バブル論が噛み合わないのは、見ている物差しが違うから:6〜10月の警告と六つの見分け方
バブルかどうかは、崩れたあとにしか確定しません。それでも投資家たちは、崩れる前から、あるいは崩れている最中に、自分なりの判断を口にします。2026年6月から10月までの発言を日付順に並べてみると、警告の強さはあまり変わらないのに、人によって「何を見て」そう言っているのかが、驚くほどばらばらでした。
では、なぜ同じ相場を見て、これほど意見が分かれるのか。バブル論が噛み合わないのは、意見が割れているからではなく、見ている物差しが違うからです。 物差しは六つに分けられます。株価の割高さ、上昇の広がり、熱狂、資金の出どころ、株の供給、利益の裏付けです。同じ相場を前にして、一つ目だけを見て警告する人もいれば、六つ目を見て「バブルではない」と答える人もいます。
なお、本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。バブルの有無や、崩れる時期を予想するものでもありません。
時系列:6月から10月に、誰が何を言ったか
6月:広がりの欠如と、半導体の急落
最初に目についたのは、「上がっている銘柄が少ない」という指摘です。6月初め、バンク・オブ・アメリカのハートネットは、S&P500で新高値をつけた銘柄がわずか21銘柄(4%)しかなく、2000年3月の20銘柄とほぼ同じだと整理しました(要約記事による)。指数は高値でも、中身が追いついていない。それが過去のバブル天井の特徴だというのです。翌日には、ヘッジファンド創業者のダリオも、AI市場にはバブルの兆候があり、いずれ崩れると語っています(報道による)。
半導体株が急落した日には、ウォートン校のシーゲルが落ち着いた見方を示しました。SOXX(半導体株の指数)が2020年3月以来の最悪日を記録しても、「階段で上がり、エレベーターで下がる」のはよくあること。放物線のように上がったあとの反動は、たいてい大天井ではなく短い天井だといいます。ただし、前の高値を超えられなければ、本格的な下落の始まりもありうる、とも話しています。
6月半ばには、投資家のクラーマンが、AIを「バブル」と断定はしないものの、バブルの特徴は揃っていると話しました。社名に AI とつけただけで株価が上がる例まで出ているからです。彼が問題にするのは技術ではなく、40倍や、事実上いくらでもよい倍率を払って遠い将来を先取りする「値段」のほうでした。
日本からは、澤上篤人が数字で見せています。日経平均が1日で3,000円超上がった日に、採用225銘柄のうち、たった4銘柄が上昇分の34%を占めていたというのです。そして6月末、グランサムが「米国史上最大の投資バブル」と言い、ピークは「ごく近い」と述べました。
7月:IPOと「複々合バブル」
7月に入ると、話の中心は新規上場(IPO)に移ります。ACATIS(ドイツの運用会社)の月次レポートは、スペースXの上場を「警戒信号だ」と言い切っています。目論見書に大風呂敷が並び、それを個人投資家が難なく買う。それは市場の価格が大きく変わる前触れだ、というのです。南海泡沫事件やミシシッピ計画を引き合いに、「火星で富を約束されている。良い響きではない」と皮肉っています。
筆者は、この一言がいちばん刺さりました。理屈ではなく、「売るほうの熱が冷めない相場は、そろそろ危ない」という肌感覚を、笑いにくるんで言い当てているからです。
テリー・スミスは、値上がりの勢い(モメンタム)が30年ぶりの高さで、ITバブル崩壊直前の1999年末より極端だと指摘しました。一方、中国の運用者・張坤は、「広がりの欠如は1999年にかなり似ている」と認めながら、決定的な違いを一つ挙げます。AIの中核を担うハード企業の多くが、高い利益予想をほぼ達成しているという点です。
澤上は、史上空前のカネ余り、株価を担保にしたマネー、上昇相場しか知らない投資家という三つが重なった状態を「複々合バブル」と名づけました。月末にはダリオが、バブルは1929年や2000年に近づいていると警告し、グランサムの「史上最大」にも「彼は正しい」と答えています。ただし、バブルは「程度の問題」で、あるかないかの二択ではないとも話しました(報道による)。
反対側には、エド・ヤルデニがいます。年初来9.3%の上昇を見て、S&P500は目標の8,250に届くと予想し、AIバブルは「すでに空気が抜け始めていて、起きにくい」と書きました。
8月と9月:調整のあとで、最終局面を見る目
8月、シーゲルは、ラッセル・グロースがバリューに対して4年半で最悪の劣後になった局面を受けて、バブルに近かったのはチップ関連の一部だけで、それが冷えるのは健全だと述べました。ノルウェー政府系ファンドのタンゲンは、AI主導の調整に関税と貿易制限が重なれば、1920〜30年代の大恐慌に似た状況になりうると語り、極端な場合は株式投資の価値の少なくとも80%が失われうるとしました(報道による)。これは差し迫った崩壊の予告ではなく、悪い場合の幅を示した話です。
9月に入ると、スピッツナーゲルは、S&P500がなお約20%上がって8,000を超えたあとに、約80%の暴落が来ると答えました。熱狂の最終局面は「数か月先」とみています。ガースナーは、これに真っ向から反対しました。「2000年のようなバブルではない」。エヌビディアは来期利益の約14倍にすぎない、というのが理由です。クリス・ウッドは中間の立場で、AIバブルの崩壊は6〜12か月で起こりうるが、いまはAI設備投資の予想がまだ上がり続けている、としました。
10月:金利と供給に目が移る
10月初め、ハートネットのBull & Bear指標は9.3から8.8に下がったものの、「売り」の合図は続いていました。S&P500のうち400銘柄が50日平均を下回り、投資家はAIとハイテクだけに集まっています。ダリオは「典型的なバブル」で、崩れる点に近づいていると述べました。その時点では、S&P500もナスダック100も、同じ週に最高値を更新していました(報道による)。
ダモダランは、あえて「バブル」という言葉を使わないと書いています。巨大な賭けが資本コストを上回って稼げるかは、時間をかけないと分からない。会計上の評価損が出るのは、価格が下がったあとなので、市場のほうが先に反応するだろうという整理です。PTJ は「2027年は株式市場にとって非常に厳しい年になる」と発言しました。
澤上は、日経平均が3,000円超急落した翌日の急反発を見て、「ただの冷や水だったのか」と自問しています。彼がいま注視するのは、銀行融資を上回る規模にふくらんだプライベートクレジットなどの、銀行以外の貸し手です。
同じ時期に、「バブルではない」と答えた人たち
警告が続く間にも、否定する声は並んでいました。孫正義は、AIは「実質まだ3年目」で、創業3年以内のアマゾンやグーグルの株なら、迷わず全財産で買うはずだと話しました。メモリや半導体の株高への「一抹の不安」は認めながら、バブルとみるのは誤りだと言います。さらに、「AIはバブルか」という問いそのものを、「とんでもない愚問」と切り捨てました。
カルミニャックは、ITバブルの再来かという問いは正当だと認めつつ、過去の変革で最大の誤りは、転換を早く見限ったことだったと述べました。10月の書簡では、資金が安かった時代は市場全体を持つだけでよかったが、資金が高くなれば銘柄の選別が決定的になると説いています。ブラックストーンのシュワルツマンは、過熱の可能性を自覚していると明言したうえで、規模と知識の強みを生かし、確信の持てる案件だけを選ぶと語りました。パブライは、みんなが興奮している分野は避けるのが原則で、AIで見るなら、メモリ(金鉱掘りのつるはし)ぐらいだと話します。メモリ大手が数年先の売上を固定しているのが理由です。
おもしろいのは、ヤルデニの使い方です。彼は「恐怖はピークか」には「はい」、「金利のピークか」には「たぶん」、「利益のピークか」「AIのピークか」には「いいえ」と答えました。心配の種が多いこと自体が、相場が「不安の壁」を登る条件だと考え、ダリオとグランサムの悲観論を、むしろ逆張りの材料として引いています。同じ警告が、ある人には警戒の根拠になり、別の人には楽観の根拠になる。バブル論が噛み合わない理由が、ここによく出ていると筆者は思います。
六つの物差し
1. 株価の割高さ
グランサムは、PER(株価が利益の何倍かを示す数字)を、日本の1989年(65倍)やITバブル(35倍)と並べ、いまは「35〜40倍」とみています。クラーマンも、問題は技術ではなく値段だと言います。この二人は、会社が良いかどうかではなく、「いくら払っているか」を物差しにしています。
2. 上昇の広がり
ハートネットの新高値銘柄数、張坤の「広がりの欠如」、澤上の「225銘柄中4銘柄が34%」は、どれも上昇が少数に偏っていることを見ています。ハートネットは10月にも、同じ物差しで悪化を示しました。「400銘柄が50日平均を下回る」という数字です。
3. 熱狂
グランサムは、スペースXの上場を「熱狂の指標だ」と言い切りました。小惑星採掘のような大風呂敷と、AIの成功という物語が重なるのは、バブル頂点の典型的な姿だというのです。ACATIS も同じ上場を警戒信号としました。物語の大きさと、買い手が個人にまで広がることが、この物差しの中身です。
4. 資金の出どころ
ダリオは、バブルを突き刺す力として、金利上昇による返済負担の増加と、株式発行の急増を挙げます。スピッツナーゲルは、原因は長年のゼロ金利で、引き金は借入コストの上昇だと説きます。ウッドは、設備投資は最初の3年は手元資金でまかなわれたが、今年から借入が増えていると指摘しました。澤上が見るのはプライベートクレジットの膨張です。バブルの終わりは、お金の「質」の変化に現れる、という見方です。
5. 株の供給
PTJ は、バブル相場を支えてきた自社株買いとM&Aが逆回転し、IPOや公募増資で新しい株が増えると見ています。スペースXの上場が終わったばかりで、アンソロピックやオープンAIの上場も控える。需給は2002年以来で最悪というのが彼の言葉です。ダリオの「株ほど簡単に作れるものはほとんどない」とも重なります。
6. 利益の裏付け
ガースナーは、利益が26%増え、割高さはむしろ縮んでいると言います。張坤は、AIの中核企業が高い利益予想を達成していることを、1999年との違いに挙げました。シーゲルは慎重で、利益が2倍になっても、それが続かないかぎり、株価が2倍になる理由にはならないと述べています。利益が出ていることと、その利益が続くことは、別の問いなのです。
| 物差し | 見ている点 | 主な人物 | |---|---|---| | バリュエーション | PER・倍率 | グランサム、クラーマン | | 広がり | 新高値銘柄数、上昇の偏り | ハートネット、張坤、澤上 | | 熱狂 | IPO・誇大な物語 | グランサム、ACATIS | | 資金の出どころ | 借入、金利、信用 | ダリオ、スピッツナーゲル、ウッド、澤上 | | 株式の供給 | IPO・増資と自社株買い | PTJ、ダリオ | | 利益の裏付け | 利益の実現と持続性 | ガースナー、張坤、シーゲル |
株譜の見方
以下は、公開された発言をもとにした筆者の推論です。
時系列で並べて、まず気づくのは、警告の「中身」が移っていくことです。6月は広がりと割高さ、7月はIPOと熱狂、9〜10月は金利、借入、供給へ。物差しが、静かに動いています。この動きは、10月12日に米10年債利回りが5.25%と24年ぶりの高さをつけ、日経平均が13日と15日に大きく下げたことと、同じ向きです。物差しが「値段」から「資金」に移ると、バブル論は「高いか安いか」の議論から、「お金が続くか」の議論に変わります。
もう一つ、筆者が見逃せないと思うのは、「バブルではない」と言う側の物差しが、ほぼ利益に寄っていることです。ガースナーと張坤は、利益が実現していることを根拠にします。「バブルだ」と言う側は、利益が続くか、お金がどこから来るかを問います。同じ物差しで測っていないのだから、議論が噛み合わないのは当然です。ダモダランが「バブル」という言葉を使わないのは、この不毛な言葉争いを避けるためではないか、と筆者は想像しています。
物差しごとの弱点も見えてきます。割高さは、グランサムの警告が早すぎて顧客資産の半分を失った経験が示す通り、水準は分かっても時期は分かりません。広がりは、状況が悪化しても同じ数字で測り続けられる反面、いつ転換するかは教えてくれません。熱狂は主観を含み、ACATIS の「警戒信号」とシュワルツマンの「厳選して投資する」のように、同じ過熱を前に正反対の行動が出ます。資金の出どころは筋が通りやすい分、スピッツナーゲルの「8,000超のあとに約80%下落」のように、数字が具体的になるほど、外れた時の距離が大きくなります。使う物差しを一つに絞らず、いくつも重ねて見る人ほど、結論が慎重でした。これが筆者の感想です。
最後に、ダリオの言う「程度の問題」に戻ります。バブルを有無の二択で語ると、崩れなければ警告は外れたことになってしまいます。ところが発言を並べると、警告の多くは時期を決め打ちせず、条件を挙げています。金利の上昇、株の供給増、借入の巻き戻しです。読者が確かめられるのは、その条件が自分の持ち物にどう効くかです。誰かが「バブルだ」と言ったら、まず「どの物差しで言っているのか」を尋ねてみてください。それだけで、騒がしい議論の見通しがだいぶよくなります。
免責
本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。数字は各出典の記載に基づきます。二次情報に基づく部分は、本文中にその旨を付しました。
出典
- Michael Hartnett、TechFlow(二次)2026年6月2日 https://www.techflowpost.com/en-US/article/31857 、Finvaulta(二次)2026年10月1日 https://finvaulta.com/research/bank-of-america/the-flow-show-a-tail-of-two-cities-2026-10-01
- Ray Dalio、Bloomberg Law(二次)2026年6月3日 https://news.bloomberglaw.com/financial-accounting/dalio-sees-ai-bubble-bursting-as-wealth-is-converted-into-money 、Fortune(二次)2026年7月30日 https://fortune.com/2026/08/04/ray-dalio-ai-bubble-1929-2000-ipos-wealth-is-not-money/ 、Business Standard(二次)2026年10月7日 https://www.business-standard.com/world-news/ai-a-classic-bubble-that-is-nearing-bursting-point-warns-ray-dalio-126100700284_1.html
- Jeremy Siegel、CNBC 2026年6月5日 https://www.cnbc.com/2026/06/05/fridays-sell-off-is-rarely-the-top-of-a-rally-says-whartons-jeremy-siegel.html 、Weekly Siegel Commentary 2026年7月20日 https://resources.wisdomtree.com/weekly-siegel-commentary/archive-july-20-2026 、2026年8月3日 https://resources.wisdomtree.com/weekly-siegel-commentary/archive-august-3-2026
- Seth Klarman、iConnections Global Alts NY、2026年6月15日。https://iconnections.io/insights/seth-klarman-baupost-ai-era-global-alts-ny-2026/
- 澤上篤人、長期投資家日記、2026年6月16日(https://sawakami.blog/2026/06/%e5%87%84%e3%81%84%e3%83%90%e3%83%96%e3%83%ab%e7%9b%b8%e5%a0%b4%e3%81%a8%e3%80%81%e6%97%a5%e7%b5%8c%e5%b9%b3%e5%9d%87%e6%a0%aa%e4%be%a1.html)、7月22日(https://sawakami.blog/2026/07/%e8%a4%87%e3%80%85%e5%90%88%e3%83%90%e3%83%96%e3%83%ab.html)、10月16日(https://sawakami.blog/2026/10/%e3%81%9f%e3%81%a0%e3%81%ae%e5%86%b7%e3%82%84%e6%b0%b4%e3%81%a0%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%8b%e3%80%81%e3%80%81%e3%80%81.html)
- Jeremy Grantham、The Diary of a CEO、2026年6月25日。https://www.gmo.com/americas/research-library/jeremy-grantham-joins-the-diary-of-a-ceo-the-biggest-bubble-in-american-history_inthenews/
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- Mohnish Pabrai、YouTube、2026年8月19日。https://www.youtube.com/watch?v=HtY9LPpQIuQ
- Ed Yardeni、QuickTakes、2026年8月25日。https://yardeni.com/research/quicktakes/2026/08/25/peak-fear-peak-yields-peak-earnings-peak-ai
- Chris Wood、Business Standard、2026年9月17日。https://www.business-standard.com/markets/news/gold-at-10k-sip-flows-mid-smallcap-outlook-chris-wood-s-india-market-playbook-decoded-126091700520_1.html
- Aswath Damodaran、Musings on Markets、2026年10月8日。https://aswathdamodaran.blogspot.com/2026/10/stock-prices-earnings-and-cashflows-ai.html
- Paul Tudor Jones、CNBC Squawk Box(JournalArta転載、二次)、2026年10月13日。https://journalarta.com/en/2026/10/14/paul-tudor-jones-2027-stock-market-warning/