株譜
INVESTOR OUTLOOK

ラリー・フィンク:1986年の損失から、ブラックロックの創業、キダー・ピーボディの成果報酬、批判の中のiShares買収、ビットコインの撤回まで

失敗と成功

失敗がすべて次の成功につながる物語は、美しい。けれども、美しすぎる物語には、少し身構えたくなります。世界最大の資産運用会社ブラックロックの創業者で、会長兼CEOのラリー・フィンクの語りが、まさにそうです。

筆者が七つの場面を読んで残った感想は、次の一文です。フィンクの語りは、1986年の「リスクを測れなかった」失敗を起点に、すべてが一本の線でつながるよう整えられています。その美しさを楽しみつつ、整いすぎた部分は割り引いて読むのがよいでしょう。

使った資料は、本人が講演やインタビューで語った「自分の成功と失敗」です。最新の本人動画は2026年7月15日のCNBCで、「いまの見方」の節は直近の発言を土台にしています。

先に断っておきます。整理に使った資料では、運用額、損失額、買収の数字、株価の上昇率などの多くが「動画原文との照合が必要」とされ、章ごとの出典の割り当てが不確かなものもあります。本稿は「本人がそう語った」ものとして紹介します。

1986年の損失の背景は、すでに投資家たちが語った「最大の失敗」の記事で、二次報道を含めて扱いました。本稿では、本人の語りとして要点だけを短く触れ、その後の成功と失敗に重きを置きます。

1986年、リスクを知らないまま1億ドルを失った

1986年の第2四半期、フィンクはファースト・ボストンの最年少のマネージング・ディレクターで、モーゲージ部門を率いていたと語ります。部門は前の年まで同社でいちばん利益を上げ、その四半期の初めも過去最高の収益でした。ところが、部門がどれほど大きなリスクを抱えているかを把握する分析の道具が、社内に存在しませんでした。利益が出ていたので、誰も問い詰めません。競合との争いと自分のエゴで、整備を強く求めなかったとも認めています。

結果は、一つの四半期での約1億ドルの損失でした。社内でスターから「嫌われ者」に落ち、自ら責任を取り、1988年に会社を去ったと語ります。ここで固めた決意が、自分たちが何をしているのか分からない状態を、二度と作らないことでした。この敗北が、のちのブラックロックの創業と、リスク管理システム「アラジン」の最大の肥料になったといいます。2025年8月のシティでの話です。辞めた時期が回答内で矛盾しているため、年は要確認です。

筆者がこの語りでいちばん信用できると感じたのは、「利益が出ていたので、誰も問い詰めなかった」の一言です。成功している間こそ、リスクは見えなくなる。個人の投資にも、そのまま当てはまる話です。

資産ゼロで創業し、技術を最優先にした

1988年、フィンクは運用資産も実績もゼロの状態から、ブラックロックを始めました。既存の投資会社を真似せず、顧客のニーズに徹し、徹底したリスク管理とテクノロジーを土台にした会社にすると決めたそうです。共同創業者8人のうち2人を技術の専門家にし、当時は破格の2万5,000ドルでワークステーション1台を買い、アラジンの自社開発に着手しました。初期の出資は、ブラックストーン・グループの関係者との交渉で決まったと語ります。

その後、運用資産は6兆ドルから10兆ドル、さらに13.5兆ドルから14兆ドルへ広がり、年間売上は180億ドル、時価総額は1,100億ドル規模になったといいます。1999年の株式公開以来の株価の総リターンは、S&P500の20倍以上とも。数字はいずれも要確認です。

教訓として語るのは、社内で共通の技術の基盤、つまり単一の「パイプ」を維持し続けることと、短期の売上より顧客の成果に集中することです(2024年7月の対談)。

キダー・ピーボディの不良資産を、成功報酬だけで引き受けた

1994年、GE傘下の証券会社キダー・ピーボディが、不正取引と巨額の損失で破綻の危機に陥りました。ゴールドマン・サックスが処理するのが自然と見られるなか、フィンクは直接GEのジャック・ウェルチとデニス・ダマーマンのもとへ行きます。提案は、アラジンとリスク分析の力で、この複雑な不良資産を解明し、清算できるというものでした。条件は、先に固定の手数料は1ドルも受け取らず、9か月後に整理と回収が正しくできた場合にだけ成功報酬を受け取る、という完全な成果主義です。

9か月の整理のあと、損失を出さず、最終的には利益を出して清算を終えたと、本人は語ります。ブラックロックは、当時として過去最高の成功報酬を得たそうです。自社の技術に絶対の確信があるなら、顧客とリスクを完全に分け合う提案で競合を退けられる、というのが教訓。アラジンの実効性を、世界に証明した契機になったとも語ります。

この話は、先の1986年の失敗から直接つながります。リスクを測れなかった人間が、他人のリスクを測る商売を始めた、という筋書きです。

「愚かな取引」と批判されたBGI・iShares買収

2009年、リーマンショックの最中に、フィンクはバークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)とiShares(上場投資信託)の買収を進めました。当時、業界の8割から9割の専門家やメディアが、アクティブとパッシブを一つの会社で融合させるのは不可能で、愚かな取引だと批判したと語ります。

本人の判断は、顧客はポートフォリオ全体でアクティブとパッシブの両方を求めている、というものでした。短期のノイズを無視して、買収を実行します。結果は、買収直後に反発した顧客から1,500億ドルの資金流出。それでも、買収時に3,000億ドルから3,400億ドルだったiShares(ETF部門)の運用資産は、その後5.5兆ドル(約5兆ドル)まで拡大したそうです。周囲の批判に惑わされず、顧客が将来必要とする全体の解決策を見極めて決める、という教訓です。2018年のシカゴでの講演の話として整理されていますが、2009年の買収を語ったかどうかの対応は未確認です。

MLIM買収で、目の届く経営をやめた

2006年のメリルリンチの運用部門(MLIM)の買収で、フィンクは経営の仕方を変えざるをえなかったと語ります。当時のブラックロックはオフィスが3か所で、経営陣が目の届く範囲で直接管理できました。しかし、買収先には18とも100以上とも語られる異なる情報システムがあり、拠点も世界25か所に散らばっていました。目の前で管理する手法では、経営が成り立たないと痛感したそうです。

そこで、管理のスタイルを「インスピレーションによる経営」へ全面的に転換し、数年かけて、買収先の全組織のシステムをアラジンの単一のパイプへ統合しました。運用資産は1兆1,250億ドルに倍増し、世界18か国、約5,000人の会社になったといいます。統合後の社員調査では、96%が買収の価値と文化の統合を理解していたとも。教訓は、世界に広がる局面では、命令や監視による管理は通用せず、共通の技術基盤とリーダーの鼓舞で束ねるしかない、ということです。2008年9月のUCLAでの講演の話とされますが、2006年の買収を当時に語ったかは未確認で、数字は要確認です。

ビットコインを「泥棒の通貨」とまで言った発言の撤回

2017年、フィンクはワシントンでジェイミー・ダイモンと登壇した際、ビットコインを「マネーロンダリングをする者と泥棒の通貨」と断じたと語ります。その後、時間ができた時期に、自分の独断を疑って学び直しました。アフガニスタンで女性の労働者に代金を払う事例なども、直接学んだそうです。時期は、コロナ禍の2020年から2021年とも、2021年から2022年とも語られ、資料内で不一致があります。

結果として、過去の誤った発言を公に認め、ビットコインを「恐怖の資産」、つまり自国通貨の減価や政治的な不安へのヘッジ手段と再定義しました。ビットコインの現物ETFであるIBITを立ち上げ、立ち上げ後に20%から25%の下落を3回経験したと語ります。機関投資家などが12万ドル、10万ドル、8万ドルの水準で買い増したとも述べました。教訓は、強い確信を持って発言したことでも、自分を試し、間違いと分かれば素直に撤回して変われる柔軟さが、新しい機会をつかむ鍵だということです。2025年12月の対談の話で、数字は要確認です。

AIの導入で、人を増やさずに利益率を上げた

最後は、直近の経営の話です。フィンクは、生成AIなどを、後方の事務やプログラミングの支援に大規模に導入し、人件費の増加を抑えながら処理能力を高めたと語ります。2026年7月の動画では、過去12か月で、従業員数を増やさず(または5%程度の増員にとどめ)、運用資産を1兆ドル増やし、営業利益率を260ベーシスポイント(2.6ポイント)向上させたと述べました。過去の45%から46%は天井ではなく、47%超を目指せるともいいます。

教訓は、AIと人的資本を高度に組み合わせれば、人員を膨らませずに大きな規模の利益を得られる、というものです。数字は要確認で、この成果が他の企業にも当てはまるかどうかは、資料には含まれません。

また、運用資産の規模は、6兆ドル、10兆ドル、12.5兆ドル、13.5兆ドルから14兆ドルと、動画ごとに数字が違います。資料の側でどの時点かを特定できていないため、本稿では特定の年の規模としては扱いません。運用資産の大きさは、語りの重みを高く見せやすい数字なので、時点を確かめずに引用しないほうがよいでしょう。

いまの見方(2026年7月までの発言を中心に)

2026年7月の動画で、フィンクは今後12か月の市場に「非常に強気」と述べました。AIを人類史上最大のインフラ建設と見て、バブル論を否定する立場です。2026年1月のダボスでも、AI分野にバブルはないと語っています。AI向けの設備投資への懸念には、「懸念すべきは需要ではなく、供給が需要に追いついていないこと」と反論し、1ギガワット規模のデータセンターには500億ドルから600億ドルが必要だと試算しました。電力が最大のボトルネックで、米国は太陽光か化石燃料かを問わない「電力に偏らない」姿勢をとるべきだ、とも述べています。

懸念として挙げるのは、金融政策より財政規律の欠如です。2026年1月の動画では、「金融政策に気を取られすぎで、財政規律が足りない」と述べ、米国の債務が38兆ドルを超えて増えることを批判しました。市場が織り込む200ベーシスポイントの大幅な利下げは、先物のカーブが間違っているとして、イールドカーブはスティープ化(長短金利差が拡大)すると予測しています。この財政の議論は、米国の財政赤字と国債をめぐる議論で、他の投資家の発言と並べて整理しました。

短期のノイズへの態度も一貫しています。2000年1月に米国株に投資すれば、ITバブルの崩壊で1年後に30%下落しても、25年間の複利は年率8%を超えた、という例を引いて、足元の変動に右往左往する危うさを警告しました。インドについては、今後20年から25年の「インドの時代」を強調し、貯蓄を金やタンス預金から株へ移す重要性を訴えています。数字は要確認で、本稿は個別の買収や提携の最近の出来事の評価には立ち入りません。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

フィンクの語りは、失敗がすべて次の成功の「肥料」に変わる構造で組み立てられています。1986年の損失はアラジンとブラックロックになり、BGI買収への批判は5.5兆ドルになり、ビットコインの誤りは現物ETFになる。物語としては美しい。けれども、この形は事後にしか作れません。同じ失敗をして、肥料にならずに終わった人は、そもそも講演に呼ばれないからです。BGI買収の批判と1,500億ドルの流出も、本人の語りでは「結局は正しかった」に着地しています。しかし、買収した当時に、それが正しいと確かめる術はありませんでした。生き残った決断だけが語られる点は、割り引いて読みたいところです。

また、語られる成功は、会社の規模と結びついたものが多い。キダー・ピーボディで固定報酬を取らず成功報酬だけにしたのは、自社の技術に自信があったからこそできる賭けで、個人が真似できる話ではありません。MLIMの統合も、組織を持つ経営者の教訓であって、個人投資家の行動にはそのまま移せません。

ビットコインの撤回は、いちばん個人投資家に近い話題です。見解を変えたこと自体は誠実だと思います。ただし、立場も変わっています。自社が現物ETFを運用する側になったあとの「恐怖の資産」という説明を、利害のない評価として読むべきではありません。本人を疑う意味ではなく、語り手の立場が発言に影響するという一般的な注意です。

「いまの見方」の強気も、同じ視点で読みたいと思います。運用資産が14兆ドル規模の会社の経営者が、市場に強気であることは、事業の構造上、自然です。AIのバブル論を否定する根拠として、需要が供給を上回るという話を挙げていますが、これは供給側に資金を提供するブラックロック自身の事業とも重なります。強気の理由と、強気でいたい理由は、区別して読む必要があります。一方で、財政規律の欠如への警告は、自社の利益と直接結びつかない点で、割り引かずに聞いてよいと筆者は感じます。

個人が持ち帰れるものは、地味な二点に絞れます。ひとつは、利益が出ているときこそ、自分がどんなリスクを取っているのかを点検すること。1986年の教訓は、まさにそれでした。もうひとつは、強い意見を持ったあとも、自分を試し続けること。ビットコインの撤回は、その実践例です。逆に、固定報酬を取らない提案や、巨額の買収といった判断は、個人の資産運用には当てはまりません。

出典

  • UCLA「Larry Fink, UCLA Anderson School of Management Distinguished Speaker Series」、2008年9月26日(YouTube)
  • The Economic Club of Chicago「Laurence D. Fink, Founder, Chairman & CEO, BlackRock, 2/13/18」、2018年2月26日(YouTube)
  • iCapital「The 19th Hole Beyond the Green: Larry Fink」、2024年7月25日(YouTube)
  • Citi「Legends Live @Citi, featuring Larry Fink and Leon Kalvaria」、2025年8月19日(YouTube)
  • New York Times Events「Brian Armstrong and Larry Fink Are Not Worried About Another Crypto Winter」、2025年12月3日(YouTube)
  • CNBC Television「BlackRock CEO Larry Fink: We're too focused on monetary policy and not enough on fiscal discipline」、2026年1月15日(YouTube)
  • Bloomberg Podcasts「BlackRock's Fink Believes No Bubble Forming in AI Space」、2026年1月22日(YouTube)
  • CNBC-TV18「MEGA EXCLUSIVE: Mukesh Ambani & Larry Fink INTERVIEW | Investing For A New Era | JioBlackRock Event」、2026年2月4日(YouTube)
  • CNBC Television「BlackRock CEO Larry Fink: I'm very bullish on the markets over the next 12 months」、2026年7月15日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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