株譜
INVESTOR OUTLOOK

ケン・グリフィン:景気の診断は辛口、運用は攻め──「守り」は現金か攻めかの二択だと言う理由

人物

世界景気には厳しい目を向けながら、運用では守りに入らない。ヘッジファンド、シタデルの創業者ケン・グリフィンは、そんな投資家です。

辛口の診断と攻めの運用は、一人の頭の中でどう両立しているのか。筆者の読みはこうです。グリフィンの景気の診断は辛口で、運用の姿勢は攻めだが、二つは矛盾しない。彼の言う「守り」は、現金にするかしないかの二択であり、中途半端に安全な資産へ寄せることは、守りではなく負けの入り口だからだ。

シタデルは、市場で売り買いの相手役をつとめる「マーケットメイカー」としても最大級の会社です。創業のきっかけは、ハーバード在学中に寮の屋上へ衛星アンテナを付け、株価データを取り込んで転換社債の裁定取引を始めたことだと伝わります。旗艦ファンドのウェリントンは、1990年の設立から年率19%の成績とされます。2025年は10.2%の上昇でした。S&P500の16.4%には届きませんでしたが、4月の関税ショックで弱気相場の入り口まで下げた年としては、悪くない数字です(2026年1月2日、CNBC)。

グリフィンは2024年にトランプに投票した共和党支持者です。それでも関税とFRBへの圧力には、繰り返し反対してきました。党派を気にせず物を言う点は、筆者も好感を持ちます。党派の人なら、味方の政策は批判しにくいからです。ここでは2025年秋から2026年10月までの発言を、テーマごとに見ていきます。なお2026年の動画に由来する細部には、字幕との照合が済んでいないものがあります。そうしたものは本文で「動画の整理による」と断るか、使っていません。

景気は野球の「6〜8回」、支えは財政の砂糖(2026年6月)

6月のウォール・ストリート・ジャーナルのイベントで、グリフィンは米経済を、野球にたとえて6回から8回あたりと位置づけたそうです(動画の整理による)。景気が拡大している時期なら、本来は借金を減らして次の不況に備えるべきです。ところが米国の国家債務は38兆ドルを超え、GDP比で6〜7%の赤字が続いています。本人の言葉を借りれば「砂糖の効き目」に頼った状態です。前年6月にも、完全雇用でこの赤字は財政的に無責任だと話しています。

警戒は債券市場に向いています。2026年初め、日本の40年債の利回りが4%に急騰しました。彼はこれを、2022年に英国の国債が暴落した「トラス・ショック」の軽い版だと見ています。米国は投資家の層が厚いので、日本や英国ほどは傷みません。それでも赤字を放っておけば、市場が考えを変えた瞬間に、値段の修正は速く強烈になる。これが彼の警告でした(2026年2月、動画の整理による)。

筆者は、「砂糖の効き目」という言い方がうまいと思います。甘さで元気に見えるが、体質は良くなっていない、という含みがあるからです。

2025年4月には、関税の混乱で米国債が売られ、ドルも下がりました。このとき彼は、米国は単なる国ではなく世界のあこがれのブランドだと語りました。国債とドルの信用に並ぶブランドは、金融市場にほかにないのに、それを危うくしている、というのです。財政も関税も、彼にとっては米国の「信用」を削る行為として一本につながります。

ここは納得しました。バラバラに見える批判が、一本の軸で貫かれています。

ホルムズ海峡が閉じたままだと、世界は景気後退へ(2026年5月)

5月のCNBCと、4月末のセマフォーでの発言をつなぐと、彼が考える筋道が見えてきます。

ホルムズ海峡の閉鎖がさらに半年から1年続けば、世界のエネルギー価格は大きく上がり、世界は景気後退に陥る。最初に打撃を受けるのは、パキスタンやバングラデシュのような新興国です。中東産の燃料を失い、代わりを探す費用まで背負うからです。米国はエネルギーを自給できるので最悪は免れますが、成長は鈍り、景気後退に入る可能性もある。米軍はイランの軍事力を封じ込めたものの、海峡がいつ再開するかは「見積もりが難しい」と答えました。

筆者は、最初に打撃を受けるのが新興国だという指摘に、はっとしました。米国の市場参加者は自国の話に目が向きがちですが、燃料の値段は貧しい国から先に効くのです。

金融政策については、利下げの余地は小さいと見ています。インフレは6年連続で目標を上回っていますが、加速はしていません。労働市場もエネルギー価格も物価を押し上げる向きで、FRBは動きにくい。条件が悪化すれば年内の利上げもあり得るが、それが基本シナリオではない、という話でした。

9月に、FRBは実際に利上げに動きました。これは見立てが外れたというより、条件つきの話が条件のほうに傾いた、と読むのが自然でしょう。ただ、この利上げ判断に彼がどう反応したのかは、今回の素材には見当たりません。

筆者は、条件つきで語る話法の確かさを評価します。当たり外れより、前提を明示しているからです。

FRBの独立性は、ドルの尊厳(2025〜2026年)

もう一つの柱がFRBです。グリフィンは、新議長に指名されたケビン・ウォーシュを「素晴らしい人選。経済政策と理論に精通している」と評価しています(2026年5月)。一方で、トランプ大統領とパウエル議長の対立は「理解できない」と言います。大統領は低金利を望みながらインフレ抑制も望み、パウエルは板挟みになっている、という見方です。パウエルが司法省の捜査のさなかに理事として残る判断も理解できるとして、約300人のCEOが彼の対応に拍手した、とも紹介しています。

2026年1月のダボス会議では、トランプ政権がグリーンランドをめぐって欧州への追加関税をちらつかせたことを批判しました。米国は欧州の同盟国との関係を「擦り切れさせた」というのです。関税は長年の貿易関係を乱し、米国のインフレを押し上げている。そのうえFRBに大幅な利下げを迫れば、大統領本人と共和党をかえって危うい立場に置く、と警告しています。

筆者は、共和党支持者が与党の政策を批判する、という構図に注目します。身内の批判のほうが、市場には重く響くと考えるからです。

2025年5月には、関税は「縁故資本主義への扉を開く」と語りました。政府が勝者と敗者を選び始めるからです。彼の政策批判は一貫して、国家が市場を選別することへの反対でつながっています。

この一言が、筆者にはいちばん鋭く聞こえました。関税の批判を、物価の話から、政府が勝者を選ぶ話へ移しているからです。

AIは「誇大広告」から「本物」へ(2025年9月〜2026年5月)

AIをめぐる見方の変化には、彼の考え方がよく出ています。

2025年9月のCNBCでは、AIへの資金流入を「ネットの黎明期のように、金融資本と知的資本が流れ込む局面」だと語りました。「いまはドットコムバブルのような響きが明らかにある」とも話しています。2026年1月のダボスでは、エコノミスト誌の編集長からAIは誇大広告かと問われ、「もちろんだ。そうでなければ、どうやって人に巨額の小切手を切らせるのか」と即答しました。ただし、技術への支出は経済に明らかにプラスだとも付け加えています。

その彼が5月、スタンフォード経営大学院の講演で、AIは数か月前より格段に強力になったと語りました。報道によれば、ある金曜日に帰宅してかなり落ち込み、「初めて、AIは本物だ」と思ったそうです(Business Insider報道の要約)。同じ月のCNBCでは、AIは9か月前よりずっと優れ、進歩の速さは予想をはるかに超えると話しました。実体経済への影響は今のところ限られますが、経営陣の議論は「事業をどう作り直すか」に移り、利益にも影響が出始めているといいます。ただし、数兆ドルの投資が見合うかどうかは、利益に表れるまで確定しない、という含みは残しています。

ここは意外でした。数か月前の「ドットコムバブルのような響き」から、「本物だ」へ。意見を事実で変える潔さには、感心します。

自社でのAIの使い方も紹介されています。動画の整理によれば、シタデルは生成AIのプロジェクト200件のうち、成果の乏しい195件をやめ、効果のあった5件に力を集中させたそうです。流行に乗るより、結果を出したものだけを残す。この数字は字幕との照合が済んでいないので、方針の一例として受け取るのがよいでしょう。

「守りに入ると、ほぼ確実に負けている」(2025年6月)

考え方がもっとも凝縮されたのは、6月12日のインターン向けの講話です。混乱の最中でも「守りに入った時は、ほぼ確実に負けている」と話しました。ポートフォリオマネージャーが「守りに入る」と言うたびに、赤字を見ることになるそうです。

守るなら現金にすればよい。「安全な取引」には皆がすでに集まっているので、損が出るのはそこだ、という逆説です。人間は大半がリスクを避けたがりますが、金融では、リスクに対して中立に近いほど判断が最適になる、とシタデルは教えてきました。「悪い日を恐れない人でなければ、素晴らしい日も来ない」とも語っています。

筆者は、この理屈に説得力があると思います。皆が逃げ込んだ場所は、逃げ道が狭いからです。

別の動画では、優秀な投資家でも、銘柄選びの正解率は53〜54%ほどだとも話しています(動画の整理による)。半分近くは外れる前提で、外れても足を止めない精神力を重んじる、という意味です。

この開き直りは、個人にも使える考え方でしょう。外れる前提で小さく動けば、一回の失敗で足が止まりません。

2008年の大敗(失敗談、報道による)

この哲学の背景には、2008年の経験があります。リーマン破綻後に転換社債市場が暴落し、借り入れの多さも重なって、旗艦ファンドは約55%下がりました。解約を止める措置もとったと報じられています(Institutional Investorなどの紹介記事によるもので、要約のみのため確度は高くありません)。

本人は後に、銀行システムがどれほど脆いかを分かっていなかったと誤りを認めたそうです。ファンドは2009年末までに62%上昇し、損失を取り戻したのは2012年と伝えられます。動画の整理では、彼は「自分のすべての損失は授業料だ」と語り、1998年のLTCM破綻や2001年のエンロン破綻のときには、現地に乗り込んで原因を分析し、人材や知見を取り込んだとされます。最悪の損失に耐えて反撃できるか。流動性は、正しさと同じくらい大事だという教訓です。

筆者には、この自分の大敗を「授業料」と呼ぶ言い回しが、攻めの哲学と一本でつながって見えます。損を恐れない姿勢は、損を経験した人の言葉だからです。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。グリフィンの発言を並べて感じるのは、「景気の診断は辛口、運用の姿勢は攻め」という二つの顔が、矛盾していないことです。景気は終盤、財政は持続できない、地政学のリスクは高い。それでも守りに入りません。彼の言う「守る」とは、現金にするかどうかの二択で、中途半端に安全資産を積み増すのは守りではない、という理屈だと筆者は受け取りました。個人が真似をするときは、ここを取り違えやすいところです。

もう一つはAIです。意見を事実で更新していく見本として、面白い例だと思います。ただ、AIの性能に感心することと、AI関連株の値段が妥当かどうかは別の話です。彼自身、利益に出るまで確定しないと言っています。技術が本物でも、投資の正解がすぐ決まるわけではない。この距離感は、グランサムやマークスの慎重論とも矛盾しません。

最後に、FRB議長の人選を高く評価している点は注目しておきたいところです。9月の利上げが政治的な圧力の中で行われたのか、独立した判断だったのか。彼のような人たちが今後どう評価するかで、市場の見方も変わってくるはずです。読者が見るなら、FRBの次の決定が、物価と雇用のどちらの数字を根拠にしているかでしょう。


出典(日付は発言日。動画は公開日)

  • ケン・グリフィン CNBC「The Exchange」、2026年5月5日(CNBC)
  • CNBC「Money Movers」、2025年9月25日(CNBC)
  • ダボス会議(ロイター報道)、2026年1月21日(Internazionale)
  • Motley Fool(ダボスでのエコノミスト誌との対談の引用)、2026年1月22日(Fool)
  • シタデルのインターン向け講話(CNBC)、2025年6月12日(CNBC)
  • セマフォー世界経済サミット(CNBC)、2025年4月23日(CNBC)
  • ミルケン研究所の会議(フォーチュン)、2025年5月9日(Fortune)
  • WSJ Events「Ken Griffin on the State of the U.S. Economy」2026年6月18日/WSJ Invest Live 2026年2月3日(動画の整理)
  • CNBC、シタデルの2025年成績、2026年1月2日(CNBC)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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