ダモダラン:確信が強いことと、根拠が強いことは違う
「この会社は伸びる」と思うことと、「この会社に大きく賭けてよい」は、同じではありません。
投資では、この二つが簡単に一緒になります。調べれば調べるほど、自分の見立てに自信が出る。過去に当てた経験があれば、なおさらです。そして自信は、持ち株を増やし、時には借金まで増やします。
アスワス・ダモダランが注意を向けるのは、この飛躍です。確信は、根拠そのものではありません。確信が強くなるほど、むしろ投資額と借入が大きくなっていないかを点検する必要があります。
2026年8月の動画で彼は、AIをめぐるヘッジファンドの破綻例を取り上げました。これはダモダラン自身の失敗談ではありません。レオ・アッシュブレナーのファンドを、投資家がどこで行動を誤りやすいかを見る材料として使ったものです。
AIの見立てが外れたのではない
そのファンドは、AIの勝者になる会社を買い、AIに置き換えられる会社を空売りしていました。年の前半には非常に高い成績を上げ、次のウォーレン・バフェットとまで呼ばれたそうです。
しかし、状況は4週間で崩れました。ダモダランのブログによると、6月後半の高値から7月末までに、公開株部分の評価額は約67%下がりました。 非公開のアンスロピック持ち分は大半の価値を保っていたため、これはファンド全体の損失率ではありません。公開株ポジションの多くは売却を強いられました。
ここで大事なのは、「AIが大きな変化を起こす」という見立てを、彼が全面否定していないことです。AIの物語で運用すること自体はあり得る、と認めています。問題は、その物語が高い不確実性を持つのに、低リスクの債券のように扱ったことでした。
規制、政治、技術、競争、収益化。どれ一つ取っても、まだ答えが出ていない。ブログでも、並外れた収益には明示的な借入かオプションによる実質的な借入が必要だったと指摘しています。そんな対象に大きなレバレッジを重ねたことが、失敗の核心だと見ています。
これは、当たるか外れるかの話ではありません。正しい物語でも、途中で価格は大きく逆に動きます。待てない資金の形にしてしまえば、正しさが証明される前に退場させられます。
成功の経験が、次の確信を強くする
ダモダランは、過信の出どころを三つ挙げます。情報を他人より早く得たと思うこと。数字を他人より上手に読めると思うこと。そして、過去の成績です。
最後が一番厄介です。投資で利益が出ると、周囲は才能を褒めます。資金も集まります。すると、運が良かった部分まで実力だったように感じやすい。次の案件では、同じ根拠でも以前より強い確信を持ってしまう。
この指摘は、個人投資家にもそのまま当てはまります。たまたま上がった銘柄を持っていた時ほど、「自分は何を見抜いたのか」を後から丁寧に分けたほうがよいでしょう。業績、金利、相場全体の追い風、偶然。そのどれが効いたのかを曖昧にしたまま投資額だけ増やすと、次の失敗は大きくなります。
ダモダランは、アクティブ投資家の大半が市場を下回るという講義内の集計にも触れます。さらに、長く勝っている投資家であっても、運と技術をきれいに分けるのは難しいといいます。成功者の型を真似しても、同じ超過収益にはなりにくい。
これは謙遜の勧めというより、投資額の決め方の話です。自分の優位性を大きく見積もらないことが、次の一手を小さく保つ理由になります。
確信が低くても、買わないとは限らない
では、確信が低いなら何もしないほうがよいのでしょうか。ダモダランの答えは違います。
彼はスペースXを評価した仮定例を出します。これは市場価格の予想ではなく、自分の評価に不確実性が残る場合の考え方を説明するための例です。割安と見えても、本人の確信は低いと率直に言います。全額を入れるかと問われれば、もちろん違う、と答えます。
ここが一番使いやすい考え方です。確信が低い投資をゼロか百かで決めない。分散したポートフォリオの中で、小さな比率にする。そうすれば、将来が読みにくい会社にも参加できます。外れた時にも、元本全体を壊さずに済みます。
本人は多くの銘柄へ分散する方針だと話します。集中投資を選ぶ人を否定しているわけではありません。ただ、自分が間違った時に元本へ深刻な損害を与えたくないから、この形を選ぶというのです。
真似する前に、自分の条件へ戻る
有名投資家の成功例は、分かりやすい形で語られます。ウォーレン・バフェットのように割安株を長く持つ。ジョージ・ソロスのように大きな流れを読む。数字で売買する運用者のように、感情を排す。どれも魅力的です。
ただ、ダモダランは、成功者のやり方を真似しても同じ成果にはなりにくいと話します。成功した投資家どうしでも、市場のどこに誤りが出ると考えるか、保有期間をどれほど取れるか、使える情報や資金の条件が違うからです。成績が良かった手法だけを切り取っても、それを支えた前提まで借りられるわけではありません。
ここで必要なのが、自分の投資哲学です。難しい言葉に聞こえますが、「市場はどこで間違えやすいと思うか」「自分は何年待てるか」「値下がりした時に売らずに済むか」を先に答えることです。答えがないまま、話題の銘柄だけを買えば、値動きが荒れた時に他人の確信まで借りることになります。
筆者は、投資メモに一行だけ残す方法でも十分だと思います。「この株が下がった時、何が崩れたら売るのか」。そして、買う前に「これは事業の価値を見ているのか、それとも値上がりの勢いを見ているのか」と書く。答えが違えば、持つ期間も投資額も変わるはずです。
自分の時間軸と資金の制約を書き添えれば、確信だけが独り歩きするのを防ぎやすくなります。
AIは「大市場」だけでは足りない
AIの議論では、市場規模の大きさがよく語られます。ダモダラン自身、AI関連への投資が巨額になっていることを認めます。ただ、公式ブログでは、大きな市場がそのまま大きな企業価値を生むわけではないと釘を刺します。
確認すべきなのは、製品が売上へ変わるか、利益を残せるコストで提供できるか、競争相手が入っても利益を守れるかです。市場規模、業界のもうけ方、競争上の強み。この三つがそろって初めて、物語は事業になります。
筆者が面白いと思うのは、彼がAIの強気派と弱気派の両方に同じ注文を出している点です。強気派には、利用者数や将来の市場規模だけで勝利宣言をしないよう求める。弱気派には、設備投資が大きいからといって、必ず価値破壊になると決めつけないよう求める。
市場が待つことを嫌う時ほど、この順番は役に立ちます。物語を聞く。次に、売上、利益、資本コストを確認する。その間は、投資額を不確実性に合わせる。話題性の強いテーマほど、この順を飛ばさないほうがよいでしょう。
株譜の見方
AIに投資するかどうかは、二択ではありません。ダモダランの考え方は、「未来を知っているか」ではなく、「知らない部分をどれだけ残しているか」で投資の大きさを決めるものです。
筆者は、確信が強い時ほど比率を一度下げて考えるほうがよいと見ています。根拠が増えたのか。それとも、値上がりや過去の成功で気分が強くなっただけなのか。ここを分けるだけで、借入や集中の事故は減らせます。
次に見るべきなのは、AI企業の時価総額ではありません。製品・サービスの売上が増え、投じた資本のコストを上回る利益が出ているかです。その答えが出るまで、確信よりも分散を頼りにする。これが、ダモダランの動画から得られるいちばん実務的な教訓です。
出典
- アスワス・ダモダラン、Musings on Markets「The Situational Awareness Blow-up: The Collateral Damage from Investing Conviction!」、2026年8月10日(ブログ)
- アスワス・ダモダラン、本人YouTube「Lessons from Leo: The Dark Side of Investment Conviction!」、公開 2026年8月11日、0:33〜1:55、21:20〜36:10(YouTube)
- アスワス・ダモダラン、本人YouTube「Finding your Investing Lodestar: In Search of an Investment Philosophy!」、2026年3月24日、3:45〜6:20、40:20〜41:50(YouTube)
- アスワス・ダモダラン、本人YouTube「AI's Bar Mitzvah Moment: From Hype & Hope to Business Questions!」、2026年8月20日、43:20〜44:30(YouTube)
- アスワス・ダモダラン、Musings on Markets「AI's Bar Mitzvah Moment: From Hype & Hope to Business Questions!」、2026年8月20日(ブログ)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。