株譜
INVESTOR OUTLOOK

空売りはどこで効き、どこで負けるか:9人の投資家が語った、正しくても待たされる理由と避ける理由

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「バブルだ」と警告することと、空売りで実際にもうけることは、まったく別の仕事です。9人の発言を読んで、筆者はそう確信しました。空売りが効くのは、売る根拠が文書や数字で確かめられるとき。負けるのは、根拠が人々の気分や政策に頼っているときです。後者は、判断が正しくても待たされます。

空売りとは、株価が下がる前に借りた株を売り、下がったところで買い戻して差額を得る取引です。上がったときの損に上限がなく、持っている間は借り賃もかかります。この記事では、空売りを仕事にする人、行って外した人、はっきり避ける人、合わせて9人の発言を並べます。

内訳は次のとおりです。仕事にする側が、ジム・チャノス、デービッド・アインホーン、ダン・ローブ。避ける、またはやりにくいと語る側が、クリス・ホーン、デビッド・テッパー、アスワス・ダモダラン、サミール・アローラ。大きな空売りで外した例が、プレム・ワツァとビル・グロスです。

各人の経歴は別の記事にまとめてあります。チャノスは「ジム・チャノス:空売りの専門家が語る8つの場面」、アインホーンは「デービッド・アインホーン:12の場面で読む失敗と成功」、グロスとチャノスのワイヤーカードの話は「失敗から学ぶ:投資家が語る「最大の間違い」まとめ」に詳しく出ています。本稿は、人ごとではなく論点ごとに並べます。なお、直近の個別銘柄の空売りの是非は扱いません。資料の多くが二次情報や要約で、確度が高くないためです。

効く場所その1:会計や開示のゆがみを、公開文書で見抜けるとき

空売りがもっとも安定して効くのは、会計の不正や、だれも読んでいない開示のゆがみだと、複数の投資家が言っています。

チャノスは、米国の有価証券報告書(10-K)の脚注を、まず読みます。投資の情報を玉ねぎにたとえ、中心にあるのが公式の開示文書で、外側がアナリストのレポートや噂だというのです。エンロンの空売りは、この方法の典型でした。ウォール街のほぼ全員が「買い」だった2000年に、簿外の特別目的会社との取引と、6%にとどまる投下資本の利益率を見つけて売った、と本人が語っています。

アインホーンも同じ型です。2002年にアライド・キャピタルの会計に疑問を投げかけ、その後6年にわたって同社と争いました。2008年には、リーマン・ブラザーズが認めている以上の損失を抱えていると公の場で言い、のちに正しかったことが示されています。メディアも規制当局も投資家を守れないことがあるのだから、お金を出す人は適度な疑いを持つべきだ、と訴えました。ただ、アライドが「アインホーンは空売りをしている」と反論したように、空売りの告発には利害がつきまといます。信頼できるかどうかは、結果が出てから判断するしかありません。

筆者は、この型がいちばん公平だと感じます。材料はすでに公開された文書の中にあって、特別な情報はいりません。要るのは、読む手間と、読んだ結論を信じる性格だけです。

効く場所その2:世の中の変化を、個別株の売りに落とすとき

もう一つの効き方は、大きな構造の変化を個別株の売りに落とすことです。ローブのサード・ポイントは、2026年1〜3月期の書簡で、個別株の空売りが総額で7%、費用を引いた純額で6.6%の利益になったと伝えられています(確度は中程度の二次情報)。平均の持ち高は24億ドル、約60銘柄でした。住宅は政策の支えがあっても買いやすさが戻らず、中古住宅の販売が金融危機のころの水準にあるとして、住宅と建材の大きな売りを組みました。GLP-1(肥満の治療薬)の普及が、酒類や医療機器の需要を食うという見立ても挙げられています。

ここでの空売りは、一つの会社の不正を暴く仕事ではありません。勝つ側を買い、負ける側を売る、世の中の変化に合わせた仕事です。ただし、同じ人の次の四半期が、後で見る「負ける場所」の例になります。

負ける場所その1:事実が分かっても、株価がすぐには動かない

チャノスは、ドイツのワイヤーカードの空売りを、自分で調べたのではなく、2016年から17年にかけて欧州と英国で出ていた報道を追って始めたと語ります。2019年にフィナンシャル・タイムズの連載が不正のありかを示し、秋に証拠の文書つきの続報が出たので、本格的に売りました。

ところが、監査役会が数か月で辞め、監査法人のKPMGが協力を得られないと報告しても、株価は約2か月も高い評価のままでした。崩れたのは2020年6月、会社が資金のないことを認めてからの3日間です。本人はこの状態を「金融の認知的不協和」だと言います。

TCIを率いるクリス・ホーンも、2020年の初めにワイヤーカードを空売りしました。4月に監査役会へCEOの解任を求め、5月には刑事告発までしています。結果として会社の不正会計は明るみに出ましたが、ホーンはこの件を経て、空売りは割に合わない事業のやり方だと結論づけた、と整理されています(確度は中程度)。

ここは意外でした。正しかったのに、むしろ避けるようになったのです。空売りは、事実が分かってから価格が動くまでの時間差に耐える体力を求めます。その間、売っている側は借り賃を払い、株価が上がれば追加の担保を求められるからです。

負ける場所その2:大きな確信が、時期だけずれる

ビル・グロスは、「一生に一度の空売り」と銘打ったドイツ国債の売りで、2015年4月に判断が外れたと認めました。利回りが約0.10%の水準で売りを勧めましたが、その後は利回りがさらに下がって含み損が膨らみました。のちに0.64%まで上がったものの、ファンドは約2.5%の損失を被っています(確度は中程度)。方向は後から正しくなったのに、時期が先にずれて損が出たのです。

プレム・ワツァは、2011年末に、欧州の債務危機、米国の弱さ、中国の不動産バブルを理由に、持っている株の105%分を空売りで守りにかかりました。ところが相場は上がり、損失よけのためだけで年間7.8億ドルの損になりました。10〜12月期は7.7億ドルの赤字で、通期の利益は4,510万ドルにとどまっています。本人は「損失よけなしでは、普通株の持ち高に安心できない」と話し、方針を変えませんでした。

二人とも、方向をまるで外したわけではありません。それでも負けたのは、空売りでは方向と時期が別の問題だからです。時期がずれた分の損は、先に確定してしまいます。

負ける場所その3:金融緩和と、群衆の熱狂が続く間

テッパーは、2017年3月のCNBCで、株は「本当に割安ではない」と認めつつ、世界の中央銀行が緩和を続けているので、空売りは難しいと話しました。「まだ麻薬が配られていて、パンチボウルは満たされている」。割高だと思っても、政策が出口に向かうまでは下に賭けない、という読みです。

ダモダランは、投資家は価値と価格を比べるが、トレーダーは「より高く売れるから」買う、と整理します。市場の大半はトレーダーで、値動きの主な理由は雰囲気と勢いだ。だから価値が割高だと分かっていても、空売りはしない。自分は上手なトレーダーではないので、新規公開の局面は傍観する、と語りました。

インドのヘリオス・キャピタルのサミール・アローラは、直近の12〜18か月でいちばん大胆な賭けは食品配達の会社だったが、逃した好機は「割高株の空売り」だった、と明かしています。割高のまま上がり続け、機を逃したという実感です。

チャノスの1996年のAOLの空売りも、この型です。会計への疑いは正しかったのに、群衆がその会社の「構想」に魅せられている間、株価は10倍になりました。詳しくは別の記事に譲ります。

筆者は、この三人の話に共通する冷静さが好きです。割高だと分かっていることと、いま売るべきだということの間に、深い溝があると知っているからです。

負ける場所その4:熱狂の強い分野で、強い相場の中にいるとき

アインホーンのグリーンライトは、2025年に9.0%の運用成績で、S&P500の17.9%に及びませんでした。書簡によると、マクロの運用が純収益に12.8%寄与した一方、買い持ちは2.4%、空売りは6.3%の足かせでした。本人は、米国株は運用を始めて以来もっとも割高だと考えています。割高だと言い続けて、相場に取り残される年が続いた、という自己評価です。

2026年4〜6月期の書簡の紹介記事(確度の低い二次情報)では、グリーンライトの四半期の成績はマイナス4.3%で、S&P500が15.2%上がったのに対して、大きく劣りました。金と米国の金利での損に加え、熱狂の強い分野でのいくつかの空売りの損が、要因に挙げられています。「強い相場で劣ることは予想していたが、損失は予想していなかった」という書簡の言葉も伝えられています。ローブのサード・ポイントも同じ四半期に、個別株の空売りが平均1.8億ドルの持ち高で、純5.1%の損になったとされます(確度は中程度)。1〜3月期に純6.6%の利益を出した空売りが、次の四半期には損に変わりました。

二つとも確度の低い二次情報を含むので、数字は目安として読んでください。ただ、相場が急に反発する局面では、空売りが重荷になりやすいという構造は、複数の人の話で一致しています。

避ける人の理由

クリス・ホーンは、最初から投資しない業種を決めています。銀行、自動車、小売の大半、航空、携帯通信、メディア、広告、保険、技術の多くなど。「ほとんどの産業は悪い産業」だというのです。空売りも、利益が限られる一方で損失は理論上無限、しかも時期の圧力があるので、避けるべきやり方だと話しました。

チャノス本人も、個人投資家には空売りを勧めません。株価の上昇に上限がないこと、借り賃、税制上の不利、そして毎朝まわりから批判される「負の強化」に耐える心理の難しさがあるからです。空売りは生まれつきの気質で、教育では作れないとも言います。自分の空売りは悲観のためではなく、買い持ちの資金を出す手段で、指数の買い持ちと組み合わせた保険のようなものだ、と位置づけています(確度は中程度)。

空売りが担ってきた「見張り役」は、弱まったのか

エコノミスト誌の記事は、かつて世界最大の空売り専業だったチャノスの会社が、解約が相次いで、2023年に外部の資金の受け入れをやめたと伝えています。同記事によれば、米司法省が2021年に空売り業者への捜査を広げ、調査会社への捜索令状や個人の起訴などがありました。不正を暴く役の空売り業者は弱った、という指摘です。チャノスは、「不正の循環は金融サイクルに遅れてやってくる。長く続くほど悪質になる」と話しています。

空売りが減れば、不正は強気相場のあいだ、だれにも掘り返されずに積み上がります。逆に言えば、前の「効く場所」は、こうした見張りの働きに支えられているのです。

株譜の見方

以下は、公開された発言から筆者が推測した部分で、確定した事実ではありません。

冒頭の主張に戻ります。9人の発言でもっとも目立つのは、空売りが効く場面と負ける場面が、同じ人の中に同居していることです。ローブは1〜3月期に利益を出し、次の四半期に損を出したと伝えられます。チャノスはエンロンで勝ち、AOLで負けました。手法の優劣ではなく、相場の局面と時間の長さが結果を決めているのだと思います。

効いた場面は、どれも根拠が文書や数字で確かめられるものでした。会計のゆがみ、簿外の取引、構造変化にともなう需要の移動です。負けた場面は、どれも根拠が人の気分や政策に頼るものでした。金融緩和、群衆の熱狂、強い宣伝。空売りの話を読むときは、この二つを分けて受け取るのがよいと筆者は考えます。前者は、売りの根拠として検証できます。後者は、正しくても待たされる可能性が高いのです。

個人投資家の使い道も考えておきたいところです。空売りそのものは、本人たちの多くが勧めていません。それでも、専門家が見つけた「ゆがみ」の話は、買う側にとって「ここは買わない」という理由になります。前提を少し変えると黒字が赤字に変わる会社、簿外の取引が多い会社、新規上場と増資が記録を更新している局面。売る根拠であると同時に、買わない根拠にもなります。

避ける側の理由が「損失が無限」「時期の圧力」と、正しさとは別の次元に置かれている点も印象に残りました。ホーンは、結果として正しかった空売りを経験したうえで、避ける結論に至っています。勝ち負けではなく、続けられるかどうかで手法を選ぶ姿勢に見えます。これは本人の言葉を整理した筆者の読みで、本人がそう言ったわけではありません。

明日から使える問いは三つです。その空売りの根拠は、だれでも読める文書の中にあるか。間違っていた場合の損は、自分が耐えられる大きさに収まっているか。正しい場合でも、価格が動くまでの時間を待てるか。9人の話で最も軽く扱われやすいのは、三つ目です。ワイヤーカードの2か月も、グロスの0.10%から0.64%への動きも、方向の正しさとは別に、待つ側の体力を試していました。

最後に注意です。確度の低い二次情報(グリーンライトとサード・ポイントの4〜6月期の数字)は、書簡の全文で確かめていません。数字を引用するときは、元の書簡を確認してください。また、バブルを警告する人が空売りで実際にもうけているかは、警告の重みを測る物差しの一つです。ただし、もうけていないからといって、その警告が誤りとは限りません。

出典

  • NPR「A Hedge Fund Manager's Crusade To Expose Losses」、2008年7月1日(NPR)
  • ポール・クルーグマンのSubstack「Why AI spending reminds Jim Chanos」、2025年2月25日(Substack)
  • エコノミスト誌(The Nightly転載)、2025年12月17日(The Nightly)
  • The Acquirer's Multiple「Jim Chanos」インタビュー要約、2026年2月(The Acquirer's Multiple)
  • グリーンライト・キャピタル 2025年第4四半期の投資家向け書簡(Hedge Fund Alpha掲載)、2026年1月20日(Hedge Fund Alpha)
  • 2026年第2四半期の書簡の紹介記事(華盛通)、2026年10月13日(華盛通)。確度は低い二次情報
  • サード・ポイント 2026年第1四半期の投資家向け書簡(Hedge Fund Alpha要約)、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)/同 第2四半期の抜粋、2026年7月15日(X)
  • Massive Moats「The Wisdom of Chris Hohn」(NBIMポッドキャスト、2025年5月などの発言の整理)、2025年5月16日(Substack)
  • CNBC「Squawk Box」テッパー、2017年3月8日(CNBC)
  • アスワス・ダモダラン 本人のYouTube、2026年6月4日(YouTube)
  • ビジネス・スタンダード「BSマンタン2025」アローラ登壇、2025年2月28日(Business Standard)
  • グローブ・アンド・メール紙「Watsa sticks to his guns as pessimism proves costly」、2012年2月16日(Globe and Mail)
  • ビジネスインサイダー「Bill Gross had a big trade idea and it blew up in his face」、2015年4月(Business Insider)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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