株譜
INVESTOR OUTLOOK

ハワード・マークス:株の問題ではなく財政の問題だ。今の相場に彼が払う警戒の中身

人物

「株は売るべきですか」と聞かれて、「それは株の問題ではない」と答える投資家がいます。オークツリー・キャピタルの共同創業者、ハワード・マークスです。

マークスは、予測をしない投資家として知られます。本人も「予測はできないが、準備はできる」という趣旨の話を繰り返しています(2025年10月のポッドキャスト)。その彼が、2026年9月のメモでは珍しく、かなりはっきりと危うさを名指ししました。何が見えていて、なぜそう考えるのか。直近の発言を、日付順にたどります。

30年債5.3%超は「見た目を整えても治らない」(2026年9月)

出発点は、9月22日付のメモ(経済の法則を廃止してよいのか、と問う連作の第3回)です。マークスによれば、8月17日に米30年債の利回りが5.3%を超え、19年ぶりの高水準をつけました。財務省は長期債の買い戻しを倍にして対応し、FRBは前の週に利上げに踏み切っています。引き金はインフレで、7月のPCE(個人消費支出の物価指数)は3.7%だったそうです。

買い戻しの倍増への評価は、手厳しいものです。熱のある患者に氷嚢を当てる医者のようなもので、体温は下がっても、熱の原因には手が届かない。これがマークスのたとえです。利回りは市場の機嫌ではなく、実際の経済の土台を映している、というのが彼の読みです。

その土台とは何か。メモが並べる材料は、次のとおりです。

  • 財政赤字がGDP比で約6%
  • 純利払いが年間1兆ドル超
  • 国債の純発行が年間約2兆ドル
  • そこに、AIの設備投資が数兆ドル規模で重なる(マッキンゼーの推計として、2030年までにデータセンターだけで5兆ドル超)

国が借りたい需要と、企業が借りたい需要が、同時に大きくなる。そうなれば、金利は下がりにくい。理屈としては単純です。

メモはさらに、ドラッケンミラーがウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄せた論考も引いています(8月24日付)。30年債が5.5%でなければ消化できないのなら、それは危機ではなく請求書だ。結びの一句は「これは請求書だ」でした。マークスは、この見方に同調しています。「危機」ではなく「請求書」という言い換えは、筆者もうまいと思います。払うか払わないかではなく、いつ・誰が払うかの話になるからです。

「株を売るべきか」と聞かれたときの答え(2026年9月)

同じメモで印象的なのは、友人から「株を売るべきか」と聞かれたという一節です。マークスの答えは、これは株式市場の問題ではなく財政の問題であり、ドル資産を売ることが解ではない、というものでした。根拠は二つ。2025年の外国為替取引の89%にドルが関わっていたこと。2026年第1四半期時点で、公的な外貨準備の57%をドルが占めていたことです。基軸通貨である以上、自国通貨建てで赤字をまかない続けられる可能性は高い、という整理です。

もっとも、楽観しているわけではありません。解決策として挙げたのは三つあります。歳入を増やすこと。歳出の伸びを、GDPの伸びより低く抑えること。そして、AIによる生産性の向上に期待することです。どれも政治的に痛みのある選択で、実現を請け合っているわけでもありません。バフェットが2025年5月に口にした「財政政策が怖い」という趣旨の発言を、メモの中で引き合いに出していることも、付け加えておきます。

AIは「中庸のポジション」で(2025年12月〜2026年9月)

AIについての見方は、一貫しています。

2025年12月の「バブルなのか」と題したメモでは、AIはおそらく史上最大級の変革技術だと認めました。そのうえで、熱狂がバブルにならなければ、それは「初めて」のことだと書いています。変革技術はインフラを作りすぎ、資産価格を上げすぎ、投資した側の損失で終わることが多いからです。今回は、借り入れが損失を増幅しうる点も違います。結論は、全力投入でも全面回避でもなく、選別と慎重さを備えた「中庸のポジション」でした。

2026年2月の「AIは猛然と進む」と題したメモでも、立場は変わりません。AIは本物で、可能性はむしろ過小評価されているかもしれない。しかし、それはAI関連資産が割安か適正だという意味にはならない。AI企業同士が互いに買い合う循環的な収益がどこまであるのかも、まだ決着していない、と書いています。

一方、雇用への懸念は、メモを追うごとに強くなっています。2025年12月のメモの追記では、AIが新人の事務職や若手弁護士、若手アナリストといった職を置き換えうると書きました。雇用の見通しは「恐ろしい」とまで言っています。9月20日のブルームバーグのポッドキャストでは、AIのせいで、50年超のキャリアで最も先が読めない世界になったと語りました。2022年10月以降は、楽観派が優勢だとも指摘しています。守りを足すべきだという助言も、ここで出ています。

金利は「高い」のではなく「正常」に戻っただけ(2026年4月〜10月)

マークスは、金利の局面をキャリアの中で見てきました。2026年4月のメモでは、自分の借入金利が1980年に22¼%あったのが、2020年には2¼%まで下がったと振り返っています。この40年の金利低下を、半世紀で最も影響の大きい金融上の出来事としました。低金利とレバレッジ(借り入れ)に頼る戦略は、金利の向きが変われば不利になります。

プライベート・エクイティ(未公開株投資)の成績が振るわない理由も、ここにあります。メモが引くMSCIの推計では、2022年から2025年第3四半期までの米PEの年率リターンは5.8%で、S&P500の11.6%を下回りました。

10月1日、ブルックフィールドの投資家向けイベントで、ブルース・フラットと対談したマークスは、現在の金利は「高くない」と語っています。長い歴史から見れば、いまの水準こそ普通だという意味合いです。

クレジット市場(企業の債券や融資)にも、目配りは続いています。2025年11月の「炭鉱のゴキブリ」と題したメモは、ファースト・ブランズとトライカラーの破綻を、好況期に犯された誤りが表に出てくる兆しと読みました。ダイモンの「ゴキブリを一匹見たら、他にもいる」という言い回しを借りて、これからは「より面白い」時期になると述べています。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

マークスの特徴は、「株が高いか安いか」より、「何が株価を支えているか」に目が向いている点だと思います。9月のメモを読むかぎり、彼が警戒しているのは相場そのものではなく、金利を決める土台、つまり国の財布の状態です。この見立てが正しければ、株を売る売らないの議論は、少しずれていることになります。金利が高止まりし、資産価格が重くなる時期が長引く。それが、彼の描く道筋なのでしょう。

もう一つ気になるのは、AIについての「中庸」という言い方です。強気とも弱気とも言わず、慎重に持てという助言は、聞こえは穏当でも、実行は難しいものです。熱狂のさなかに、どの程度が中庸なのかを、自分で決めなければならないからです。この物差しを持てるかどうかが、AI相場に向き合う個人投資家の分かれ目になると、筆者は見ています。ただし、これは長い時間をかけて答え合わせするしかない話です。


出典(日付は発言日。動画は公開日)

  • ハワード・マークス オークツリー・メモ「Shall We Repeal the Laws of Economics – Part III」、2026年9月22日(オークツリー)
  • 同「Is It a Bubble?」、2025年12月9日(オークツリー)
  • 同「AI Hurtles Ahead」、2026年2月26日(オークツリー)
  • 同「What's Going on in Private Credit?」、2026年4月9日(オークツリー)
  • 同「Cockroaches in the Coal Mine」、2025年11月6日(オークツリー)
  • ブルームバーグ・ポッドキャスト「Howard Marks Flags the Uncertainty in AI Investing」、2026年9月20日(YouTube)
  • ブルックフィールド投資家向けイベント「Fireside Chat with Bruce Flatt and Howard Marks」、2026年10月1日(YouTube)
  • The Master Investor Podcast with Wilfred Frost「Howard Marks: How I Mastered the Markets」、2025年10月19日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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