早すぎた警告:正しくても報われなかった投資家たちが、後から語ったこと
警告が当たったのに、警告した本人は報われない。そんなことが、相場では本当に起きます。
方向は正しくても、時期が早すぎれば、崩れるまでの間に損を重ね、顧客も資金も失います。2026年のいま、AIバブルの警告を出している投資家の多くは、過去にも似た目に遭っています。
筆者がこの記事で言いたいのは、警告を出す人にとって大事なのは、いつ崩れるかを当てることではなく、当たらなくても生き残れる損の形を先に決めておくことだ、ということです。警告そのものの是非ではなく、「早すぎた」とき何が起き、本人たちが何を学んだと語っているかを集めました。
グランサム:2年と3か月早く、顧客資産の半分を失った
まず、いちばん痛い実例から。ジェレミー・グランサムは、2026年6月のポッドキャストで、自分の「早すぎた」経験を具体的に話しています。1998年から99年にかけてバブルを警告したところ、2年あまり早すぎて、顧客資産の半分を失ったというのです。
そこから彼は、大手の運用会社が「売れ」と言わない理由も説明しました。1929年も、1972年の一部の人気株ブームも、2000年のITバブルも、大手は口にしなかった。顧客が逃げて商売にならないからで、「大手の会社にとって、そんなことをしてもまったく商売にならない」というのが彼の言い方です。だから、割高かどうかは自分で見抜くしかない、というのが教訓です。
筆者は、この告白がいちばん生々しいと感じます。専門家が警告を出さないのは、知らないからではなく、出すと損だから。そう言い切る人は少ないのです。
GMOが2026年1月に出したリポートは、バブルを「長い目で見た実質の傾向から、標準的なぶれの2倍以上、上に離れた状態」と定義しています。300を超える事例を調べると、先進国の大型株市場でこの水準まで上振れしたものは、例外なく元の傾向に戻りました。米株では1929年、1972年、2000年、米国の住宅では2006年です。
ただ、同じ文書の別の箇所では、頂点のしるし(最も投機的な株の崩壊など)はまだ見えない、とも書いています。方向への確信と、時期への確信は別だと、本人たちが区別しているのです。
2021年に「最後の大騒ぎ(ラストダンス)を待つ」と書いた四半期レターは、2022年1月のブルームバーグ出演で大きな反発を受け、その後の2022年に下落が来ました(フォーチュン、2026年4月のインタビュー記事による)。一度は「当たった」形です。けれどもそこから3年以上たっても、本人の言う「バブルの破裂」は来ていません。2026年6月に崩れる時期を問われても、「数日、数週間、数か月、少なくとも数年のうち」としか答えていません。
おもしろいのは、逆向きの話です。2009年3月に「恐怖の中で再投資せよ」と書いたことを挙げ、自分はいつも弱気なわけではないと言います。相場の転換点は、トンネルの先に光が見えたときではなく、闇が昨日よりほんの少し薄くなったときに来る、という考えです。警告も買い向かいも、全員が納得してからでは遅い。そんな含みがあるのでしょう。
スピッツナーゲル:当てられないと認めたうえで、損の形を決める
マーク・スピッツナーゲルの運用会社ユニバーサは、暴落に備える保険(尾部ヘッジ)を専門にしています。フォーチュンが振り返った記事(本人の発言ではなく報道)によると、彼は2013年に株が最大40%下がりうると予想しました。しかし2010年代は、雇用の伴わない回復と長い景気拡大が続き、予想は大幅に早すぎました。2024年の景気後退や2025年のバブル崩壊についても、同じような「早すぎる」警告を出したと報じられています。
本人は、時期を当てようとするのは愚か者の仕事で、この保険は下落の時期を当てなくても働くと言い切っています。2020年3月のコロナ暴落では、保険部分の資本に対して3,612%のリターンを記録しました。ただし、これは運用全体ではなく保険部分の数字で、他のヘッジファンドからは批判も出ています。
普段は小さな損(保険料)を払い続け、暴落のときに大きく取り戻して、安くなった株を買う資金に変える。それが本人の説明です。高校時代にシカゴ商品取引所のベテランから「負けることを愛せ」という哲学を教わった、という話も、同じ文脈で語られています。
2025年9月、S&P500が6,653だった頃に、本人は8,000という目標を初めて示しました。その後、指数は約16%上がっています。2026年9月のインタビューでは、「8,000を楽々超える最後の熱狂相場を経てから、約80%下がる」と話しました。9月7日のメールでも、バーリの懸念に同意しつつ、「時期は外すことになる」と先に断っています。
筆者はここがこの人の面白さだと思います。当たらないと承知のうえで、損の出方の形を先に決めているのです。予想の当たり外れで勝負しない、というより、勝負の土俵を選んでいます。
チャノス:証拠が出ても、株価は2か月高いままだった
ジム・チャノスは、2025年2月のクルーグマンとの対談で、40年運用して学んだことを一言で語りました。「相場がどこへ向かうかについての自分の考えは、ほとんど価値がない」。できるのは、市場の気分と株価の割高さを見て、自分がどれだけのリスクを取っているかを知ることだけだといいます。
実例が、ドイツの決済会社ワイヤーカードの空売りです。2019年にフィナンシャル・タイムズの連載が不正の所在を示し、秋に証拠文書つきの続報が出て、本格的に空売りを組みました。監査役会は数か月で辞任し、監査法人のKPMGは協力が得られないと報告しています。それでも株価は、2か月ほど高い評価のまま取引されました。崩壊は2020年6月、会社が資金の不在を認めたあとの3日間です。チャノスはこの間の市場の反応を「金融の認知的不協和」と表現しています。証拠が出てから崩れるまでの時間に、空売りの側は耐えなければなりません。
代償は小さくありませんでした。エコノミスト誌(2025年12月)によると、かつて世界最大の空売り専業だったチャノスの会社は、顧客の解約が相次いで2023年に外部資金の受け入れをやめ、ファミリーオフィス(一族の資産を運用する会社)になりました。2021年に米司法省が空売り業者への捜査を広げたことも、不正を暴く側を弱らせたと、同誌は指摘しています。
「不正の循環は金融サイクルに遅れてついてくる」というのが本人の見方です。ブームが長く続くほど、悪質な行為は積み重なる。だから2026年7月のインタビューでも、遺体が浮かぶのは下げ局面で、規制当局が動くのは損失が出たあとだと話しています。
2026年2月には、空売りを「悲観のためではなく、ロングのポートフォリオに資金を出す手段」と位置づけました。実際、空売りの銘柄は約40ですが、指数は買い持ちのまま、ヘッジとして空売りを組み合わせています。筆者は、早すぎる空売りの痛みを全体で吸収する設計だと見ています。痛い目に遭った人の工夫だと思います。
バーリ:大きな勝ちの前に、解約が来た(報道による)
マイケル・バーリは、2005年に住宅ローンを束ねた証券への保険(CDS)を大量に買い、2007年にそれが値上がりして大きな利益を上げました。保険料を払い続けている間、投資家の解約や償還の圧力を受けたという経緯が、当時の報道では繰り返し語られています。確信があっても、時期が遅れれば投資家の信頼を失う、という典型例です。ただし、この経緯の材料は確度の高くない二次報道なので、概略にとどめます。
2025年11月には運用会社スキオン・キャピタルの登録を抹消し、有料ニュースレター「カサンドラ・アンチェインド」を始めました。外部資金を運用する責任から離れ、発信は購読者向けの個人の見解になったわけです。同月の報道では、エヌビディアとパランティアの下落に賭ける権利(プット)など、合計約11億ドルを持っていました。根拠は、大手クラウド企業の設備の費用計上が甘いことです。
GPU(AI向けの半導体)の実際の寿命は2〜3年なのに、5〜6年かけて費用にしている。その結果、2026〜2028年に約1,760億ドルの費用が少なく見積もられる、という試算でした。
2026年8月には、パランティアが6月の安値から約64%上がって175ドルになった後も、プットを買い増したと、本人の自己申告として報じられています。株高に逆らう買い増しは、時期の読みを誤る危険が大きい。筆者はそう感じます。ただし、これは報道に基づく話で、13F(運用会社が当局に出す保有株の報告書)のような提出書類では裏付けられていません。
グロス:方向は正しく、時期が外れた2.5%の損
債券王ビル・グロスにも、同じ型の経験があります。2015年4月、「一生に一度の空売り」と言い切ったドイツ国債(ブント)10年物の売りでは、利回りが約0.10%の水準で売りを勧めました。その後、利回りはまず下がって含み損が膨らみ、最終的に0.64%まで上がります。ファンドは約2.5%の損失を出しました。
のちの報告では、同じ取引を直して損失を取り戻したと、本人は話しています。方向は合っていたのに、そこへ至る途中の含み損が許容できなかった。時期の読みと、損失の許容幅は別の問題だということです。
早すぎた警告から取り出せること
五人の話から、共通して見えることを挙げます。
- 方向、時期、規模は別の問いです。グランサムは方向に確信を持ちつつ、時期は「数日から数年」としか言いません。スピッツナーゲルは、時期を外すとあらかじめ断っています。
- 警告は、持ち方で損の形を決められます。スピッツナーゲルは保険料を、チャノスは指数の買い持ちとの組み合わせを示しました。グランサムは個人向けに、米国株を持たず、非米国株を約6割、貴金属を5〜10%という配分を挙げています。
- 生き残りが先に来ます。グランサムは顧客資産の半分、チャノスは外部資金、バーリは投資家の信頼を、「早すぎた」ときに失いかけました。
- 転換のしるしは、話題の熱にも出ます。グランサムは、全員が納得したときではなく闇が少し薄くなったときだと言い、チャノスは新規発行の急増を重く見ています。
株譜の見方
ここからは、筆者の個人的な推測です。
冒頭の主張に戻ります。警告を出す人の発言を読むとき、筆者が気をつけたいのは、その人の収益の仕組みです。ユニバーサは暴落で稼ぐ商品を売り、バーリは有料の読者に向けて書き、チャノスは空売りの運用者として語っています。嘘ではなくても、発言は自分の立場から出てきます。グランサムの「大手は売れと言わない」は、その裏返しで、大手でない側にも別の事情があると読むのが公平でしょう。
もう一つ、筆者がこの五人から受け取ったのは、「いつか」ではなく「準備の形」が示されていることです。当たる時期が分からないことを前提に、損の形を決めている。個人の投資家が取り入れやすいのは、予想を信じるかどうかより、「早すぎた場合に、自分はいくらまで耐えられるか」を先に数字で決めておくことではないでしょうか。当たるかどうかは相場が決めますが、耐えられる額は自分で決められます。
明日から見るものは、手元の持ち株の「耐えられる損の額」です。警告を読むたびに、その額を超える前に動けるかを、自分に問い直してください。
出典(日付は発言日)
- ジェレミー・グランサム「The Diary of a CEO」、2026年6月25日(GMO)/GMO「Valuing AI」、2026年1月28日(GMO)/フォーチュン、2026年4月12日(Fortune)
- マーク・スピッツナーゲル フォーチュンの回顧記事、2023年8月5日付(The Wealth Advisor)/2020年3月の運用成績(The Wealth Advisor)/パック誌インタビューの報道、2026年9月20日(Yahoo Finance)/ビジネス・インサイダー(メール)の報道、2026年9月7日(The Deep Dive)
- ジム・チャノス クルーグマン対談、2025年2月25日(Substack)/エコノミスト誌、2025年12月17日(The Nightly)/The Acquirer's Multiple、2026年2月(Acquirer's Multiple)/Prof G Markets の報道、2026年7月31日(Webull)
- マイケル・バーリ CNBC、2025年11月24日(CNBC)/Outlook Business、2025年11月13日(Outlook Business)/2026年8月の開示の報道(Investing Time Daily)
- ビル・グロス ビジネス・インサイダー、2015年4月(Business Insider)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。