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関税は結局、何を変えたのか:最高裁の違憲判断のあとも、「物価」「交渉術」「政治の不安定」で見方は割れた

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関税の話は、最近あまり聞かれなくなりました。では、関税は効かなくなったのでしょうか。筆者の答えは違います。目立たなくなったことと、効いていないことは別です。ただ、効いているかどうかは、「いつの話か」と「関税の動機を何と読むか」で、結論がまるで変わります。

2025年の「解放の日」(米国が相互関税を発表した日)から1年半。2026年2月には、米最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を違憲と判断し、政権は別の法律で関税を打ち直しました。その間にイラン戦争と原油高が起きて、関税の存在感は薄れました。それでも18人の発言を集めると、関税は物価、米中関係、個々の企業の戦略に、静かに影を落とし続けていました。

意見が割れる理由は三つに整理できます。関税は物価にいつ、どれだけ出るのか。関税は「交渉の道具」でいずれ収まるのか、それとも「構造的な政策」なのか。市場は関税をすでに織り込んだのか、まだなのか。

分かれ目1:関税は物価にどれだけ出るのか

「まだ出る」「時間差で出る」派

ケン・グリフィンは、2025年9月の時点で、関税による物価の押し上げは「まだ約半分しか経済に浸透していない。まだ来る」と言い切っています。2026年1月のダボス会議でも、関税が長年の貿易関係を乱し、米国の物価を押し上げたと指摘しました(ロイターの報道による)。2024年にトランプ氏に投票した共和党支持者の発言である点が、読む価値を高めています。

ジェイミー・ダイモンは、4月の年次株主レターで、イラン戦争が原油・商品価格に大きな衝撃を与え、世界の供給網の組み直しも起こり得るとして、市場が織り込むよりも根強い物価高と高い金利になり得ると警告しました。戦争と関税交渉の継続で、地政学的な緊張が重なっているという整理です。

「関税の転嫁は薄れた」派

マイク・ウィルソンは、9月のポッドキャストで、物価(変動の大きい食品とエネルギーを除いたもの)の上振れは一部の項目に偏り、住居費は軟調で、関税の転嫁は薄れていると話しました。4月には、商品高が物価に遅れて及ぶ影響は、昨年の関税の議論と同じで、すでに株価が織り込んだと見ています。ケン・フィッシャーは、3月の動画で、関税は米国にとって悪いが、実際に徴収されているのは表面の税率の約5割だと話しました。関税は課す側のほうが被害が大きい(相手には世界の他国と取引する選択肢がある)というのが持論です。

筆者は、この二つの陣営がすれ違う理由は単純だと思います。グリフィンの「まだ半分」は2025年9月の話で、ウィルソンの「薄れた」は2026年9月の話です。見ている時期が1年違います。同じ関税について、一方は「これから」を語り、他方は「もう終わったこと」を語っているのです。

分かれ目2:交渉の道具か、構造的な政策か

「交渉術だから、妥協に至る」派

クリストファー・ウッドは、2025年10月の時点で、米中が10月末までに貿易合意に至る可能性を、市場は過小評価していると見ていました(二次情報)。トランプ大統領の関税の脅しは、固い政策というより交渉術だという読みです。最終合意の形は、米国が半導体の輸出規制をゆるめ、中国がレアアースの輸出制限を外す取引。中国はレアアースを使う磁石で世界の92%を握っていて、これが交渉力の源だといいます。

フランスの運用者エドゥアール・カルミニャックも、2025年10月の書簡で、米中の対立を「子どもの度胸試し」のようなものだと見ました。米国は先端半導体、中国はレアアースという切り札を握っている以上、双方が妥協に至ると見て、「彼らは妥協する運命にある」と言い切っています。

中国出身の運用者リー・ルー(李録)は、10月のコロンビア大学の昼食会で、もっと大きな枠から語りました。世界の政治の秩序は変わりつつあるが、その下にある世界の共通の市場は、約30年前の冷戦の終結後に出来上がったもので、一国が自分から抜けるのは難しい。貿易戦争は第三国経由で迂回され、米国のメキシコや東南アジアとの貿易の増加は、対中貿易の減少をほぼ打ち消している。米中の首脳が8か月で4回会うのは、「戦略的安定」が双方の最優先だからだ、という見方です。投資家は、変わりやすい政治の秩序より、共通の市場が続くことを重く見ればよい、というのが彼の立場です。

「構造的で、元には戻らない」派

韓国のイ・チェウォンは、4月のインタビューで、米国は借金が多く、財政支出の大半が利払いになる異例の事態にあるから、関税や移民への課税は避けられない政策だと見ています。「昔に戻ると考えてはいけない」とまで言っています。

スタンレー・ドラッケンミラーは、1月の番組で、関税は10%程度までは許容できるが、いまの水準は「我慢できない」と話しました。米中関係については、ウォーシュ氏が8年前に言った「今が最良で、あとは悪化しかない」が正しく、熊相場(下げ相場)にあるという見立てです。

筆者がここで注目するのは、関税の「動機」の読み方です。ウッドやカルミニャックは関税を交渉の手段と見るので、取引が成立すれば引くと考えます。イ・チェウォンは関税を財政の穴埋めと見るので、引かないと考えます。同じ関税でも、引く条件がまるで違います。どちらに分があるかは、今のところ筆者には決めきれません。ただ、財政の穴埋めという読みのほうが、数字の裏づけがはっきりしているとは思います。

分かれ目3:法と政治の不確実さ

最高裁の判断と、その後

ジェレミー・シーゲルは、2月のコメントで、最高裁がIEEPAによる関税を6対3で違憲とし、猶予もなく終わったと伝えました。企業には払い戻しの道があるものの、方法は未定です。トランプ氏は通商法122条で10%、すぐに15%(上限)の関税を発動しましたが、150日しか維持できず、中間選挙の前に議会が延長するのは難しいと見ています。トランプ氏は最大の棒から始めて交渉で下げる流儀で、結ばれた取引は守られ、最終的な水準は大差ないかもしれない、という見立ても示しました。

藤野英人は、3月の特別講義で、最高裁が違法と判断したのに、政権はなお新たな関税を打ち出す姿勢で、政策の先行きは不透明だと整理しました。任天堂の米国法人など、関税の返還を求める訴訟も広がっています。「経済というより、政治そのものが極めて不安定な状態だ」というのが彼の見方です。バンク・オブ・アメリカのマイケル・ハートネットは、8月の要約で、1株利益の予想が12か月先で33%上がり、関税の払い戻し350億ドルが追い風になると指摘しました(二次情報)。

政治の側の事情

韓国のオ・ゴニョンは、1月のコラムで、政権が選挙に向けて、関税の一部撤廃を含む、生活費を下げる政策を連発すると見ました。藤野は、トランプ政権は関税を続けても利下げしても庶民を苦しめるジレンマにあり、焦って対外的な緊張を高める恐れもある、と読んでいます。関税は、選挙という別の制約の中に置かれています。

分かれ目4:市場はもう織り込んだのか

「織り込み済み、むしろ買い場」派

ビル・アックマンは、8月の動画で、市場が短期志向になり、優良株が急落する局面は仕込み時だと言い切りました。アマゾンは、トランプ関税の導入で株が叩かれたときに買い増したそうです。エド・ヤルデニは、3月に、トランプ大統領がイランの発電所への攻撃の期限を延ばして株が反発した場面を、2025年4月に関税を延期した直後に株が急騰した場面に重ねています。政治の最後通告が延期されると、市場は安心して買い戻す、という繰り返しです。

ウィルソンは、昨年は関税が最後の一撃だったが、水面下では他の不安材料(中国のAI企業ディープシークの台頭、移民規制、政府効率化省)ですでに弱っていたと指摘します。悪材料が出る前から相場が弱かった点が、昨年と今年で似ている、という整理です。

「まだ見えていない影響」派

ノルウェーの政府系ファンドを率いたニコライ・タンゲンは、8月の演説で、AI主導の市場の調整に関税と貿易制限が重なれば、1920〜30年代の大恐慌に似た状況になり得ると話しました。極端な場合は、株式投資の価値の少なくとも80%が失われ得る、というのです。ただし、差し迫った崩壊を予測するものではない、と断っています(二次情報)。

国別・企業別の影響

インドのサミール・アローラは、1月に、市場は「米国の500%の関税と、インドのロシア産原油の輸入継続」という極端な最悪のケースまで織り込んでいたが、それは行き過ぎだったと話しました。4月には、関税は10%に下がり(50%から低下)、貿易協定上の実際の負担は18%で、孤立して標的にされない限り負担ではないとしています。

デビッド・テッパーは、2月の書簡で、ワールプールの増資を「驚き」だと非難しました。関税のもとで出遅れたのだから、海外の競合との提携や合併も検討せよ、と迫っています。

現場の経営者は何を言っていたか

グリフィンは、2025年6月に、直前に会った米国の経営者150人のうち3〜4割が、この数か月を「キャリアで最も困難な時期」と答え、金融危機より厳しいとうなずいたと明かしました。自動車メーカーは中国のレアアースが入らず「パニック状態」だとも話しています。ただし、本人が断っているとおり、150人は偏った標本です。その後、関税は最高裁の判断を経て10%台へ動きましたが、経営者が感じた「政策の不確実さ」は、水準の高さではなく、いつ変わるか分からない点にあったのでしょう。

藤野が挙げた任天堂の米国法人の返還訴訟のように、すでに払った関税の返還を求める動きは、企業側が「過去の関税」を会計でどう扱うかという新しい論点を生んでいます。ハートネットの言う払い戻し350億ドルは、その規模の目安として読めます。返還の方法が未定のままである点は、シーゲルも指摘しました。企業の利益予想が関税の有無で上下するなら、利益の質を見る必要が出てきます。

整理

| 分かれ目 | A | B | |---|---|---| | 物価への影響 | まだ出る(グリフィン、ダイモン) | 転嫁は薄れた(ウィルソン、フィッシャー) | | 関税の性格 | 交渉術(ウッド、カルミニャック、リー・ルー) | 構造的(イ・チェウォン、ドラッケンミラー) | | 法・政治 | 不安定(藤野)/延長は難しい(シーゲル) | 払い戻しが追い風(ハートネット) | | 市場の織り込み | 織り込み済み・買い場(アックマン、ヤルデニ、ウィルソン) | 大恐慌型の懸念(タンゲン) |

なぜ割れるのか

一つ目の理由は、時期の違いです。グリフィンの発言は2025年9月、ウィルソンの発言は2026年9月で、同じ「関税の物価への影響」でも、見ている局面が違います。時間をずらして語ると、結論が逆に見えます。

二つ目の理由は、関税の動機の読み方です。交渉術と見れば、取引が成立して収まります。財政の穴埋めと見れば、引く理由がありません。発言の前提そのものが違うのです。

三つ目の理由は、関税の影響がほかの要因と混ざる点です。イラン戦争による原油高、AI投資、FRBの利上げが重なり、関税だけの効果は切り出しにくくなっています。ウィルソンの「悪材料が出る前から相場が弱かった」という指摘は、この混ざり方を示しています。

株譜の見方

以下は、公開発言をもとにした筆者の推論です。

冒頭の主張に戻ります。2026年の発言の多くは、関税を「主役」ではなく「背景」として扱っていました。イラン戦争、FRBの利上げ、AI投資が前面に出て、関税は過去の出来事のように語られます。ただし、グリフィンの「時間差で出る」や、イ・チェウォンの「構造的」という指摘が正しければ、関税は静かに効き続ける要因です。目立たないことと、効いていないことは別だと、筆者は考えます。

リー・ルーの「貿易は迂回される」という観察は、数字で確かめられる点が貴重です。米国のメキシコや東南アジアとの貿易の増加が、対中貿易の減少をほぼ打ち消している。つまり関税の効果は思ったより小さいか、別の形で現れていることになります。ただし、迂回が増えれば、迂回先への関税が次の議題になり得ます。

アローラの「関税50%から10%へ」という数字は、同じ国への関税が1年足らずで大きく動いたことを示します。投資家が備えるべきは、関税の水準そのものより、変わりやすさです。ウィルソンが「転嫁は薄れた」と言い、グリフィンが「まだ半分」と言ったその1年のあいだにも、水準は何度も動きました。どの時点の数字で語っているのか、発言ごとに確かめる習慣が要ると思います。時点の違いを無視した比較は、ほぼ必ず誤読を生みます。

明日から見るなら、二つです。最高裁の判断のあとの関税の払い戻しが、いつ、どんな形で決まるのか。そして、通商法122条の150日の期限が来たとき、議会が動くのかどうか。この二つが、「交渉の道具」派と「構造的」派の、最初の答え合わせになります。

免責

本稿は、公開された発言の整理で、投資助言ではありません。数字は各出典の記載に基づきます。二次情報に基づく部分は、本文中にその旨を付しました。

出典

  • Ken Griffin、Fortune(Forbes Iconoclast Summit)2025年6月5日 https://fortune.com/article/citadel-founder-ken-griffin-says-executives-are-more-worried-over-tariffs-than-they-were-during-the-great-financial-crisis 、CNBC Money Movers(公式の発言抜粋)2025年9月25日 https://www.cnbc.com/2025/09/25/cnbc-exclusive-excerpts-citadel-founder-ceo-ken-griffin-speaks-with-cnbcs-sara-eisen-on-money-movers-today.html 、ロイター(Internazionale転載、二次)2026年1月21日 https://www.internazionale.it/ultime-notizie-reuters/2026/01/21/citadel-ceo-griffin-says-us-has-frayed-relationship-with-european-allies
  • Jamie Dimon、JPMorgan Chase 年次株主レター、2026年4月6日。https://www.jpmorganchase.com/ir/annual-report/2025/ar-ceo-letters
  • Mike Wilson、Morgan Stanley Thoughts on the Market、2026年3月16日 https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/market-correction-may-be-ending-mike-wilson 、2026年4月27日 https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/us-stock-market-remaining-bullish-mike-wilson 、2026年9月21日 https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/bull-market-resilience-isnt-complacency-mike-wilson
  • Ken Fisher、Fisher Investments動画、2026年3月4日。https://www.fisherinvestments.com/en-us/insights/videos/ken-fisher-talks-recession-probability-stock-fundamentals-ai-research-and-more
  • Chris Wood、Tiger Brokers配信(GREED & fear)、2025年10月20日(二次)。https://www.itiger.com/hant/news/1199070042
  • Edouard Carmignac、四半期書簡、2025年10月18日。https://www.carmignac.com/en-gb/articles/edouard-carmignac-s-letter-3481-12140
  • Li Lu、コロンビア大学 第36回Graham & Dodd Luncheon書き起こし、2026年10月5日。https://business.columbia.edu/sites/default/files-efs/imce-uploads/36th%20Annual%20Graham%20%26%20Dodd%20Luncheon%20Transcript%20(20261005)%20CBS.pdf
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  • Bill Ackman、Fortune Titans and Disruptors、2026年8月5日。https://www.youtube.com/watch?v=PujkGebv1Nw
  • Ed Yardeni、Yardeni Research QuickTakes、2026年3月24日。https://yardeni.com/research/quicktakes/2026/03/24/obliteration-day-was-postponed-time-to-buy-stocks
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  • Samir Arora、Business Today(二次)2026年1月12日 https://www.businesstoday.in/markets/stocks/story/samir-arora-on-india-us-ties-fpi-outflows-union-budget-2026-and-more-510581-2026-01-12 、Rediff(二次)2026年4月14日 https://www.rediff.com/business/interview/samir-arora-lets-think-of-around-15-returns-over-12-months/20260414.htm
  • David Tepper、CNBC(ワールプールへの書簡、二次)、2026年2月25日。https://www.cnbc.com/2026/02/25/david-tepper-sends-scathing-letter-to-whirlpool.html

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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