欧州株・英国株は「米国の逆張り」になるか:安さを買う人、個別に賭ける人、財政と利上げを恐れる人
英国の消費財大手ユニリーバを、トレインは「AIから逃れられる避難先」として評価し、スミスは「経営の信用が持てない」として売りました。同じ会社で、正反対の判断です。欧州と英国の株をめぐる議論は、この一例によく表れています。
「米国株が高すぎるなら、世界のほかの場所を買えばいい」。この単純な発想は、2025年に欧州が世界株をリードしたことで、一度は現実の相場になりました。ところが2026年の欧州と英国は、イラン戦争によるエネルギー高、ECB(欧州中央銀行)の利上げ、フランスの国債利回りの急上昇、AIによるソフト企業の破壊懸念と、材料が入り乱れています。14人の発言を読んで、筆者はこう整理しました。「欧州を買うか」という問いは、実は三つの別の問いの束です。 安さの理由が一時的か構造的か、財政の不安がどこまで広がるか、AIで英国の優良株が守られるか壊されるか。意見の違いは「欧州は安いか」という一点にはありません。
1. 出発点:米国一極と、2025年の逆転
まず数字を整理します。
ケン・フィッシャーは、昨年末の動画で、長く続いた米国の優位が崩れ、年初は不況入りが予想されていた欧州が世界をリードした年だったと振り返りました。世界株は約20%上昇しています。今年3月には、深刻な景気後退が起きる確率は低いと述べ、米国経済は「そこそこ」だが、期待が極端に低い欧州や新興国のほうが、期待を上回りやすいと見ました。
ジェフリー・ガンドラックは、9月に、米国株と非米国株の相対は2024年末の頂点から下向きに転じたと指摘しました。PBR(株価純資産倍率)は米国5.72倍に対して米国外2.49倍で、米国株は新興国株に対して約20%劣後しています。背景には、ドルが2024年末の110から100割れへ下がり、さらに下がると見ていることがあります。
プレム・ワツァは、3月の株主への手紙で、米国株がMSCIワールドの70%を占める状況を、1989年に世界の50%を占めた日本に似ていると警告しました。割安な機会は、米国外に残るという立場です。
2. 買い派:割安さを使った分散
国際分散の主張
ジェレミー・シーゲルは、10月初めに広い国際分散を勧め、特に欧州と日本はPERが低く、長期リターンが魅力だと述べました。狭いセクターに偏らず、世界の株式指数で分散する考え方です。
ガンドラックは、3月に、集中する米大型株から、等金額加重・割安・米国外株への移行を勧めました。外国株を持つべきだと語りつつ、自分は今、リスクの置き方を慎重にしているとも付け加えています。
フィッシャーは、7月の中間更新で、世界株は米国も米国外も年初来約9%上昇したと整理しました。ただし、米国外の割安(バリュー)株が米国のバリューを上回るという想定は実現していない、とも率直に認めています。ECBの春の利上げは予想していなかったそうです。
実例を持つ人:ワツァとローブ
ワツァが挙げる実例は、ギリシャ最大手銀行のユーロバンクです。フェアファックスは2014年4月に1株31ユーロで買い、増資と統合を経て、全体の取得原価は1株0.94ユーロ(計12億ユーロ)になりました。2月27日には株価3.92ユーロ、時価46億ユーロ、年率15%に達したといいます。金融危機後に割安になった欧州周辺に、10年規模の我慢で投資する逆張りの成功例です。
ダン・ローブは、4月の書簡で、新しい主力にスペインの防衛企業インドラ・システマスを挙げました。同国は防衛費をGDPの約1.4%から2%に増やし、大半を国内企業に回す方針です。スティーブン・シュワルツマンは、欧州は遅いが改善していると語りましたが、地域観の一言で、数字はありません。
3. 個別の賭け派:英国の優良株は壊されるのか
英国株の議論は、実は「地域」の話ではなく、「AIで優良株が壊されるか」の話になっています。
ニック・トレインは、LSEG、セージ、RELX、オートトレーダー、エクスペリアン、ライトムーブなど、英国のデータ・ソフト企業が、AI時代の受益者だと見ます。ところが運用成績は厳しいものでした。昨年11月は基準価額が5.8%下がり、指数は+0.4%。今年1月は5.6%下がり、指数は+3.1%。トレイン自身も、「株価は自分たちが誤りだと言っている」と認めています。1月には、アンソロピックが法務ツールを発表した日にRELXが14%下がりましたが、その分析は結局、弁護士の確認が要ると同社自身が断っている、と反論しました。
6月末には、「事業実績と株価の乖離はさらに広がった」と書いています。第2四半期の基金は+2.6%、指数は+4.7%。LSEGは調査会社の格下げもあり、四半期で-7%でした。弱気派は2〜3年後の破壊を根拠に、現在の好業績を無視している、というのが彼の反論です。
風向きが変わったのは、9月末の月次報告です。第3四半期は基準価額が+3.7%で、指数の+2.4%を上回り、最大の押し上げはセージ(+19%)でした。セージの売上成長は11%に加速し、米国では14%に達しました。RELXの法務部門の成長も、2年で倍の10%になっています。トレインは、AIが学習できる公開データは企業内の独自データの1%未満で、残りは信頼される業務ソフトを通じてしか使えない、という論者の言葉を引いて、確信を深めています。
もう一つの支えが、買収と物言う株主(アクティビスト)です。4月には、保有銘柄の買収やアクティビスト関連の動きが相次ぎました。インターテックは4月に30%高、5月にさらに15%上昇し、EQTの提案は1株60ポンド、未攪乱株価に対し60%のプレミアムに達しました。ポートフォリオの50%超が、2026年に何らかの企業行動の対象になったといいます。株価が下がった優良企業には、PEや事業会社が目をつける、というのがトレインの読みです。
同じユニリーバに、逆の判断
冒頭の対比に戻ります。トレインは2月に、ユニリーバを「ナスダックの逆張り」、つまりAIの破壊から逃れる避難先と評価しました。ところがテリー・スミスは、7月の半期書簡で、ユニリーバを売却した理由を詳しく書いています。ヘイン・シューマッハーCEOが解任され、後任がアイスクリーム部門を分離し、食品部門をマコーミックに移す案を出しましたが、事前に「処分はこれで終わり」と聞いていたそうです。取締役にネルソン・ペルツ氏がいるなど、アクティビスト色が強く、株主に議決権がない構造も問題視します。マコーミックの投下資本利益率は一桁にとどまる、とも。
ここは興味深いところです。同じ会社でも、事業の質を見るか、経営の信用を見るかで、結論が逆になる。どちらが正しいかは、まだ誰にも分かりません。ただ、筆者は、質の高い事業でも経営の約束が破られれば価値は守られない、というスミスの怒りに、重みを感じます。
スミス自身のファンドは、昨年+0.8%で、MSCIワールド(ポンド建て、配当込み)の+12.8%に大きく劣後し、指数に負けたのは5年連続になりました。ドルがポンドに対して1.25ドルから1.35ドルへ下がったことも向かい風でした。これは、英国にいながら米国株を持つ投資家の問題でもあります。
4. 慎重派:財政、利上げ、同盟の摩擦
フランスの国債利回りと「最悪のシナリオ」
エド・ヤルデニは、10月初めに、世界的な利回り上昇の理由を「良い→悪い→最悪」のスペクトルで整理しました。良いのは予想以上の成長、悪いのは中東戦争のエネルギー・ショックと円キャリーの巻き戻し、最悪はフランスの国債利回りの急騰が示す債務危機です。ただ別の記事では、「大半は成長要因で、財政が最弱の国だけがリスク・プレミアム」と述べています。
エドゥアール・カルミニャックは、「安い資金の時代の終わり」を論じました。高金利が続くなら、2030年までに利払い費は米国とフランスで約50%増え、債務は対GDPで米国100%→110%、フランス119%→132%に上がるという試算です(赤字不変の想定)。
利上げの足音
カルミニャックは、4月に、ECBが据え置きか小幅利下げから、3回の利上げ観測に変わったと書きました。オ・ゴニョンは、ECBが2.0%から2.25%に利上げした(2023年9月以来)と整理しています。マイケル・ハートネットは、9月の利上げを、ECB・FRB・日銀が信頼できる行動で示したものであり、債券利回りのピークを示す可能性があると見ました。
同盟の摩擦と政治の混乱
ケン・グリフィンは、1月のダボス会議で、グリーンランド問題で欧州に追加関税をちらつかせた米国について、欧州の同盟国との関係を「擦り切れさせた」と述べました。関税が長年の貿易関係を乱し、米国のインフレを押し上げたとも指摘しています。レイ・ダリオは、バブルが弾けると「人々が互いに喉元をつかみ合う」状態になるとし、英国で7年に首相が6人替わったことを症状として挙げました。この発言はフォーチュン経由の報道です。
5. なぜ割れるのか:四つの前提
前提1:安さは一時的か、構造的か
ガンドラックの数字(PBR 5.72倍対2.49倍)は割安さを示しますが、その差が縮まるとは限りません。フィッシャー自身が、米国外バリューが米国バリューを上回る想定は実現していないと認めました。割安さは、買う理由にも、買えない理由にもなります。
前提2:財政の不安がどこまで広がるか
ヤルデニは、フランスを「最も財政の弱い国」に限定し、成長要因が大半だと見ます。カルミニャックは、米国とフランスの利払い増を同列に並べます。同じ「債務」の話でも、フランス一国の問題と見るか、世界共通の構造と見るかで、欧州株の評価は分かれます。
前提3:AIは英国の優良株を壊すのか、守るのか
トレインはAIをデータ企業の追い風と見ますが、2026年前半の株価は逆を示しました。9月末の月次でようやく確信が戻り始めたという段階です。弱気派の「2〜3年後の破壊」は、証明も反証も時間がかかります。トレインは、AIの破壊から逃れやすい資産をポートフォリオに持つこと自体に分散の価値があると見て、ユニリーバをその例に挙げました。
前提4:為替
ガンドラックは、ドルがさらに下がると見ています。ドル安は、ドルで測った欧州株の収益を押し上げます。逆にスミスは、強いドルとトランプ政権の政策目標(金利低下と貿易赤字縮小)は両立しないと見ます。ドル安は非米国資産には追い風ですが、米国株を持つポンド建ての投資家には逆風になります。
6. 買い手の側で起きていること:M&Aという「割安の証明」
ここまでの議論を横から支える動きがあります。企業買収です。
トレインの4月の月次報告は、保有銘柄のうち、インターテック(PEの買収打診)、シュローダー(買収合意)、オートトレーダー(アクティビストが出現)、LSEGとライトムーブ(アクティビストが株主登録)、ユニリーバなど、買収やアクティビストに関わる銘柄が相次いだと整理しています。8月の報告では、インターテックとシュローダーの買収完了で出た資金を、再投資する基準を示しました。ロンドン上場で世界的な規模を持ち、ブランド・データ・独占的な顧客網といった独自の強みを持つ企業、という条件です。新規には、蒸気管理などの特許技術を持つスパイラックスを挙げました。
3月の報告では、25年間の英国株戦略を支えた三つの柱(データ・ソフト・プラットフォーム、プレミアム消費ブランド、資産運用会社)を総点検しています。ハーグリーブズ・ランズダウンとシュローダーが買収され、汎用型の運用会社の栄光の時代は、少なくとも一時終わったと認めました。買収が相次ぐのは、割安な優良ブランドを、コスト削減目的で買う動きが強まっている兆候だと、トレインは読みます。
これは「安いから買い手が現れる」という、割安の外部検証です。ただし、買収で値が上がるのは売り手の株主で、買収後に残る銘柄は減っていきます。スミスがユニリーバの企業行動に「根本問題は解決しない」と不信を述べたのは、この裏側にあたります。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
冒頭の整理に戻ります。「欧州・英国を買うか」は、三つの別の問いが混ざっています。ECBの利上げ局面での欧州全体、財政に不安のあるフランス、AI懸念で売られた英国の優良株。シーゲルやガンドラックの「分散」の話と、トレインの「個別株」の話を、同じ土俵で比べると誤解します。
トレインの成績の推移は、示唆に富んでいます。昨年11月、今年1月、第2四半期は指数に劣後し、第3四半期は上回りました。説得力のある主張でも、市場が受け入れるまでに半年以上かかる。「割安だから買う」は、時間を味方にできる人にしか成り立たないと、筆者は考えます。
ヤルデニが挙げた「フランスの国債利回り」による債務危機のシナリオは、現時点では最悪の端であり、本人も主因ではないとしています。ただ、カルミニャックが書く「フランス119%→132%」は、債務の話が欧州株にとって最大の外からのリスクであることを教えます。読者が確かめたいのは、ECBの利上げの行き先と、フランスの国債利回りの動き、そしてセージやRELXの成長率が続くかどうかです。
最後に、この記事の数字には、英国のファンドの月次報告や要約、二次報道が含まれます。特にダリオの発言は報道経由で、確信度は中程度です。
出典
- ケン・フィッシャー(公式サイト動画)、2025年12月31日(Fisher Investments)・2026年3月4日(Fisher Investments)・7月9日(Fisher Investments)
- ジェレミー・シーゲル CNBC(Podwise要約)、2026年10月5日(Podwise)
- ジェフリー・ガンドラック、2026年3月19日(DoubleLine)・9月10日(YouTube)
- プレム・ワツァ フェアファックス株主への手紙、2026年3月6日(Fairfax)
- ダン・ローブ サード・ポイント第1四半期書簡、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)
- スティーブン・シュワルツマン ブラックストーン決算説明会、2026年1月29日(MarketBeat)
- ニック・トレイン フィンズベリー・グロース&インカム信託 月次ファクトシート、2026年1月31日(FGT)・2月28日(FGT)・5月31日(FGT)・6月30日(FGT)・9月30日(FGT)
- テリー・スミス ファンドスミス年次書簡、2026年1月15日(Fundsmith)・半期書簡、7月15日(Fundsmith)
- エドゥアール・カルミニャック 四半期書簡、2026年4月7日(Carmignac)・10月6日(Carmignac)
- エド・ヤルデニ QuickTakes、2026年10月7日(Yardeni)
- ケン・グリフィン ダボス会議(ロイター配信)、2026年1月21日(Internazionale)
- レイ・ダリオ(Fortune記事経由)、2026年7月30日(Fortune)
- マイケル・ハートネット BofA Flow Show、2026年9月3日(Finvaulta)
- オ・ゴニョン 京郷新聞コラム、2026年6月24日(京郷新聞)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。