモダランは、長期債ではなく、利回り約4%の短期国債を選んでいます。

アックマンは、9月30日に、買収した保険会社の債券を長期国債から短期国債へ入れ替えたと述べました。自分は債券投資家ではなく、長期債のリスクとリターンは魅力的だと思ったことがない、といいます。同じ金利への警戒でも、長期債を避ける人と、長期債を安いと見て買う人がいる。恐怖の強さは同じでも、行動は逆向きになりえます。

ガンドラックは、同じ10月9日の配信で、住宅価格上昇で担保余力のある住宅MBSやAAA格CLOを使えば、リスクを抑えて6〜7%の利回りを確保できると述べています。信用を怖がりながら、信用の中でも安全な層には資金を置く姿勢です。

時期で並べ直す

14人の答えを「怖いのはいつか」で並べ直すと、次のようになります。

  • すでに起きている:ダモダラン(リスクプレミアムの低下)、ヤルデニ(利回りの上昇)、佐々木融(インフレの時代)
  • 数か月以内:ウッド(5%超え)、ハートネット(11月の中間選挙)、スピッツナーゲル(数か月先の天井)
  • 2027年以降:PTJ(警戒は2027年)
  • 時期は不明:フィッシャー、ガンドラック

共通している前提

答えは割れていますが、前提には共通点があります。

一つ目は、金利が高いという事実です。ウッド、ダモダラン、ヤルデニ、シーゲル、ハートネットのいずれもが、米10年債が5%前後という水準を議論の出発点にしています。ダモダランが示した9月の54bp上昇(4.75%から5.29%)は、その出発点を数字で裏づけます。

二つ目は、株がまだ崩れていないという事実です。ヤルデニは、10年債が5.25%を超えてもS&P500は動じないと書き、シーゲルは「利益の成長が実質金利の逆風に勝っている」と述べ、ウィルソンは「無警戒ではない」と述べました。怖がる人も、足元の相場が強いことは認めているのです。

三つ目は、原因をAIに限っていない点です。スピッツナーゲルは、主因はAIの価値そのものではなく、超低金利と過剰なレバレッジだと述べました。ガンドラックはプライベートクレジットを、ハートネットは軽油価格とスタグフレーションを、ウッドは国債の売りを挙げています。AIの話題は、怖さの一部にすぎません。

なぜ答えが割れるのか

一、何を「怖い」と数えるか

ウッドやダモダランは価格の動きを、ガンドラックは構造を、フィッシャーは経済の循環を見ています。見ている対象が違えば、同じ相場から違う怖さが引き出されます。

二、時間軸

PTJは2027年に、スピッツナーゲルは数か月先に、ハートネットは11月に警戒を置きます。同じ「バブルの終わり」でも、いつ来るかの見立てが違います。

三、立場

藤野やウィルソンは、持たないリスクを重く見る側です。ダモダランやハートネットは、現金や安全資産を重く見る側です。それぞれが、自分の資産配分で答えている面があります。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭に書いたとおり、14人が見ているのは同じ景色です。金利は高く、株は崩れていない。そのうえで、金利を挙げる人が最も多いものの、怖い理由は人によって違います。ウッドは株への波及を、ダモダランは余裕の薄さを、ガンドラックは信用への影響を恐れています。同じ「金利」でも、怖がる経路が違うのです。

もう一つ、怖がる人ほど、時期を語りたがりません。スピッツナーゲルは自分でもタイミングを外すと認め、フィッシャーは「今すぐではない」と言います。PTJですら、年末はまだ上がりうると言う。怖いけれど今ではない、という共通の温度が見えます。筆者はこの温度が、いまの相場でいちばん正直な空気だと感じています。

個人投資家としては、14人の答えのうち、自分の資産でいちばん効くものを一つだけ選んでみるのがよいと思います。金利なら債券とローン、信用なら保険や預金の先、持たないリスクなら現金の割合です。全部を怖がるのは現実的ではありません。

今回の14人は、ほとんどが「何かを買うべきだ」とも「全部売るべきだ」とも言っていません。言っているのは、どこを見ておくべきか、という注意の向け先です。怖いリスクを一つ決めたら、それが起きたときに自分の資産がどう動くかを、あらかじめ紙に書いておく。それだけでも、実際の下落局面での判断は変わると思います。まず見るのは、米10年債が5%の線をどう扱うか。11月の中間選挙の結果と合わせて、答え合わせの材料になります。


出典

  • クリストファー・ウッド Business Standard、2026年9月2日(Business Standard)・2026年9月17日(Business Standard)
  • アスワス・ダモダラン Musings on Markets、2026年10月8日(ブログ)
  • エド・ヤルデニ Yardeni Research QuickTakes、2026年10月3日(Yardeni Research)
  • ジェレミー・シーゲル ウィズダムツリー週次コメント、2026年10月5日(WisdomTree)
  • ポール・チューダー・ジョーンズ CNBC「Squawk Box」(JournalArta転載)、2026年10月13日(JournalArta)
  • マーク・スピッツナーゲル ビジネス・インサイダー(スタートアップ・フォーチュン報道)、2026年9月7日(Startup Fortune)
  • ビル・アックマン ブルームバーグTV、2026年9月30日(YouTube)
  • ジェフリー・ガンドラック DoubleLine「The Hollow Tree」、2026年10月9日(YouTube)
  • ジェイミー・ダイモン JPモルガン 2026年7〜9月期決算(TIKR記事)、2026年10月13日(TIKR)
  • ケン・フィッシャー フィッシャー・インベストメンツ動画、2026年9月22日(Fisher Investments)
  • リチャード・ハートネット 要約サイト、2026年9月10日(Finvaulta)・2026年10月8日(Finvaulta)
  • 藤野英人 日経BOOKプラス→日経電子版、2026年9月13日(日本経済新聞)
  • マイク・ウィルソン モルガン・スタンレー「Thoughts on the Market」、2026年9月21日(Morgan Stanley)
  • 佐々木融 外為どっとコム マネ育チャンネル、2026年9月4日(外為どっとコム)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、株譜の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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