ポール・チューダー・ジョーンズ:2027年は株式市場にとって「非常に厳しい年」。需給が2002年以来で最悪になるという計算
半年前に株を買い増した人が、いまは「来年は売りだ」と言う。これは変節でしょうか。ヘッジファンド、チューダー・インベストメントの創業者ポール・チューダー・ジョーンズは、50年にわたり市場に立ち続けてきたマクロ・トレーダーです。5月には「AI相場はあと1〜2年続く」と買い増しを明かし、10月には「2027年は株式市場にとって非常に厳しい年になる」と語りました。
結論から言えば、これは矛盾ではありません。強気と警戒は、同じ時計の上の別の針です。 上昇に乗りながら、天井までの距離を測り続けている。そして距離を測る物差しが、株を買う人と売る人の数、つまり需給です。4月のポッドキャスト、5月と10月のCNBC出演を軸に、その計算を追います。
なお、10月の発言は、CNBC番組を引用した転載記事(JournalArta)で確認した、報道ベースの要約です。5月も、番組の要約サイトを通じた情報です。
「レバレッジ状態」の米国(2026年4月28日)
4月28日に公開されたポッドキャスト番組(収録は2月中旬)で、まず目に付くのは次の数字です。株式時価総額のGDP比は252%。1929年の頂点は約65%、1987年は85〜90%、2000年は170%だったといいます。バブルかどうかは分からないと断ったうえで、米国は株式に過度に依存した「レバレッジ状態」にあると言い切っています。
その帰結として、過去25〜30年の平均PER(株価が利益の何倍かを示す指標)に戻れば、株は30〜35%下落し、GDP比で約89%分の資産が消える「逆資産効果」が起きる、と試算しています。税収の約1割はキャピタルゲインなので、財政赤字が膨らむ自己強化も起きうる。S&PのPERが22倍のときに買った場合、10年先のリターンは過去マイナスで、「ここから稼ぐのは非常に難しい」。過去100年の株式の高リターンは、PERが6〜8倍だった時期を含む平均であり、今の評価には当てはまらない、という説明でした。
流動性にも注意を促しています。機関投資家のポートフォリオに占める未公開株の比率は、2007〜08年の約7%から約16%に上がり、不動産やインフラも増えました。2008年よりも「はるかに非流動的」だといいます。個人投資家の株式比率も、ここ数年は史上最高水準だそうです。
252%という数字は、1929年の約4倍近い水準です。筆者は、これを見せられて身構えない人は少ないと思います。ただ、ジョーンズ自身が「バブルかは分からない」と先に断っている点は、見落とさないでほしいところです。
需給が反転する(2026年4月28日、10月13日)
彼の見通しの中心は、株の供給と需要です。過去10年、自社株買いで毎年、時価総額の約2%が市場から消えてきました。ところが今後1年に計画される新規上場(IPO)は、時価総額の5〜6%に達します。その後には、上場時に売れなかった株が売れるようになる「ロックアップ解除」も続きます。しかも、大手IT企業の設備投資が営業キャッシュフローを圧迫して買い戻しも減るため、IPOの資金の多くは既存のテック株から出る。テック株が重いのはそのためで、これからも重いと見ています。形としては、順番に天井をつけていく「ローリング・トップ」になりうる、という見立てです。
10月13日のテレビ番組では、これがさらに強まりました。「2027年は株式市場にとって本当に、本当に厳しい年になる」。自社株買いとM&Aによる株の減少が逆回転し、IPOと公募増資で新しい供給が増える。スペースXの上場が終わったばかりで、アンソロピックとオープンAIの上場が控えています。需給は「2002年以来で最悪」だといいます。年内はまだ上がる余地があるが、自分は「通年でショート。価値がほとんどない」と話しました。決算が良くても、供給が増えれば株価の重しになる。背景には、インフレ懸念、債券利回りの上昇、FRBのタカ派化もあるそうです。
ここで注意したいのは、警戒が「年内」ではなく「2027年」に置かれていることです。いまは1999年に似ており、AIの恩恵を受ける企業と受けない企業で市場が二分されている、とも語りました。
この需給の話が、筆者にはいちばん説得力があります。割高かどうかは見る人の好みで割れますが、IPOの予定表と自社株買いの規模は、数えれば誰でも追えるからです。
5月の「買い増し」と、サイクルの測り方(2026年5月7日)
では、なぜ5月は買い増したのか。5月7日のCNBCで、AI相場はあと「1〜2年」続くと述べ、最近AI関連株を、個別株ではなくバスケット(まとめ買い)で買い増したと明かしました。AIの生産性サイクルは、50〜60%進んだ段階だそうです。比べたのは、マイクロソフトが登場した1981年(本人は「今年1月のクロードがその位置」と表現)や、1990年代半ばのウィンドウズ95とインターネットの商用化です。こうした生産性の奇跡は4〜5年半続いたとされ、今回はその50〜60%を消化した、と計算しています。
ただし、出口は意識しています。株がさらに40%上がれば、時価総額のGDP比は300〜350%に達し、その後は「息をのむほどの調整」になると警告しました。1999年の終わりに近く、ドットコムのピークの約1年前という感覚だ、とも説明しています。
筆者がおもしろいと思うのは、買い増しの理由を「あと何年」という時間で言い切っていることです。買う根拠と降りる根拠を、同じ地図の上に置いている。冒頭の矛盾に見えた話の答えは、ここにあります。
財政は「市場に迫られるまで」直らない(2026年10月13日)
財政についても、きっぱりしています。財政赤字は、2008年のTARP(公的資金による金融機関の救済策)のように「市場に迫られるまで」直らない。政治家は自発的に増税も歳出削減もしない、という見方です。市場がもうその転換点を越えたかと問われると、「拳銃を突きつけられたら、6対4で、その道を進んでいる」と答えました。原油はロングで、中間選挙後にさらに20〜25ドル上がりうるとみています。株式市場はそれを嫌う、という見方です。
「6対4」という言い方に、筆者は思わず笑いました。確率をこれほど軽く口にするのが、トレーダーという人種なのでしょう。
売買の哲学とビットコイン、円(2026年4月28日)
ジョーンズは、トレードをボクシングにたとえます。相手、つまり市場の動きを見ながらジャブを繰り返し、まれな機会に大きな一撃を放つ。大きな機会は、市場が行き過ぎた、不均衡が長引いた、中央銀行や政府が不適切なことをした、というところから生まれます。例として、2020年のビットコインと、2022年の2年金利を挙げました。それまでの間は、情報収集に徹して待つ。長期の信念で保有する投資家とは違う、トレーダーのやり方だと自覚しているそうです。
ビットコインは「金よりも優れた、間違いなく最良のインフレヘッジ」で、供給が有限だからだと言います。円は「著しく過小評価されている」と見ています。日本の対外純資産は約4.5兆ドルで、その約6割が米国向け、大半は為替ヘッジなしと推定されるそうです。日本に新首相が誕生したことをきっかけに、日本第一の企業家的な方針が進めば円高要因になる、という論理です。各国の通貨は、当選後に10%ほど上昇した例があるといいます。ただし4月の発言なので、その後の円相場との関係は、今回の素材では確かめていません。
AIのリスクにも触れました。AIは歴史上最大級のリスクの一つで、業界には「リスク管理がゼロ」だと言います。主要モデル企業の関係者に「AIの安全はどう解決するか」と聞くと、「5,000万〜1億人が事故で死んでからだろう」という答えが多かったと明かしました。原爆の18か月後に原子力委員会ができた前例にならい、大統領がAI規制で主導権を取り、中国を含めて協議すべきだとしています。
また、バフェットが9歳で複利の力を理解していたと知り、かつて彼を批判していたことを誤りと認め、「自分は最大の愚か者だった」とまで言っています。
筆者は、この最後の自己批判に、ジョーンズの強さを見ます。50年やってきた人が、他人の功績を前に「愚か者だった」と言える。意見をすぐ変えられる柔軟さは、こういう素直さから来ているのでしょう。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
ジョーンズの発言を並べると、「バブルかどうか」より「売り手と買い手の数」を見ていることが分かります。評価が高くても、需給が良ければ株は上がる。自社株買いという巨大な買い手が弱まり、IPOという売り手が増える。この構図は、IPOの予定表や自社株買いの規模という具体的なデータで追えます。個人にとっても使いやすい指標だと思います。
一方で、「2027年は通年でショート」という言い方は、年内の強さを認めたうえでの発言で、すぐの売りの合図ではありません。5月の買い増しから10月の警戒までの半年は、サイクルの進行をそのまま反映した修正に見えます。プロのトレーダーは、意見を変えることを恥と思いません。ただ、読む側が「買い」と「売り」の両方を拾って都合よく使うと、判断を誤ります。
最後に、ダリオやグランサムとの違いも書いておきます。彼らが「いつか崩れる」と語るのに対し、ジョーンズは「あと1〜2年は上がる」と言い切り、実際に買っています。警告と行動の距離が近い人の言葉は重い。ただしその分、見立ての転換も早いので、数か月後に別の見方になっていても驚かないほうがいいでしょう。読者が見ておくべきは、IPOの予定と、大手IT企業の自社株買いの規模。この二つが、冒頭の問いへの答え合わせになります。
出典(日付は発言日。動画・番組は公開日)
- Invest Like the Best「You Retire, You Die」(コロッサス)、2026年4月28日公開、収録は2月中旬(Podscripts)
- CNBC「Squawk Box」、2026年5月7日(要約:investingLive)
- CNBC「Squawk Box」、2026年10月13日(転載記事:JournalArta)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。