株譜
INVESTOR OUTLOOK

セス・クラーマン:10歳で買った株が3株に増えた日から、2週間の売り急ぎ、解雇の遅れ、逃したパランティアまで──11の場面で読む失敗と成功

失敗と成功

投資の名手は、自分の成功と失敗をどう語るのか。ボストンのヘッジファンド、バウポスト・グループを率いるバリュー投資家、セス・クラーマンの場合を見ていきます。

近年のAIやクレジットについての発言は、別稿「セス・クラーマン:最近の市場見通し」にまとめました。本稿はそこで扱わなかった、本人が過去のインタビューや講演で語った「自分の成功と失敗」を、11の場面に分けて並べます。

読み終えて筆者に残ったのは、この人の失敗談が、銘柄選びの外側にばかり集まっていることでした。税、人事、本の出版、取引相手の心変わり。分析そのものを誤った話は、ほとんど出てきません。その理由は、最後の「株譜の見方」で考えます。

先に断っておきます。整理に使った資料では、金額や部数、比率の多くが「動画原文との照合が必要」とされています。ジョンソン・エンド・ジョンソンの株数、運用資産、本の部数、2008年の現金比率、メタやコインベースの金額などです。本稿でも、数字は「本人がそう語った」ものとして受け取ってください。

10歳で買った1株が、数日後に3株になった

クラーマンが最初に株を買ったのは、10歳のころ。誕生日の祝い金を手にしたときでした。新聞のスポーツ欄の隣にある株価一覧が好きで、地元の親切な証券マン、マックス・シルバーマンを通じて、ジョンソン・エンド・ジョンソンを1株買います。バンドエイドをよく使っていたので、事業の中身が分かる会社だったからです。

買って数日後、本人の知らないうちに1株が3株に分かれ、持ち株は3株になりました(Capital Allocators、2023年7月17日)。

この数字は資料側で要確認ですが、本人が挙げる教訓は単純です。自分に理解できる身近な事業から始めること。そして、市場に参加する最初の一歩の楽しさです。

「複雑さは投資家の味方」:テレコアとエレクトロ・レント

1979年に大学を出たクラーマンは、マックス・ハイネとマイケル・プライスが運用するバリューファンド、ミュチュアル・シェアーズでアナリストを始めました。上司のプライスから目論見書を渡されて分析を指示されたのが、電子機器販売会社のテレコアです。日本の提携先との契約を失い、事業の売却と清算に向かっていました。

清算の手続きで、株主には約8ドルの現金と、子会社エレクトロ・レントの株が配られます。その現金を差し引くと、残るエレクトロ・レント株を、利益の1倍未満の値段で手に入れられる。本人はそれを暗算で出したそうです。結果は、8ドルの現金に加えて、その株からも非常に大きなリターンを得ました。

本人の言葉では、「複雑さは投資家の味方」です。他人が複雑さを嫌って近づかない清算や再編にこそ、大きな非効率と安全域がある、ということです(Capital Allocators、2023年7月17日)。

1982年、25歳でバウポストを始めた

1982年、ハーバード・ビジネススクールを出た25歳のクラーマンは、バウポスト・グループを作りました。当時は、米国債の利回りが12〜14%、プライムレートが20%超。ダウ平均は700ドル台で18年間低迷し、MBAの卒業生がウォール街へ向かわない時代でした。

元手は、不動産の教授ビル・ポーヴューらがボストンのテレビ局を売って得た資金など、四つのファミリーの2,700万ドルです。本人は、資金を既存のファンドマネージャーに任せる調査をして、運用者自身が自分のファンドに自己資金を入れていないことに驚き、自分で運用すると決めました。顧客には柔軟な運用権限を求め、運用者も顧客と同じ立場で資金を入れる共同投資を原則にしています(Capital Allocators、2023年7月17日)。

資料によれば、2,700万ドルは後年250〜300億ドルの規模に育ちました。約44年で年間のマイナスは5年だけ、最も悪い年でも下落は10%に収まったとされます(Bloomberg「Masters in Business」、2026年6月19日。数字は要確認)。他社との成績比べを拒み、絶対的なリターンと利害の一致を守った、というのが本人の整理です。

本は売れず、のちに高値がついた:『Margin of Safety』

1991年、34歳のクラーマンは、ビジネススクールの同級生から執筆を持ちかけられました。グレアムの精神を、専門用語ではなく平易な言葉で伝えたいと考え、引き受けます。ところが出版社では、担当編集者が3回解雇され、約束された宣伝もありませんでした。初版は5,000〜7,000部ほどで売れ行きが止まり、商業的にはいったん終わった、と本人は語ります。

その後、投資業界でカルト的な人気を得て、オークションサイトでは1,000ドル超の値がつくようになりました。

資料には、印税や関連収益をすべて慈善に寄付している、という記述もあります。ただし、この点と、出典としてBloombergの動画が挙げられている点は、資料側で要確認です。1991年の本の話は、2011年のチャーリー・ローズとの対談(2011年11月28日)で語られた可能性が高いとされています。

本人の教訓は、出版直後は失敗でも、中身のある原則は時間をかけて評価される、ということです。もう一つ、考えを言葉にする過程そのものが、自分の投資の考えを明晰にしたとも語っています(Bloomberg「Masters in Business」、2026年6月19日)。

保有期間まであと2週間で売った、税の失敗

バウポストを始めて間もないころ、本人は、過去の配当が滞っていたクローズドエンド型の投資信託を持っていました。会社が、未払いの配当を清算して巨額の特別配当を出すと発表します。株価は、本人が見積もった本質的価値まで急上昇し、全部を売って利益を確定しました。

あとで気づいたのは、長期の譲渡益として優遇される保有期間まで、「あとわずか2週間」だったことです。その不注意で、払う必要のなかった短期譲渡所得税を払うことになりました。本人はこれを、たんなる不注意と呼んで、失敗に数えています。投資の判断が正しくても、税や保有期間のような運営上の細部まで確かめる仕組みがなければ、利益は目減りします(Capital Allocators、2023年7月17日)。

優秀で有害なアナリストを、長く置きすぎた

人事の失敗もあります。非常に優れた運用成績を出す、天才肌のアナリストがいました。ところが人柄と倫理に問題があり、社内の関係と空気を悪くしていたのです。本人は、優れた投資能力を失う短期の損を恐れて、解雇をためらいました。その結果、社内の文化がひどく傷み、その人物の倫理の欠如から、金銭的な損失まで出たといいます(この「金銭的な損失」は資料側で要確認)。

解雇を決めた瞬間、会社に新鮮な空気が戻り、チームの連携と成績が大きく改善したと語っています。優秀でも、組織の倫理と文化を壊す人は置いてはならない。それが教訓です(ハーバード・ビジネススクールでのインタビュー、2006年。動画の公開は2022年4月3日)。

2008年:現金を積み、最悪の想定でも勝てるものを買った

2008年、バウポストは年初の時点で、資金のおよそ35%を現金で持っていたと語ります(要確認)。ベア・スターンズ、リーマン・ブラザーズが破綻し、市場全体がパニックに陥りました。多くの機関投資家は、強制的に売らされていました。

本人は、住宅価格がさらに20〜30%下がり、延滞が急増する最悪の想定を置いてもなお、十分な安全域とリターンが残るものを選んだそうです。割安な住宅ローン担保証券、自動車ローン債券、ゼネラル・モーターズとフォードの金融子会社の債券などを、1日に1億ドルの規模で買い進めました。四半期で約40億ドルの新しい資金も受け入れて投じたとされます(これらの数字は要確認)。現金比率は35%から10%台後半まで下がり、非常に高いリターンを得ました(Ivey Business Schoolの講義、2018年11月15日。Bloomberg「Masters in Business」、2026年6月19日)。

教訓は、平時に下値を徹底して守り、現金を持っておくことが、他人が恐怖で固まる危機で最大の攻めを可能にする、ということです。

2009年のスピンオフ:分類に困る会社に、安全域がある

2009年ごろ、創薬事業と権利料の受け取り事業を持つバイオ製薬会社が、二つに分かれました。会社の一部を切り離して独立させる、いわゆるスピンオフです。本人によれば、巨額のロイヤリティ収入がありながら、創薬の研究開発費で赤字に見える会社だったそうです。分離されたロイヤリティ受領会社(PDLバイオファーマ)は、6ドル台前半で放置されていました。割引現在価値で年30%の内部収益率が得られると計算し、買い増したといいます。

親会社の側も、1株あたり16〜17ドルの現金を持ちながら6ドルで売買されていました。負債のない、古典的な割安株です。

どちらの株も大きく見直され、非常に高いリターンになりました。市場参加者が分類に困るスピンオフや特殊な状況には、大きな安全域が潜んでいる。それが教訓です(Ivey Business Schoolの講義、2018年11月15日)。なお、親会社とロイヤリティ会社の整理は、資料側で要確認とされています。

パランティアは、売り手が気を変えて逃した

失敗談として本人が語るのが、未公開企業パランティアの話です。15〜20年ほど前、同社の株の持ち分(4,000万〜5,000万ドル規模)を売りたいという打診が、市場から来ました。バウポストのチームは徹底的に調べ、正式な買い付けを出す準備を終えます。ところが、オファーを出す直前に、売り手が突然気を変え、話は流れました。

買えていれば、数十億ドル、あるいは数百億ドルの利益になったはずです。最大級の「逃した魚」だったと語っています(iConnections、2026年6月12日。金額は要確認)。

どんなに周到に準備しても、相手の心理のように、自分で制御できない要因で大きな機会を失うことがある。それも投資の一部として受け入れる、という姿勢です。

メタ:パニックで売られた株を、長い時間軸で見た

2021〜2022年、メタの株価は、メタバースへの過剰投資とTikTokとの競合への懸念から、高値の375ドルから100ドル未満へ、約80%下がり、ウォール街で嫌われていました。

本人が見たのは、2021年に約400億ドルのフリーキャッシュフロー(自由に使える現金)を生んだ事業を持ちながら、四半期の落ち込みでパニックになって売られている点です。そこに短期志向の非効率を見て、長い時間軸で評価して投資したと語ります。株価は数か月で300ドル近くまで、3倍以上になりました(Investor Center、2023年7月25日。数字は要確認)。

コインベースは、株ではなく転換社債で持った

2023年ごろ、暗号資産市場が冬の時代にあったとき、本人は暗号資産そのものや同社の株への投機は避け、転換社債に目をつけました。同社は約50億ドルの現金を持ち、負債総額はそれを下回り、キャッシュフローはプラスだと分析したのです。株への転換権は遠い状態でしたが、現金に裏づけられて元本が守られる、利回りの高い投資でした。

投機的な企業でも、資本構成の上位にある、現金の裏づけがある社債を選べば、株の投機のリスクを避けながら、安全にリターンを得られる。それが本人の説明です(OnefootHurdle、2023年8月8日。数字は要確認)。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

11の場面を並べて感じるのは、失敗の中身が「銘柄の分析の誤り」ではないことです。税の失敗は運営の細部、解雇の遅れは組織、パランティアは相手の心変わり、本は出版社の都合でした。バリュー投資家が語る失敗が、銘柄選びの外側に集まっているのは、本人が下値を守る仕事に力を注ぎ、分析の誤りを小さく抑えてきたことの裏返しなのかもしれません。ただ、これは本人が語った失敗を選ぶ側の偏りかもしれず、本人が語らない失敗は、この資料には出てきません。

成功談の側では、共通するのが「他人が避ける場所」です。清算、スピンオフ、パニック売り、遠い転換社債。どれも複雑だったり嫌われていたりして、買い手がいません。本人の言う「複雑さは味方」は、10歳の最初の1株の「分かるものから始める」とは、一見逆に見えます。しかし、分かる範囲を広げた結果が複雑さへの強さなのだと読めば、つながっているように思えます。

個人投資家にとって参考になるのは、2008年の現金の話ではないでしょうか。危機で買えるのは、平時に現金を持っていた人だけです。ただ、現金を持ち続けるのは、強気相場では成績の足を引っ張ります。別稿の見通し記事で本人が現金を積んでいる点と合わせて読むと、現金は市場を予想するための道具ではなく、買う力を残す道具だという位置づけが見えてきます。

10歳の最初の株から2009年のスピンオフまで、本人は一貫して「理解できる範囲」を問題にしています。パランティアの話は、その範囲の外の話ではなく、範囲の中で準備を終えたのに相手の都合で流れた話です。理解して準備しても、取引が成立するとは限りません。失敗を「準備不足」と「運」に分けて語る姿勢は、成功談を「実力」だけで語らない姿勢と、対になっているように見えます。これは本人の発言そのものではなく、筆者の読みです。

税の話は地味ですが、個人投資家には最も使いやすい教訓だと思います。売る前に、保有期間と税の扱いを確かめる。判断の正しさとは別の手順ですが、手元に残る金額を左右します。

付け加えると、資料の「おわりに」は、一貫して損失リスクの回避と本質的価値の追求を最優先にしてきた、とまとめています。ただ、この要約も資料側の整理であり、本人の言葉ではありません。11の場面を自分で読み直して、どこに本人の「失敗への謙虚さ」を感じるかは、読者によって違うはずです。筆者は、税の2週間のように、小さく、しかも自分の不注意だと認める失敗を、成功談と同じ重さで語る点に、いちばんそれを感じました。

最後に、メタとコインベースは、結果が出たあとの語りです。当時の本人の確信の強さや、投じた金額の大きさは、資料からは分かりません。結果が良かった話は、語られやすいものです。読者は、成功談の件数よりも、各場面で本人が何を見て判断したかという根拠のほうを、受け取るのが安全だと考えます。

出典

  • Capital Allocators with Ted Seides「Seth Klarman – Timeless Value Investing (EP.328)」、2023年7月17日(YouTube)
  • Bloomberg Podcasts「Value Investing Legend Seth Klarman: Masters in Business」、2026年6月19日(YouTube)
  • BELAIR2000「SETH KLARMAN INTERVIEW BY CHARLIE ROSE 2011 (VALUE INVESTING)」、2011年11月28日(YouTube)
  • Ivey Business School「Seth A. Klarman, President, The Baupost Group, Boston, MA」、2018年10月31日(YouTube)/「2009 Ivey Value Investing Classes Guest Speaker: Seth A. Klarman」、2018年11月15日(YouTube)
  • The value investing channel「Seth Klarman: interview at Harvard Business School 2006」、2022年4月3日(YouTube)
  • iConnections「Seth Klarman: "This Is a Bubble"」、2026年6月12日(YouTube)
  • Investor Center「Seth Klarman: The Investing Opportunity of a Generation」、2023年7月25日(YouTube)/OnefootHurdle「Seth Klarman Full Interview June 2023」、2023年8月8日(YouTube)

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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