株譜
INVESTOR OUTLOOK

ケン・グリフィン:読みの正しさより、混乱の最中に動く速さ。寮の屋上のアンテナから、資本の半分を失った2008年まで

失敗と成功

ケン・グリフィンは、ヘッジファンドのシタデルと、市場に売り買いの値を出し続けるシタデル・セキュリティーズの創業者です。最近の景気・金利・AIについての発言は、別稿「ケン・グリフィン:最近の市場見通し」にまとめました。そちらでは2008年の大敗を簡単に触れただけなので、本稿では本人が講演やインタビューで語った「自分の成功と失敗」を、場面ごとに掘り下げます。

九つの場面に共通していたのは、読みの正確さではなく、動く速さでした。グリフィンの強さは、読みの正確さよりも、混乱のさなかに人と時間を動員する速さにある。そして2008年は、その同じ性質が裏目に出た場面だった。

先にお断りしておきます。整理に使った資料では、一部の数字や細部が「要確認」とされています。2008年の電話の逸話や経営陣の費用負担、エンロン関連の手数料の額などです。そうした部分は、本文でその都度断ります。

寮の部屋で、プット・オプションと衛星アンテナ(1986〜1987年)

ハーバード大学の1年生だった冬、グリフィンは雑誌『フォーブス』で、新規公開で株価が500%も過熱していたホーム・ショッピング・ネットワークの記事を読みました。バブルの崩壊を見込んで、プット・オプション(株価が下がると儲かる権利)を2契約買います。数日後に株価は30〜40%下がり、2,000〜3,000ドルの利益になりました(ルーベンスタイン・ショー、2019年3月27日)。

そこから本格的に取引へ入ります。リアルタイムの株価を得るために、大学の許可を得て寮の屋上に衛星アンテナを付け、使われていないエレベーターの坑道を通して自分の部屋までケーブルを引きました。やっていたのは転換社債の裁定取引、つまり割安と割高の差を取る取引です。1987年秋には、家族や知人から26万5,000ドルを集め、寮の部屋でファンドを始めました。

直後の10月のブラックマンデーで、この備えが効きます。数式モデルに基づいて前もって売りでヘッジしていたため、暴落でも利益が出て、運用資金は100万ドルに増えたといいます(シカゴ経済クラブ、2013年5月20日の講演。動画の公開は2019年8月22日)。

筆者は、寮の屋上にアンテナを立てる大学1年生という絵面がまず好きです。ただ、本当に感心するのは、デビューの暴落が「運」ではなく「備え」で乗り切られていることです。本人が挙げる教訓は、リスクを取れる20代のうちに思い切ってリスクを取れ、というもの(スタンフォードGSB、2025年4月30日)。ヘッジを先に置いたうえでのリスクだ、という点は見逃せません。

「1年運用して、成功したら独立」:シカゴへ(1989〜1990年)

1989年にハーバードを卒業するとき、グリフィンはウォール街の高級スーツの金融マンではなく、高校の物理の先生のように素朴なフランク・マイヤーが率いる、シカゴのグレンウッド・パートナーズの誘いを選びました。条件は「1年間資金を運用し、うまくいけば自分のファンド設立を支援してもらい、だめならビジネススクールに戻る」というものです(シカゴ経済クラブ、2021年10月5日)。

1年の運用で成果を出し、1990年11月に450万ドルの初期資本でシタデルを発足させます。資料によれば、その後35年以上で投資家に生んだ累計の純利益は500億ドルを超え、初期に100万ドルを出したパートナーの持ち分は2億3,500万ドル以上になりました(Bloomberg Wealth、2022年3月23日)。

マイヤーの助言は、単一の戦略に固執せず、優れた人材が集まる基盤を作れ、というものでした。グリフィンは「優れた人たちで周囲を固めろ」を、いまも経営の指針にしています。この「人を集める」という発想が、次のエンロンの話につながっていきます。

2001年12月、エンロン破綻の日に16人でヒューストンへ

エンロンが粉飾決算で破綻した日、グリフィンはプライベートジェットをチャーターし、16人の調査チームを連れてヒューストンへ飛びました。「事業が実際にどこで価値を生んでいたのか、何がうまくいき、何が失敗したのか」を知るためです。数日をかけて、何百人ものエンロンの社員に会ったといいます。

その後、エネルギー取引を止めたアキーラ社に手数料を払い、取引担当者600人と面接する権利を買い取りました(手数料の額は資料の文面が乱れており、要確認)。結果として、エンロンのクオンツ・チーム(数理モデルで取引する部隊)の幹部とアキーラの人材をシタデルに迎え入れます。そうして作った商品・エネルギー部門は、累計で300億ドル以上の利益を生む事業に育ったとされています(創業者向けポッドキャスト「Founders」、2025年4月22日)。

本人の言葉は、こうです。シタデルの根っこはリサーチで、「取引は、リサーチを現金に変える手段にすぎない」。

筆者は、この話がグリフィンらしさの核心だと思います。普通の人は、破綻した会社から目を背けます。彼は破綻の当日に現場へ飛び、そこから人材と知見を持ち帰りました。他人の事故現場を、いちばん安く学べる教室として使っているのです。

2007年の日曜夜、300億ドルのポートフォリオを一晩で買う

2007年の夏の日曜日、ボストンのヘッジファンド、ソウッド・アセット・マネジメントが、信用市場の初期のショックで数億ドルの損失を出します。翌朝の市場開始前に、資金繰りに行き詰まりました。ソウッドは、大手投資銀行とシタデルの双方に買い取りを持ちかけます。

競合の銀行の担当者は、夜中に「今夜中に終わらせるのは無理だ、家に帰って明日出直そう」と告げました。グリフィンは「明日の朝には、拾うべきものは何も残っていない」と答え、ただちに50人の緊急チームを組みます。うち8人を夜間飛行でボストンに送り、資産査定を進めさせました。

月曜朝の市場開始までに、ソウッドが持っていた300億ドル規模のクレジット・ポートフォリオ全体を買い取ったといいます。シタデルには大きな超過利回りが入り、市場の混乱も抑えられました。本人はリンカーンの言葉を引き、待つ者に来るのは、動く者が残したものだけだ、という趣旨を語っています(シカゴ経済クラブ、2013年5月20日の講演)。

ここで筆者が注目するのは、銀行と彼の差が「頭の良さ」ではなく「家に帰るか帰らないか」だった点です。同じ情報を持っていても、夜のうちに動いた者だけが、朝には全部を手にしていました。

2008年:16週間で資本の約半分を失った

最大の失敗は、2008年秋の金融危機です。リーマン破綻後、シタデルは高いレバレッジ(借り入れを使った大きな取引)と市場の急落に巻き込まれました。わずか16週間で自己資本の約半分を失ったと、本人は語っています。競合他社が作った「最も破綻しそうな5社」のリストに自社の名があり、CNBCの中継車が速報を狙って本社前に待機していた、といいます。

原因について、本人ははっきり認めています。2006〜2007年の好調で「過信」に陥り、銀行システム全体の脆さを見誤ったというのです(資料には、この時期の取引利益を130億ドルとする記述がありますが、これも要確認)。

資料によれば、ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクフェインに電話で「この危機はいつ終わるのか」と尋ねたところ、「山火事は、燃やすものがなくなったときに終わる」と返されました。そこでグリフィンは現実を受け入れます。投資家の払い戻しを一時止め、資産の清算と不採算事業の閉鎖を進めました。経営陣が自ら5億ドルの費用を負担して資金繰りをつないだという話もありますが、この細部は資料側で要確認とされています。

16週間を耐え抜いて、シタデルは破綻を免れ、2009年から2012年にかけて業績を回復させました。本人の言葉は短いものです。損失はすべて授業料で、地獄を歩いているときは、ただ一歩ずつ足を前に出し続けるしかない(マイアミのビジネス・フォーラム、2025年11月11日)。

筆者は、原因を「過信」の一言で言い切る潔さに感心しました。同時に、ここで気づくことがあります。ソウッドの夜に「明日では遅い」と言えた人が、自分の足元の脆さには気づけなかった。速く動く力は、勢いがつきすぎれば、止まる力の弱さにもなります。16週間で半分という速さは、よい相場のあとほど、悪い局面が一気に来ることも示しています。

電話取引の終わりを見て、マーケットメイカーを作った(2000年代)

2000年代の初め、ヘッジファンドが順調だった時期に、グリフィンは見切りをつけます。電話やフロアのブローカーを介した取引から、コンピューターによる即時の自動処理への移行は、もう戻らないと見たのです。ソフトウェアの技術と予測の分析に強みがあれば、既存の投資銀行よりはるかに低いコストで流動性(いつでも売り買いできる状態)を提供できる。周囲の懸念をよそに、シタデル・セキュリティーズを立ち上げました。

資料によれば、現在は米国の株式取引量の約4分の1を毎日処理しています。2020年の収益は67億ドル、2022年にセコイア・キャピタルとパラダイムへ一部の株式を売った際の評価額は220億ドルに達しました(Bloomberg Wealth、2022年3月23日)。単一の事業モデルに安住しない、という本人の説明を、成功した例として読めます。

2020年3月、パームビーチのホテルを丸ごと借りた

2020年3月、コロナが広がってロックダウンに入ったとき、グリフィンは、呼吸器系のウイルスが高温・多湿・強い紫外線の環境で感染力が弱まるという特性を調べました。そしてフロリダ州パームビーチの高級ホテル、フォーシーズンズを丸ごと借り切ります。わずか5日間で200人のスタッフとエンジニアが24時間体制で作業し、ニューヨーク証券取引所の全取引量を処理できるバックアップ用の取引フロアを、ホテルの大広間に仮設しました。社員とその家族は、安全な「バブル」に入ったのです。

市場が激しく乱高下するなか、シタデルとシタデル・セキュリティーズは1秒も止まらずに、流動性の供給と運用を続けました。この経験が、のちに本社をシカゴからマイアミに移す決め手になったと、本人は語っています(Bloomberg Television、2025年6月26日)。危機では、行動することに偏った姿勢が競争上の強みになる、というのが本人の整理です。

ホテルを丸ごと借りるという発想には、筆者も笑ってしまいました。ただ、笑い話にとどまらないのは、それが「止まらないこと」への執念だからです。ここまで来ると、グリフィンの強さが読みではなく動員にあるという見立ては、本人の自己評価と重なります。

暗号資産では15年間、見立てを外した

グリフィンは15年間、暗号資産に否定的な立場を取ってきました。しかし時価総額が約2兆ドルに達した実績を見て、2022年のインタビューで「この15年間、この点で私は正しくなかった」と認めます。暗号資産が経済のどの課題を解くのかという根本的な疑いは持ち続けながら、世界中の投資家の需要に応えるため、シタデル・セキュリティーズとして暗号資産のマーケットメイクに参入する方針へ舵を切りました(Bloomberg TV、2022年4月11日)。

4,460万ドルで恐竜の化石を落札した

投資とは別の話ですが、2024年に本人は、歴史上最も状態が良いとされるステゴサウルスの化石「エイペックス」を、サザビーズの競売で4,460万ドル(恐竜の化石としては史上最高額)で落札しました。幼いころから科学と恐竜への関心が強く、貴重な標本が海外の個人コレクションに隠れるのを避け、米国の子どもたちの科学教育に役立てたいと考えたと語っています。標本は、アメリカ自然史博物館などへ長期貸与されています(Bloomberg Television、2025年6月26日)。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

九つの場面のうち、失敗として語られるのは2008年と暗号資産の2件だけで、残りは成功談です。しかし、その成功談の多くは、他人の失敗の現場に飛び込む話でした。エンロンの破綻、ソウッドの資金繰り、コロナ初期の混乱。冒頭に書いたとおり、グリフィンが強いのは、読みの正確さよりも、混乱の最中に人と時間を動員する速さだと筆者は見ています。

そう考えると、2008年と2007年のソウッドは表裏に見えます。2007年の夏には、他人の資金繰りの危機を一晩で買い取る側にいました。1年あまり後には、自分が同じ危機の当事者になったのです。危機を買う側が、いつ買われる側に回るかは分かりません。流動性は正しさと同じくらい大切だという本人の整理は、この立場の入れ替わりを経験したから出てくるのでしょう。ただし、これは当時の心境を知らない第三者の読みにすぎません。

個人投資家が持ち帰れるのは、次の二点だと考えます。ひとつは、レバレッジを掛けた状態では、自分の読みが外れる幅をあらかじめ想定しておくこと。もうひとつは、寮の部屋での最初の取引から続く「ヘッジをかけ、数式で危険を測り、情報を自前で取る」という順序です。ブラックマンデーで利益が出たのは、運がよかったというより、前もって備えていたからだと本人は語っています。真似できるのは、備えてから動く順序の部分でしょう。

暗号資産の件は、失敗の認め方としても参考になります。15年間の主張が外れたと公に言い、事業の方向を変える。ただし、結論を変えただけで、疑いまで捨てたわけではありません。意見を変える速さと、疑いを持ち続ける粘りが、同じ人の中に同居しています。

恐竜の話を成功談に入れるかどうかは迷いました。ただ、本人は資本の使い道を「共有財産を守ること」と説明しており、成功の意味を本人がどう定義しているかが見える場面だと思い、残しました。

自分の投資を点検するなら、見るべきは二つです。相場が荒れた日に動ける現金や時間を残しているか。そして、好調が続いた後ほど、「過信」が入り込んでいないか。


出典

  • David Rubenstein「The David Rubenstein Show: Citadel's Ken Griffin」、2019年3月27日(YouTube)
  • The Economic Club of Chicago「Kenneth Griffin, Founder & CEO, Citadel, 5/20/13」、2019年8月22日(YouTube)/「Kenneth C. Griffin, Founder & CEO, Citadel, 10/4/21」、2021年10月5日(YouTube)
  • David Rubenstein「Bloomberg Wealth: Citadel's Ken Griffin」、2022年3月23日(YouTube)/Citadel「Ken Griffin and David Rubenstein on Bloomberg TV」、2022年4月11日(YouTube)
  • Founders Podcast「Ken Griffin: Founder of Citadel and Citadel Securities」、2025年4月22日(YouTube)
  • Stanford GSB「View From The Top with Ken Griffin, Founder and CEO of Citadel」、2025年4月30日(YouTube)
  • Bloomberg Television「Ken Griffin on China, Trump and Why He Bought a Dinosaur - Bonus Content from Bullish」、2025年6月26日(YouTube)
  • America Business Forum「Ken Griffin: Vision, Leadership and the Future of Global Markets」、2025年11月11日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、株譜の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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