スタンレー・ドラッケンミラー:株は持つ、債券は売る、ドルは弱気。「どちらに転んでも負けない」組み方を読む
スタンレー・ドラッケンミラーは、ヘッジファンドのデュケイン・キャピタルを率いた人です。ジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドで、1992年のポンド売りを実行した側近としても知られます。表に出る機会が少ないぶん、発言のたびに市場が注目します。
2026年の発言は多くありません。1月30日収録のモルガン・スタンレー「Hard Lessons」(2月27日公開)と、8月24日のウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿が中心です。数は少なくても、中身は具体的で、売買の組み立て方まで語っています。
筆者がここから取り出したい一文は、これです。ドラッケンミラーのすごさは、強気か弱気かの結論ではなく、「どちらのシナリオになっても成り立つ形」を最初に作っているところにあります。AIバブルの時期の見立てや国債買い戻しへの批判は他の記事でも取り上げているので、この記事ではポジションの組み方と、そこから見える思考の癖を追います。
株は持つ、債券は売り持ち(2026年1月30日)
1月の時点で、景気観は強気です。米経済はすでに強く、「大きく美しい法案」と呼ばれる財政刺激でさらに強くなる。FRBは利上げせず、むしろ利下げに傾くだろう。株は割安ではなく、歴史的な評価のレンジの上のほうにある。それでも大きな破壊的変化が目前にあり、今後3〜4年はヘッジファンドにとって魅力的な機会だと語りました。10〜15年「死んでいた」とされるマクロ運用が復活する、という見立てです。
注目したいのは、その強気を債券のショート(売り持ち)と組み合わせていることです。リスク資産を多く持つ裏で、債券は売り持ちにしている。債券で儲けるつもりは薄く、景気が「ディスインフレ(物価上昇の鈍化)下の成長」なら、損益はゼロに近いまま、他の資産を持てます。逆に、強い成長がインフレを呼べば、債券の売り持ちが大きく儲かる。株と債券を縦横に組んで、どちらのシナリオでも成り立つ形にするわけです。FRBが好況の最中に利下げすれば、商品高も重なってインフレが再燃しうる、という警戒が根拠でした。
筆者は、この発想にいちばん唸りました。多くの個人投資家は、強気か弱気かを決めて、その方向に全部を置きます。彼は、当たったときの利益より、外れたときに全体が壊れないことを先に考えている。
その後の経過を見ると、この組み方は的を射ていたように見えます。9月にFRBが利上げに動き、30年債が19年ぶりの高水準をつけたからです。ただし、実際の損益について本人が語った素材は今回ありません。当たったかどうかは、ここでは判定できません。
ドルは弱気、銅は持つ、金は少し
ドルには弱気です。購買力で見て歴史的レンジの上限にあり、海外の投資家がドル資産を持ちすぎている。「米国を売る」取引というより、貿易収支とポジションの都合で、海外勢が純額で米国資産を買わなくなれば、ドルは自然に下がる。それが最も可能性の高いシナリオだといいます。
商品では銅を持ちます。「天才的な取引ではなく、コンセンサスの大きな取引」と断りつつ、今後8年は供給が増えず逼迫し、AIとデータセンターが需要を上乗せすると説明しました。銅鉱株ではなく、先物の期近を乗り換えて持つという具体的なやり方も明かしています。金も少し持ちますが、通貨の代替という理由ではなく、主に地政学的なヘッジです。
暗号資産は「問題を探す解決策」で、価値保存の手段としては不要だが、ブランドとしては定着するだろうと述べました。ただ、ブロックチェーンとステーブルコインは生産性を高め、10〜15年で決済の基盤になると見ています。批判と評価の線の引き方が冷静です。
AIは主エンジンから外し、バイオとテバへ
直近3年のポートフォリオはAI主導でしたが、2025年の夏から秋にかけて、AIが「不安になるほど過熱」し、1999〜2000年と韻を踏み始めたと感じて、他の分野を探しました。いまはAIが主エンジンではなくなり、持つのは少しだけ。代わりに日本と韓国に大きなポジションを持ち、AI恐怖症による主役交代を見込んでバイオテックへ大きく動いたそうです。
具体例がイスラエルのジェネリック薬メーカー、テバです。PERは約6倍。新しいCEOがバイオシミラー(後続のバイオ医薬品)で成長企業に変えようとしていました。ところがバリュー投資家は成長戦略を嫌い、成長投資家はまだ移行前と見て、誰も信じていなかった。6〜7か月で株価は16ドルから32ドルに、PERは約11.5〜12倍に再評価されたといいます。「いまを見ても儲からない。何が変わるか、投資家の見方がどう変わるかを先に見る」という例です。自分は薬の専門家ではないので、社内の専門家を信頼し、その熱量も判断材料にしているとも明かしました。
AIがもたらす「大デフレと大量失業」というコンセンサスについては、確信を持つ人は傲慢で心が開かれていない、と批判しています。技術革命は常に雇用の終わりと言われてきましたが、放射線科医はAIの診断が人より優れても、10年前より増えて患者と話す時間が増えた。ただし今回は速度が前例なく、悲観派が正しい可能性にも開かれている、と認めます。もしそうなら、政府は増刷とユニバーサル所得で対応し、結果はむしろインフレになりうる、という見方です。コロナ前の5年先予想インフレ率は0.4%程度でしたが、実際の5年後の物価上昇は9%でした。他人が見ていないシナリオに備える姿勢が、ここにも出ています。
弱点の自覚:失敗談は短く
失敗談は広く知られています。最も有名なのは1999年のナスダックの熱狂で、1月に完璧に売り抜けたあと、最高値付近で買い戻して大きな損失を出しました。教訓は新しいものではなく、20年前に学んでいたことを、感情が勝って破った点だと本人は言います。ドローダウン(資産の落ち込み)の間は吐き気がするほど不安になるが、記録が長く積み上がった今は偶然ではないと自分に言い聞かせ、2日以上悩まず次へ進むそうです。
エヌビディアの話も自嘲に満ちています。2022年前半にAIに注目して小さく買い、2週間後のChatGPT登場で倍増し、マクロ会議での指摘でさらに倍増しました。数年は上がると公言したのに、株価が150ドルから800ドルになった時点で「成功に耐えられず」売却し、5週間後に1,400ドルを付けて悔やんだ。20年前に戻っても同じ失敗をしただろう、と述べています。同じ人が1月に「AIは8回あたり」と語っていたことを思うと、なかなか示唆的です。
逆張りは過大評価されている
運用の考え方では、「逆張りは過大評価されている」という言葉が目を引きます。ソロスの「群衆は80%正しい。残りの20%で捕まるな」を引き、最も良いのは確信が極端に高く、誰も信じていない時だと言います。混んだ取引かどうかは、建てる位置を決めるときにしか気にしません。時間軸はたいてい18か月〜3年。ソロスから学んだのはポジションの大きさで、当たったかどうかより、当たったときにどれだけ稼ぎ、外れたときにどれだけ失うかが大事だそうです。
分析の深追いには否定的です。AIとメールで速度が重要な今、情報が15〜20%でも動ける覚悟がないと、大相場を逃す。マクロの判断は雇用統計のような遅行指標ではなく、企業の声を集めたパズルと市場の内部指標から作る。自分の強みは知能ではなく「引き金を引く力」で、若い頃の勇気を取り戻したい、というのが本人の弁です。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
ドラッケンミラーの発言でいちばん参考になるのは、結論そのものよりも、「どちらに転んでも成立する組み方」を考えているところです。株は強気、債券は売り、ドルは弱気、金は少し。別々の見立てを置いて、全体で見れば、景気が強くてもインフレになっても耐える形になっています。1月の時点でそれを明言していたことは、9月の利上げ後の局面で振り返る価値があります。
ただ、この手法は、自分でポジションの大きさを細かく調整できる人のものです。「3週間ごとに意見を変える」と断る人の真似は、個人にはかなり難しい。個人が持ち帰れるのは、むしろ逆の部分、つまり「悪いシナリオを一つ想定し、その保険をどこに置くか」という発想のほうでしょう。
もう一点、おもしろい矛盾があります。AIの過熱を見て主役から外した人が、同時に、AIの雇用への悲観論を「傲慢」と呼んでいる。バブルの危うさと、技術の価値を、同じ人が別々に評価しているのです。これは他の投資家との違いというより、見る対象を切り分ける作法の違いだと筆者は受け止めました。
読者が見るべきは、30年債の利回りと、自分の持ち物が「景気が強い場合」と「物価が上がる場合」のどちらにも耐えるかです。
失敗談の語り方にも、筆者は引かれました。エヌビディアを150ドルから800ドルで売り、その後1,400ドルを見たという話を、彼は言い訳なしに自嘲で語ります。しかも「20年前に戻っても同じ失敗をしただろう」と言い切る。うまくいった人ほど、自分の癖を直せるとは言わないのです。弱点を消せないなら、弱点が出ても全体が壊れない組み方にしておく。1月の「株と債券を組み合わせる」話と、この自嘲は、実は同じ考えの表と裏だと筆者は読みました。
また、テバの例は、割安株を探す人に向けた教訓として読めます。PERが低いだけでは足りません。バリュー投資家も成長投資家も信じていない、という「誰の持ち物でもない状態」が、16ドルから32ドルへの再評価の余地でした。
銅についての断り方も印象的でした。「天才的な取引ではなく、コンセンサスの大きな取引」と自分で言うのです。人気の取引を人気だと認めたうえで持つ。逆張りを売りにする人が多いなかで、この正直さは貴重だと思います。ただし、混み合った取引は、崩れるときも一斉です。持つなら、いつ手放すかも先に決めておくべきでしょう。
総じて、彼の発言は「何を買うか」より「どう備えるか」の教材として読むのが、いちばん実りがあると筆者は考えます。自分の持ち物を点検するときも、まず「外れたらどうなるか」から問うのが近道です。
出典(日付は発言日。動画は公開日)
- モルガン・スタンレー「Hard Lessons」ドラッケンミラー回、収録2026年1月30日、公開2月27日(Morgan Stanley)
- ウォール・ストリート・ジャーナル寄稿「Let the Bond Market Speak」、2026年8月24日(ロイター報道の引用:The Standard)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。