決算と利益予想:数字では争っていない。争っているのは、その先をどう延ばすかだ
過去30年の平均は7%。ゴールドマン・サックスのストラテジストが9月の調査でまとめた2026年4〜6月期の1株利益は、前年比51%増、直近4四半期で26%増でした。2026年の相場を支える最大の理由は、間違いなくこの企業利益です。
ところが同じ数字を、別の人は「見かけの増益」と呼びます。20人の発言を読んで分かったのは、強気派と弱気派は、数字そのものではほとんど争っていないということです。増益率が5割前後、先行きPER(株価が来期利益の何倍か)が19倍前後という点には、異論がありません。割れているのは、その数字を未来へどう延ばすかです。事実の争いではなく、先の読み方の争いなのだと、筆者は受け取りました。割れ目は三つあります。利益は本物か、続くのか、金利が上がる中で株価を支えきれるのか、です。
なお、本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。引用した数字は発言時点のもので、二次情報は報道ベースとして扱いました。
問い1:この増益は、どこまで本物か
利益そのものを土台と見る人たち
マイク・ウィルソン(モルガン・スタンレー)は、5月の配信で、相場を動かしているのは見出しでもFRBでもなく利益だと言い切りました。典型的な企業の利益成長は約16%、中位の上振れ幅は約6%で、4年ぶりの強さです。8月には、ラッセル3000の中位銘柄の利益成長が15%と2021年以来の高さで、決算の87%が予想を超えたと整理しました。大手IT企業(いわゆるハイパースケーラー)と半導体だけの物語ではなく、裾野が広い。それが持続性の根拠だといいます。
エド・ヤルデニは、5月に年末のS&P500目標を7,700から8,250へ引き上げました。アナリストの利益予想の上方修正が速く、2026年のコンセンサスEPS(1株利益の市場予想)が336.49ドル、2027年が386.70ドルと、本人の旧予想を超えたからです。8月には、4〜6月期決算で9割の企業が報告を終え、利益も利益率も予想を大きく上回り、「5四半期連続の最高益」だと書きました。ケン・グリフィンも、米企業が事実上すべての業種で過去最高の利益を出しているから、株が最高値圏にあると説明しています。
ゴールドマンは9月の調査で、12カ月先のS&P500を8,700へ引き上げ、EPSを2027年415ドル、2028年460ドルと置きました。先行きPERは1年前の23倍から19倍に下がっており、株価の上昇を利益が追い越した形だ、というのが整理です。
数え方を疑う人たち
ここからが、おもしろいところです。ジム・チャノスは、会計の食い違いを突きました(報道による)。AI投資をする側は、設備を5〜10年かけて少しずつ費用にしていく(償却)。ところがエヌビディアなどの供給側は、受け取った支出をすぐに売上と利益にできる。このため、S&P500の利益は本来8〜9%の成長のところ、28〜29%に膨らんで見える、というのです。
ヤルデニ自身も、アルファベットとアマゾンの評価益がEPSを押し上げたと認めています。1〜3月期は5.88ドル、4〜6月期は14.00ドル。これを除いても、利益は1〜3月期で約20%、4〜6月期で約25%増えたと反論しました。数え方による上積みはあるが、それを除いても強い。これが強気側の答えです。
アスワス・ダモダランの整理は、もう少し冷静です。第2四半期の設備投資は前年同期比36%増(1,334億ドル増)、純利益は第1四半期35%増、第2四半期57%増。ただし、投資する側(メタ、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト)は、償却費が増えて、手元に残る現金(フリーキャッシュフロー)が細り、利益の伸びほどキャッシュは伸びていません。未上場のOpenAIやアンスロピックなどが公開データに入らない点も、注記しています。
筆者が見逃せないと思ったのは、ウィルソンの一言です。「利益だけ上げて、フリーキャッシュフローを上げない企業には厳しい局面だ」。強気派の中にも、利益の「質」を問う声がある。テリー・スミスも、S&P500のフリーキャッシュフロー利回りが、AI設備投資の「軍拡競争」で2%を下回ったと指摘しました。
問い2:この増益は、どこまで続くのか
設備投資が続く限り、と見る人たち
ゴールドマンの別の調査は、AI投資が今年のEPS成長の半分近くを生むと述べ、その追い風は2028年にはわずかな逆風に転じる見込みだとしました。大手IT企業の設備投資は、今年約8,000億ドル(前年比94%増)、2027年1.2兆ドル、2028年1.4兆ドルという予想です。2027年に2,500億ドル上下に振れるだけで、S&P500のEPS成長率が約6ポイント動く。機器の減価償却費が膨らみ、設備投資の伸びが鈍れば、利益への寄与も細るといいます。
ブラッド・ガースナーは、設備投資は半導体の手元現金とほぼ同額で、利益が相場を支えていると語り、「2000年のようなバブルではない」と言い切りました。年初来で米株は約15%上がったのに、利益は26%増え、評価倍率は縮んでいるというわけです。クリストファー・ウッドは、4大大手IT企業の設備投資の計画が2026年に約7,200億ドル、2027年に9,870億ドルで、それがほぼそのまま半導体企業の利益になると説明しました。最初の3年は手元資金でまかなわれたが、今年から借入が増えている、とも述べています。
ケン・フィッシャーは、今のAIは「巨額の粗利益率を持つ巨大企業が、増え続ける利益で投資をまかなっている」点が、ドットコムと違うと整理しました。張坤(易方達)も、AIの中核ハード企業の多くが高い利益予想をほぼ達成している点を、1999年との明確な違いに挙げています。
終盤のサインと見る人たち
ジェレミー・グランサムは、AIは根本の過大評価を解消せず、先送りして大きくしたと述べました。ダモダランの数字が示すのも、利益が設備投資の拡大に支えられているという構造です。ポール・チューダー・ジョーンズは、「2027年は株式市場にとって非常に厳しい年になる」と語りました。理由は決算ではなく需給で、自社株買いとM&Aによる株の減り方が逆回転し、IPOや公募増資で新しい株が増えるからです。
レオン・クーパーマンは、来年のどこかで景気後退が起き、S&P500の利益予想は「値付けを誤っている」と断じています。7月の小売売上高が前月比0.6%減で、予想の0.1%増を下回ったことを挙げ、消費者が物価高で財布のひもを締め始めたと読みます。一方で、第2四半期の増益率が前年同期比50%超になりそうで、周囲は強いことも認めています。同じ増益率を見ながら、その先の読みが分かれる典型です。
マイケル・ハートネット(バンカメ)は、ポジション・利益・政策の「3つのP」がそろってピークだと言います(二次情報)。ファンドマネージャー調査では、純33%が「企業はAIに過剰投資している」と答え、過去最高でした。
ここまでの割れ目は、設備投資の読み方に尽きます。設備投資が増え続けるなら、供給側の利益は増え続けます。伸びが鈍れば、追い風は止まります。ゴールドマンは2028年に逆風へ転じると見て、ハートネットとPTJは、もっと近い時期に需給や過剰投資の限界を見ています。筆者は、時期を決め打ちしないゴールドマンの置き方のほうが、数字の根拠が見える分、読みやすいと感じました。ただし、2027年の振れ幅だけでEPSが約6ポイント動くという試算を見ると、どの予想も、一つの前提に大きく寄りかかっていることがよく分かります。
問い3:金利が上がっても、利益は株価を支えるか
ジェレミー・シーゲルは、3週間で実質金利が約40bp(0.4ポイント)上がる稀な動きがあり、10年物の実質利回りは約2.8%だと書きました。株は「利益が増えること」と「割引率の上昇」の勝負だという整理です。10月には、30年物TIPSが約3.4%まで上がり、PER20倍の益利回り5%に対して、株式リスクプレミアムは約1.6ポイントと薄い。それでも株はよく耐えていると述べました。利益見通しが、実質金利の逆風を上回っているからです。営業利益率40〜60%の大手IT企業は金利1ポイントの上昇に耐えるが、利益率8〜10%の企業には痛手で、バリューへの広がりが逆戻りした、とも説明しています。
ゴールドマンは、FRBが利上げ局面に入ると、S&P500は過去7回の平均で3カ月後に2%下がるが、12カ月後の平均は9%上昇し、2022年を除いて全て上昇したと整理しました。10年債は約5%(2007年以来の高さ)、先行きPERは今年22倍から19倍に低下しています。ウィルソンは、6月以降ラッセル3000の4割超が20%以上下落し、先行きPERは19倍(1年前より約20%低い)になったと書き、「評価が下がるのに利益が強いのは、典型的な中期への移行」だと位置づけました。
ウッドは、10年債が5%を明確に上抜ければ株式のリスクが高まり、5.5〜6%に向かえば市場は非常に不快になると述べます。株が金利上昇を無視できているのは、米国の利益成長が強いからだといいます。ダモダランも、利回りが3bp超上がった日、S&P500の下落は平均0.5%程度にとどまったと整理し、2026年・27年の利益予想が11%超上方修正されたことが、相場の耐性を説明するとしました。
ビル・グロスは、フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、金利が高止まりすると利益率が縮み、「いつもの株式市場」が終わりうると書きました(二次情報)。JPモルガンの7〜9月期は、1株利益が5.57ドルで、市場予想の5.90ドルを下回りました。純金利収入は13%増の270億ドルで通期見通しも上げましたが、自社株買いは約67億ドルから約10.6億ドルへ縮んでいます。これを高値警戒のサインと受け止める報道があります(ダイモンの声明に関する報道、二次情報)。
利益の「中身」を分けて見る人たち
個別の決算を見ると、利益の質を分ける目が見えてきます。ニック・トレインは、インターテックが買収提案で上がった例を挙げ、ポートフォリオの50%超が何らかの企業行動(買収提案など)の対象になっていると述べました。データ・ソフト株の下落が続くなか、「事業実績と株価の乖離はさらに広がった」とも書いています。
鄧暁峰は、1〜4月の中国の工業企業利益に触れ、鉱業は前年比+58.5%、製造業は+23.4%だが、中下流は全体に弱く、AIが牽引する電子だけが速く伸びていると指摘しました(二次情報)。エネルギー・非鉄・AI関連の利益が、工業企業利益の約半分を占めるとも整理しています。張坤は、AI投資で自問する4点を挙げました。競争の壁は十分高いか。サプライチェーン上の位置は代替しにくいか。2〜3年の利益爆発のあとに、供給構造が長期的に悪化しないか。値上げによる短期の増益は続くか。
なぜ割れるのか
割れる理由は三つあります。
一つ目は、利益の数え方です。強気派は、報告された利益をそのまま土台とし、評価益を除いても強いと反論します。弱気派は、償却の扱いと、フリーキャッシュフローとのずれを指摘します。どちらも、同じ決算の別の行を見ています。
二つ目は、設備投資の読み方です。設備投資が利益を生む間は、利益は増えます。けれど、その設備投資自体が、借入に頼る度合いを高めています。強気派は、巨大企業が自前の利益でまかなう点を重視し、弱気派は借入の増加を重視します。
三つ目は、割引率の見方です。実質金利の上昇を強い経済の反映と見れば、利益の増加が相殺します。財政不安の反映と見れば、評価の下押しが続きます。ヤルデニの10月3日の記事は、この見分けが株の評価に直結すると書いています。
株譜の見方
以下は、公開された発言から筆者が推測した部分であり、確定した事実ではありません。
冒頭の整理に戻ります。強気派の根拠は「予想を上回り続けている」ことですが、これは過去30年の平均を大きく上回る水準が続いているという意味でもあります。ゴールドマンが「鈍化するが崩れない」を基本シナリオに置いたのは、この水準が続かないことを前提にしているからです。強気派でさえ、増益率の鈍化を織り込んでいる。筆者はこの点を重く見ます。
利益と株価の関係については、ウィルソンの言う「二階微分」、つまり改善の速度で動くという考え方が、この局面をいちばんよく説明すると感じます。利益が高いままでも、改善の速度が鈍れば、株価は動きうる。逆に、利益が悪化しても、悪化の速度が緩めば、株価は上がりうる。これは一つの読み方であり、結論ではありません。
では、読者は何を見ればよいのか。答え合わせの材料は三つあります。大手IT企業の設備投資の計画が、来年に向けて上がり続けるのか。10年債の利回りが5%を明確に上抜けるのか。決算で、利益とフリーキャッシュフローの差が広がっていないか。数字そのものは、強気派も弱気派も同じものを見ています。その先の延ばし方を決めるのが、この三つです。
注意
本稿は、公開された発言を整理したものであり、投資助言ではありません。数字は発言時点のもので、予想は外れうるものです。二次情報は報道ベースとして扱いました。個別銘柄の売買を勧めるものではありません。
出典
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- Mike Wilson、同、2026年8月11日。https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/mid-cycle-market-transition-mike-wilson
- Mike Wilson、同、2026年9月21日。https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/bull-market-resilience-isnt-complacency-mike-wilson
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- Nick Train、フィンズベリー・グロース&インカム信託ファクトシート、2026年5月31日・6月30日。https://www.finsburygt.com/media/3rsccsqo/fgt-factsheet-june-2026.pdf
- 鄧暁峰、新浪財経(私募月報の解説、二次)、2026年6月24日。https://finance.sina.cn/fund/jjyc/2026-06-24/detail-inienttu1540385.d.html