AIの電力問題で誰が得をするのか:「真のボトルネック」と「いずれ解消する工事」の間で割れた見方
AIの話題は、半導体から電力へ広がりました。データセンターは、膨大な電気を必要とするからです。2026年の発言を集めると、電力・送電・原子力は、多くの投資家が一度は触れる論点になっていました。ただし、その評価は大きく割れています。
電力で誰が得をするのか。22人の発言を並べて筆者がたどり着いたのは、答えを分けているのは「電力が足りない状態が、どれだけ続くか」という一点だということです。足元の不足そのものは、ほとんど誰も否定していません。割れ目は三つあります。第一に、電力不足は「AIの真のボトルネック」なのか、「許認可と工事の問題で、2〜3年で解消する」ものなのか。第二に、電力関連の株は「AIの勝者を当てずに恩恵を受ける安全な道」なのか、「すでに高い倍率で買われた期待の産物」なのか。第三に、電力需要の増加が、電気代と物価、金利に与える副作用です。
なお、本稿は公開発言の整理であり、投資助言ではありません。個別銘柄の売買を勧めるものでもありません。
割れ目1:電力は真のボトルネックか
「ボトルネックだ」と見る人たち
ブラックロック投資研究所は、2026年9月15日の第4四半期見通しで、AIのボトルネック(電力・素材など)を重視すると述べました。AIの繁栄に至る道は、資本・素材・労働の希少性を通る、という整理です。ラリー・フィンクは、5月5日(二次情報)にミルケン研究所の会議で、「AIバブルはなく、むしろ供給不足だ」と語りました。電力、半導体、メモリ、計算能力が足りず、需要は誰の予想よりも速く伸びているといいます。5月12日の別の発言では、1ギガワットのデータセンターを建てるのに500億〜750億ドルかかるとして、民間の長期資金をどれだけ動員できるかが勝敗を決める、と話しました。
藤野英人は、2026年8月5日の日経BOOKプラスで、AIの本質は電力とデータの問題で、AIは見た目より「重い」基盤(発電・送電・蓄電・冷却)の上でしか成り立たないと述べています。世界は「軽い経済」(ソフト・広告・金融)から「重い経済」(エネルギー・インフラ・物流・製造)へ移っており、日本の製造業や商社にはチャンスが来ている、という見立てです。ヴィジャイ・ケディアは、9月23日のムンバイ講演(二次情報)で、投資テーマを「RISE」と名づけました。再生可能エネルギー、インフラ、安全保障、新興テーマ(データセンター・AI・電子機器の受託製造)の頭文字です。ただしケディアは、テーマが10〜15年続いても「いくらでも買うわけではない」と釘を刺しています。
ケン・グリフィンは、2025年9月25日に、データセンターで電力価格が上がるため、発電所の許認可を早める必要があると述べました。電力が足りなくなるという認識を前提に、政策の側へ注文をつけた発言です。
「いずれ解消する」と見る人たち
ジム・チャノスは、2026年6月15日の講演要約(二次情報)で、代替エネルギー(地熱、太陽光、原子力)がデータセンター需要で50〜70倍のPER(株価が利益の何倍か)に買われているが、米国に電力不足はなく、制約はタービンと許認可で、2〜3年で解消すると語りました。電力費はデータセンター売上の5〜7%にすぎず、「ゲームチェンジャー(流れを変えるもの)ではない」とも言います。既存のデータセンター運営会社は、税引前の資本利益率が1桁台前半〜半ばの「本当に悪い事業」。新興の計算資源貸し会社は「エヌビディアのチップを買って、大手IT企業やオープンAIに貸す、機器リース業」だといいます。賭けているのは償却であり、供給を握るTSMCやエヌビディアより高い倍率で評価されるべきでない、という立場です。
クリストファー・ウッドは、9月27日(二次情報)に、米シリコンバレーの集中型データセンターには慎重だと述べました。小型言語モデルは性能が急速に追いつき、エネルギーと計算コストが50〜85%低いため、大手IT企業は過剰投資で、データセンターが資本を毀損する座礁資産になりうる、という警告です。一方、最良の構造的成長物語はインドの電化(主に太陽光の民間投資)だとして、送電設備のヒタチ・エナジー・インディアを組み入れています。電力そのものの重要性は認めつつ、AIデータセンターという需要先には慎重な立場です。
ここで二つのグループの違いを整理すると、前者は「いま足りない」ことを、後者は「足りない状態は続かない」ことを重視しています。時間軸が違うのです。チャノスの「2〜3年で解消」が正しければ、ボトルネック論は短期の問題にすぎなくなります。筆者は、電力費がデータセンター売上の5〜7%にすぎないという指摘を、意外に感じました。電力が主役だと思い込んでいる側には、耳が痛い数字です。
割れ目2:電力関連株は、安全な道か
「勝者を当てずに、恩恵を受ける」道
テリー・スミスは、2026年7月15日の半期書簡で、買いにTSMC、GEベルノバ(受注残1,630億ドルで、年間売上の4倍)などを挙げました。電力インフラやネットワーク効果を持つ会社で、AIの勝者を当てずに需要の恩恵を受ける選択になっている、という読みです(記事の解説による)。デビッド・テッパーは、2026年第1四半期の13F(二次情報)で、ビストラを114%買い増しました。クラウド、半導体、データセンター向け電力に絞る一方、アリババとエヌビディアは減らしています。13Fは過去の持ち高で、発言ではない点に注意が必要です。
スティーブ・シュワルツマンは、2026年7月23日の決算説明会で、第2四半期の運用資産が過去最高の1.35兆ドルになり、最大の要因はデータセンター、エネルギー・電力、先端AI企業への大型投資だと述べました。公益、パイプライン、LNG、送電機器へ株式と債権の両面から投資し、ウィリアムズ社へ53億ドルを供給すると紹介しています。ブロードコムのAI計算基盤向け融資の枠組み(初期350億ドル・1ギガワット)は、史上最大の私募クレジット投資だそうです。運用会社トップの発言であり、楽観に偏る点を割り引いて読む必要があります。
ACATISのレーバーは、2026年5月10日の月次レポートで、4月の上位に、データセンター向け電力で売上が10倍になる見通しのインフィニオン(46.6%上昇)を挙げました。セス・クラーマンは、6月15日の対談(二次情報)で、電力インフラ隣接の未開発地を保有していると語っています。自分たちで建てる気はなく、許認可の通りやすさと電力の確保という2条件を満たす土地を、土地の簿価という低い基準でオプション(将来の権利)として持つ発想だといいます。AIに高値で乗るのではなく、「土地と電力」という実物の隙間を安く持つ、という迂回路です。
デビッド・アインホーンは、2026年1月20日の書簡で、フルアー/ニュースケール(SMR、小型モジュール炉)の持分差を2025年の成功例に挙げ、SMR株が急騰した後で売却したと書きました。オ・ゴニョンは、9月28日のインタビューで、供給網の不安でエネルギーの重要性が高まるため、原子力などエネルギー関連にも少しずつ関心を持つとよいと述べています。
筆者がおもしろいと思うのは、クラーマンの迂回路です。高く評価された会社の株ではなく、土地を安く持つ。外れても損は簿価までで、当たれば値上がりを取れます。
「期待が先に織り込まれた」という警告
チャノスは先に触れた通り、50〜70倍のPERを警戒しています。ビル・グロスは、2025年9月12日(二次情報)に、AI投資の「資本の誤配」が最大の懸念だと述べました。勝てなかった企業の投資は無駄になり、株価も成長鈍化で下がりうるとし、電力会社も供給に向けて投資を増やしているので、影響はその周辺に及ぶと指摘しています。ジェレミー・グランサムは、1月28日のGMO論考で、AI投資がDRAM(前年比172%上昇)、銅・銀、電力(5年で39%上昇)の価格を押し上げていると書き、バブルは金利上昇後に崩れやすいと述べました。
「安全な道」と呼ばれる電力株が、実は同じ期待に乗っているのではないか。グロスとグランサムの指摘は、そこを突いています。筆者は、安全に見える道ほど、込み合っていないかを疑ったほうがよいと考えます。
割れ目3:電気代・物価・金利への副作用
ジェフリー・ガンドラック:電気代は8年で約50%上昇
ガンドラックは、2026年9月10日のウェビナーで、PCEデフレーター(個人消費の物価指数)が前年比3.7%(コア3.3%)に達し、輸出入物価の平均は約7%のインフレだと示しました。電力小売価格は8年で約50%上昇しており、消費者心理の低迷や与党の支持率低下の理由として挙げています。電力の増強が、家計の負担として表れ始めている、という見方です。
ブリッジウォーターとカルミニャック:資本コストの上昇
ブリッジウォーターは、2026年1月7日のレポートで、AIの設備投資が米成長を2026年に約1.4ポイント、2027年に約1.5ポイント押し上げると試算しました。電力やメモリチップ、銅には価格圧力が出る一方、賃金は軟化し、インフレへの全体効果は混在するといいます。データセンターは雇用を生みにくく、資金需要が資本コストを押し上げて、住宅など労働集約的な部門を圧迫すると見ています。カルミニャックは、10月6日の書簡で、米国は巨額の公的債務とAI関連(データセンター、半導体、メモリ、発電)の資金調達が重なり、貯蓄は有限で政府と企業が奪い合う構図だと述べました。高金利が続く場合、2030年までに利払い費は米国とフランスで約50%増えるそうです。
ゴールドマン・サックスとガースナー:需要の振れ
ゴールドマン・サックスは、2026年9月23日に、大手IT企業の設備投資が今年約8,000億ドル(前年比94%増)、2027年に1.2兆ドル、2028年に1.4兆ドルになると予想しました。2027年に2,500億ドル上下に振れるだけで、S&P500の1株利益の伸びが約6ポイント動きます。ブラッド・ガースナーは、9月15日のポッドキャストで、2026年に追加された計算資源は約19GWで、セミアナリシスの来年43GWの予想は強気すぎ、自分は25GW前後とみると語りました。リスクとして規制、電力、金利を挙げ、10年債が5.5%なら株の重しになるとしています。電力の需要予測そのものが、人によって大きく違うのです。
サウラブ・ムカルジェアは、6月15日のレポートで、1ギガワットのAIデータセンターは350億〜500億ドルで、うち300億〜350億ドルがGPUとサーバーだと整理し、インドへの影響として、部品(GPU・液冷・変圧器用電磁鋼板)が輸入で経常赤字とルピー安を強める点を挙げました。
筆者は、投資家の議論が供給側に偏りがちななかで、ガンドラックの電気代の話だけが家計の側から見ていることに注目します。電気代が8年で約50%上がったという事実は、需要を動かす別の力になるかもしれません。
整理
| 論点 | A | B | |---|---|---| | 電力は制約か | 真のボトルネック(フィンク、BII、藤野、グリフィン) | 2〜3年で解消(チャノス)/需要先自体が過剰(ウッド) | | 電力関連株 | 勝者を当てずに恩恵(スミス、テッパー、シュワルツマン、クラーマン) | すでに期待が高倍率に(チャノス、グロス、グランサム) | | 副作用 | 電気代・物価・金利に波及(ガンドラック、BW、カルミニャック) | 需要の振れが利益を動かす(GS、ガースナー) |
なぜ割れるのか
最初の割れ目は時間軸です。フィンクの「供給不足」は今の話で、チャノスの「2〜3年で解消」は将来の話です。どちらも、足元の数字は否定していません。電力が足りない現状を認めたうえで、それが続く期間の長さで結論が分かれています。
二つ目の割れ目は、需要の見積もりです。ガースナーの25GWとセミアナリシスの43GWは、同じ来年の予測で、約1.7倍の差があります。電力関連株の評価は、この予測の幅に直接左右されます。ゴールドマン・サックスの「2027年に2,500億ドル振れると1株利益の伸びが6ポイント動く」という試算も、同じ構図を示しています。
三つ目の割れ目は、立場の違いです。シュワルツマンやフィンクは、データセンターや電力に資金を動員する側の運用会社で、楽観に偏る利害があります。他方、チャノスは空売りの専業で、悲観に偏る利害があります。両者の発言は、それぞれの立場を差し引いて読む必要があります。
株譜の見方
以下は、公開発言をもとにした筆者の推論です。
22人を並べて目立つのは、「電力」という論点が、強気と弱気の両方に同時に使われている点です。フィンクは供給不足の証拠として、チャノスは期待過剰の証拠として、同じ電力を挙げます。論点としては珍しく、事実の食い違いではなく、解釈の食い違いです。冒頭に書いた通り、決め手は、足りない状態がどれだけ続くかにあります。
クラーマンの「土地と電力のオプション」は、割れ目を橋渡しする発想に見えます。電力が不足するなら価値が上がり、解消するなら損失は簿価に限られる。この非対称性を取りに行く点で、チャノスの懸念にもフィンクの強気にも、一定の備えになっています。
最後に、ガンドラックの電気代の指摘は、他の発言と違って家計の側から見ています。電気代が上がれば、政治が動き、許認可の速度や料金の規制が変わるかもしれません。読者が答え合わせに使えるのは、データセンター向けの発電所の許認可の進み具合、各社の設備投資の修正、そして電力小売価格の推移の三つでしょう。ここまでは筆者の推論であり、読者の判断の代わりにはなりません。
免責
本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。数字は各出典の記載に基づきます。二次情報に基づく部分は、本文中にその旨を付しました。
出典
- BlackRock Investment Institute、2026年第4四半期見通し、2026年9月15日。https://www.blackrock.com/corporate/insights/blackrock-investment-institute/outlook
- Larry Fink、ロサンゼルス・タイムズ(ミルケン研究所会議、二次)2026年5月5日 https://www.cpapracticeadvisor.com/2026/05/06/an-ai-bubble-not-so-says-this-leading-money-manager/182841/ 、Benzinga(Yahoo転載、二次)2026年5月12日 https://finance.yahoo.com/news/blackrock-ceo-larry-fink-warns-071638751.html
- 藤野英人、日経BOOKプラス、2026年8月5日。https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/072400747/072400002/
- Vijay Kedia、Outlook Money(二次)、2026年9月23日。https://www.outlookmoney.com/invest/stock-specific-investing-is-key-to-wealth-creation-says-vijay-kedia-owner-of-kedia-securities
- Ken Griffin、CNBC Money Movers(公式の発言抜粋)、2025年9月25日。https://www.cnbc.com/2025/09/25/cnbc-exclusive-excerpts-citadel-founder-ceo-ken-griffin-speaks-with-cnbcs-sara-eisen-on-money-movers-today.html
- Jim Chanos、iConnections Global Alts NY 2026(要約、二次)、2026年6月15日。https://iconnections.io/insights/jim-chanos-ai-bubble-data-centers-global-alts-ny-2026/
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- Saurabh Mukherjea(Marcellus)、運用報告・インサイト2026年6月号、2026年6月15日。https://marcellus.in/newsletter/marcellus-erudite/marcellus-portfolio-updates-insights-june-2026/