「新興国株を買う」は何を買うことか:ドルの向きとAI半導体の数社に賭けている、という11人の読み
「米国株は高すぎる。ならば新興国を」。この発想は、2026年に数字で裏づけられました。ジェレミー・グランサムは6月の対談で、直近12か月に新興国は約65%上がり、S&P500は約25%だったと対比しています。ジェフリー・ガンドラックも、最も前向きなのは非米国で、新興国株と新興国の現地通貨建て債券が、ドルベースで今年最良の資産クラスだと語りました。
ところが、新興国株の中身を開いてみると、話は変わります。クリストファー・ウッドは9月のインタビューで、TSMC・サムスン・ハイニックスの3社だけで、MSCI新興国指数の約29%(インタビュー時点)を占めると指摘しました。
「新興国を買う」とは、実際には「ドルの向き」と「AI向け半導体の数社」に賭けることではないのか。 これが本稿の問いであり、11人の発言を読んで筆者が行き着いた疑いです。インドを除く新興国について語った人たちの見方は、ドルとマクロの流れで買う派、指数の中身と広がりを疑う派、国ではなく企業を見る派に分かれました(インドは別記事で扱います)。割れ目は、「新興国という括りが意味を持つのか」にあります。
1. 数字:何が上がってきたのか
- グランサム(6月):直近12か月で新興国は約65%、S&Pは約25%。個人への助言は「米国株を持たない」で、米国以外の世界の幅広い株式インデックスを資産の約6割、貴金属(金・銀)を5〜10%、余力があれば不動産を少し、残りを債券と現金にするといいます。米国株が5〜10年後も無傷でいる自信がない、理由は割高すぎること。
- ガンドラック(9月):米国株と非米国株の相対は、2024年末の頂点から下向きに転じ、PBR(株価純資産倍率)は米国5.72倍に対して米国外2.49倍。米国株は新興国株に対して約20%劣後しました。戦争開始(2026年2月末)以降は、新興国株・日本株を含むほぼすべての株が二桁高になっています。
- マイク・ウィルソン(3月):昨年、FRBの利下げと資産買い入れの再開でドルが下がり、新興国・金銀・産業金属・原油・メモリー株に資金が集中しました。ところが直近はドルが反発し、それらが冷えたと整理しています。
新興国の上昇は、「ドルの動き」と「AI半導体」という二つの物語が重なったものでした。
2. ドルとマクロで買う派
ガンドラック:債券でも株でも新興国
ガンドラックは3月の配信で、ドルは弱い局面に入りうると整理し、実物資産(特に金)と商品、高品質債、選別した新興国を重視しました。9月にはドルが2024年末の110から100割れへ下がっており、さらに下がると見て、新興国の現地通貨建て債券が米社債を上回ると予想します。自社の戦略(短期・高品質、証券化商品中心)は今年+2%、総合債券指数は-1.5%で、最良のセクターは新興国の現地通貨建て債券だったといいます。10月には、超安全資産と新興国の現地通貨建て債券を組み合わせる「バーベル戦略」(両端に寄せる持ち方)を挙げました。確信度は中程度の発言が多いです。
ハートネット:戦術的にはロング
マイケル・ハートネットは、昨年12月の時点で、2026年上期の本命はディスインフレへの賭け(ゼロクーポン債・中型株・新興国株)だと書きました。9月の基本シナリオは「通貨の価値の目減りと期間」で、戦術的にはコモディティーと新興国を買い持ちにします。債券利回りの急上昇が米国の好況を脅かし、当局が利回りと原油価格を抑える介入に動くため、ドルは下落する、という筋書きです。10月には、長期ではラテンアメリカ株・金・コモディティー・新興国を選好すると述べました。なお、これらは「フロー・ショー」の要約サイト経由で、確信度は中程度です。
フィッシャー、カルミニャック
ケン・フィッシャーの理屈は単純で、おもしろいと思います。米経済は「そこそこ」だが、期待が極端に低い欧州や新興国のほうが、期待を上回りやすい。つまり、予想を超える側に勝ち目があるという、期待の水準そのものが根拠です。7月には、世界株は米国も米国外も年初来約9%上昇と整理していました。
エドゥアール・カルミニャックは、1月の書簡で、昨年4月に「ミレイ旋風」が南米資産の再評価につながると予想したと、自己申告しています。ただし書簡には結果の数値がなく、的中例として自分で挙げているだけです。実際の損益は別に検証する必要があります。
3. 指数の中身を疑う派
「新興国指数」は、半導体3社だった
冒頭のウッドの指摘は、新興国投資の前提を揺さぶります。3社でMSCI指数の約29%。しかも、4大大手IT企業(いわゆるハイパースケーラー)の設備投資の計画は、2026年に約7,200億ドル、2027年に9,870億ドルで、それがほぼそのまま半導体企業の利益になります。AIバブルの崩壊は6〜12か月で起こりうるが、いまはAI設備投資の予想がまだ上がり続けている、というのが彼の見方です。最初の3年は手元資金でまかなわれたが、今年から借入が増えている点にも触れています。「半導体株がピークを打ったと確信できれば、インドの比率を上げる」とも話しており、新興国全体の議論というより、AIテーマの強さを背景に置いた発言です。
ハートネットは、6月に、過去の株式バブル天井のあとの動きを整理した記事で、新興国は1,224銘柄のうち、新高値をつけたのは21銘柄(2%未満)だけだと指摘しました。指数は高値でも、銘柄の広がりがない。これは過去のバブル天井の特徴だという見方です。同じ人が、別の日には新興国をロングだと言う。数字の読み方は一つではない、ということが分かります。
ドルが戻ると冷える
ウィルソンの3月の整理は、新興国の上昇がドル安の裏返しであることを示しています。ドルが反発すると、新興国・金銀・産業金属・原油・メモリー株が、同時に冷えました。新興国は、独立した資産というより、ドルの鏡のように動く面があるのです。ドルが再び強くなる局面があれば、2026年の上昇の一部は、その分だけ巻き戻される可能性があります。ただし、これは発言者の観察から読める含意であり、本人たちの予想ではありません。
アジアの中での配分:ウッドの相対ポートフォリオ
ウッドの1月の発言は、「新興国」の内訳がどう動いているかを教えてくれます。彼のアジア太平洋(日本除く)の相対ポートフォリオでは、韓国を2ポイント、台湾を1ポイント引き上げ、インドを2ポイント(13%へ)、中国を1ポイント引き下げました。北アジアのハイテクからインドへ乗り換える投資家はまだ少なく、ある運用者は過去14年で最もインドを軽く持ち、韓国は逆だと観察しています。インドが相対で復活するには、「つるはしとシャベル」取引(AI関連の半導体など)の巻き戻しが必要だというのです。
ウッドにとって、新興国アジアの配分は、AI半導体を持つか持たないかの強弱の調整です。昨年12月にも、2026年のインドの相対成績は、国内要因よりAI相場の行方に左右されると述べていました。新興国全体を買うのではなく、AIを軸に国の比率を動かす発想で、ドル安を軸にしたガンドラックやハートネットとは出発点が違います。
4. 国ではなく企業を見る派
パブライ:トルコは、国ではなく事業を買った
モニッシュ・パブライは、3月の動画で、トルコへの投資は国を買ったのではなく、並外れた事業が葉巻の吸い殻価格で買えたからだと述べました。ほとんどの事業では、マクロよりミクロが勝つ。成否の95%は、経営者と事業の性質で決まるというのです。5月には、トルコは浮動株が17日で入れ替わるほど短期売買が多く、優良企業が極端に安いと説明しました。一方、インドは良い会社が少数に絞られ、研究され尽くして割高。インドのペプシ系ボトラーとトルコのコカ・コーラ系ボトラーでも評価に大差があり、トルコ1か国に絞って深く調べる戦略を選んだそうです。
8月には、みんなが興奮している分野は避けるのが原則で、AIで見るとすればメモリ(つるはし)ぐらいだと語りました。マイクロン、SKハイニックス、サムスンが数年先までの売上を固定しているからです。同じ動画で、韓国のKOSPIは実質的にSKハイニックスとサムスンの2社で、指数とは言えないとも述べています。出生率0.7の韓国は日本と同じ道をたどる、という厳しい評価も出ました。
ここは意外な一致でした。パブライとウッドは、結論が逆でも、同じ事実を見ています。ウッドの「指数の中身が3社」という指摘と、パブライの「KOSPIは2社」という指摘は、同じ方向を向いているのです。
奥野一成:マクロでは勝てない
奥野一成は、昨年11月に、「インド経済が好調だからインド株を買えば儲かる」は因果関係の取り違えだと述べました。長期のリターンを決めるのは、保有企業のEPS(1株利益)の成長であり、マクロ予測はほとんど役に立たない。見るべきは「どの国が成長するか」ではなく、「その成長の恩恵を最も受ける企業はどこか」だといいます。インドの例ですが、新興国全体への批判としても読めます。
5. 地政学とリスクプレミアム
アスワス・ダモダランは、4月初め、成熟市場の株式リスクプレミアム(株がリスクを負う見返りの上乗せ分)が、年初の4.23%から4.77%へ上がったと整理しました。国別のリスクプレミアムも上がる見込みですが、格付け会社の対応が遅く、中東諸国の格付けはまだ動いていないので、ソブリンCDS(国の倒産保険料)で補う必要があるといいます。アブダビのCDSは0.60%から0.91%、バーレーンは2.47%から3.52%へ拡大していました。戦争の値付けは、格付けではなく市場が先にやる、という話です。
リー・ルーは、10月初めのコロンビア大学の講演で、米国のメキシコ・ASEANとの貿易の増加が、対中貿易の減少をほぼ相殺していると指摘しました。世界の共通市場は約30年前の冷戦終結後に成立し、一国が自発的に抜けるのは難しいといいます。投資家は、変動する政治秩序より、共通市場の継続と「世界の購買力の持ち分」を重視すればよい、という見方です。新興国の一部(メキシコ、ASEAN)は、貿易戦争の副産物として恩恵を受けている、という読み方もできます。
6. なぜ割れるのか
前提1:「新興国」という括りの中身
ガンドラックとハートネットは、新興国を一つの資産クラスとして、ドルの動きに連動する束で見ます。ウッドとパブライは、指数の実態が半導体の数社だと見ます。どちらも事実を言っていますが、括りの粒度が違うので、結論が違います。
前提2:ドルが弱いままか
ガンドラックは、ドルが2024年末の110から100割れへ下がり、さらに下がると見ます。ハートネットも、当局の介入でドルが下落する筋書きを描きます。ウィルソンは、ドルが反発した局面で新興国が冷えたことを観察しています。ドルの方向が新興国の方向をほぼ決める、という前提を共有しながら、ドルの方向の予想が一致していません。
前提3:マクロで買えるか、企業で買うか
フィッシャー、ガンドラック、ハートネットは、マクロの流れで資産クラスを買います。パブライと奥野は、マクロでは勝てないと言います。どちらも長期の成功者ですが、時間軸と方法が違います。前者は数か月から数年、後者は10年以上の保有を前提にしています。
前提4:地政学の値付け
ダモダランは、中東諸国の格付けが動いていない間も、ソブリンCDSが先に動いたと整理しました。リスクは国ごとに違う速度で価格に出る、という前提です。一方、リー・ルーは、国を超えた共通市場の継続を重く見ています。
7. 株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
冒頭の疑いに戻ります。「新興国株を買う」という行為は、買う側が思っている以上に、特定の数社と、ドルの方向を買っているのだと筆者は思います。ウッドの29%という数字は、指数に連動するETFを買う人にとって、いちばん大事な情報の一つです。
ガンドラックとハートネットが勧める新興国は、株よりも現地通貨建て債券に重みがあります。株と債券では、ドル安への感応度も、AIテーマとの距離も違います。「新興国」という言葉でひとまとめにせず、何を買うのかを分けて読む必要があります。
そして、パブライの「トルコは国ではなく事業を買った」と、ウッドの「半導体を買う」は、対極に見えて同じ現象の裏表です。誰も見ていない場所の割安な企業を買うことと、全員が見ている場所の指数を買うことは、まったく別の賭けです。新興国に投資するなら、自分の買うものが「ドル安」なのか、「AI半導体」なのか、「トルコの飲料会社」なのかを、一言で言えるようにしておくのが第一歩だと考えます。答え合わせの材料は、ドルの向きと、半導体大手3社の決算です。
最後に、この記事の数字には、動画の要約や二次報道が含まれます。カルミニャックの的中例は自己申告で、ハートネットの発言は要約サイト経由です。
出典
- ジェレミー・グランサム The Diary of a CEO、2026年6月25日(GMO)
- ジェフリー・ガンドラック、2026年3月19日(DoubleLine)・6月17日(DoubleLine)・9月10日(YouTube)・9月16日(YouTube)
- マイク・ウィルソン Thoughts on the Market、2026年3月16日(Morgan Stanley)
- マイケル・ハートネット BofA Flow Show、2026年6月2日(TechFlow)・9月25日(Finvaulta)・10月8日(Finvaulta)
- ケン・フィッシャー(公式サイト動画)、2026年3月4日(Fisher Investments)・7月9日(Fisher Investments)
- エドゥアール・カルミニャック 四半期書簡、2026年1月14日(Carmignac)
- クリストファー・ウッド Business Standard、2026年9月17日(Business Standard)
- モニッシュ・パブライ(本人チャンネル)、2026年3月23日(YouTube)・5月5日(YouTube)・8月19日(YouTube)
- 奥野一成 ゴールドオンライン連載、2025年11月3日(GOLD ONLINE)
- アスワス・ダモダラン、2026年4月1日(YouTube)
- リー・ルー コロンビア大学 第36回グレアム&ドッド昼食会、2026年10月5日(Columbia Business School%20CBS.pdf))
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。