金・ビットコイン・ドル:通貨の価値を疑う投資家たちは、何を信じ、何を信じないのか
金は2026年1月下旬、1オンス5,595ドルの史上最高値をつけました(アインホーンの書簡による)。年初は4,339ドルでしたから、1か月足らずで3割近く上がった計算です。その後は戦争を受けて崩れ、ガンドラックによれば一時は4,000ドルを割り込み、また持ち直しています。ビットコインは、ミラー4世の発言を伝える記事によると、7月時点で直近のピークから約半分の水準にありました。ドルも、年が明けてから売られたり買い戻されたりを繰り返しています。
この三つの値動きの裏には、同じ疑いがあります。政府の借金が膨らみ続けるなか、紙の通貨はいつまで信用されるのか。この問いに「疑わしい」と答える投資家は少なくありません。ところが、ではその代わりに何を持つのかとなると、金を勧める人、ビットコインを勧める人、どちらも要らないという人にきれいに分かれます。
筆者がこの記事で言いたいのは、ドルへの疑いは意外なほど共通していて、本当に割れているのは「ドルが弱った先で、何が価値を保つのか」だという点です。金とビットコインの論争は、値上がりの予想というより、信用とは何かをめぐる意見の違いに見えます。20人の発言をたどりながら、その分かれ方を整理します。
金を持つ人たち:誰の負債でもない資産
金のいちばん熱心な支持者は、ジョン・ポールソンでしょう。2009年に金へ軸足を移し、7月のテレビ出演では、金は長い強気相場の入り口にあると話しています。紙の通貨への信頼が揺らぐほど金の需要が伸び、中央銀行の購入も支えになる、という見立てです。ただ、本人が勧めるのは金そのものより、掘り始めの段階にある金鉱株です。ここには注意が要ります。同じ日に、ポールソンが持つ金鉱山計画の4割をノバゴールドが取得し、ポールソンのファンドが統合会社の約4割の経済的な持ち分を持つことが発表されました。報道には、利害が絡むという指摘もあります。
デービッド・アインホーンの金は、もっと実戦的です。4月の書簡によれば、金の現物と、一定の価格を超えると利益が確定する権利(バイナリー・コール・オプション)で大きく稼ぎました。この権利は相場が近づくと性質が変わるため、大半を売って利益を固め、3月の下落後も利益の多くを守れたといいます。筆者はここがおもしろいと思います。金を「信じる」ことと、高値で利益を確定することは、ちゃんと両立しているのです。2025年の書簡では、金は年間で64%上がり、主因は各国がドル頼みを減らして金の準備を増やしたことだと説明しています。報道ベースでは、2026年4〜6月期の書簡で、金と米国の金利での損が足を引っ張ったとも伝えられています(紹介記事によるもので、確度は高くありません)。
香港の運用者チェー・チェンヘイは、1月の取材で、自分のファミリーオフィスの約25%を貴金属に振り向けていると話しました。前年初の約15%から引き上げています。「現物の金を持っていれば、誰にも借りがない」という言い方が象徴的です。ロシア資産の凍結を見て、政治リスクのある資金を自国の近くへ戻す「金庫への資金避難」が起きていると見ています。ジム・ロジャーズも、金と銀は売ったことがなく、下がれば買い増したいと9月に話しました。
ジェフリー・ガンドラックは、9月のウェビナーで、金はどんな運用資産にも入れておくべきだと言っています。10月の対談では、ドルが基軸通貨の座を失う危険に備えて、3,800ドル以下なら買うべきだとまで言い切りました。レイ・ダリオは、1月に金は運用資産の10〜15%が賢明だとし、3月の寄稿では、大国が対立する時期に、債権者が債券の一部を金へ移すという借金の歴史の型を説いています。
マイケル・ハートネットは1月、金は春までに6,000ドルに達しうると書きました。過去4回の強気相場の平均上昇率を当てはめた予想です。結果は、1月の高値が5,595ドルで、その後は4,000ドル割れまで下げました。少なくとも時期は外れたことになります。それでも8月末の号では、政策と政治の危険への備えとして、金や資源を買うと書いています(要約サイト経由の報道)。
金を疑う人たち
少数派ですが、辛口の意見もあります。林園は、金は収益を生まないのでバフェットの言う「無効資産」にあたると賛同しました。過去40年金が下がっていたなら、次の40年も同じかもしれない、というのです(2025年11月)。マーク・スピッツナーゲルは、1月の書簡で、金も暗号資産も最近は守りの資産でなく投機的な売買として動いていると警告しました。反転すれば、ほかのリスク資産と一緒に大きく下がる、と。守ってくれるはずの資産が、危機で守ってくれないかもしれないという疑いです。
ケン・フィッシャーの批判は、論理の根元に向かいます。インフレは通貨の出しすぎが起こすもので、見るべきは通貨の総量がGDPよりはっきり速く伸びるかどうかだが、いまはそうなっていない、と6月に答えています。通貨の価値の低下を前提にした「金へ」も「ビットコインへ」も、前提が成り立っていないという立場です。筆者は、この指摘がいちばん地味で、いちばん痛いところを突いていると思います。
ビットコインを信じる人たち
いちばん一貫しているのは、ビル・ミラー4世です。9月には、これほど楽観的だったことはないと話しました。世界の財政と金融の状況が大きく悪化しているのに、ビットコインの時価総額は前回の周期の高値付近にとどまる、というのが理由です。さらに、ビットコインが金と同じ時価総額になれば約20倍になると語っています。金の時価総額は約31.8兆ドル、ビットコインは約1.6兆ドルで、金の5%ほどです。今年の米国の財政赤字が10か月で約1.8兆ドルと、ビットコインの時価総額に近いことも、比較の軸にしています。ミラー自身の会社が資産の約10%をデジタル資産として長く持っていると報じられていて、ここは利害を割り引いて読む必要があります。
ポール・チューダー・ジョーンズは、4月公開のポッドキャストで、ビットコインは「間違いなく、いま手に入る最良のインフレ対策だ」と言い切っています。数に限りがあることを理由に、金よりも優れているというのです。ダリオは金10〜15%のうえに、ビットコインを少し持つよう勧めています。全面賛成ではなく、分散の端に置く位置づけです。
中間に立つのがスタンレー・ドラッケンミラーです。1月の収録で、暗号資産は「問題を探している解決策」であり、価値をためる手段としては要らないが、ブランドとしては定着すると見ています。一方で、ブロックチェーン(取引の記録の仕組み)と、ドルなどに連動する暗号資産は、10〜15年で決済の土台になると見ています。金は少し持っていますが、通貨の理由ではなく、主に地政学リスクへの備えだそうです。
ビットコインを信じない人たち
ジェレミー・グランサムは、6月のポッドキャストで、ビットコインは「不要なナンセンス」だと切り捨てました。ゼロになるかと問われると「間違いなくゼロになる」と答え、のちに「遠い将来にはどんなものもゼロになる」と補足しています。リー・ルーは10月、コロンビア大学での対談で、暗号資産は根本的に偽物だと言い切りました。通貨には、強制力による決済と価値の保存が必要で、ガレージで誰かが作ったものにはそれがない、というのです。ジム・チャノスは「価格には不可知論。誰も価値を知らない」という立場で、ロジャーズも、法定通貨と暗号資産には懐疑的で、金と銀なら信頼すると話しています。
ドルをめぐる三つの見方
ドルについては、弱気が目立ちます。ドラッケンミラーは1月の収録で、ドルは購買力で見て歴史的な範囲の上限にあり、海外の投資家がドル資産を持ちすぎていると見ています。「米国を売る」取引が起きるのではなく、海外勢が米国の資産を差し引きで買わなくなれば、ドルは自然に下がる。これがいちばんありそうな道筋だそうです。ガンドラックは、3月のウェビナーでドルは弱い局面に入りうると話し、10月の対談では、巨額の赤字と利払いのせいで、ドルは将来基軸通貨の座を失うとまで言っています。ハートネットの9月の号は、基本のシナリオを「通貨の価値の目減り」とし、当局が金利や原油を抑え込む介入に動いて、ドルが下がると見ています。
テリー・スミスは違う角度から見ています。2025年の年次書簡で、トランプ政権が金利の低下と貿易赤字の縮小を望む以上、強いドルとは両立しないと書きました。ドルは対ポンドで1.25から1.35まで下がり、ポンド建ての運用成績の向かい風になったといいます。金が50年ぶりの高値をつけた一因も、金の値がつくドルの弱さの表れだと読んでいます。
一方で、「ドル安」を慌てて受け取らない声もあります。マイク・ウィルソンは2月、ここ数か月の貴金属の急騰とドル安は、政策当局が景気を走らせ続けることへの信認が下がったサインだと話しました。そのうえで、「秩序だったドル安と、無秩序なドル安は別物だ」と整理しています。6月には、ウォーシュ議長の初めての金融政策会合を受けて、信認は市場が好まないことを実行して初めて得られるもので、それが株安、ドル高、貴金属安という形で出たと見ています。ケン・グリフィンは2025年4月、米国債とドルの信用に並ぶブランドはないと言ったうえで、そのブランドを傷つけてはならないと警告しました。懸念は共有していても、結論は「崩れる」ではなく「傷つけるな」です。セス・クラーマンが2014年に、国債の信認低下に備えて資産の約1.5%を金のオプションに充てていたという昔の話も、同じ流れにあります。
時期と水準の整理
「いつ」と「いくらで」をどこまで言っているかを並べると、温度差がよく見えます。
- 水準を数字で示した人:ガンドラックは金を3,800ドル以下なら買う。ハートネットは春までに6,000ドル(外れた)。ミラー4世はビットコインが金の時価総額に並べば約20倍。ポールソンは2025年4月に、金は2028年までに5,000ドル近くという予想を「妥当な数字」と認めていた。
- 時間軸だけを示した人:ポールソンは金の長い強気相場の「初期」、ドラッケンミラーはドル安が1〜3年、ダリオは債務危機が「3年後、前後2年」、ガンドラックはドルの基軸通貨としての地位が「将来」。
- 保険と位置づけた人:ミラー家(父のミラー3世は2022年に、ビットコインは金融破局への保険だと話した。4世も同じ語り口を受け継いでいる)、ロジャーズ(現物の金銀を子に引き継ぐ保険)、ドラッケンミラー(金は地政学リスクへの備え)。保険と考える人は、値上がり下がりをあまり気にしていない。
- 戦術的に売買した人:アインホーンは1月の急騰でオプションの大半を売った。
並べてみて気づくのは、強く言い切る人ほど、水準と時期はぼかしていることです。逆に、数字を出した人(ガンドラック、ハートネット)の予想は、実際の値動きの中で試されます。ハートネットの6,000ドルが外れたのは、その分かりやすい例でした。
なぜ割れるのか
一つ目は、何を価値の物差しにするかです。金を選ぶ人は「誰の負債でもない」点を、ビットコインを選ぶ人は「数が決まっていて、赤字に比べて小さい」点を重く見ます。林園やリー・ルーのように、収益も強制力も持たないものは資産と呼べない、という人もいます。
二つ目は、危機のときにどう動くかです。ダリオは、債務危機では金が上がると見ます。スピッツナーゲルは、金も暗号資産も株と一緒に下がると見ます。3月の金の下落は、戦争のさなかに安全資産のはずの金が売られたもので、後者の見方を支える事実にもなりました。
三つ目は、発言する人の持ち高との距離です。ポールソンは金鉱株の大口、ミラーはビットコインを長期保有、チェーは自分で立ち上げた金ETF(金に連動する投資信託)の最大の保有者です。嘘をついているわけではなく、自分で大きく賭けているから、発言が力強いのでしょう。ただ、読む側は割り引いて聞くのが無難です。
株譜の見方
ここからは、公開された発言をもとにした筆者の推測です。
冒頭の主張に戻ります。地図を作っておもしろかったのは、「ドルを疑う」と言う人の多くが、結論を「ドル安」という一つの予想に置いていないことでした。ドラッケンミラーは自然に下がると言い、ウィルソンは秩序だった下げなら問題ないと言い、スミスは通貨の弱さを自社の成績の向かい風として受け止めています。ドルが弱くなるという見立ては、実はかなり共通しているのです。対立しているのは、その先で何が価値を保つのか、という点だと筆者は見ています。
その意味で、金とビットコインの論争は、価格の予想というより、信用をどう定義するかの争いです。金は数千年の信用があるけれど、利子や配当を生みません。ビットコインは新しく、値の振れ幅が大きい一方で、総量は決まっています。ガンドラックが「3,800ドル以下なら」と水準を決めて語り、ポールソンが鉱山株という形で金に乗るように、同じ金を持つ人でも、やり方はばらばらです。
個人の投資家にとって実用的なのは、ダリオの10〜15%のような目安や、スミスの為替の話を手がかりに、「通貨を疑う」ことの影響が自分の家計にどう届くのかを確かめることではないでしょうか。円で暮らす身には、ドル安が円高として届くかどうかのほうが、金の値段より先に効いてくる可能性もあります。答え合わせに使えるのは、ガンドラックの3,800ドルという線と、ハートネットのように外れた予想が次にどう改められるか、そしてドル安がゆるやかか急かを見分ける、ウィルソンの言う「秩序」の有無です。
出典(日付は発言日)
- ジョン・ポールソン CNBC「ザ・エクスチェンジ」の報道、2026年7月22日(Kitco/24/7 Wall St.)
- デービッド・アインホーン グリーンライト書簡、2026年1月20日(Hedge Fund Alpha)・2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)/第2四半期書簡の紹介、2026年10月13日(華盛通)
- チェー・チェンヘイ フォーチュン、2026年1月20日(Fortune)
- ジム・ロジャーズ メタルズ・アンド・マイナーズ、2026年9月4日(Substack)/リスク・サイエンシズ、2026年8月13日(EurekAlert)
- ジェフリー・ガンドラック「Gundlach Unlocked」、2026年3月19日(DoubleLine)・2026年9月10日(YouTube)/ロゼンバーグとの対談、2026年10月9日(YouTube)
- レイ・ダリオ フォーチュン、2026年1月9日(Fortune)・2026年3月14日(Fortune)
- マイケル・ハートネット Kitco、2026年1月23日(Kitco)/「フロー・ショー」の要約、2026年8月28日(Finvaulta)・9月25日(Finvaulta)
- 林園 全景財経、2025年11月24日(腾讯)
- マーク・スピッツナーゲル ユニバーサ書簡の報道、2026年2月11日(Tekedia)
- ケン・フィッシャー Fisher Investments、2026年6月16日(Fisher Investments)
- ビル・ミラー3世 CNBC、2022年2月9日(The Wealth Advisor)
- ジョン・ポールソン ロイター、2025年4月29日(Mining.com)
- ビル・ミラー4世 ビットコイン・マガジン、2026年9月20日(ChainCatcher)/ザ・ストリート、2026年9月22日(Yahoo Finance)/CNBC、2026年7月12日(Motley Fool)・2026年8月24日(CNBC)
- ポール・チューダー・ジョーンズ「Invest Like the Best」、2026年4月28日(Podscripts)
- スタンレー・ドラッケンミラー モルガン・スタンレー「Hard Lessons」、収録2026年1月30日(モルガン・スタンレー)
- ジェレミー・グランサム「The Diary of a CEO」、2026年6月25日(GMO)
- リー・ルー コロンビア大学グレアム&ドッド昼食会、2026年10月5日(コロンビア大学%20CBS.pdf))
- ジム・チャノス 「The Acquirer's Multiple」、2026年2月(Acquirer's Multiple)
- テリー・スミス ファンドスミス・エクイティ・ファンド 2025年年次書簡、2026年1月15日(ファンドスミス)
- マイク・ウィルソン モルガン・スタンレー、2026年2月2日(Morgan Stanley)・2026年6月22日(Morgan Stanley)
- ケン・グリフィン CNBC、2025年4月23日(CNBC)
- セス・クラーマン グラント金利会議、2014年1月29日(Hedge Fund Alpha)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。