米国株の「次の10年」は報われるのか:ガンドラック、パブライ、ダモダラン、アックマンの答え
米国の10年債利回りが5%を超え、原油は1バレル100ドル前後に張り付いたまま。それでもS&P500は崩れていません。こういう相場で本当に気になるのは、目先の上げ下げより「いまの値段で指数を買って、10年後に報われるのか」という問いではないでしょうか。
この夏から秋にかけて、毛色の違う4人が、ちょうどこの問いに答えていました。債券王のガンドラック、バフェット信者を公言するパブライ、企業価値評価の大家ダモダラン、集中投資のアックマン。並べてみると、診断はそろって辛いのです。割れたのは診断ではなく、「ではどこへ逃げるか」でした。 しかもその背景に、これまでの10年にはなかった条件、つまり債券で稼げる時代の到来があります。順に見ていきます。
ガンドラック:「時価総額加重の米国株は一切勧めない」
最も悲観的だったのは、ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラックです。9月10日の自社ウェビナーで、シラーPER(CAPE。景気の波をならした株価の割高度合いを示す指標)が約42と、1999年の頂点を除けば過去最高の水準にあることを示しました。
ガンドラックによれば、このくらいのCAPEから始めた場合、その後10年の実質リターンがプラスになった例はありません。過去の傾向に当てはめると、年率マイナス5〜9%のあたりになるといいます。情報技術セクターがS&P500の38%を占め、1999年を上回っていることも挙げ、本人の言葉では「極端に集中した市場は、極端に危険な市場」です。
ただし、株そのものを否定しているわけではありません。6月のCNBC出演(ダブルラインの要約による)では、新興国株や新興国の現地通貨建て債券が、ドルベースで今年最良の資産だと話していました。米国内でも、時価総額加重より等金額加重のS&P500を選ぶべきだといいます。実際、等金額加重は1年以上にわたって時価総額加重を上回っており、米国株の非米国株に対する優位も、2024年末を天井に崩れ始めた、というのがガンドラックの読みです。
筆者は、「過去に例がない」という言い切りの強さに少し引いてしまいました。ただ、その強い言葉の先で出てくる処方箋が、全部売れではなく「持ち方を変える」であることは、意外でした。
パブライ:「マイナス2%からプラス2%でも驚かない」
モニッシュ・パブライの数字も近い水準です。8月の講演で、向こう10年のS&P500が、年率マイナス2%〜プラス2%に収まっても驚かないと語りました。根拠は、ハワード・マークスが紹介していた「PER約23倍からの10年リターン」の傾向です。パブライは5月の対談で「彼は賢い。異論はない」とそのまま受け入れています。
おもしろいのは、歴史の引き方です。1965〜82年はほぼ横ばい、82〜99年は約15倍、99〜2010年はまた横ばい。米国株は「何もしない時代」と「飛躍の時代」を交互に繰り返してきた、という見方です。だから次の飛躍は2035年ごろだろう、とパブライは見ます。それまでの避難先として推すのは、バークシャー・ハサウェイのB株です。時価総額の約4割が現金なので、暴落が来ればそれがそのまま「ただのオプション」、つまり安く買える権利になる、という理屈でした。7月には初心者向けの話でも、いまはS&P500の積立が最良の答えではないと言い切っています。
この「何もしない時代」という言葉に、筆者は妙に納得しました。上がり続けるのが当たり前だと思っていると、横ばいの15年は途方もなく長く感じます。歴史を見れば、それは珍しくない話なのです。
ダモダラン:数字は辛いが、自分は「市場の平均」に従う
ニューヨーク大学のアスワス・ダモダラン教授は、毎月のインプライド株式リスクプレミアム(米10年債に対する、株式の上乗せ分)を公表しています。10月8日のブログでは、これが3.70%と、今年初めて4%を下回りました。株式の期待リターンは8.99%です。9月には10年債利回りが0.54ポイント上がり、1962年以降の月次変化でも上位1割に入る大きさだったといいます。債券がこれだけ利回りを出すなら、株に上乗せされる分が細るのは当然です。
それでも、ダモダランは「バブル」という言葉を使いません。市場も経済も、AIに巨大な賭けをしている状態であり、その投資が資本コストを上回る収益を生むかは、時間をかけないと分からない、という整理です。本人の資産配分も公開していて、マグニフィセント7のうちテスラとエヌビディアを除く5銘柄を持ち、新しい資金は利回り約4%の短期国債に置いています。AIに全部賭けるか、平均に従うか、懐疑派に回るか、株から降りるか。この四つの選択肢から、自分は「市場の平均に従う」を選んだそうです。
数字を出す人が、自分の持ち方まで開示している。筆者はここに好感を持ちます。診断だけ辛くて、自分は何もしない評論家とは違います。
アックマン:指数は「海面」、見るべきはその下
この中で一番前向きなのが、パーシング・スクエアのビル・アックマンです。9月30日のブルームバーグTVで、いまの相場は「信じられないほど集中している」と認めました。それでも、そのおかげで置き去りにされた優良株を、安く買えているという立場です。S&Pグローバルは利益の21倍(普段は30倍超)、インターコンチネンタル取引所は17倍(同24倍)で買えたといいます。
アックマンにとって、指数は海面のようなものです。その下では、銘柄ごとにまったく別の動きが起きている。8月の講演では、1日限りのオプションやレバレッジETFへの資金流入を投機の兆しとして警戒しつつ、指数のPERが高いのは、大企業が10年前より成長力の高い企業に入れ替わったからで、単純に割高とは言えないとも述べていました。
筆者は、この「入れ替わった」という説明に、半分は納得し、半分は疑っています。入れ替わりが本当なら、高いPERは正当化できます。ただ、それはどの時代の割高論も使ってきた言い訳でもあります。
株譜の見方
4人を並べると、「指数をそのまま買う」ことへの評価は、楽観寄りのアックマンでさえ手放しではありません。違うのは逃げ道のほうです。ガンドラックは等金額加重と米国外へ、パブライはバークシャーへ、ダモダランは平均に乗ったまま現金を厚く、アックマンは置き去りの優良株へ向かいます。結論が割れているのではなく、同じ診断に対して処方箋が四つ出ている、と見るほうが実態に近いと思います。
ひとつ割り引いておきたいのは、CAPEを根拠にした「10年リターンは低い」という予想が、この10年ほど何度も外れてきたことです。CAPEが高いと言われ始めてからも、米国株は大きく上がりました。ガンドラックの警告も、今に始まったものではありません。
ただ今回は、前提がひとつ違います。10年債が5%を超え、株式リスクプレミアムが3%台に沈んでいることです。2021年までのように、債券に置いても何も生まない時代なら、割高な株にも買う理由がありました。いまは短期国債でも4%前後が取れます。ダモダランが新しい資金を短期国債に回しているのは、まさにそこでしょう。筆者は、4人の中でいちばんまねしやすいのはダモダランの構えだと感じます。指数から降りはしないが、新しいお金を全部そこに入れる必要もない、という構えです。
この記事に出てきた数字は、1年後と5年後に答え合わせをするつもりです。ガンドラックの「実質マイナス」とアックマンの「割安な優良株」のどちらに軍配が上がるのか。読者の方は、10年債の利回りと、株式リスクプレミアムの月次の数字を見ておくと、その行方がつかめるはずです。
出典(日付は発言日)
- ジェフリー・ガンドラック「Gundlach Unlocked」ウェビナー、2026年9月10日(YouTube)
- ジェフリー・ガンドラック CNBC出演、2026年6月17日(ダブルラインの要約)
- モニッシュ・パブライ 講演、2026年8月19日(YouTube)/対談、2026年5月5日(YouTube)/2026年7月21日(YouTube)
- アスワス・ダモダラン「Musings on Markets」、2026年10月8日(ブログ)
- ビル・アックマン ブルームバーグTV、2026年9月30日(YouTube)/Fortune「Titans and Disruptors」、2026年8月5日(YouTube)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。