株譜
INVESTOR OUTLOOK

米国債と長期金利、著名投資家はどう構えているか:売る人、待つ人、拾い始める人

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米国の長期債について、19人の発言を地図のように並べてみると、意外なことに気づきます。「売る」と言っている人の多くが、実は「いくらなら買うか」を持っているのです。割れているのは、買うか買わないかではありません。どの水準で買うのか。そして、その水準に来る前に、当局が動くのか。この二点です。

まず現状です。米10年債の利回りは5%を超え、30年債は5.3%台まで上がりました。9月にはFRBが0.25ポイントの利上げに踏み切り、政策金利は3.75〜4%になっています。アスワス・ダモダランの集計では、9月の10年債は4.75%から5.29%へ、1か月で0.54ポイント上がりました。10月15日の時点でも、エド・ヤルデニによれば10年債は5.10%、30年債は5.43%です。

ここまで来ると、「売られすぎだ」という声と、「まだ入り口だ」という声が同時に出てきます。本稿では、直近の発言を拾える19人を、長期債を持たない人、水準を決めて待つ人、ピークが近いと見る人の三つに分けて並べます。そのうえで、なぜ割れるのかを整理します。

長期債を持たない人たち

もっとも明快なのが、ビル・グロスです。9月にフィナンシャル・タイムズへ寄せた文章で、政府・住宅ローン・社債を合わせた信用の残高が約84兆ドルに膨らみ、連邦債務は平時では最高のGDP比100%に達していると指摘しました。結論は、利回り4.55%の1年物の短期国債を除いて、債券は持つな、というものです。

10月の報道によれば、背景には買い手の入れ替わりがあります。各国の中央銀行が米国債の保有を分散する一方で、借り入れで膨らませたヘッジファンドの保有比率が、2023年の約2倍の8.5%まで上がりました。平時は市場に資金を供給しても、資金繰りが締まれば真っ先に売る層です。10年債の利回りは、イラン戦争の開始から1ポイント超上がり、24年ぶりの高さにあるといいます。

ただ、筆者は少し引っかかります。グロス自身は7月の時点では、10年債は4.25%を割りにくいという見立てにとどまっていました。5%台までは想定していなかったことになります。方向が合っていても、どこまで行くかの幅は読みにくいのです。

スタンレー・ドラッケンミラーは、これより早く動いていました。1月の番組で、リスク資産を持ちながら、債券は売り持ち(価格が下がると得をする持ち方)にしていると話しています。債券でもうけるつもりは薄く、景気が「物価の落ち着いた成長」にとどまるなら、損益はゼロに近い。強い成長が物価高を呼んだときだけ、大きく利益が出ます。ほかの資産を安心して持つための、保険のような位置づけです。好況の最中にFRBが利下げすれば、商品高と重なって物価が再燃しかねない、という警戒もありました。

ビル・アックマンは、9月のブルームバーグTVで、買収した保険会社バンテージの債券運用を、長期国債から短期国債へ入れ替えたと明かしました。自分は債券投資家ではなく、長期債のリスクとリターンを魅力的だと思ったことがないそうです。資産の40〜45%は株にする計画で、長期債を減らした分を株に回す発想も、同じ方向を向いています。

レイ・ダリオは、もっと長い時間軸で弱気です。1月には、米国の債務38兆ドルは「価値の減ったドル」で返されることになり、国債を持つ人が不利になると語りました。8月のLinkedIn投稿(韓国メディアの英語版による報道)では、今の政策路線のままなら、債務危機は「3年後、前後2年」に起こり得ると書いています。歳入約5.5兆ドルに対して歳出約7.5兆ドル、利払いだけで約1兆ドル、年内に借り換える債務は約10兆ドルという試算です。投資家には、債券の比率を下げ、財政の健全な国へ分散し、金を10〜15%、ビットコインを少量持つよう勧めました。

レオン・クーパーマンの2025年10月の発言は少し古いのですが、立場は近いものです。政府債は物価高で実質のリターンが目減りするため、株以上に嫌いで、「この水準では、株のほうが債券より危険が小さい」と話していました。ジム・ロジャーズは9月の収録で、当局が長期金利を抑え込もうとしても、金利は上がると見ています。市場は「君や私やFRBよりも賢い」からです(報道による)。

水準を決めて待つ人たち

ジェフリー・ガンドラックは、弱気ですが、売り一辺倒ではありません。9月のウェビナーでは、長期金利は6〜7年続く上昇傾向の途中にあると話しました。2020年の底から30年債の価格は50%超下落したのに、ほとんど戻していません。この形では、次の動きも上向きになりやすい、という読みです。

9月中旬のCNBCでは、10年債5%、30年債5.33%は、物価が2029年までに2%へ戻ると信じる場合にしか魅力がないと言い切りました。自分に必要なのは、物価を引いて年3%のリターンで、30年債が6%に上がれば積極的に買い、できれば6.5%で買いたいといいます。

おもしろいのは、そのガンドラックが「買わないもの」も挙げている点です。長期の物価連動国債(TIPS)は、30年債と同じだけ金利が上がったので、「何かしらインフレから守ってくれるだろうと考えて、長期のTIPSを買ってはいけない」と話しています。名目の債券が嫌でも、物価連動債に逃げれば守られるとは限らないのです。一方、短期のTIPSは、期待される物価上昇が低すぎるとして、好意的に見ています。さらに、財務省とFRBが6%台までは許さない可能性が高く、2030年までに国債市場への大規模な介入が起きるとも予想しています。

ハワード・マークスは、売買の話をほとんどしません。9月のメモで、8月に30年債が5.3%を超えたこと、財務省が長期債の買い戻しを倍にしたことを取り上げ、後者は見た目を整えるだけで、根本の原因に対処していないと評しました。利回りは経済の実態を映している、という見方です。

ジェイミー・ダイモンも、4月の株主レターで、金利は市場の織り込みより高く、物価も根強くなり得ると警告していました。米国の債務のGDP比は、議会予算局の予測で現在の100%から2036年に120%へ上がります。問題は「おそらく危機にしてしまう側」で起きやすい、と見ています。10月の決算では、自社株買いを前の四半期の約67億ドルから約10.6億ドルへ大きく絞ったと報じられ、慎重な姿勢の表れと受け止められています(報道による)。

エドゥアール・カルミニャックは、10月の書簡で「安い資金の時代の終わり」を論じました。高金利が続く場合、2030年までに利払い費は米国とフランスで約50%増え、債務のGDP比は米国で100%から110%、フランスで119%から132%に上がるという試算です。

ポール・チューダー・ジョーンズは、10月のCNBCで、財政赤字は2008年の金融機関への公的資金注入のときのように「市場に迫られない限り、直らない」と話しました。市場は転換点を越えたのかと問われ、「拳銃を突きつけられたら6対4で、その道を進んでいる」と答えています。

筆者は、このグループの発言が、いちばん現実的だと感じます。「売る」と言いながら、水準が来れば買う。この柔軟さは、予想が外れたときの傷を浅くします。

ピークが近い、あるいは拾い始める人たち

意外に思えるのが、強気派のストラテジストの一部です。マイケル・ハートネットは、バンク・オブ・アメリカの週報で、9月に「欧州、米国、日本の9月の利上げは、債券利回りのピークを示す可能性がある」と書いたと伝えられています。10月の号では、米国債の10年間の累計リターンが100年ぶりの低水準にあるとして、「屈辱を買う」という考えから、長期米国債を勧めました。

5〜6月には、1929年以降の株式バブルの天井8回のうち6回で、天井後6か月の10年債利回りが下がったと整理しています(下げ幅の中央値は0.45ポイント)。ただし、これらは要約サイト経由の二次情報なので、細部は原文で確かめたいところです。しかも本人の基本シナリオ(9月)は「通貨の価値の目減りと期間」で、当局が利回りと原油の抑え込みに動いて、ドルが下がるというものです。長期債を買うことと、通貨の信認を疑うことが、同じ人の中で両立しています。

ヤルデニは、10月中旬に、債券は買い手が出てくる水準まで上がったとして、現水準の付近で落ち着くと見ています。10月初めには、世界的な利回りの上昇を「良い、悪い、最悪」の三段階で整理しました。良いのは予想以上の成長(米国では「正常」に戻っただけ)。悪いのは、中東戦争のエネルギー衝撃と、低金利の円で借りた取引の巻き戻し。最悪は、フランス国債の利回りの急騰が示す債務危機です。さらに、エコノミスト誌が「債券は爆発するか?」という表紙を載せたことを、当てにならない合図だと皮肉っています。

ジェレミー・シーゲルは、10月中旬に、10年債の想定レンジを4.75〜5.25%(5.5%まで)としました。10月初めのCNBCでは、年末まで5%台で推移すると話しています。利上げについては、10月は据え置きでも、11〜12月に0.25ポイント、場合によっては0.5ポイントの追加があり得るといいます。原油が60〜70ドル台に戻れば、長期金利は0.5〜1ポイント下がり得るとも話しました。実質金利の上昇は、物価の期待ではなく、経済の強さの再評価だと読みます。

マイク・ウィルソンも、金利上昇の主因は、債務や赤字よりも強い名目GDPの成長だと、8月に語りました。以前は10年債4.5%を評価の節目と話していましたが、水準はすでにそれを超えています。

デービッド・アインホーンは、4月の書簡で、短期金利の先物(SOFR先物)の買いを維持していると書きました。新しいFRB議長が、景気後退を防ぐために利下げに動くと見ています。戦争による原油の急騰で3月は損失になりましたが、持ち続けるそうです。その後の9月に、実際には利上げが行われました。セス・クラーマンも、6月の対談で、FRBの利上げは1〜2回あり得るが、望ましい道は利下げだと見ていました。ホルムズ海峡のリスクを過小評価している、という指摘も、この時期の話です。

AIの資金調達も、債券市場の需給に関わります。ラリー・フィンクは5月に、AI向けインフラ投資の資金の多くは借り入れで賄われ、非公開の融資が主役になると語っています。長期金利の予想そのものはありませんが、「借りる側」の需要が膨らむ話は、財政赤字と同じ方向に金利を押します。

時期の整理

  • 数週間:ヤルデニは現水準で落ち着くと見る。次の利上げは10月から12月初めにずれ込むと予想する。
  • 数か月:中間選挙(11月)までの動きが焦点。ポール・チューダー・ジョーンズは原油が選挙後にさらに20〜25ドル上がり得ると見ており、ヤルデニも中東戦争が選挙後に再燃し得ると警戒する。
  • 1〜3年:ドラッケンミラー、ガンドラック(年内の再利上げを視野)。
  • 2029〜2032年:ガンドラックは社会保障基金の枯渇を2029〜30年ごろと見て、財政が限界に達すると読む。公式の予測は2032年。
  • 2030年:カルミニャックの利払いの試算、ガンドラックの当局介入の予想がそろう。
  • 「3年後、前後2年」:ダリオ。時期の幅がもっとも広い。

なぜ割れるのか

前提の違いは三つあります。

一つ目は、上昇の原因です。ガンドラック、ダリオ、マークス、カルミニャックは、財政と物価に原因を見ます。ヤルデニ、シーゲル、ウィルソンは、成長が強いことの表れだと見ます。同じ5%台でも、前者には「危うい水準」、後者には「正常に戻っただけ」と映ります。

二つ目は、当局の反応です。ドラッケンミラーは、8月のウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、財務省の買い戻し倍増を「流動性の管理ではなく、価格の管理だ」と批判しました。長期金利は、米国に残った唯一の財政規律役だと書いています。ロジャーズやガンドラックは、最終的には統制に向かうと見ます。ハートネットも、介入でドルが下がる展開を基本シナリオに置いています。当局が止めに来ると考えるなら、名目の債券は売りで、実物資産に分があります。止めに来ないなら、買い場は先にあります。

三つ目は、時間軸と立場です。グロスやダリオは、年金や基金のような「持ち続ける人」に向けて、数年の構造を語ります。ヤルデニやシーゲルは、株の見通しに必要な数か月の水準を語ります。同じ「弱気」でも、時間幅が違えば、取るべき行動は変わります。

株譜の見方

以下は、公開された発言から筆者が推測した部分で、確定した事実ではありません。

冒頭の主張に戻ります。「売る」と言っている人も、ほとんどが「いくらなら買う」を持っています。ガンドラックは6〜6.5%、ハートネットは「屈辱を買う」局面、アックマンでさえ短期債は持っています。長期債を完全に否定する人はほとんどいません。割れているのは、買うかどうかより、買う水準と、そこに来る前に当局が動くかどうかだと、筆者は見ています。

弱気派の最後のよりどころは、当局が介入するという予想です。これは金利が上がるほど現実味が増します。一方で、介入が起きたときには、名目債が反発するという皮肉な性質も持っています。ガンドラックの「6%で買う」は、その反発を取りにいく構えと読めます。

個人の投資家にとって、いちばん役に立つ地図の使い方は、予想の当たり外れを追うことではなく、自分はどの水準で何をするかを先に書き出しておくことだと思います。10年債が5%を超えた今、短期債で4%台後半が取れるという事実も、判断の前提に置いておきたいところです。

明日から見るなら、三つです。30年債が5.5%、さらに6%へ近づくか。11月の中間選挙のあと、原油と中東情勢が再燃するか。そして、財務省の買い戻し倍増が、実際に長期金利の上昇を止められるのか。この三つが、ガンドラック、ジョーンズ、ドラッケンミラーの答え合わせになります。


出典(日付は発言日)

  • ビル・グロス フィナンシャル・タイムズ寄稿、2026年9月30日(DNYUZ転載)/WealthAdvisor、2026年7月(WealthAdvisor)・2026年10月3日(WealthAdvisor)
  • スタンレー・ドラッケンミラー モルガン・スタンレー「Hard Lessons」、収録2026年1月30日(モルガン・スタンレー)/ウォール・ストリート・ジャーナル寄稿、2026年8月24日(The Standard)
  • ビル・アックマン ブルームバーグTV、2026年9月30日(YouTube)/X投稿の報道、2026年9月18日(Yahoo Finance)
  • レイ・ダリオ フォーチュン、2026年1月9日(Fortune)/LinkedIn投稿の報道、2026年8月21日(edaily)
  • レオン・クーパーマン CNBC、2025年10月1日(CNBC)
  • ジム・ロジャーズ インタビュー、2026年9月4日(Metals and Miners)
  • ジェフリー・ガンドラック「Gundlach Unlocked」ウェビナー、2026年9月10日(YouTube)/CNBC、2026年9月16日(YouTube)/DoubleLine「Talk Is Cheap」、2026年7月29日(YouTube)/ロゼンバーグとの対談、2026年10月9日(YouTube)
  • ハワード・マークス オークツリー・メモ、2026年9月22日(オークツリー)
  • ジェイミー・ダイモン JPモルガン株主レター、2026年4月6日(JPMorganChase)/決算の報道、2026年10月13日(TIKR)
  • エドゥアール・カルミニャック 四半期書簡、2026年10月6日(カルミニャック)
  • ポール・チューダー・ジョーンズ CNBC「Squawk Box」の報道、2026年10月13日(JournalArta)
  • マイケル・ハートネット BofA「フロー・ショー」の要約、2026年6月2日(TechFlow)・9月3日(Finvaulta)・9月25日(Finvaulta)・10月1日(Finvaulta)
  • エド・ヤルデニ Yardeni Research、2026年10月7日(Yardeni)・10月10日(Yardeni)・10月12日(Yardeni)・10月15日(Yardeni)
  • ジェレミー・シーゲル WisdomTree、2026年9月21日・9月28日・10月12日(WisdomTree)
  • マイク・ウィルソン モルガン・スタンレー、2026年3月30日(Morgan Stanley)・8月24日(Morgan Stanley)
  • デービッド・アインホーン グリーンライト第1四半期書簡、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)
  • セス・クラーマン iConnections 対談の要約、2026年6月15日(iConnections)
  • ラリー・フィンク ミルケン研究所会議、2026年5月5日(CPA Practice Advisor)
  • アスワス・ダモダラン「Musings on Markets」、2026年9月10日・10月8日(ブログ)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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