株譜
INVESTOR OUTLOOK

売り時と損切り:「10%で切る」を否定する人が多い理由と、それでも売る理由

TIPS

「いくら下がったら売るか」。個人投資家なら誰でも一度は悩む問いです。ところが、17人の投資家の発言を並べてみると、この問いに「下がった幅で決める」と答えた人は、ほとんどいませんでした。

筆者がこの記事で言いたいのは、売り時は値段で決めるものではなく、買った理由が崩れたかどうかで決めるものであり、その理由は買う時点で書いておくべきだ、ということです。

買い方の本は山ほどあるのに、売り方を語る人は少ない。語る人も、答えはかなり違います。「10%下がったら損切り」を投資でなくカジノと言い切る人もいれば、小さく切ることが全損を防ぐと考える人もいます。売る理由ごとに整理していきます。年代の古い発言も含むので、発言の時期を明記します。

「機械的な損切りはしない」人たち

イ・チェウォン:誤りは即売る、価格では切らない

Life資産運用のイ・チェウォンは、2026年4月に「損切りは絶対にしない。誤りを犯した時は即売る」と言い切っています。計算ミスで価値を見誤ったなら、無条件に売る。そうでなければ、本来の価値に達した時か、より良い代わりの銘柄がある時に入れ替える。原則は一つで、「持っている銘柄は今でも狂おしく買いたい銘柄でなければならない」。この状態なら、市場が揺れても怖くないという考え方です。

7月には、売りの目安を別の角度から話しています。胸が躍るほど割安な銘柄は即買い、適正な株価に達すれば売る。業績が変わらず株価だけ上がっても売る。「静かな時に買い、急騰してニュースになり話題になったら売る」というのです。

ジョン・リー:「10%損したら損切り」はカジノ

元メリッツ資産運用のジョン・リーは、2026年8月のYouTube出演(報道による)で、「10%損したら損切り、10%儲けたら利確、というのは投資でなくカジノだ」と言い切りました。10年待てば5倍、10倍になることもあり、それが時間への投資だというのです。買った理由と売った理由を記録し、他人に説明できなければ、それは投資でなく賭けごとだとも助言しています。

筆者は、この「他人に説明できるか」という物差しが気に入りました。値段のルールは誰でも守れますが、理由のルールは自分の頭を使わないと守れません。

2021年4月の発言(古い発言)では、売るのは「60歳で現金が必要な時」「より良い会社を見つけた時」「買い間違い」「世の中が変わった時」の四つだと挙げていました。価格ではなく、理由で売るのです。

藤野英人:ラインを設けず、本質で判断する

レオス・キャピタルワークスの藤野英人は、2026年3月の特別講義で、損切りと利益確定のラインは設けないと話しています。本質的によくないと判断すれば売り、よいと思えば買う。20〜30年勝ち続ける日本株は「ないかもしれない」ので、長く持つ前提より、世の中の変化を柔軟に見る力が大事だといいます。

「売る条件を先に決める」人たち

セス・クラーマン:買う前に出口を決める

ベイポストのクラーマンのやり方は、2026年9月の解説記事(二次情報)によると、柱が三つあります。投資の前に「3年後に失敗していたら、何を議論しているか」を考えておくこと。買う前に、売る条件(出口)を決めること。アナリストが持ち株に惚れ込まないよう、「今日また買うか」と問うことです。

売る時の判断を、買う時点で終えておく発想。これが、冒頭の主張にいちばん近い考え方だと筆者は見ています。

邱国鷺:売る理由は3つだけ

高毅資産の邱国鷺の考え方を整理した記事(2026年8月、二次情報)によれば、売る理由は3つに絞られます。評価の前提が崩れた、割安でなくなった、より良い機会が出た、の3つです。景気に業績が左右される会社の株(周期株)については、「砲声のなかで買い、花火のなかで売る」といいます。景気の頂点にある周期株は、割安に見えて実は割安でない落とし穴の一つだそうです。

テリー・スミス:悪い経営は、売るほうが効いた

ファンドスミスのテリー・スミスは、年初の年次書簡で、2025年の最大の足を引っ張ったノボ・ノルディスク(寄与はマイナス3.0ポイント)を振り返っています。悪い経営への対処は、働きかけるより売るほうが効果的だった、という結論でした。

2026年2月の株主総会(二次情報)では、2025年にペプシコとブラウン・フォーマンを売り、2026年にイントゥイットを買い戻したと説明しています。ペプシコは、数年にわたって自由に使える現金の伸びが鈍っていたうえ、減量薬の普及でスナックが逆風になると見たのが理由です。売った理由が「事業の前提が変わった」という形で語られている点に、筆者は注目します。

「売ってから悔やんだ」人たち

ドラッケンミラー、ウッド、テッパー:エヌビディアの教訓

スタンレー・ドラッケンミラーは、2026年1月収録のインタビューで、エヌビディアを株価150ドルから800ドルになった時点で「成功に耐えられず」売り、5週間後に1,400ドルを付けて悔やんだと話しています。大きな変化の局面では、投資家が変化に追いつけず、株は思った以上に長く上がり続けやすい、という教訓です。

ジェフリーズのクリストファー・ウッドは、2025年11月の講演で、最近エヌビディアを売ったと言っています。5倍の上昇で期待が織り込まれた、というのが理由です。テッパーも2024年9月(古い発言)に、エヌビディアを第2四半期に84%超売りました。売ったあとに株価が戻ったことを問われると、「下がった時に買わなかったのは残念だ」と認めつつ、成長の予想が実現するかは「自分には分からない」と答えています。

同じ銘柄をめぐって、売って悔やんだ人、売って悔やまないとした人、売って買い戻さなかった人が並びます。ここから筆者が読み取るのは、売り時に一つの正解はない、ということです。

林園:「銘柄選びは合っていたのに、タイミングを狙いすぎた」

林園投資の林園は、2025年3月のインタビューで、2013年前後に知人の紹介で投資した、心臓病の薬を作る中国企業の例を話しました。知人は、上がっては戻る繰り返しが苦しくて手放したそうです。林園は、手放した人の誤りを「銘柄選びは合っていたのに、タイミングを狙いすぎた」ことだと周囲に話しました。本人は、配当だけで元本をすでに回収したといいます。

「小さな損切りが全損を防ぐ」立場

マーク・スピッツナーゲル:「負けることを愛せ」

ここまでの流れに、唯一はっきり逆らうのがこの人です。ユニバーサのスピッツナーゲルは、2023年8月のフォーチュンのインタビュー(古い発言)で、高校時代にシカゴ商品取引所のベテラン、エベレット・クリップに弟子入りした経験を語っています。クリップの「負けることを愛せ」という哲学は、小さな損切りを受け入れれば、予想外の急変で全てを失わずにすむ、という教えだそうです。トレーダーの仕事は予想ではなく、利益を出すことだとも話しています。

「相場の温度」で売る人たち

惠理の謝清海は、2018年3月(古い発言)に、「人が売る時に買い、人が買う時に売る」と話しています。素人は天井で買い、底で売る、という認識です。

レオン・クーパーマンは、2026年8月のCNBC出演(二次情報)で、「皆が強気なのは面白い。悪いニュースが一つ出ればすぐ売る」と言いました。強気が一方向に集まっていること自体が、危険のしるしだという見方です。

さわかみ投信の澤上篤人は、2026年8月のブログで、本当の資産形成とは、自分のリズムを守って安い時に買い、高くなったら売ることの繰り返しで、再現性が高いと書いています。誰も利益を確定しないからバブル高が続き、大半の人が暴落にぶつかる、という見方です。

「売らされる」局面を語る人たち

JPモルガンのジェイミー・ダイモンは、2025年版の年次株主レター(2026年4月公開)で、パニックのときは、人はリスクのある資産を売り、しかも最も売りやすいものから売ると書いています。短期の不正確なデータに、人は過剰に反応するとも言っています。売り時の問いには、自分で選ぶ売りだけでなく、売らされる売りも含まれる。持ち高の中で最も売りやすい資産が、最初に売られるという指摘です。

ジョエル・グリーンブラットは、2025年6月のコロンビア大学の講義の要約(二次情報)で、3年以上持てば、きっかけがなくても市場が追いつくと話しています。割安な株には嫌われる実際の理由があるので、それが永続的な問題か一時的かを見分けることが肝心だとも説いています(2024年12月のポッドキャストの解説)。売り時を決める前に、待つ期間の想定を置く考え方です。

謝清海は、2018年3月のインタビュー(古い発言)で、自分の誤り率は約3分の1で、主因は経営者の信頼性や能力の見誤りだと語っています。売る理由の多くは「前提が違った」にあり、価格ではなく人を見誤った時がいちばん痛い、という自己分析です。

「そもそも売買が目的でない」人

農林中金バリューインベストメンツの奥野一成は、2025年10月の連載で、株式投資を二つに分けています。「安く買って高く売る」売買型と、企業の一部を持って価値の増大を享受するオーナー型です。売買型は値動きの予測と需給の読みが中心で、オーナー型は事業の経済性と企業の成長力を見ます。オーナー型では、「売り時」という問い自体の位置づけが違います。

売る理由を整理する

17人の発言を、売る理由別に整理すると次のようになります。

  • 事業の前提が崩れた:イ・チェウォン、邱国鷺、スミス、藤野英人
  • 価値に達した、割安でなくなった:イ・チェウォン、邱国鷺
  • より良い機会が出た:イ・チェウォン、邱国鷺、ジョン・リー
  • 現金が必要になった:ジョン・リー
  • 相場が熱を帯びた:謝清海、クーパーマン、澤上篤人、イ・チェウォン
  • 価格だけで切る:スピッツナーゲル(小さな損切り)
  • 売らない:奥野一成(オーナー型)

確認できた範囲では、「価格が下がったから売る」という理由をはっきり挙げているのは、17人のうち1人だけでした。スピッツナーゲルの2023年の古い発言です。世間で言われる「損切りルール」とは、大きく違います。

なぜ意見が割れるのか

割れ方は、三つの違いから説明できます。

一つ目は、価格を情報と見るか、雑音と見るかです。スピッツナーゲルは、価格の動きを危険の信号として使います。イ・チェウォンやジョン・リーは、価格ではなく、価値と理由を見ます。同じ下落でも、信号か雑音かの定義が違うのです。

二つ目は、運用のやり方の違いです。スピッツナーゲルは暴落の危険を管理する立場なので、価格に反応する運用になります。イ・チェウォンやクラーマンは、割安に仕込んで待つ立場です。価格の下落は、むしろ買い増しの機会になりえます。

三つ目は、売った後の損の受け止め方です。ドラッケンミラーは売って悔やみ、テッパーは悔やみつつ買い戻さず、ウッドは「期待を織り込んだ」と見て売りました。売り時は、後から見れば必ずどこかで間違います。間違い方を受け入れられるかが、問われているのだと筆者は思います。

株譜の見方

ここからは、筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。17人の発言で目立つのは、「損切りはしない」と言う人ほど、売る基準を細かく決めていることです。イ・チェウォンは「誤りは即売る」、ジョン・リーは理由を説明できないなら賭けごと、クラーマンは買う前に出口を決める。価格のルールを持たない代わりに、理由のルールを持っています。

個人投資家が学べるのは、価格に基づく損切りの基準を使うかどうかより、売る理由を言葉にして、買う時点で書き留めておくことだと筆者は考えます。ジョン・リーの「買った理由と売った理由を記録する」は、その具体的な方法です。

もう一つ、エヌビディアの例が示すのは、売ったあとの後悔は避けられないという事実です。ドラッケンミラーのような一流の投資家でも逃しました。売り時を完璧に当てることは目標にせず、売った理由が崩れていないかを後から確かめるほうが、現実的でしょう。

明日からは、持ち株のそれぞれについて、「買った理由」と「どうなったら売るか」を一行ずつ書いてみてください。書けない銘柄があれば、それが最初に見直すべき銘柄です。


出典

  • イ・チェウォン 韓経マガジンBUSINESS、2026年4月14日(韓経マガジン)/ファイナンシャルニュース、2026年7月6日(fnnews)
  • ジョン・リー ニューシス経由、2026年8月31日(fnnews)/週刊エコノミスト、2021年4月20日(Economist Korea)
  • 藤野英人 ログミーファイナンス、2026年3月9日(ログミー)
  • セス・クラーマン Guru Gems、2026年9月(Guru Gems)
  • 邱国鷺 格隆匯、2026年8月14日(格隆匯)
  • テリー・スミス ファンドスミス年次書簡、2026年1月15日(ファンドスミス)/年次株主総会書き起こし、2026年2月15日(Steady Compounding)
  • スタンレー・ドラッケンミラー モルガン・スタンレー「Hard Lessons」、収録2026年1月30日(モルガン・スタンレー)
  • クリストファー・ウッド Fortune、2025年11月20日(Fortune)
  • デビッド・テッパー GuruFocus(CNBC報道)、2024年9月26日(Yahoo Finance)
  • 林園 新浪財経、2025年3月12日(新浪財経)
  • マーク・スピッツナーゲル フォーチュン(ザ・ウェルス・アドバイザー転載)、2023年8月5日(The Wealth Advisor)
  • 謝清海 エッジ・マレーシア、2018年3月26日(The Edge Malaysia)
  • レオン・クーパーマン CNBC(AOL転載)、2026年8月14日(AOL)
  • 澤上篤人 長期投資家日記、2026年8月17日(サワカミ)
  • ジェイミー・ダイモン JPモルガン年次株主レター、2026年4月6日(JPMorganChase)
  • ジョエル・グリーンブラット コロンビア大学講義(ニュースレター要約)、2025年6月19日(Thematic Edge)/ザ・インベスターズ・ポッドキャスト、2024年12月9日(TIP)
  • 奥野一成 ゴールドオンライン連載、2025年10月29日(幻冬舎ゴールドオンライン)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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