エラリアン:政策を決めなかった後悔と、予定表にない仕事がつくったキャリア
順調に見える経歴にも、本人だけが気にしている空白があります。
モハメド・エラリアンはIMFで15年を過ごし、PIMCOで世界有数の資金を運用し、共同CIOとCEOを務めました。いまも経済の助言者であり、大学でも教えています。その本人が、2026年2月のインタビューで「一つだけ後悔がある」と話しました。
政策を決める側になれなかったことです。
IMFでは政策担当者に助言する。けれども最終判断を自分で引き受ける立場ではない。国が決めることに、自分は副操縦士として乗っていた。こう説明しています。
これは投資で損をした話ではありません。むしろ、専門家として成功した人が抱く後悔です。助言が的確でも、最後の決断と責任は別の人が持つ。その距離を、エラリアンはキャリアの終盤になっても重く見ているようです。
成功した助言者であることと、決定を引き受けた人であることは、同じではありません。 この区別が、今回の話の中心です。
予定表にない仕事を選んできた
司会者のマナス・クランニーに、中央銀行へ誘われたら断るのかと問われると、エラリアンは「大きな特権になる」と答えました。その直前に、二人の娘へ話すことも紹介しています。
きれいなキャリア計画を持たなくてもよい。自分が就いた仕事の多くは、6か月前には候補にすらなかった、と。
投資家や経済学者の経歴は、後から振り返ると一直線に見えます。しかし本人の説明は逆です。起きた機会に向き合い、役割を引き受けた結果として、IMF、PIMCO、アリアンツ、ケンブリッジが並んだ。ここは意外でした。長期計画を否定しているのではありません。変化の大きい世界では、計画表にない仕事を受ける余白も必要だと言っているのです。
ただし、行き当たりばったりを勧めているわけではありません。彼には、どの仕事でも使う判断の土台がありました。
反対の新聞を読む習慣
その土台を作ったのは、父親だったといいます。エジプトの小さな村で育った父は、カイロ大学、そしてコロンビア大学へ進みました。教育は奪われない財産だと子どもたちに教えたそうです。
もう一つの教えは、「聞くこと」でした。13歳だったエラリアンの家には、政治的な立場が左から右まで異なる4紙が毎朝届いた。ニュースは同じなのだから1紙でよい、と彼が言うと、父は違うと答えます。同じ出来事でも、分析と解釈は違う。幅広い見方を読まなければ、後に人の話を聞けなくなる、と。
エラリアンはこの習慣を、自分の強みの一つだと振り返ります。最初から相手が間違っていると思い込まず、正しいかもしれないと受け取る姿勢です。
市場や政策の議論では、自分に都合のよい意見だけを集めやすいものです。だからこそ、この習慣は投資にも通じます。結論を急ぐ前に、反対の見方を十分に読む。もっとも地味ですが、誤りを減らすための方法でもあります。
最も満足した仕事は、大学だった
エラリアンが「最も満足した」と言う仕事は、金融市場でも政策の場でもありません。母校Queens' College, Cambridgeの学長職でした。
5年間で何をしたのか。600年近い大学で、前任者が築いた土台の上に積み上げることを大切にしたといいます。大学の財務をより強くし、設備を改善し、困難な家庭環境から来た優秀な学生のための奨学金と給付を増やした。
学生が教育の機会をつかみ、変わっていく姿を目の前で見ることが最大の喜びだった、と話します。運用成績や肩書きだけでは測れない成功です。
ここで彼は、大学の役割を厳しくも見ています。若い世代には、低すぎる成長率、高すぎる格差、多すぎる債務、そして十分に守れなかった地球を残してしまった、と。だから大学は、AIなどの新しい道具を使える人を社会へ送り出さなければならない、というのです。
AIで人を減らすのか、人を強くするのか
この問題意識はAIの話へ続きます。エラリアンはAIの生産性には非常に強気です。けれども、企業がAIをどう使うかで結果は変わると言います。
一つは、同じ仕事を少ない人数でこなすために使う道です。人員を減らす自動化です。もう一つは、同じ人たちがより多くを成し遂げるために使う道です。こちらは人の力を広げる使い方です。
後者には、社員の再訓練と、使える形へのデータ整備が必要になります。AI担当者を置き、何を変えれば人が使えるのかを考える。単に人件費を削るより、手間も時間もかかります。
ここは投資の話としても見逃せません。AI関連の企業に投じたお金が報われるかは、技術の性能だけで決まりません。利用する企業が、人を減らすだけで終わるのか、それとも仕事の質と生産性を上げられるのか。その違いが、利益にも社会への影響にも表れます。
同氏は、AIそのものを疑っているわけではありません。むしろ、技術を作る側だけでなく、使う側への関心が足りないと見ています。導入は自動では進みません。使い手の仕事を組み替え、学び直しの機会を用意して初めて、生産性の数字が現実のものになります。
株譜の見方
エラリアンの後悔は、華々しい失敗談ではありません。国家の政策を直接決める機会がなかった、という静かなものです。IMFで政策助言を担うことと、国の政策を最終決定することには大きな差があります。PIMCOなどで運用や経営の責任を負った経験とは別に、その役割を担えなかったことを本人は後悔として挙げました。
筆者は、この自覚に価値があると見ています。専門家の意見は重要です。ただ、政策では誰が国として最終判断を担うのか、投資では誰が運用と経営の結果に責任を負うのかを、分けて確かめる必要があります。評論と実行の差は、相場が崩れた時に最も大きくなります。
エラリアン自身は、予定外の仕事を受け、大学で学生の変化を支え、AIを人の力を広げるために使うべきだと話します。後悔が一つ残っていても、キャリア全体が失敗になるわけではありません。次に見るべきなのは、企業がAIを理由に人を減らすだけなのか、それとも教育と再訓練にお金を使うのかです。
出典
- モハメド・エラリアン、The National News「Mohamed El-Erian calls for Fed reboot and reflects on AI, his career and regrets」、司会 Manus Cranny、2026年2月19日(YouTube)。英語自動字幕を確認に使用。
本記事は公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。